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9月28日(水) 参院選の結果と今後の政治課題―参院選の歴史的意義、どう発展させていくか、都知事選惨敗結果もふまえて考える(その1) [論攷]

〔以下の論攷は、8月13日に行われた講演の記録です。社会主義協会『研究資料』No.26,2016年9月号に掲載されました。4回に分けてアップさせていただきます。〕 

 チャンスを生かせなかった

 今回の参議院選挙は、統一候補を中心に野党が勝利して戦争への道を阻止するチャンス、国の行く末・進路を左右する「天下分け目」の決戦だった。しかし、結果的には今までの選挙と変わらない自公勝利で終わった。都知事選も、今回は自民党が分裂し、逆に野党側は共闘して統一候補の擁立に成功し、絶好のチャンスだったが結果的には惨敗した。
 私は、参院選・都知事選がホップ・ステップとなって解散・総選挙でジャンプし、新しい政権をつくって戦争法を廃止するのだと言ってきた。しかし、それは幻に終わってしまった。解散・総選挙はまだだが、少なくとも前段は失敗し、十分にチャンスを生かすことができなかった。
 逆に、与党は参院選で勝利して改憲勢力が3分の2を超え、都知事選では自民党公認候補が敗れたものの自民党籍をもった小池百合子候補が当選するなど、容易ならざる時代が始まった。これまで以上に、警戒と覚悟が必要な事態が生まれたことになる。しかし、このような中でも新たな希望の光が見えた。この点を強調しておきたい。
 9条立憲に向けての活路は野党共闘の維持・発展しかない。戦争法廃止と憲法改悪阻止に向けての野党共闘、しかも野党だけでなく市民も積極的に加わり、市民+野党という新しい戦線が実現し、一定の成果を上げた。これを維持・発展させ、大きな力にして、より効果的に成果を出せるようにするためにはどのようにすべきかを、これから考えなければならない。これがこれからの一番大きな課題になる。
 法政大学大学院での私の修士論文のテーマは「コミンテルン初期における統一戦線政策の形成」で、ドイツ共産党を例に労働者農民政府についての研究をした。研究者生活の出発点でのテーマが統一戦線だったわけだが、そのときは歴史的な事実についての研究だった。いずれ将来、政治を変えることを具体的課題として実践する時代が来れば、そのような歴史研究も意味を持つのではないかと思って始めた。当時は、美濃部革新都政をはじめとしてさまざまな革新自治体が生まれ、社共共闘が成立していたからだが、やがてそのような初歩的な統一戦線も姿を消してしまった。
 このまま見果てぬ夢で、あの世に行くのかなぁと思っていたわけだが、昨年からの安保法制反対運動が広がって、戦争法廃止を実現するためには野党が協力しなければならないという声が高まった。こうして、野党が共闘して新しい政府をつくろうという動きも始まることになった。統一戦線政策の復活だ。
 私は、去年の5月ぐらいから民進党と共産党が手を結ぶ「民共合作」が必要だと言ってきた。民主党と共産党を中心にした連携・協力を、中国の「国共合作」になぞらえて「民共合作」と呼び、その形成を主張してきた。ところが、自民党が統一候補を「民共合作」だと批判するようになった。中国での国共合作は抗日戦争での勝利をもたらしたが、自民党はそういう歴史を知らないから、「野合」の意味で「民共合作」だと難癖をつけたわけだ。
 私は別の言い方もしてきた。現代の「薩長同盟」だと。明治維新では争っていた薩摩と長州の両藩が手を結んで日本の歴史を変えたんだと。民主党と共産党も手を結べば自公政権を倒せる。それを仲介した坂本龍馬の役割を果たすのが、市民の役割なのだと。
 このようななかで昨年9月19日、安保法が成立した日の午後に、共産党が「国民連合政府」の樹立を提唱した。今年に入って2月19日に「5党合意」が実現し、参院選では32ある1人区全部で統一候補が擁立された。「民共合作」や現代の「薩長同盟」と言っていたものの、こういう具合に野党共闘が進むとは思っていなかったから、歴史というものはこのようにして動くんだなと感慨深いものがあった。こうして、市民と野党とが連合して新しい政府をつくる展望が、具体的な政治転換の可能性を生み出す画期的な事態がこの参院選挙で芽生えたことになる。

 与党は勝ったが自民には陰り

 参院選の結果をどう見るかということだが、与党が勝ったことは明らかだ。安倍首相は選挙前に与党による改選議席の過半数である61議席確保を掲げていた。結果は、自民党56議席、公明党14議席で与党合計70議席となり大幅にクリアした。自民単独過半数に2不足だったが、無所属候補の追加公認と平野元復興相の入党で過半数を実現した。
 安倍首相は秘かに改憲発議が可能となる3分の2議席確保を狙っていたと思う。この目標も自公の議席だけでは及ばなかったが、おおさか維新の会と日本のこころを大切にする党、それに4人の無所属議員を含めて突破した。非常に危険な状況に至ったことは明らかだ。
 もともと自民党は歴史的に見れば下り坂に入っていた。12年衆院選294議席と13年参院選65議席がピークで、14年衆院選では2議席減となり今回の16年参院では9議席も減らしている。陰りが生じていたことになる。それなのに今回、なぜ自民党は転げ落ちずに、踏みとどまることができたのか。
 一つは、客観的な情勢が自民を有利にした。国民が安全保障面や生活の不安から安定を求めたのではないか。途上国経済の不透明化やイギリスのEU離脱などもあって世界経済がどうなるのかという不安感が増大した。アベノミクスは破綻しているが、安倍首相は「道半ばだ」と言い張ってこれからよくなると宣伝した。国民も、民主党政権の時代よりはましだと感じている。
 また、日本にはヨーロッパのような政権を揺さぶる難民問題がなかったのも、政権党に有利に働いた。ヨーロッパでは経済不安や移民問題がポピュリズムを生んで既成政党批判・政権批判を増大させた。アメリカでも国民の経済・生活不安がサンダース・トランプ現象を生み出している。それに、北朝鮮が参院選に合わせたようにミサイルの発射実験を繰り返し、それがネガティブキャンペーンに利用された。
 自民党の主体的な選挙戦術が功を奏した面もある。参院選でのキャンペーンは、選挙隠し、争点隠しで、「隠す、盗む、嘘をつく」の三つ。参院選が始まっているのにマスコミ報道は舛添東京都知事問題ばかり。参院選隠しだ。もともとの参院選の第一の争点は来年4月から10%に引き上げ予定だった消費税再増税問題だったが、これは延期することで争点からはずされた。本来、参院選の最大の争点であったはずの憲法改正問題についても、安倍首相は街頭演説でまったく触れず隠し通した。TPP問題や米軍基地問題などについても避け、不利な争点を隠した。しかし、隠しきれなかった東北や甲信越、沖縄で自民党は敗北している。
 さらに、野党の政策を盗むというやり方だ。同一労働同一賃金、介護士・保育士の待遇改善、給付型奨学金など、これまで野党が求めて運動してきた政策を盗んだ。アベノミクスについても平然と嘘をつく。白を黒と言いくるめる詐欺師の手法だった。しかし、マスコミがそれをバックアップして流れをつくった。
 公明党が改選議席を3議席増やしたのは定数増の恩恵で、愛知・兵庫・福岡で当選したが、比例代表は7議席で前回同様。得票数で4900票増やしただけだった。おおさか維新の健闘は18歳選挙権の恩恵だと考えられる。選挙前の世論調査では、民進4.0%、公明2.3%、共産1.9%に対しておおさか維新の会は2.5%あり、公明党よりも支持率が高かった。


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