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8月10日(日) 第2次安倍政権と国民意識の動向(その2) [論攷]

〔以下の論攷は、月刊『全労連』No.210、2014年8月号、に掲載されたものです。4回に分けてアップします。〕

2 安倍内閣への高支持率構造の解析

 以上のように、安倍内閣の支持率には、他の内閣に比べれば相対的に安定しているという特徴がある。発足後1年半以上にわたって50%前後という高い水準を維持しているのは何故だろうか。それは、安倍首相が積極的な支持と消極的な支持の両方を引き寄せているからだと思われる。しかし、その構造を解析してみれば、内容には重要な変化と弱点を見て取ることができる。

(1) 安倍内閣に対する積極的な支持
 安倍内閣に対する積極的な支持は、景気対策や経済政策への期待や政治が変わるのではないかという思いに示されている。内閣発足直後の2012年12月の日経新聞調査では「優先処理してほしい政策課題」として「景気対策」をあげた人が53%にのぼり、同月の朝日新聞調査では安倍首相の経済政策に「期待できる」と答えた人は49%であった。これらの回答はアベノミクスとして総称される経済・財政・金融政策に対する期待感の高さを示していた。
 しかもこれは、実際の株価の動きによってある程度裏づけられているように受け取られた。以前に比べれば円安が進んで株価が上がり、消費者物価も上昇したからである。安倍首相の唱えるデフレ不況からの脱却も近いという期待感が高まったのも当然であろう。
 しかし、このような期待感と実際の経済の動きとは別の問題である。円安・株高は安倍内閣が発足する以前の12年11月頃から始まっており、株高の誘導を狙った日銀の大胆な金融緩和は13年4月からであった。その後は株価が乱高下を繰り返し、年末にはいったん最高値をつけたものの、今年に入って低下し1万4000~5000円の水準を上下している。
 他方で、消費者物価の方は円安や金融緩和、消費増税の影響もあって急速に上昇した。総務省が5月30日に発表した4月の全国消費者物価指数は、前年同月比で3.2%と11か月連続の上昇である。上昇率も1.9ポイントとなり、バブル期の1991年2月以来、23年2か月ぶりの伸びとなった。
 このように、株高は頭打ちとなり、物価は上がり続けている。安倍首相が強く要請して春闘でのベアは上昇したが一部にとどまり、生活水準の向上分はわずか0.42%にすぎなかった。景気回復に向けての期待感は先行したものの実態は伴っていない。消費増税前の14年3月時点で、読売新聞調査でさえ景気の回復について「実感していない」という回答は77%にも上った。
 その結果、時間が経つにつれて「政策に期待できる」などの積極的な理由に基づく支持は減少していく。14年5月の朝日新聞調査では「政策の面」を支持する理由として挙げた人が46%だったのに対して支持しない理由として挙げた人が62%、毎日新聞調査では「政策に期待できる」という回答が29%だったのに対して「政策に期待できない」が66%、読売新聞調査でも「政策に期待できる」という回答が15%だったのに対して「期待できない」が27%であった。どの調査でも政策への期待よりも期待できないとの回答の方が多くなっている。

(2)安倍内閣に対する消極的な支持
 これに対して、消極的な支持はどうだろうか。読売新聞では「これまでの内閣よりよい」という回答が12年12月調査では41%、14年5月調査では45%と増えている。このような回答の背後には、先行する内閣によって期待を大きく裏切られたという苦い思いが存在している。第1次安倍内閣以降のいずれの政権の支持率もほぼ一直線に急落しているように、このような失望は民主党政権に限られるものではない。
 ただし、このような国民の期待に安倍内閣が応えられたわけではない。毎日新聞調査では支持の理由として「政治のあり方が変わりそうだから」をあげた人が12年12月調査では54%もあったのに、14年5月調査では32%へと22ポイントも下落している。読売新聞の5月調査では「首相が信頼できない」という回答が33%で、「信頼できる」7%の5倍弱となった。失望の広がりと信頼感の低下が示されていると言えよう。
 14年5月の共同通信調査では、安倍内閣について「支持する最も大きな理由」を聞いている。これに対する回答で最も多かったのは「ほかに適当な人がいない」の24.2%であった。これこそ消極的な支持の典型だと言える。
 自民党内には強力なライバルが存在せず、野党も「一強多弱」と言われるような状況に陥っていることが、その背景にある。裏を返せば、「適当な人」や「適当な政党」の存在に気が付けば、このような見方はたちどころに変わっていくだろう。高い内閣支持率の背後には、意外なもろさや弱点が隠されているのである。

(3)個々の政策課題に対する賛否との乖離
 このようなもろさや弱点を象徴的に示しているのが、安倍内閣の支持率と個々の政策課題に対する賛否との乖離である。安倍内閣に対する全般的な支持率は高くても、内閣が掲げて実行を目指している個別の政策課題については反対の方が多くなっている。
 たとえば朝日新聞の14年5月調査でも、集団的自衛権行使容認に「反対」が55%、解釈による変更は「適切でない」が67%、もし集団的自衛権の行使が容認されたら同盟国の戦争に「巻き込まれる可能性が高まる」が75%、原子力発電所の運転再開に「反対」が59%と、いずれも過半数以上が内閣の方針に批判的である。共同通信14年5月調査では、消費税についても10%への引き上げへの「反対」は56.6%と過半数を超えている。
 また、安倍内閣に近い立場をとる日経新聞の14年4月調査でも、TPP交渉で合意のための妥協は「やむを得ない」37%に対し「すべきでない」は44%、原発再稼働を明記したエネルギー基本計画に「賛成」32%に対し「反対」は55%、集団的自衛権の行使を認める憲法解釈変更に「賛成」38%に対し「反対」は49%と、いずれも反対の方が多くなっている。世論の動向は内閣がめざしている方向とは逆なのである。
 現在の政治が民意によって動いていないだけでなく、それとは逆の方向に進んでいるということになる。これで民主主義国家だと言えるのだろうか。このような政治運営を行っていれば、いずれは民意によるしっぺ返しを受けざるを得ないし、また、そうでなければならない。

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