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7月31日(木) 今日の政治社会情勢の激変と労働組合運動の課題(その2) [論攷]

〔下記の論稿は、基礎経済科学研究所の『経済科学通信』2014年5月号(No.134)に掲載されたものです。3回に分けてアップします。〕

Ⅱ 労働組合運動が取り組むべき5つの課題

 労働組合が取り組むべき第1の課題は雇用の安定である。安倍政権は労働政策の主眼を雇用の維持ではなく流動化に置き,そのために「常用代替防止」原則を撤廃して派遣を常用化し,限定正社員などの期間不明の事実上の有期雇用を拡大することが目指されている。
 産業構造の転換や雇用のミスマッチ解消のための転職は当然だが,あくまでも無期・直接雇用が原則でなければならない。雇用形態の多様化が雇用の切断を生み出してはならず,雇用が切断されても生活を維持し再就職できるような失業補償と職業訓練が不可欠である。
 すでに,これまでの規制緩和の結果,雇用の劣化,非正規の増大と貧困化の拡大,消費不況の深刻化がもたらされ,技能継承の困難と技術力の低下によって労働力の質が劣化し,国際競争力の弱まりという問題を生んでいる。家庭の形成・維持の困難と少子化によって労働力再生産の阻害と社会の縮小が生じ,このままでは日本社会の維持自体が困難になろう。
 第2の課題は賃金の引き上げである。これは「成長戦略」のカギとされ,「政労使会議」で政府側が使用者側に賃上げを要請した。連合は5年ぶりに1%以上というベースアップ(ベア)を要求し,全労連は月額1万6000円以上,時給額で120円以上の賃上げという春闘要求を掲げている。
 しかし,定期昇給・一時金・ベアは非正規労働者には無関係で,低い給与(日給制や時給制もある),雇用保険・労災保険・厚生年金・健康保険に未加入で昇給・ボーナス・退職金制度のない名ばかり正社員(周辺的正社員)も同様である。
 中核的正社員以外の労働者にとっては時間給の引き上げや世間相場の上昇が重要であり,その基準となる公務員賃金の引き上げ,生活賃金と公契約運動,企業内最賃などの運動が取り組まれなければならない。中小企業に対する特別の支援を行いつつ最低賃金を引き上げ,賃上げ→可処分所得増→消費拡大→景気回復という好循環を実現する必要がある。
 第3の課題は労働時間の短縮である。規制緩和による裁量労働制の拡大,ホワイトカラーエグゼンプション(WE)の導入や「ブラック企業」の横行,長時間・過重労働による若年労働者の使い捨てを阻止しなければならない。
 過労死・過労自殺が問題になってから約30年にもなる。長時間・過重労働の是正こそが必要なのであり,働く人の健康を破壊せず,家庭生活を阻害しない適正な労働時間に短縮すべきである。長時間労働に対する法的規制の強化,不払い(サービス)残業の一掃,残業時間の上限(月80時間)を定め11時間のインターバル休息を新設するための労働基準法の改正などに取り組み,月80時間以上の残業についての労使協定を全て無効とし,労働基準監督官の増員と権限の強化を図らなければならない。
 「限定正社員」でなくてもワーク・ライフ・バランスは必要であり,職場の荒廃とメンタルヘルス不全の拡大は企業の存立に関わるようになってきている。過労死防止基本法の制定によって基本的な制度・政策・対策などについての理念・原則を定めることが緊急の課題であろう。
 第4の課題は社会保障の充実である。住居・出産・育児・教育・医療・介護・年金などの必要経費を誰がどう保障するのか。これまでは年功序列型賃金が福祉政策を代替し,ライフサイクルに対応した生活賃金の上昇があった。
 しかし,業績・成果主義では賃金が上下し,職能給ではフラットになる。セーフティーネットの担い手が企業から行政へと変化すれば公的福祉政策は不可欠となり,年齢に対応しない賃金と社会保障の貧困の結合はワーキング・プアと未婚者の増大を生み出す。
 結婚できない,家庭を持てない,子どもを育てられない,2人目は無理というような過酷な現状が少子化をもたらした。消費不況の背景には,将来への不安,支出の抑制,貯金への依存という実態がある。このような状況を改善するためには,新たな福祉国家を展望する社会保障基本法・社会保障憲章の制定が不可欠である。
 第5の課題は労働組合の組織化である。組織化を促進するためには,労働組合の存在意義,必要性,役割を社会的にアピールすること,ナショナルセンターや産別組合が組織化に責任を負い,特別の資金や体制を取り,周辺組織の協力を得ることが必要である。

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