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9月14日(日) 労働の規制緩和の現段階―「骨太の方針二〇〇八」の意味するもの(後半) [論攷]

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 拙著『労働再規制-反転の構図を読みとく』ちくま新書で10月10日刊行予定。
 240頁、本体740円+税。ご注文は筑摩書房http://www.chikumashobo.co.jp/まで。
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〔以下の論攷は、『賃金と社会保障』No.1472(2008年8月下旬号)に掲載されたものです。長いので、2回に分けてアップしています〕

二 「骨太の方針二〇〇八」の背景

1 注目すべき四つの会議

 「骨太の方針」の内容を理解するには、これまで「構造改革」に関わってきた主体の配置とその特徴を検討しなければならない。代表的な四つの会議について、ここで整理しておくことにしよう。
 第一に、規制改革会議である。小泉構造改革には、総合規制改革会議と経済財政諮問会議という二つの「エンジン」があった。規制改革会議は、総合規制改革会議の後身にあたる。
 総合規制改革会議は〇一年四月に設置され、経済財政諮問会議の方は、それよりも早く、一月に設置されている。「改革の司令塔」と言われたのは後者の経済財政諮問会議で、総合規制改革会議はその下に置かれるという位置づけになる。
 総合規制改革会議は〇四年に規制改革・民間開放推進会議となり、二年後の〇六年には規制改革会議に変わる。その構成員は財界人や学者が中心で、どれにも労働界からの代表は入っていない*7。
 第二に、経済財政諮問会議である。この会議は橋本内閣による行政改革の成果とされたもので、〇一年一月の中央省庁の再編に伴って設けられた。小泉首相は内閣発足後最初に開かれた五月一八日の会議で、「経済財政諮問会議は、所信表明演説に盛り込んだ大方針を肉付けするための最も重要な会議と言っても過言ではない」と宣言し*8、この会議を全面的に活用した。
 特に重要な意味を持ったのが、毎年六月(〇六年だけは七月)に出された「骨太の方針」である。予算編成の基本骨格を決める権限を財務省から奪い取ってしまったからだが、これについて小泉首相の主席総理秘書官だった飯島勲は「小泉総理は、この「骨太の方針」に、自らの改革の基本的枠組みを具体的に織り込み、それに沿った予算編成方針を作成するようにしたのである。つまり、霞が関の予算編成の歳時記を変え、予算編成の基本方針の決定権を事実上財務省から諮問会議に移したのである*9」と説明している。
 第三に、ワーク・ライフ・バランス推進官民トップ会議である。この会議の設立経過は、極めて興味深い。
 〇六年一〇月一三日、安倍内閣になってから初めての経済財政諮問会議が開かれ、四人の民間議員として、八代尚宏国際基督教大学教授、伊藤隆敏東京大学教授、丹羽宇一郎伊藤忠商事会長、御手洗冨士夫日本経団連会長が加わった。この四人の民間議員は「『創造と成長』に向けて*10」という資料を提出する。その二番目として打ち出されたのが、周知の「労働市場の効率化(労働ビッグバン)」であった。
 この「労働ビッグバン」について「集中審議」が行われるのが、一一月三〇日の経済財政諮問会議である。このとき、民間議員が提出した「複線型でフェアな働き方に-労働ビッグバンと再チャレンジ支援*11」について説明した八代議員は、「労働市場を取り巻く様々な制度を包括的・抜本的に見直す、八〇年代の金融ビッグバンに対応した『労働ビッグバン』が不可欠である」として、「経済財政諮問会議の下に専門調査会を設け、下記の課題を中心に検討して方向性をとりまとめ、その後の改革につなげてはどうか」と提案した。この後、「労働市場改革専門調査会」が設置され、八代自身が会長に就任する。
 この専門調査会は、〇七年四月六日の経済財政諮問会議に第一次報告「働き方を変える、日本を変える―『ワークライフバランス憲章』の策定*12」を提出し、八代議員が説明した。それは、期限を区切って数値目標を設定したこと、労働時間短縮の目標が復活したこと、「ワークライフバランス憲章」の策定が提起されたことなど、注目すべき内容である。
 また、この会議のまとめで、安倍首相が次のように述べたことも重要であった。これによって、ワーク・ライフ・バランス論の正統性が確立したからである。

 ワークライフバランスは大切であり、少子化対策等の観点からも重要なテーマであろうと思うので、安倍内閣として本格的に取り組みたいと思う。民間議員から提案のあった「働き方を変える行動指針」について、政府部内で十分連携し、とりまとめることとしたいと思うので、よろしくお願いしたい。

