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10月9日(火) 中国の反日デモと石原慎太郎都知事の責任 [論攷]

〔以下の論攷は、八王子革新懇話会機関紙『革新懇話会』第55号(2012年9月25日付)、に掲載されたものです。〕

 中国全土に拡大した反日デモは、過去最大の規模になりました。日本政府が沖縄県の尖閣諸島を国有化したことに反発して発生したものです。日本料理店などが襲われたり、日系の大型店や企業などでの略奪もあり、操業停止に追い込まれるなど深刻な事態となりました。日中間の貿易や観光、経済や文化交流に至るまで、大きな被害が生じています。
 この背景には中国の現状への不満やうっぷんがあるのかもしれません。それを晴らす対象として、日本が選ばれたという側面もあったでしょう。しかし、いかなる理由があろうとも、このような暴力行為は許されません。恫喝や力ずくで問題を解決しようとするのは誤りであり、反日デモの暴徒化には強く抗議するものです。

 そもそも、日本人を敵視して日本製品を略奪したりボイコットしたりしたからといって、それで尖閣諸島の領有権が変わるはずがありません。「日本人は島から出ていけ」と叫んでも、島には誰も住んでいませんから、出て行きようがないではありませんか。暴力や物理的な強制によって外交問題を解決しようとすることは根本的に誤っています。
 尖閣諸島の問題を、もっと冷静に考えてもらいたいものです。問題を紛糾させても、どちらの国にもプラスにはなりません。中国には「愛国無罪」という言葉があるようですが、日本の商店や企業を襲って略奪することは、中国に対する国際的な信用を失墜させ、外交関係を混乱させるだけです。中国の利益をも阻害するもので、決して「愛国」的な行為ではないということを自覚してもらいたいものです。
 問題を解決するには、外交的な交渉しかありません。尖閣諸島の国有化についてはいろいろな見方がありますが、日本政府による事前の根回しや説明が不十分だったのではないでしょうか。尖閣諸島の領有権が日本にあることは、歴史的にも国際法上も明らかであることを、中国政府と国民に対してきちんと説明し、理解を得るべきだったでしょう。この点について蒸し返そうとする中国政府の主張には正当性がありません。このことを、日本政府はもっと国際社会にアピールするべきです。

 ところで、この混乱した事態を、日本国内でほくそ笑んで眺めている人が一人いるように思われます。石原慎太郎東京都知事です。今回の事態の引き金を引いたのは石原都知事にほかならず、事態をここまで悪化させた大きな責任はこの人にあります。
 そもそも、石原さんが都による尖閣諸島の購入を働きかけなければ、事態はこのような展開を示すことはなかったはずです。中国大使館の近くで商店を営む男性は、「きっかけは石原都知事の突然の発言と国有化」(『朝日新聞』9月17日付夕刊)と話していたそうです。これが国民の一般的なとらえ方でしょう。
 実際に、今回の事態は、石原都知事が都による尖閣諸島の購入を主張して現地調査を開始し、それを阻むために政府は国有化を急ぎ、そのことが中国国民に誤解を与え、大規模な反日デモが主要都市に拡大したという経過を辿りました。反日デモの契機になったのは尖閣諸島の国有化であり、そのきっかけを与えたのは石原都知事です。石原さんの責任は免れません。
 それでは、石原さんがこのような形で事態を悪化させるに至った狙いは何だったのでしょうか。考えられることの一つは次のようなものです。日中間の対立を激化させ、その緊張と危機をバネにして一挙に改憲を実現しようとしているのではないかということです。石原さんは、自衛隊の国防軍化、集団的自衛権行使の容認、そして明文改憲に向けて、今回の危機を利用しようとしているのではないでしょうか。

 中国側も、尖閣諸島の領有権問題の見直しを主張するために反日デモを放置し、その拡大に石原都知事などの動きを利用したように見えます。中国での急速な反日デモの拡大と暴徒化、その後の取り締まりと沈静化を見れば、今回の動きはかなり意図的なものであった疑いが濃厚です。
 この点からいっても、反日デモの暴徒化や日系企業の襲撃に対する中国政府の責任は重大です。反日デモが盛り上がっても、それが暴力的なものになるとは限りません。日系企業の襲撃にまで発展してしまったのは、このような不法行為をきちんと取り締まらなかった中国当局の対応に問題があったからです。
 反日、反中国の流れを強めようと画策する石原都知事らとそれを意図的に利用しようとしている中国側の策略に乗ってはなりません。反日デモによる暴力行為は決して許されず「愛国」的ではないということ、対立と紛争をエスカレートさせることは、日本だけでなく中国にとってもプラスにはならないということを、中国の人々には十分に理解してもらいたいものです。同時に日本側としても、冷静な対応によって事態の沈静化を図り、是非、日中両国の友好と協力を強める方向で問題を解決して欲しいものです。

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