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7月5日(土) 「ワールドカップ狂想曲」の陰で進行している憂慮すべき事態 [論攷]

〔以下の論考は、八王子革新懇話会機関紙『革新懇話会』第62号(2014年6月25日)に掲載されたものです。〕

 予想通り、「ワールドカップ狂想曲」が続いています。NHKニュースをはじめとしたマスコミは、サッカーによってハイジャックされてしまったようなものです。
 その陰で、憂慮すべき事態が進行しています。こちらの方は予想通りというより、予想を上回るようなひどさです。

 東京都議会では、議員に対する許されざる野次が投げかけられ、大きな波紋を呼んでいます。都議会で晩婚化や晩産化の対策について質問した女性都議に対して、「お前が早く結婚すればいいじゃないか」「産めないのか」などというセクハラ野次が男性都議から飛ばされました。とうてい許されざる暴言です。
 その時は笑い声が出て誰も問題にする人はいず、議会が平穏に閉会されたといいます。その後、ウェブ上で「セクハラだ」との議論が高まり、都議会には1千件を超す批判が寄せられました。それは当然でしょう。 
 野次は自民党会派の方から聞こえたそうですが、自民党は発言者を特定せず幕引きを図ろうとしています。周りにいた人は誰が野次ったのか分かるはずですし、録画映像の音声の声紋を分析すれば個人が特定されます。それ以前に、本人が申し出るべきです。きちんと調査して処分するなど責任を取らせなければなりません。
 また、集団的自衛権の行使容認をめぐっては、6月19日に安倍首相と公明党の山口代表との党首会談が開かれ、通常国会中の閣議決定が断念されました。しかし、首相の外遊出発前の7月4日に間に合うよう、与党合意を月内に実現したいとしています。
 他方で、政府・自民党は、国連安全保障理事会決議に基づいて侵略行為などを行った国を制裁する集団安全保障について、日本が武力行使できるようにする方向で調整に入りました。歴代内閣が集団的自衛権の行使とともに認めてこなかった集団安全保障での武力行使を認めれば、日本の安全保障政策の根本的な転換になります。
 ついに出てきた、ということでしょう。安倍首相はもともとこのような形での武力行使を可能にし、国連安保理事会の常任理事国になることを狙っているのですから……。

 このようななかで、イラクでは戦闘が激化し内戦状態に陥っています。大量破壊兵器の開発・保有という濡れ衣を着せてフセイン政権を無理やり倒してしまったことのツケが、このような形で回ってきたわけです。
 紛争は力では解決できないこと、そのようなことをすれば社会の分断と敵意を高め、かえって問題を紛糾させ解決を遠のかせることが、またも実証されようとしています。そのようなときに、安倍首相は紛争を力で解決するために武力介入するための準備を進めているわけです。
 なんという勘違い。なんという時代錯誤でしょうか。
 国際紛争を武力ではなく対話と交渉で解決するという理念を掲げ、国際政治の先頭を走ってきたのが戦後の日本です。それは、経済大国でありながら軍事大国にはならないという世界史的な実験に踏み出すことを意味していました。
 憲法9条に基づく「専守防衛」という国是こそが、そのような理念や国の在り方を象徴するものだったはずです。それをぶち壊して力の政治(パワーポリティクス)へと逆戻りさせれば、かえって周辺諸国との緊張を高め、日本の安全を脅かし、国際的な信頼を損なうことになるでしょう。
 攻撃の矛先が向けられているのは憲法9条だけではありません。国民の生命と生活、労働と権利を守る憲法のすべての条項に対する全面的な総攻撃が始まっていると理解すべきです。

 集団的自衛権行使容認の必要性を説明するとき、口を開けば安倍首相は「国民の生命と財産」を守るためだと強調します。しかし、現に今、その安倍首相によって「国民の生命と財産」が危機に瀕しているのです。
 「国民の生命と財産」は、安倍首相の夢想の産物にすぎない戦時においてではなく、現に国民が生活している平時において守られなければなりません。そのために全力を尽くすことこそ、政治家としてのあるべき姿ではないでしょうか。
 戦争になったらどうするかを考えるのは軍人の仕事です。それに対して、戦争にならないためにどうするかを考えるのが政治家の仕事なのです。
 安倍首相は政治家としての本分に立ち返り、デフレ不況からの脱却、周辺諸国との関係改善、原発事故と放射能汚染水対策、大震災からの復旧・復興など、緊急の課題に取り組むべきです。これらの課題の解決にこそ、そのエネルギーと時間、資力と脳みそを使ってもらいたいものです。
 そうでなければ、こう呼ばれることになるでしょう。安倍首相ではなく、安倍将軍と……。
(2014年6月21日記)


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