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7月30日(水) 今日の政治社会情勢の激変と労働組合運動の課題(その1) [論攷]

〔下記の論攷は、基礎経済科学研究所の『経済科学通信』2014年5月号(No.134)に掲載されたものです。3回に分けてアップします。〕

はじめに

 本稿の目的は,労働組合運動の現状と課題について大まかなデッサンを描き,その発展に向けて一定の課題提示を行うことである。
 まず,国内外の労働戦線をめぐる状況の変化を明らかにし,そのような変化に対応して労働組合運動が取り組むべき課題を示し,労働運動の発展に向けて必要と思われる改革課題についての提言を行う。これは報告者の私論(試論)にすぎないものだが,今後の労働組合運動を展望するうえで何らかの参考にしていただければ幸いである。

Ⅰ 労働戦線をめぐる状況の変化

(1)国際労働組合運動をめぐる変化
 この間の国際労働組合運動における大きな変化は,第1に国際労働組合総連合の結成である。2006年11月に国際自由労連(ICFTU)が消滅し,国際労働組合総連合(ITUC:The International Trade Union Confederation)が発足した。
 ITUCは国際自由労連(ICFTU)と国際労連(WCL),そのいずれにも未加盟の8組織で結成され,世界156の国・地域の315組織が加盟している(2012年11月現在)。「ITUCの諸規則は,組織内部の民主主義と加盟組織による全面的な参加を保証しており,また執行諸機関の構成と代表制はそれ自体のもつ多元的性格を尊重することを保証」(規約)している。このような形で「国際的な行動を必然化しているのはグローバル化した経済であり,資本の利益より優先されるべき労働者の利益のための民主的統治の必要性」(「原則の宣言」)であった。
 このような新組織の結成は労働組合の影響力を強め,ガイ・ライダー(英TUC 出身)初代書記長は労組出身としては初めて,12年総会でILO事務局長に選出された。また,国内への影響もあり,全労連は「新たな国際組織への加盟問題について検討を開始」(第22回定期大会運動方針)するとし,「ITUC(国際労働組合総連合)が呼びかける国際連帯の行動にも留意した国内運動を組織する」(第26回定期大会運動方針)ことを明らかにしている。
 第2に、国際的な産業別労働組合組織においても重要な変化があった。国際産業別書記局(ITS)はグローバル労働組合連合(GUF)となり,2012年6月にはIMF(国際金属労連),ICEM(国際化学エネルギー鉱山一般労連),ITGLWF(国際繊維被服皮革労働組合同盟)のGUFが統合してインダストリオールが発足した。これは大産別化の一環であり,グローバル化の負の側面に対して製造業系の労働組合がより強力な国際産業別労働組合組織(GFA)を構築して対応することを目的としていた。
 このような再編の結果,国内でも全日本金属産業労働組合協議会(IMF-JC)はJCM=JCメタル(自動車総連,電機連合,JAM,基幹労連,全電線)となり,UAゼンセン,電力総連,JEC連合,化学総連,ゴム連合,紙パ連合,全国ガス,化労研の8産別組織が加盟しているICEM-JAF(日本化学エネルギー鉱山労働組合協議会)と共にインダストリオール国内加盟組織連絡会議を設置した。将来的には協議体になるとみられている。また,2012年の全教第29回大会では教育インターナショナル(EI)への加盟申請が採択され,現在,加盟に向けて折衝中だという。
 第3に労働組合運動のグローバル化である。国際組織の再編だけでなく,活動のグローバル化も著しい。たとえば,12年には5月にG20雇用労働大臣会合に伴う労働組合サミット,6月にはG20首脳会合に伴う労働組合サミット,10月にはアジア欧州会合(ASEM)労働雇用大臣会合・首脳会合に向けての労働組合準備会合などが開催された。
 また,1月にはパシフィック・ビーチ・ホテルにおける労働争議の和解解決,5月にはフィリピントヨタ労組(TMPCWA)の勝利などがあったが,いずれも日本の労働組合が連帯して取り組んだ争議である。さらに,近年にはアメリカ,韓国などと,最近ではミャンマーとの労働組合運動間の国際交流も活発化している。

(2)国内情勢における変化
 この間の国内情勢における大きな変化は,第1に民主党政権の樹立と崩壊であった。民主党政権の樹立に当たって,連合は支持組織として全面的にバック・アップした。与党的立場に転換した連合は,「政労会見」を「政府・連合トップ会談」に変更し,実務レベルでは官房長官と連合事務局長による定期協議や政策ごとの協議を各省ごとに随時実施した。
 また,政府機関に丸田満参事官補佐,山下晃参事官補佐,林俊孝行政策調査員,角本健吾政策調査員,多田健太郎参事官補佐,山根正幸政策調査員などのスタッフを送り,政策形成にも直接関与した。
 しかし,このような与党化がどれほど連合の政策や要求の実現に役だったかといえば,高い評価は与えられない。それだけでなく,税と社会保障の一体改革による消費税増税やTPP参加方針を基本的に支持し,民主党のマニフェストからの後退を批判しなかった。その結果,特定政党支持義務づけの誤りが実証され,説得力を失うことになった。
 民主党政権崩壊後においても,憲法改正について「時期尚早」とした部分を削除し,民主党との連携を維持しつつも「自民,公明両党などと政策協議を通じ政策実現に向けた取り組みを強化する必要がある」(政治方針)など,その方針には多くの問題が存在している。
 第2に東日本大震災と原発事故の発生である。東日本大震災と原発事故に際して,労働組合とナショナルセンターは大きな役割を果たした。連合は災害対策救援本部,全労連は東北関東大震災労働者対策本部,全労協も震災対策本部を立ち上げて救援活動を展開したことは高く評価される。
 ただし,原発についての対応は割れた。連合は「中長期的に原子力エネルギーに対する依存度を低減し,最終的には依存しない社会を目指していく必要がある」(第12回定期大会での古賀会長の挨拶)としつつも「脱原発」は主張しなかった。これに対して,全労連は「原子力発電所への対応についての全労連の政策提言」(案)を発表(11年5月)して「原発をなくす全国連絡会」を結成し(12月),全労協も「全労協脱原発プロジェクト」を新設して(11年6月),「原発ゼロ」や「脱原発」を目指している。
 第3に安倍首相の復活と労働の規制緩和に向けての新たな攻勢である。復活した安倍晋三首相は,アベノミクスの3本の矢の一つである「成長戦略」の一環として労働の再規制緩和を打ち出した。経済財政諮問会議,産業競争力会議,規制改革会議,雇用ワーキング・グループなどアド・ホックな戦略的政策形成機関によって具体的な施策が検討されていること,規制緩和が派遣事業の拡大,職業紹介事業の民間開放,労働時間の弾力化という3つの流れを引き継いでいることは,小泉構造改革と共通している。
 しかし,それは規制緩和後の再緩和であり,すでに結果としての諸問題を数多く発生させてきた。このような事実を背景に,労働組合や世論,厚労省などの抵抗もある。今回の規制緩和の再版には攻勢とためらいという両面があり,直線的に規制緩和が進むという状況にはなっていない。

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