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2月4日(水) 15年春闘の情勢と農協労働組合に求められるもの(その1) [論攷]

〔以下の講演記録は、全農協連『労農のなかま』No.552、2015年1月号、に掲載されたものです。3回に分けてアップします。〕

 はじめに

 安倍首相は、国民が寝ぼけているうちに票をかっさらおうという魂胆のように見えます。突然の解散・総選挙は、寝込みを襲うかのような暴挙と言っていいでしょう。
 今度の総選挙は、安倍政権の個々の政策が問われるというよりも、日本をどういう方向に引っ張っていくのかという進路全体が問われている選挙です。
 そのリーダーとして安倍首相がふさわしいかどうか、この2年間の政治全体についての有権者の判断が迫られている選挙でもあります。戦後政治のあり方、日本の命運を左右する重大な選挙になっています。
 国民は、長く続いているデフレ不況にうんざりしているのかもしれません。何とか生活が苦しい状態から抜け出したいと思い、そのためにかすかな希望であっても、アベノミクスという「ワラ」にすがりたい気持ちがあるように見受けられます。
 中盤の選挙情勢についての報道では、自民党だけで300議席を超える勢いだそうです。しかし、その「ワラ」は〝鋼鉄製〟で、すがりついたとたんに海の底まで引きずり込まれてしまうでしょう。
 いずれにしても、この総選挙の結果が2015年春闘にも大きな影響をおよぼすことは間違いありません。労働組合としても、安倍首相の暴走をストップさせるために全力を挙げて取り組む必要があります。
 また、デフレ不況からの脱却は、今日の日本政治の大きな課題ですが、そのためには賃金の引き上げが必要であり、それは国民的な課題にもなっています。安倍首相も、財界に向かって「賃金を上げろ」と言うぐらいで、それは大きな世論になっています。
 春闘にとっては“追い風”が吹いているということになるでしょう。経団連さえ、賃上げは一つの選択肢であると言っているくらいですから。みなさんも、遠慮する必要はありません。堂々と賃金を上げろと要求してたたかってほしいと思います。大幅賃上げによって国民の可処分所得を増やし、購買力を高めることが景気回復のカギなのですから。
 また、安倍首相は「地方創生」と言っていますが、そのためには中小企業と農業が発展できるような環境の整備が欠かせません。ですから、みなさんにとっては賃金引き上げとともに農業再建の要求を掲げてたたかうことが、この春闘における重要な使命だと言って良いでしょう。

Ⅰ 政治・経済の現状と15年春闘をめぐる情勢

(1)着々と進む「戦争できる国」づくり

① 法・制度の変更
 今日、これまでになかったような新しい政治状況が生まれています。戦後の日本は、もう二度と戦争をやらないということを国際的な誓約として出発しました。それが戦後日本の存在価値でありアイデンティティでした。この平和国家としてのあり方が、大きく崩れようとしています。
 これまでの憲法解釈では、日本が他国から攻められた時以外、戦争することは認められていません。ところが、集団的自衛権の行使容認によって、日本が攻められていなくても「密接な関係にある他国」が攻められた時には戦争できるようにしようとしています。新しい武力行使の3要件が閣議決定されましたが、そこではこう言っています。
 「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国 の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」で「他に適当な手段がない」ときに、「必要最小限度の実力」を行使することは「憲法上許容される」。
 「密接な関係にある他国」と言っても、何をもって「密接」というのか。「明白な危険」とはどのような危険なのか。自公の間でも、見解は一致していません。「必要最小限度」と言うのも、何をもって「最小限度」というのかわかりません。
 これまでは日本が攻撃されて反撃するのが「必要最小限度」でした。ところが今度は、攻撃されなくても反撃するというのですから「最小限度」の幅が広がっています。
 しかも、「限定的」な容認だと言っていますが、そうすれば相手も少しだけ反撃すると言うのでしょうか。そんなことはありえません。
 そもそも、集団的自衛権行使の容認が日本の平和と安全を高めるのであれば、何も「限定」する必要はないはずです。これまでよりも自衛隊の活動範囲が拡大し、そのリスクも増大することを知っているから、安倍首相は「限定的」ならいいだろうと言っているわけです。
 このような嘘とごまかしで国民をだまし、アメリカと一緒になって海外で戦争できる国にしようというのが、集団的自衛権行使容認の本質です。そのための関連諸法・条約、日米防衛協力の指針(ガイドライン)の改定がたくらまれています。
 これ以外にも、法律や制度を変える動きが進められてきました。国家安全保障会議(日本版NSC)と国家安全保障局の新設、武器輸出3原則から防衛装備移転3原則への変更(禁輸から輸出への180度の転換)、軍事支援・武器援助解禁ためのODA大綱の改定など、すべて戦争できる国づくりのためのものです。

② 自衛隊の「戦力」化と在日米軍基地の強化
 現在でも自衛隊は、世界で8番目の軍事予算(防衛費)を使い、世界有数の戦力(防衛力)を有しています。昨年の暮れには、国家安全保障戦略と新防衛計画の大綱が閣議決定され、5年間で25兆円に上る新しい中期防衛力整備計画も策定されました。
 これらに基づいて防衛予算は3年連続で増額されようとしています。日本版海兵隊(陸上総隊)の新設や水陸機動団の編成などのために、水陸両用車52両・無人偵察機3機・オスプレイ17機の導入などの購入も計画されています。これらは国富の無駄遣いにほかなりません。
 在日米軍基地も強化されようとしています。沖縄の普天間基地の移設のために辺野古で新基地を建設する準備が進んでいますが、これは巨大な基地機能の拡張を伴っており、沖縄県民が強く反対するのは当然です。先の沖縄県知事選挙では、このような反対世論がいかに強いかがはっきりと示されました

