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12月15日(土)  トンデモ論攷のとんでもない主張 [労働]

 拙著『労働政策』の執筆が追い込みに入っています。ちょっと調べると、新たに手を入れなければならないところが続出して来るので困ります。といって、書き直さないわけにもいかないし。

 今日は調べものがあって、研究所に出勤しました。土曜日の研究所は、一応開いてはいますが、ほとんど人がいません。
 静かなものです。雑用が入ったりしませんから、集中して仕事ができます。
 その仕事のさなか、たまたま、とんでもない論攷(トンデモ論攷)を見つけました。そう言えば、もうお分かりでしょう。久米郁男さんの論攷です。

 久米さんに対しては、これまでも何度も批判を繰り返してきました。研究者仲間では、「天敵」と見られていますが、それほど大それたものではありません。
 彼の主張が私とは正反対で、臆面もなく、それを繰り返しているからです。その誤りについて、これまで何度も指摘してきました。
 しかし、それについての反応も反論も見たことがありません。今回の主張も、わたしからすればとんでもないものです。その一部を、以下に紹介しましょう。

 重要なことは、これら民間の労働組合は、公的セクターの非効率性を問題にし、80年代に入ると中曽根行革を積極的に支持したのである。官公労の左派労働運動に対抗する中で、民間労組は自らの新自由主義的改革への支持を直接的な形で表明することができた。
 89年の官民労働戦線統一は、本来このような民間労働運動の勝利であった。しかし、いまから振り返ると、この労戦統一は拙速の統一であったように思える。民間労働運動の覇権を十分に確立しての統一ではなかったからである。

 80年代の民間労組は中曽根行革を支持し、「新自由主義的改革への支持を直接的な形で表明することができた」のに、官民統一によってそれができなくなってしまった。だから、この統一は「拙速」だったのであり、どうせやるなら「民間労働運動の覇権を十分に確立して」からにするべきだった、というのが久米さんの言いたいことなのでしょう。
 この論攷は、「民間組合の主導があってこそ、日本経済のパフォーマンスの向上が見込める。いまこそスウェーデンの経験に学ぶ時。」という表題で、『経営者』という雑誌の2001年12月号に掲載されています。
 2001年と言えば、小泉首相の「新自由主義的改革」が進められていたときです。『経営者』というそのものずばりの「経営者」向けの雑誌で、久米さんは民間労働組合は連合内で「覇権」を強め、中曽根行革の時のように「新自由主義的改革への支持を直接的な形で表明」するようにと勧めていたのです。久米さんは、「経営者」の皆さんからの評価を大いに高めたことでしょう。

 しかし、小泉元首相による「新自由主義的改革」の結果はすでに明白です。「構造改革」によって、格差の拡大やワーキングプアが増大している現状からみれば、この主張の誤りもまた明瞭でしょう。
 久米さんは、このような状況になってもなお、「新自由主義的改革」を支持すべきだったと主張されるのでしょうか。民間労働組合や連合が力を弱めたのは、新自由主義による反労働組合政策の結果であったとは考えられないのでしょうか。
 民間労働運動が影響力を失ったのは、その路線が誤っていたからです。それにもかかわらず、久米さんはこの論文の最後の部分で、次のように主張するのです。

 曲がりなりにも統一をなした連合は、民間主導で統一をなすまでとは異なる運動目標を志向し始めたようにみえる。そこでは、戦後日本労働運動が苦難の末にたどり着いた経済合理性にもとづいた労働運動路線が打ち捨てられつつあるようにもみえる。連合内において公的セクターや、競争力を失ったセクターの労働運動に対抗して、競争力のある民間セクター労組がいま一度主導権を確保することが日本の労働運動、ひいては経済全体に取り喫緊の課題であると思われるのである。
  
 ここで久米さんが主張されていることを読まれれば、なぜ私が彼を批判し続けているかがお分かりになるでしょう。新自由主義を支持する運動に戻せと言っているようなものなのですから……。
 久米さんは、ネットカフェを泊まり歩き、「生きさせろ」と叫んでいる青年労働者に向かって、このような主張を行うことができるのでしょうか。なぜ「反貧困」の運動が必要になっているのか、理解できるのでしょうか。
 これを書かれたとき、久米さんは神戸大学の教授でしたが、その後、早稲田大学に移られました。早稲田の大学生の前で、一体、どのような講義をしているのでしょうか。「民間労組は自らの新自由主義的改革への支持を直接的な形で表明するべきだ」と、今でも、そう主張されているのでしょうか。

 このような謬論を粉砕するために早く『労働政策』を書かなければと、久米さんのトンデモ論攷を読んで決意を新たにしました。労働の分野での「新自由主義的改革への支持」がいかに誤りであるかを、議論の余地なく明々白々にするためにも……。


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