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9月18日(月) 〝タガ〟が外れた岸田政権で日本はどうなる?(前半部分の2) [論攷]

〔以下の講演記録は『東京非核政府の会ニュース』No.424 、8月20日付に掲載されたものです。前半部分を2回に分けてアップさせていただきます。〕

 すべて憲法が禁じていること

 岸田首相が目指している大軍拡は憲法が禁じていることばかりで、憲法前文と9条に反していることは明らかだ。9条で禁じているのは武力の行使だけではない、武力による「威嚇」も禁じている。伊能防衛庁長官(1959年)や田中角栄首相(1972年)は、「脅威を与えるような兵器を持ってはならない。専らわが国土およびその周辺において防衛を行うということだ」と言っている。だから、岸田首相がやろうとしている敵領土を攻撃する武器を持ち、それによって敵を威嚇する政策は現行憲法の下では実行できない。
 それだけではない。今、ウクライナで戦われている戦争こそがまさに自国領土およびその周辺における戦争なのだ。つまりウクライナ戦争は典型的な「専守防衛」戦争ということになる。このことを誰も指摘していない。それを言えば、岸田首相が目指している「敵基地攻撃」論の間違いが明らかになってしまうからだ。
 ウクライナ戦争は、第三次世界大戦や核戦争を引き起こす大きなリスクを抱えている。だから、アメリカはウクライナに「ロシアの領土を攻撃するな」と言っている。アメリカはウクライナに対してハイマースという長距離砲を供与したが、ロシアに届かないように射程距離を縮めている。今度イギリスもストームシャドーという巡航型ミサイルを供与したが、これもロシアを攻撃しないという約束の下での供与だ。
 F16も戦闘機だからいくらでも空を飛んでいけるわけだが、ロシアを攻撃しないと約束してウクライナに供与されている。ロシアはウクライナの首都キーウにミサイルを撃ち込んでいるが、ウクライナはモスクワにミサイルを撃っていない。
 岸田首相が目指している大軍拡の方向は、ウクライナが行っていない戦争のやり方なのだ。これがいかに危険で過った道であるかが、この事実によって明らかだ。日本の安全を保障するどころか第三次世界大戦や核戦争を引き起こす恐れがあるということを、ウクライナ戦争の現実が示している。岸田首相には、この戦争のリアリティに対する想像力が完全に欠落している。

 人も,金も,技術もないのに

 しかも、このような大軍拡は実際には難しい。金も人も技術力もないから、できないのではないか。通常国会で防衛財源確保法が成立したが、増税は先送りされている。防衛財源の確保は簡単ではない。
 人もいない。人材の取り合いになる。今、自衛隊の定員は24万8000人で1万8000人が不足している。入隊した人達の中にもいろんな人がいる。最近、さまざまな事件やハラスメントが相次いでおり、自衛隊員の質が問題視されている。募集と人材の確保はもっと難しくなるだろう。
 兵器を開発する技術力にも不安がある。三菱重工とジャクサが中心になると期待されているが、MRJ(国産初の中距離ジェット旅客機)の開発断念、H3ロケットの発射失敗、イプシロンSの爆発事故などが相次いでいる。旅客機やロケットはだめでもミサイルなら大丈夫だと言えるのか。
 敵基地攻撃のためのミサイルがすぐには間に合わないから、アメリカから巡行式ミサイルのトマホークを購入するという。誰がそれを運用し、操作するのか。隊員不足で機能しなくなるかもしれない。価格もアメリカ国内では一発2億円なのに2.5倍の5億円で買うという。400発で2113億円。そんな金、どこにあるのかと言いたい。

