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1月27日(火) 2014年総選挙の結果をどう見るか(その1) [論攷]

〔下記の論攷は、『学習の友』No.783、2015年2月号、に掲載されたものです。2回に分けてアップします。〕

 かつて織田信長は圧倒的な無勢であったにもかかわらず、桶狭間で今川義元軍を打ち破りました。今回の総選挙で安倍「信長」は、圧倒的な多勢をもって野党に奇襲攻撃をかけました。「逆桶狭間」の合戦です。
 その結果、野党を打ち破ったのかと言えば、そうではありません。与野党の勢力関係にはほとんど変化がなかったからです。
 それでは、今回の総選挙で勝者はいたのでしょうか。敗者となったのはどの政党でしょうか。総選挙の結果は、資料1「党派別当選者数」と資料2「党派別得票数と絶対得票率」(省略)のようになっています。これを、どう見たらよいのでしょうか。

 メディアで言われるほど「圧勝」していない自民党

 今回の選挙結果について、メディアなどでは自民党が「圧勝」したかのように報道されています。確かに、自民党は単独で過半数を越え、公明党と合わせて3分の2以上の326議席を確保しました。与党の絶対多数を維持したという点では、安倍首相の狙い通りの結果であったという見方が可能です。
 しかし、自民党は選挙戦の序盤や中盤で予想されていたような300議席突破はならず、公示前の293議席より3議席減らして290議席(選挙後の追加公認で291議席)となりました。選挙中盤における「圧勝」予測によって「揺れ戻し」が生じ、選挙前よりも2議席減らしましたから勝利したわけではありません。
 同時に、単独での安定多数を維持していますから、依然として強権的で強引な国会運営を行う基盤を得たことになります。「信任を得た」と言い張って「亡国の政治」を加速する危険性もあり、これまで暴走してきた安倍首相に「給油」したという見方もできます。
 しかし、安倍首相はアベノミクスの継続と景気回復の一点に争点を絞り、集団的自衛権行使容認や改憲、沖縄での新基地建設、原発再稼働、TPP参加などの重要課題については争点隠しに徹しました。今回の自民党への投票は「アベノミクスで景気が良くなるかもしれないなら、もう少し様子を見てみよう」というもので、一種の「執行猶予」による消極的な支持であったと思われます。それを勘違いして、集団的自衛権行使容認や原発再稼働などで新たな「暴走」を始めれば、その時こそ、小選挙区で自民党候補が全滅した沖縄のように、大きなしっぺ返しを食らうことになるでしょう。

 自民党に投票したのは有権者の4分の1以下

 自民党は小選挙区で222議席と15議席減少させ、得票数も2546万票と18万票の減少になっています。小選挙区での得票数の推移を見れば、09年に522万票減、12年に166万票減、そして今回も18万票減と一貫して減らしてきました。
 それにもかかわらず多数議席を獲得してきたのは、比較第1党が議席を独占し、4割台の得票率でも8割台の議席を獲得できるという小選挙区制のカラクリのためです。今回も48.1%の得票率で75.3%の議席を獲得しました。過去3回の選挙で有権者は自民党にダメを出し続けているにもかかわらず、その意思は全く議席に反映されなかったというわけです。
 今回は小選挙区での得票数だけでなく議席も減らしましたが、それでも自民党が過半数を突破できたのは、比例代表で11議席増の68議席を獲得したからです。得票数も104万票増やして1766万票になりました。しかし、それが有権者のどれだけの割合になるか(これを絶対得票率と言います)と言えば、小選挙区で24.5%、比例代表で17.0%にすぎません。
 つまり、有権者の4分の1以下の得票で、「圧勝」と勘違いされるほどの絶対多数を得たことになります。比例代表では前回より1ポイント増で、有権者の6分の1にすぎません。これで「一強多弱」などと言われるほどの国会勢力を獲得したのですから、ペテンのようなものじゃありませんか。

 極右政党が壊滅し、共産党が躍進した

 それでは、今度の総選挙での勝者はどこで、敗者はどの政党だったのでしょうか。それは、資料1を見ればたちどころに分かります。今回の選挙で最も議席を増やしたのは共産党で、13議席も増やして躍進しました。他方、最も減らしたのは次世代の党で、17議席減という一人負けの惨敗を喫しました。ここに、日本の有権者の良識が反映されています。
 共産党が躍進したのは、消費税の10%への引き上げ中止を掲げて「安倍暴走政治」に真正面から対決しただけでなく、増税に頼らない別の道があるとして具体的な対案を掲げてきた実績が評価されたからでしょう。今後の「安倍一強体制」のもと、野党内での発言力が高まった共産党の役割はさらに大きなものとなるにちがいありません。
 政策的な立ち位置からすれば、共産党は国会内で最左翼であり、次世代の党は海外で「極右政治家」とみなされている石原慎太郎元都知事をはじめ、「ネトウヨのアイドル・田母神閣下」や帝国日本の平沼騏一郎元首相を養父とする平沼赳夫党首などを候補とした極右政党でした。したがって、今回の選挙の結果を端的にいえば、国会内での手ごわい反対勢力である左翼を増やし、「是々非々」で政権の応援団になる極右を減らしたことになります。
 国会を解散して総選挙を実施しなければこのような結果にはならず、少なくともあと2年間は安倍政権にとって好ましい勢力関係を維持できたはずです。しかし、突然の解散・総選挙によって安倍首相はこのような勢力関係を変えるリスクを犯し、結果として共産党や民主党の議席を増やして左翼の比重を高めたわけで、まことに皮肉な結果になったというべきでしょう。


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