③ 世論対策と教育への介入
 第二次安倍政権は世論対策を特に重視し、マスコミ工作を強めています。しばしば主要マスコミ幹部と会食や懇談をしていますが、過去2年間で約40回にもなるそうです。NHK会長や経営委員に安倍首相の「お友達」を送り込み、政府に対して批判的な報道をしないようなメディア・コントロールも強めています。
 特定秘密保護法は、12月10日に施行されました。これによって軍事機密の秘匿や情報の隠蔽、取材規制などができるようになり、違反すれば最高10年の懲役刑を科されます。政府に対する批判、防衛問題や原発に関する取材などを牽制し、国民やマスコミを萎縮させ、「戦争できる社会」づくりを進めようというわけです。
 自ら進んで戦いに赴く「人材」を育成するための「教育改革」も着手されています。教育委員会や教科書への政治介入を進め、歪んだ愛国心の涵養や道徳の教科化が狙われています。このようにして、かつて否定された戦前の教育が復活され、「戦争できる心」づくりが着々と進められています。

(2)「増税不況」と「アベノミクス」による生活の危機

 アベノミクスによる円安・株高で大企業の業績は回復しましたが、労働者の実質賃金は16か月連続のマイナスで、7割の人が、景気回復を実感できないと答えています。一部大企業の正規労働者はわずかに名目賃金が上がっていますが、非正規労働者の大半は賃上げに関係がなく、正規労働者でも定期昇給やボーナスのない人たちがいます。
 さらに深刻なのは、給料をもらっていない年金生活者です。消費税が5%から8%に上がっているのに、年金支給額が低下しているわけですから生活が苦しくなるのは当たり前です。円安や金融緩和によって物価が上がり購買力が低下していますから、消費不況になるのも当然でしょう。
 4~6月期のGDP実質成長率はマイナス7・1%、7~9月期は1・9%減と二期期連続のマイナスで、勤労者世帯の収入は10月までの13か月連続でマイナスです。14年冬のボーナスの平均は58万5000円で、安倍さんは2・5%アップしたと言っていますが、ボーナス支給ゼロという人が半数近くの43%もいます。
 このような状況ですから、国民の生活苦は増え、国内市場は縮小し、消費も減少して景気は悪化します。それはさらなる生活苦を増大させる。この悪循環はいまも続いています。

(3)新自由主義の再起動と労働法制の規制緩和

① 労働者派遣法改悪
 第2次安倍内閣の発足によって、新自由主義的な労働改革が息を吹き返しました。その中心は労働者派遣法の改悪です。14年の通常国会と臨時国会の2回にわたって、この法律が提出されましたが、2回とも廃案になりました。来年の通常国会でも提出されると見られています。
 一番大きな問題は、一時的・臨時的なものであって、恒常的なものではないとされてきた派遣という働き方についての位置づけが根本的に変えられてしまうという点です。3年間で仕事が変われば働かせ続けていいことにしようというのが今回の「改正」ですから。これを許せば派遣という働き方が恒久化し、企業は正規労働者を置き換えやすくなり、非正規労働者がさらに増えていくでしょう。
 女性が低賃金で生活が苦しいのも、女性の非正規労働者が増えてきているからです。いまや働く人全体の約4割に達しています。この非正規労働者の増加が労働の劣化を引き起こし、生活の困難をもたらしているのですから、これを減らすのがあるべき政策的な方向でしょう。
 ところが、逆に増やそうというわけです。一方で女性の活躍とか地方創生とか言いながら、他方で非正規労働者を増やそうというのですから、全くあべこべの対応だと言わなければなりません。

② 残業代ゼロ法案
 また、労働法制の改悪では裁量労働制の拡大、ホワイトカラーエグゼンプションの新種による労働時間規制の解除を行おうとしています。
 いまでも、健康を維持できないような働き方をしています。働き過ぎと過重労働でゆとりがない。休めず、過労死・過労自殺、メンタルヘルス不全などの問題が大きい。それをさらに長時間働かせようとするのが、「残業代ゼロ」法案と言われているものです。
 労働基準法で規定されているように、もともと残業はさせてはいけないのであって、残業なしでまともな生活ができるようにすることこそ本来の姿です。しかし、その36条で労使協定を結べば無制限に延長できるようになっている。これが問題です。
 さらに今では、残業代込みで賃金を示して募集し働かせているブラック企業も増えた。このような状況を改善するのではなく、逆に、労働時間の規制を外してしまおうというのですから呆れてしまいます。労働者の健康を何だと思っているのでしょうか。

③ 限定正社員
 限定正社員というのは、期間不定の有期雇用労働者のことです。勤務地や職務が決まっていて、そこでの仕事がいつなくなるかはわからないけれども、いつかなくなったら雇い止めになる。雇用維持と均等原則がありませんから、不安定・劣悪雇用を拡大することになります。
 これらの政策によって、非正規労働者はさらに増えるでしょう。労働条件も悪化し、賃金が安くなります。また、正規労働者として職場に定着しませんから、日本の大きな強みであった技能・技術の蓄積や継承ができなくなってしまいます。労働力の質が低下すれば国際競争力も弱まります。
 このように、今日でも低賃金のうえ長時間・過密労働を強いられている。さらに労働環境が劣悪になれば、家庭の形成・維持がいっそう難しくなり、子どもを作り育てることも困難になります。
 そうなれば、少子化はますます進み、15歳から64歳までの生産年齢人口も減る。労働力再生産が阻害され、社会は縮小し、活力を低下させていくことになります。   
  

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