10月９日（火）　北九州・小倉の旅：五十嵐仁の転成仁語：SSブログ

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10月９日（火）　北九州・小倉の旅　[旅] [編集]

　忙しい毎日でした。と、まだ過去形では書けないんですが……。ブログを書いている時間を見つけるのも大変です。

　突然の繁忙期は、先週の金曜日（５日）から訪れました。全国政治研究会があったからです。会場のお世話は私の担当ですから、遅れるわけにはいきません。
　会議では、ここで一区切りを付けるということで、全国政治研の解散が決まりました。ただ、それではあまりにも寂しいという有志が集まって、別の名称のフォーラムを新たに発足させることになりました。
　私は、寂しいという方ですので、このフォーラムにも参加するつもりです。懇親会の後の二次会では、３連休の前の金曜日の夜とあって市ヶ谷周辺は大混雑し、場所を探すのに大変苦労しました。

　翌日の土曜日（６日)、明治学院大学での日本政治学会には出席せず、北九州に飛びました。小倉で開かれていた「平和のための戦争展」で記念講演をするためです。
　前回、講演で松山に飛んだ折には、JRの人身事故が重なって飛行機に乗り遅れそうになりました。大事を取って今回は早めに出発しましたが、事故にあうことも遅れることもなく、夕日がオレンジ色に輝く北九州空港に降り立ちました。
　最近できた海上空港からリムジンバスで小倉駅まで行き、タクシーで「小倉リーセントホテル」に荷物を置きました。たまたま学校の共済組合関係の宿舎で、学校関係者だということで割安にしてもらいました。

　１人旅の夕食は、難しいものです。１人黙々と食事をするならどこでも構いませんが、お店の人や土地の人と多少おしゃべりをしながら、その土地の料理やお酒に舌鼓を打ちたいとなると、お店探しが難しい。
　あまり大きい店は駄目です。かといって、寂れているお店もいけません。
　ホテルで地図をもらって飲食店街をめざして歩き回っていたときです。みかげ通りの角でぽつんと明かりを点していた人相見の小父さんが目に入りました。「小父さん、お店探しているんだけど、どこかいいところ知らない？」

　その小父さんは、少し微笑んで、「いいところねえ？　別に心当たりはないけど、お店ならあちらの方に沢山あるよ」
　ということで、モノレールの下をくぐって行き着いたのが「風花」という、カウンターにテーブルが２～３という小さなお店でした。母娘でやっているようです。
　お店に入ろうとしたら、三味線の音が聞こえます。戸を開けたら、いきなり女性の声も飛び込んできました。

　沖縄の民謡のようです。三味線の音と思ったのは三線の音だったのです。
　「ここは民謡酒場か」と思いましたが、そうではありませんでした。そのようなところで沖縄の民謡を歌っていた女性が沖縄に移住するということで、送別会を開いていたのです。
　お別れに、三線を持参して歌声を披露していたといいます。10曲ほど歌ったそうですが、私も「涙そうそう」など３曲ほど聞かせていただきました。思いがけない出会いです。

　もう一つ、思いがけない出会いがありました。カウンターに腰を下ろした私の前の棚に、見覚えのある焼酎の瓶が置かれていたのです。
　そのラベルには、「耶馬美人」と書かれていました。そうです。このブログの読者なら覚えておられるでしょう。
　昨秋の大分大学での社会政策学会の折に出会った大分焼酎の逸品です。あの焼酎とここで出会うことができるなんて、まさに奇跡と言うべきでしょう。

　ということで、思いもかけず、楽しい時間を過ごすことができました。カウンターにあった「一刻者」やママさんに勧められて飲んだ「久耀」という焼酎もなかなかでした。
　翌日の懇親会でいただいた地酒「無法松」も、少し甘口で美味しかったです。人との出会いやこのような隠れた銘酒に出会うのも、旅の醍醐味というものでしょう。
　帰り道、場所を移していた手相見の小父さんとばったり会いました。「いい店、ありましたか」と聞きます。「お陰様で、いい店を見つけましたよ。方角が良かったんでしょうかね」

　翌日の日曜日（７日）の午前中、旧小笠原氏別邸だった小倉城庭園や小倉城などを回ったあと、以前から行きたかった松本清張記念館を訪問しました。学生時代、講演を聞いたことがありますが、うつむいた清張の下唇が白く光っていたことを鮮明に覚えています。
　記念館に入って、その作品の多さに驚嘆しました。すごい生産量です。口述筆記で量産していたのかと思いましたが、全部、自分で書いていたんですね。
　杉並区高井戸の自宅が再現されていましたが、ここでも驚きました。自家用の資料室が１室、ビッシリと３万冊の本で埋まった書庫が８室もあったのですから……。

　清張は1992年８月４日、82歳でこの世を去ります。最後のインタビューが『週刊プレイボーイ』92年４月７日号に載ったということを初めて知りました。
　つい先日、私のインタビューも掲載されました。「プレイボーになったんじゃなくて、プレイボーイにのったんです」などと馬鹿を言っていましたが、『週刊プレイボーイ』、いい仕事しているじゃありませんか。
　そのインタビューで、飽くなき好奇心の根源にあるものは何かと問われた清張は、「『疑い』だね」と答えていました。「歴史にしても社会現象にしても、上から見ないで底辺から見上げる」とも……。

　見事なものではありませんか。死の直前、82歳にして、この返答。
　「疑い」の目で、「上から見ないで底辺から見上げる」というのは、まさに清張の真骨頂でしょう。私もまた、そうありたいものだと願っていますが、死ぬまでそれを貫けるでしょうか。
　「勝ち組」万歳というような昨今です。上から見下ろす眼差しばかりの今の世を、草葉の陰から清張さんはどう見ているのでしょうか。

　ということで、この続きはまた明日。

2007-10-09 22:11 nice!(0) コメント(1) トラックバック(0)