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11月11日(土) 「敵基地攻撃」能力の危険な企み―それは日本に何をもたらすか 実質改憲に突き進む岸田政権の狙いを暴く(その2) [論攷]

〔以下の論攷は『治安維持法と現代』No.46、2023年秋季号に掲載されたものです。3回に分けてアップさせていただきます。〕

 実質改憲による戦後安保政策の大転換

 憲法の条文を変えることなく平和主義の大原則を実質的に転換する実質改憲が安保3文書によって具体化されました。しかし、実はそのような転換は2015年の平和安保法制(戦争法)の制定によってすでに実行されていたのです。
 このとき憲法解釈を変更し、それまで許されないとされてきた集団的自衛権の一部について行使を認め、日本が攻撃されていなくても存立危機事態と認められれば米軍と共に自衛隊が戦闘に加わることができるようになったからです。その意味で、基本は変わっていないという弁解の半分は正しいとも言えます。
 しかし、それは「枠組みを整えた」にすぎず、実行できないものでした。今回はこれを「実践面から大きく転換する」(国家安全保障戦略)ことで、集団的自衛権を実際に行使できるようにしようというのです。形としての実質改憲に内実を伴わせようというのが、岸田大軍拡の狙いなのです。
 その結果、9条による憲法上の制約や非軍事のタガが外されようとしています。米軍と共に戦える軍隊へと自衛隊を変貌させるための施策が次々と打ち出されていることに注意しなければなりません。
 アメリカとの関係では兵器の爆買いだけでなく、自衛隊の陸海空3軍による統合司令部の創設とハワイにある米インド太平洋軍司令部の横田への移転による実戦体制と連携の強化、統合防空ミサイル防衛(IAMD)での自衛隊と米軍の融合などが打ち出されています。自衛隊の強化では自主的な防衛費増や防衛財源確保法の制定、防衛産業支援のための新法の制定、自衛官の待遇改善、基地の地下化と強靭化、敵領土攻撃可能な長距離兵器の購入と開発、学術研究や空港・港湾の軍事利用などが打ち出されています。密室で検討中の殺傷兵器の輸出解禁もその一環です。
 国際的な枠組みでは、イギリスやイタリアとの戦闘機の共同開発や北大西洋条約機構(NATO)への接近、NATO加盟諸国との共同訓練の実施、日米印豪4か国のクワッドによる軍事協力の強化、日米韓3か国によるミニNATO化の動きなどもあります。まさに、「新しい戦前」を思わせるような準備が多方面で着々と進んでいるというべきでしょう。

 「台湾有事」を「日本有事」にしてはならない

 アメリカは為替レート(購買力平価)でのGDPで2016年に中国に追い抜かれ、論文数・研究者数・政府の研究予算額などでも中国の下です。経済や学術の面で優位性を失ったアメリカの危機感と焦りは大きく、その狙いは台頭する中国の頭を抑えて覇権を維持し、再びライバルとならないように日本の足を引っ張ることにあります。そのために、日本に防衛分担を強いて対中国包囲網に引きずり込もうとしているのです。
 このような軍事分担要請は中曽根康弘政権時代から強まり、その後の日米構造協議や年次改革要望書、湾岸戦争やイラク戦争などを通じて具体化されてきました。しかし、最近ではCIA長官、米国務長官や財務長官・商務長官の訪中など一定の修正がなされているようです。岸田首相が大軍拡に転じて「二階に上がったからもう良いだろう」と、梯子を外そうとしているように見えます。
 台湾との関係で中国は武力行使を排除していませんが、もし米軍との戦争が始まれば第3次世界大戦や核戦争にまで拡大する大きなリスクが生じます。米中の直接対決による「台湾有事」を発生させてはならず、もしそうなっても「日本有事」に連動させることは極力避けなければなりません。中国による台湾への武力行使は許されませんが、「一つの中国」を認める立場からすれば基本的には「国内」問題です。
 アメリカの台湾関係法は台湾防衛の軍事行動を大統領に認めていますが、義務ではなくオプション(選択)なのです。22年9月にバイデン大統領が台湾を防衛すると明言した直後、ホワイトハウスの報道官は「(防衛するかしないかはっきりさせない)あいまい戦略に変更なし」と訂正しました。軍事的な対応が前提されているわけではありません。
 中国は23年の全国人民代表大会で「平和」統一という用語を復活し、日本との間では「互いに脅威にならない」と共同声明などで何度も確認しています。中国も北朝鮮も「日本を攻める」とは言っていませんから、「仮想敵国」とするのは間違いです。台湾が攻撃されたからと言って、それが直ちに日本への攻撃を意味するわけではありません。
 「台湾有事」が勃発しても日本は参戦してはならず、「戦う決意」を迫ることも「日本有事」に連動させることも許されません。国際紛争に軍事的に関与しないというのが憲法の趣旨であり。戦争になれば日本全土が焦土となることは避けられません。しかも、そういう危機が高まった段階で、もう日本という国は立ち行かなくなります。
 実際には、日本は戦争できません。最大の貿易相手国は中国ですから、戦争の危機が高まったら貿易が途絶えてしまいます。食料や各種の製品、原材料なども来なくなってしまいます。中国を包囲し孤立させようとして経済安全保障を打ち出し、輸出の管理や規制を強めようとしていますが、それで困るのは日本の方なのです。

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