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11月10日(金) 「敵基地攻撃」能力の危険な企み―それは日本に何をもたらすか 実質改憲に突き進む岸田政権の狙いを暴く(その1) [論攷]

〔以下の論攷は『治安維持法と現代』No.46、2023年秋季号に掲載されたものです。3回に分けてアップさせていただきます。〕

 はじめに

 虚偽と欺瞞に満ちた政策転換によって、日本は歴史的な岐路にさしかかることになりました。安保3文書によって打ち出された「敵基地攻撃」能力(「反撃」能力)の保有という新たな方針は、憲法9条に示された平和主義原則を実質的に転換するものです。
 岸田政権はアメリカの思惑を忖度しながらそれに取り入るために、日本の安全と東アジアの平和を脅かそうとしています。これからの日本は軍事的には強力でも経済的には貧しい「強兵貧国」への道を歩むことになるでしょう。
 その危険な企みの内容を明らかにし、今後の日本に何をもたらすことになるのかを国民に示していくことが、今ほど必要になっていることはありません。岸田首相は大軍拡・大増税の中身も狙いもひた隠しにし、国会での論戦から逃げ続けてきたのですから。

 「敵基地攻撃」能力保有論の虚妄と危険性

 まず指摘しなければならないのは、「敵基地攻撃」能力保有論の虚妄と危険性です。それがいかにウソとデタラメに満ちているか。数多くのウソの中でも、さしあたり以下の3点が重要です。
 第1に、「敵基地」攻撃というのはウソです。攻撃するのは「敵基地」だけではなく、「指揮統制機能等」を担う中枢部も攻撃対象になるとされているからです。日本でいえば、首相官邸のある永田町や主要官庁が存在する霞が関、防衛省のある市ヶ谷なども攻撃するということです。中国なら北京、北朝鮮なら平壌というところでしょうか。
 国境を越えた敵領土への攻撃を可能にするため、長距離巡航ミサイルや極超音速誘導弾などを開発する計画です。すぐには間に合わないため、トマホークという最新鋭の長距離巡航ミサイル「ブロックⅤ」をアメリカから400発も購入するとし、そのための予算2113億円も可決されています。
 第2に、「敵基地攻撃」能力というのは印象が良くないということで「反撃」能力と言い換えましたが、これもウソです。「反撃」というのは攻撃されてから行うものですが、実際には「着手」された段階での攻撃になるからです。
 問題は、この「着手」をどのような情報に基づいて誰がどう判断するのかという点にあります。日本はそのような能力を持っていません。トンキン湾事件をでっちあげてベトナム戦争に介入した過去のあるアメリカに頼るのでしょうか。外から見れば、先制攻撃にほかならない「着手」段階での攻撃を。
 第3に、軍事大国にはならないと約束していますが、これも大ウソです。日本は今でも世界第10位の防衛費を支出しており、トップ10に入っています。円安で順位を下げていますが、立派な軍事大国ではありませんか。
 今後5年間で43兆円の大軍拡ですが、東京新聞の試算では後年度負担金(ローン)を含めて60兆円になるとされています。そうなれば世界第3位ですから、トップ3に入ります。これを「軍事大国」ではないと弁明しても、どの国が納得するでしょうか。

 ウクライナ戦争が示す「専守防衛」の姿

 岸田首相は専守防衛の国是にはいささかも変わりがないと弁解していますが、これも大ウソです。今回の大軍拡の口実はウクライナ戦争ですが、岸田大軍拡が目指している戦争はウクライナでの戦争以上のものとなるからです。
 ウクライナが今戦っている戦争は典型的な「専守防衛」型の戦争で、基本的にはウクライナの自国領土とその周辺だけが戦場になっています。ゼレンスキー大統領がロシアの領土を攻撃しないことを約束したうえでアメリカやNATOから兵器の供与を受けていることに注目しなければなりません。
 アメリカはハイマースという長距離ロケット砲をウクライナに供与しましたが、わざわざ射程距離を短くしました。イギリスもロシア領土を攻撃しないとの約束のうえでストームシャドーという長距離巡行ミサイルを提供しています。
 F16戦闘機は飛行機ですからどこへでも飛んでいけますが、ロシアの領空には入らない約束で供与され、実際、領空には入っていません。ウクライナの首都・キーウがミサイルで攻撃されたからといって、ウクライナはモスクワをミサイル攻撃していません。正体不明の無人機(ドローン)による攻撃があるとはいえ、長距離砲で砲弾を撃ち込むことも巡航ミサイルやF16での爆撃も実施していません。
 ところが、岸田首相は「敵基地攻撃」のために相手国領土にミサイルを撃ち込むと言っており、そのための改良や装備の取得を進めようとしています。ウクライナ戦争こそが「専守防衛」だと誰も言わず、マスメディアも9条を持つ日本が専守防衛を踏み越えた戦争を戦おうとしていることも報道せず、評論家や解説者もこの事実を指摘していません。
 なぜ言わないのでしょうか。岸田大軍拡の危険性や間違いが明らかになってしまうからです。ウクライナ戦争の現実が9条に基づく防衛戦争の有効性と岸田大軍拡の危険性を雄弁に語っているのです。岸田首相は9条を踏みにじって専守防衛に反し、ウクライナがやっていない戦争をこれからやろうとしているのだということを、もっと多くの国民に知ってもらいたいものです。

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