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12月14日(月) 国民のたたかい―それを受け継ぐことが、私たちの務め(その3) [論攷]

〔以下の論攷は、学習の友別冊『戦後70年と憲法・民主主義・安保』に掲載されたものです。4回に分けてアップさせていただきます。〕

三、人権と民主主義を守るたたかい

 「永久の権利」と「不断の努力」

 憲法第11条は「国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる」としています。また、第12条は「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない」と定めています。
 このように、憲法に保障されている民主的な諸権利は「侵すことのできない永久の権利」だとされています。しかし、それを守るための「不断の努力」がなければ絵に描いた餅になってしまいます。権利の上に胡坐をかき、権利の無視や侵害を見過ごしたり放置したりしてはなりません。そのようなことが繰り返されれば、やがて権利は失われてしまいます。
 そもそも、人権は長い間のたたかいによって獲得されてきた人類の貴重な財産です。それを受け継ぐためにも、無視や形骸化、破壊や弾圧に対するたたかいが必要なのです。権利は、それを求め、守ろうとする者にこそ与えられるのだということを忘れてはなりません。

 戦後の謀略事件と人権裁判

 基本的人権に対する侵害として最も警戒されなければならないのは国家権力によるものです。権力による暴虐や弾圧、権力の恣意的な運用による権利侵害を防ぐためにこそ、憲法が存在するとさえ言うことができるほどです。このような権力による弾圧と、それへの大衆的な反撃による人権擁護のたたかいの典型的な姿を、戦後の謀略事件と人権裁判運動に見ることができます。
 たとえば、松川事件救援運動として知られる大衆的な人権裁判への取り組みがあります。松川事件は、1949年に福島県の東北本線で発生した列車往来妨害事件で、犯人として国鉄と東芝の労働者20人が逮捕されました。被告の大半は共産党員です。
 このため、当初から労働運動に打撃を与えるためのでっちあげではないかとの見方がありましたが、次第に被告を救援するための運動が盛り上がり、結局、被告全員が無罪になっています。事件の発生から14年後のことで、国家賠償請求訴訟も勝訴が確定しました。
 三鷹事件も1949年に三鷹駅構内で発生した無人列車暴走事件で、組合員だった共産党員ら10人が起訴され、非共産党員の竹内景助被告が「単独犯行」を主張し、9人が無罪となりました。その後、竹内被告も無罪を主張しますが、再審請求中の67年に死亡し、今も再審請求の運動が続けられています。
 このほかの謀略事件としては、青梅事件(1969年差戻審判決)、吹田事件(1969年二審判決)、八海事件(1969年第三次上告審判決)、メーデー事件(1972年二審判決)、辰野事件(1972年二審判決)、仁保事件(1972年差戻審判決)などがあります。いずれも裁判運動が取り組まれて次々と真実が明らかにされ、無罪が確定しました。これらは運動と裁判のフィードバックによって人権が守られてきた実例だと言って良いでしょう。

 教育をめぐる攻防

 憲法第23条は「学問の自由は、これを保障する」とし、第26条は「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ」と定めています。「教育を受ける権利」の方が「義務」よりも優先されていること、権利は「受ける権利」であり、義務は「受けさせる義務」であることに注意する必要があります。
 また、憲法では「学問の自由」の方が先に規定されているということも重要です。戦前の社会において学問の自由が侵され、 侵略戦争を支持し遂行するためのマインドコントロールに利用されたという苦い経験があるからです。それを防ぐためには、学問の自由を保障し、教育に対する政治や行政など外部からの介入や干渉を防ぐことが重要です。
 その典型的な取り組みが教科書検定に対する抵抗であり「家永裁判」です。1965年に家永三郎東京教育大学教授が教科書検定を違憲・違法だとして国を相手取って訴訟を起こし、「教科書検定訴訟を支援する全国連絡会」が結成され、広範な国民が参加して国民的な運動が展開されました。
 その結果、1970年の東京地裁判決によって教科書検定制度は表現の自由を侵害する恐れが大きく、憲法第21条と教育基本法10条に違反するとして、原告勝訴の判決が下されました(杉本判決)。他方で、民事訴訟の第一審判決は教科書検定制度を合憲とし、杉本判決にたいする控訴審判決も憲法判断を回避しつつ運用の一部に裁量権の逸脱があるとして国に損害賠償を命じ、判決は確定しました。
 その後、教科書に対する検定はさらに強まり、白鵬社など歴史修正主義の立場に立った教科書の採用を迫る動きも目立っています。教育基本法の改悪や教育再生実行会議を中心とした安倍教育改革によって外部からの介入と統制は強まり、日の丸と君が代の斉唱や起立の押し付け、国立大学での国旗掲揚や国歌斉唱の要請、人文・社会関係学部の縮小・再編など大学の自治や学問の自由への攻撃はかつてなく強まっており、教育をめぐる攻防は今も続いています。

 思想と表現、政治活動の自由を守り、差別を許さないたたかい

 憲法第19条は「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない」とし、第21条は「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」と定めています。この憲法上の権利を守るためにも、激しいたたかいが繰り返されてきました。
 たとえば、労働現場での思想差別や昇格・賃金差別に対するたたかいがあります。その多くは裁判闘争と結合され、96年には名古屋地裁が中部電力人権侵害・思想差別裁判で「思想差別は違憲」として8億4000万円の支払いを命ずる原告側勝利判決を出しています。このほか、東京電力、安川電機、新日鉄広畑、クラボウ、石川島播磨などでも、労働者側の勝利や和解で解決が図られました。
 また、知る権利や報道の自由、表現の自由も、それに対する制限、干渉や攻撃に対する反撃の繰り返しによって守られてきたことを忘れてはなりません。いくつかの例を挙げれば、西宮の朝日新聞阪神支局襲撃事件に対する抗議活動、国家秘密法反対運動、拡声器規制条例等に対する反対運動、NHK番組「裁かれた戦時暴力」への圧力に対する抗議活動、立川・自衛隊官舎ビラまき訴訟、自衛隊の「国民監視活動」への抗議活動、葛飾ビラ配布弾圧事件や国公法弾圧2事件訴訟などがありました。
 最近では、特定秘密保護法の制定に対する大きな反対運動が展開されました。また、「梅雨空に『九条守れ』の女性デモ」という俳句の公民館月報への掲載拒否に対する提訴もなされ、自民党勉強会での報道規制発言への抗議も強まっています。個人の思想・信条の自由や差別の禁止という点では性的少数者(LGBT)の権利擁護、憎悪犯罪(ヘイトクライム)や憎悪表現(ヘイトスピーチ)の法的規制なども重要な課題になっています。

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