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5月2日(月) 今日における社会変革の担い手は誰か-なぜ多数者革命なのか(その1) [論攷]

〔以下の論攷は、『学習の友』5月号に掲載されたものです。3回に分けてアップさせていただきます。〕

 はじめに

 昨年、安全保障関連法案(戦争法案)に反対する運動が大きな盛り上がりを示しました。国会正門前だけでなく全国津々浦々で、老いも若きも、男性も女性も、学者も青年・学生も、「戦争法は憲法違反だ」との声を上げました。
 戦争法案に反対するという一点で、それまで実現することができなかった野党、諸団体・個人の共同が実現し、共産党によって戦争法廃止の連合政権という構想も打ち出されました。これを契機に夏の参議院選挙に向けて野党間の選挙共闘が拡大し、新たな政治変革に向けての動きも強まってきています。
 このような「2015年安保闘争」の高揚のなかで、「これは現代における市民革命ではないのか」という声が聞かれるようになりました。果たしてそうなのでしょうか。今日における社会変革の条件と課題、その可能性という視点から、これらの問題を考えてみることにしましょう。

1、市民と市民革命

 革命とは何か

 革命とは、本来、「天命が革(あらた)まること」(広辞苑)ですが、根源的で巨大な変化を指しています。産業革命やIT(情報技術)革命などという場合には、このような意味になります。それまでの産業や技術のあり方が、根本的に転換する大きな変化が生み出されるからです。
 これに対して、政治の世界では、それまで支配されていた階級(被支配階級)が支配している階級(支配階級)を倒して政治権力を握り、政治・経済・社会体制を根本的に変えることを意味しています。一言でいえば、支配階級から被支配階級への権力の移動です。これも、政治や社会のレベルにおいて根源的で巨大な変化を生み出すことになります。
 歴史的には、イギリスの清教徒(ピューリタン)革命と名誉革命、アメリカ独立戦争、フランス革命などが知られています。これらはいずれも、封建的な支配階級から新興産業ブルジョアジーや地主、農民、都市労働者などの被支配階級への権力の移動でした。中心になったのが都市に居住する市民でしたから、市民革命と呼ばれます。
 とりわけ良く知られている典型的な市民革命はフランスで起こった革命でした。それまでの封建的な旧制度(アンシャンレジーム)の打倒を目指してパリの市民が立ち上がり、バスチーユ牢獄を襲撃して革命の火ぶたを切ります。権力を握った市民は「人権宣言」を発し、封建的な身分制度や王制を廃止しました。

 革命の条件

 このような革命は、人々の願望や主観的な思いだけで引き起こされるわけではありません。それにはいくつかの客観的な条件が必要です。
 第1は、支配されている階級に属する人々が、それまでの支配を望まなくなることです。いつの世でも政治に対する不平や不満はありますが、それが支配階級全体に向けられることも被支配階級の大部分に及ぶことも多くはありません。しかし、巨大な不満が蓄積され、現状維持を望まない人々が多くなればなるほど、革命の条件は成熟することになります。
 第2は、支配している階級がもはやそれを維持することができないほどに矛盾が高まることです。支配階級が統治能力を失い、被支配階級の不満を解決することも支配の危機を回避することもできない場合、支配階級の一部からも変革を求める声が上がってきます。このような内部崩壊が進めば進むほど、革命の条件は増大することになります。
 第3に、このような被支配階級と支配階級との矛盾や対立が増大した結果、人々の行動力が急速に高まり、自覚的に現状を打破しようとする人々(変革主体)が登場することです。その結果、社会が流動化し、人々の行動力が高まり、政治の変革を求める人々が増えれば増えるほど革命に近づくことになります。

 変革主体としての現代的市民

 革命には、政治を変えて次の社会を担うことができるような新しい勢力が必要です。政治を変える主人公となる人々ですから変革主体と言います。かつては都市に居住する一部の市民でしたから市民革命と呼ばれました。今日では大衆化した市民、労働者階級を中核とする現代的市民が変革主体となります。
 そのためには、かつての市民が保持していた「財産と教養」の今日的な形態、すなわち一定の収入と時間、そして知識と情報が必要です。安定した収入がなければ自立した生活を営むことができず、社会に関心を向ける余裕も失われがちです。たとえ関心があっても、時間がなければ社会のために行動することができません。知識と情報がなければ主権者として判断することも決断することもできなくなります。
 生活できる賃金と労働時間の短縮、知る権利の確立と正しい情報の取得、情報のリテラシー(読み書き能力)は、変革主体としての現代的市民にとって不可欠の条件です。これなしには、政治の現状を正しく理解し、その変革を求めて発言することも行動することも困難になるからです。

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