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4月17日(水) 総選挙後の政治情勢をどうみるか-その1 [論攷]

〔以下の論攷は、『人間と教育』No.77、2013年3月号に掲載されたものです。3回に分けてアップします。〕

 「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」という言葉がある。プロ野球の野村克也元阪神監督が良く口にしている。今回の総選挙の結果も、この言葉通りのものであったように見える。しかし、果たして、そうだろうか。

 民主党の裏切りに対する手厳しい懲罰

 民主党の「負け」は「不思議」なものではない。総選挙を実施すれば大敗することは、民主党議員の多くが自覚していた。だから、早期の総選挙実施に反対したのであり、野田首相も谷垣自民党総裁に「近いうち」という言質を取られたにもかかわらず、ドジョウのようにのらりくらりとその実施を半年間も先延ばししてきたのである。
 総選挙の結果は、この予想が正しかったことを示したにすぎない。民主党は政権交代への国民の期待を裏切り、マニフェストに掲げた政権公約の多くを実行できず、そこに書かれていなかった消費増税を実施した。それに対する手厳しい懲罰を、議席の激減という形で有権者から与えられたのである。
 他方で、自民党の「勝ち」がかくも大きなものになるとは、と多くの人が意外に思ったことだろう。しかし、実は、自民党の「勝ち」も「不思議」なものではなかった。そもそも、小選挙区比例代表並立制はこのような劇的な形での政権交代を人為的に可能にさせるために導入された制度だったといえる。480議席のうち300議席を占める小選挙区制は、わずかな支持率の変化で大きな議席変動をもたらす「劇薬」として知られているからである。
 たとえば、支持率が拮抗する二大政党制で、全ての小選挙区でA党が51%、B党が49%の得票率になれば、A党は全議席を独占し、51%は100%に読み替えられてしまう。
 その後、支持率が変動して、A党が49%、B党が51 %と逆転すれば、A党はゼロ、B党は100%の議席を得ることになる。支持率がわずか2%動いただけで、これほど大きな議席変動を生ずる可能性を秘めているのが小選挙区制であり、それが「劇薬」とされるゆえんも、数ある選挙制度の中で最悪の制度だとされる理由も、ここにある。

 小選挙区制のマジックによる当然の結果

 実際に、1993年に行われたカナダの下院総選挙では、与党のカナダ進歩保守党が改選前の169議席のうち167議席を失い、わずか2議席になるという大敗を喫した。まさに、小選挙区制のマジックによるものであった。
 このような極端な議席の変動は、すでに日本でも実際に起きていた。自民党対民主党の議席を見れば、2005年の総選挙では296対113で自民党の大勝利、09年の総選挙では119対308となって民主党が勝ち、政権が交代した。今回は294対57で自民党の政権奪回となったわけである。自民党は大勝したとはいえ、05年総選挙での獲得議席を2議席下回っている。
 このような議席変動は小選挙区制のマジックによる当然の結果であった。とはいえ、それによって政治が極めて不安定化した事実は否定できない。それで良いのか、という問いは真剣に検討されなければなならないだろう。しかも、このような過剰な勝利と極端な政権変動は、有権者の選択の結果とは言えない。
 今回の自民党の勝利は、有権者比で見れば、小選挙区で25%、比例代表区ではたったの16%の支持によるものにすぎない。有権者の4分の1、6分の1の支持しか受けていない政党が、衆院議席の過半数以上を占めてしまう。異常と言うしかない。これが民主主義なのか。国民主権が保障されていると言えるのか。
 自民、民主、公明の3党は、現行の衆院選挙制度の「改革案」で合意し、小選挙区の0増5減に続いて、比例代表区の75議席削減を目指している。比例代表区の定数を減らして小選挙区の比率を高めることは全くの逆行であり、「改革」の名に値しない。今、求められているのは、小選挙区制を廃止して比例代表制的な制度に変える抜本的な制度改革なのである。
 小選挙区制の導入時に与野党の幹部だった自民党の森喜朗元首相と民主党の渡部恒三最高顧問は対談で、「導入は失敗だった。弊害があまりにも多すぎるから見直せばいい」(森元首相)と語り、渡部最高顧問も「失敗だと思う」と発言している(『毎日新聞』2012年8月23日付夕刊)。この選挙制度改革は、通常国会でも避けて通れない緊急の課題になっている。

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