 9条を変える愚かさ

 この問題を考える上で指摘しなければならないのは、安保体制や日米軍事同盟と憲法9条との関係のこと。安保という軍事同盟で日本は戦争に巻き込まれ協力させられてきた。ベトナム戦争やイラク戦争などだ。しかし、日本と自衛隊は9条に守られ、かろうじて犠牲者を出さずに済んでいる。
 ベトナム戦争で、日本は米軍の出撃・補給基地になった。しかし、9条があるために自衛隊を送らずに済んだ。この点が9条のない韓国などとの違いだ。韓国は延べ30万人をベトナムに派遣し、約5000人もの自国の若者を犠牲にしてしまった。民間人の虐殺事件まで引き起こし、今年の2月にソウル中央地裁で韓国政府への有罪判決が出ている。
 イラク戦争ではアメリカの圧力に屈して自衛隊が派遣された。しかし、陸上自衛隊が派遣されたサマーワは非戦闘地域で、給水や道路の補修などの非戦闘業務に従事していた。だから、誰も殺さず殺されず無事に帰ってこられた。自衛隊は憲法9条の「バリアー」によって守られていたのだ。
 「安保によって平和は守られてきた」という人がいるが、真っ赤なウソだ。実際には、安保によって戦争に引きずり込まれ、9条によって守られてきたのだ。9条は戦争への防波堤であり、自衛隊を守る「バリアー」だった、それを換骨奪胎しようとしている。なんと愚かなことか。自衛隊員の家族や関係者こそが、憲法調査会での議論を祈るような気持ちで見つめているに違いない。

 国も国民も貧しくなる大軍拡・大増税

 もう一つの大きな分かれ道がわれわれの前にある。戦争になるかどうかは国際情勢いかんで分らない面がある。しかし、岸田政権が進めようとしている大軍拡が貧しさに結びつくことは確実だ。
 日本は戦前、富国強兵政策を採った。今、岸田首相が採ろうとしているのは富国ではなく貧国、強兵貧国政策だ。戦争に国富をつぎ込んで貧しくさせてしまう貧国路線、これはすでに始まり、これまでも貧困と格差拡大の道を辿ってきた。それが奈落に向けて一気に加速されるだろう。
 かつて日本は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われた。1979年のことだ。80年代に入って急速に経済が過熱しバブルとなった。それがはじけた90年以降は「失われた30年」。ずっと経済は低迷し続けてきた。
 1968年に日本は西ドイツを抜いてGNP(現在はGDP)で世界第2位になった。その後、中国に抜かれて3位。今年、またドイツに抜き返されて第4位になるのではないかといわれている。来年以降、近い時期にインドに抜かれて第5位になるかもしれない。
 1人当たりGDPはもっとひどい。世界で27位。国際競争力は35位だ。経済的・社会的に言えば、外国から攻撃される前にすでに日本は崩れつつある。経済も社会も内部から崩壊しつつある。
 先日発表された企業の時価総額ランキングで日本の企業は世界100社の中に何社ぐらい入っているか。たった1社しかいない。トヨタだけだ。あとは全部下のほう。日本はこういう国になっている。そういう状況の下で目論まれているのが軍拡のための大増税だ。
 防衛費増額のための財源確保法は成立したが、予算は年ごとに立てなければならない。年間5兆円のうちの1兆円ぐらいで、あと4兆円は別のところからかき集めてくる。中には増税の計画も入っている。たばこ税とか、あろうことか福島の震災からの復興税、国立病院を充実させるための積立金まで軍備増強に回される。兵器というのは役に立つのは戦争、役に立たなかったらまったくの無駄。こういうなかで国民の生活が犠牲になっていく。

 貧困か富国か 「どうする岸田」

 実質賃金は14カ月連続でマイナス。過去10年間でマイナス24万円となる。給料が上がらない。年金も減る一方だ。今、最低賃金についての審議が始まっている。間もなく決まるけれど、しかし日本の最低賃金は韓国よりも下で、1000円を超えても2200円のオーストラリアの半分以下でしかない。
 収入は少ない。年金も削られている。一方で税金は上がり、消費税もどんどん上がってきた。今度は子育て支援だということで社会保険料も上げて、みんなで負担しようという話。収入は減って。税金と社会保険などの社会保障関係費を加えた国民負担率は48%から49%。半分近くはいわゆるお上に召し上げられている。江戸時代の「五公五民」と同じだ。
 こういう状況の下で、社会保障サービスや高齢者福祉はどんどん削られる。将来が心配だから貯金する。収入は少ない。物価高で支出は増える。必要経費がどんどん高くなる。石油も上がっていく。そして、将来のための蓄え。いったいお金が使えるのか。可処分所得が増えなければ景気が良くなるはずがない。
 しかも、政府はもうお手上げ。イラク戦争やアベノミクスの異次元金融緩和による円安の影響を受けて値上げの波はどんどん高まり、押し寄せてきている。生活支援の対策はなく、まったく経済無策だ。政府はいったいどうするのか。「どうする家康」ではないが、「どうする岸田」と言いたくなる。

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