 この安倍首相の指示を受けて、五月二四日の男女共同参画会議・仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)に関する専門調査会中間報告、六月一日の「子どもと家族を応援する日本」重点戦略検討会議中間報告にワーク・ライフ・バランス論が組み込まれる。また、前述のように、六月の「骨太の方針二〇〇七」でも、仕事と生活の調和の実現のための憲章および行動指針を策定するという記述が登場する。
 このような経過の後、七月一三日には、内閣官房長官を議長として、関係閣僚、有識者、経済界、労働界、地方公共団体の代表者などをメンバーとした「ワーク・ライフ・バランス推進官民トップ会議」が設置される。この会議によって策定されるのが、一二月一八日の「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」と「仕事と生活の調和推進のための行動指針」であった。
 第四に、成長力底上げ戦略推進円卓会議である。この円卓会議の元になったのは、安倍前首相が打ち出した「成長力底上げ戦略」であった。〇七年二月一日、「成長力底上げ戦略構想チーム」によって示された「基本姿勢*13」には、「いわゆる『格差問題』や『ワーキングプア』の問題に正面から取り組む」とある。
 そしてこのチームは、二月一五日に「成長力底上げ戦略(基本構想)*14」を出す。これに基づいて設置されたのが成長力底上げ戦略推進円卓会議で、その第一回会合は三月二二日のことであった。この円卓会議が、その後の最低賃金引き上げに大きな力を発揮することになる。その経過を、もう少し詳しく見ることにしよう。

2 成長力底上げ戦略推進円卓会議と最賃の引き上げ

 成長力底上げ戦略推進円卓会議(円卓会議)で、先ず注目されるのは、そのメンバーである。高木連合会長や小出JAM会長、桜田サービス・流通連合会長などの労働組合の代表が加わり、「労働の排除」から転換しているからである。
 もちろん、氏家日本経団連副会長、岡村日商会頭などの経営者団体の代表も参加している。経済財政諮問会議からは民間議員の一人であった丹羽伊藤忠商事会長が加わっているのも注目される。経済財政諮問会議や規制改革会議に比べれば、民間からの参加者の幅は広く、包括性も高いということができる。
 もう一つの注目すべき点は、このような政労使が加わった円卓会議を、中央レベルだけではなく、地方においても全都道府県で発足させたということである。地方の円卓会議も労使を含む幅広いメンバーによって構成されている。この点で小泉政権下における戦略的政策形成機関とは大きく異なっていたということが分かる。
 円卓会議は最低賃金の問題に強い関心を寄せ、その引き上げに向けて強いリーダシップを発揮する。〇七年二月一五日の「成長力底上げ戦略(基本構想)(案)」は「最低賃金制度の充実」という項目の二番目に「最低賃金法の改正(改正法案を国会提出予定)」と書かれていた。その内容は、「最低賃金決定における生活保護との整合性の考慮」と「違反に対する罰則の強化等」の二つであった。
 また、三番目には、「最低賃金引上げに向けた取組」という項目があり、「前述の円卓会議における政労使の合意を踏まえ、最低賃金の中長期的な引上げに関して、産業政策と雇用政策の一体運用を図る」と書かれている。すでに、この時点で、国会への提出を予定していた「最低賃金法の改正」とは別個に、「最低賃金の中長期的な引上げ」を意図していたことになる。
 最低賃金の引き上げ問題が集中的に議論されたのは七月九日の第三回会議であった*15。この会議では、柳沢厚労相が引き上げる方向での議論を求め、これに対して山口日商会頭が中小企業の立場から抵抗した。ここで注目されるのが、経済財政諮問会議の議員だった丹羽伊藤忠商事会長の発言である。
 丹羽は、「やはり生活保護水準を上回るような水準にしていかないと働かない方がいいというようなことになってしまうのではないか」と述べて最賃の引き上げを支持し、「最低賃金と中小企業の支援というのは全く別の切り口で考えていくべき問題だと思うんですね」と、山口をたしなめている。
 この後も会議では激論が続くが、実は、結論は最初から決まっていた。最後に、「さまざまな意見がございましたが、僭越ながら、私の方で本日の会議の合意案を用意しましたので、配ってください」と、議長である樋口美雄慶応大学教授が文書を出したからである。
 ここでの「合意」は、「従来の考え方の単なる延長上ではなく、……『賃金の底上げ』をはかる趣旨に沿った引上げが図られるよう十分審議されるよう」に、というものであった。このような「要望」に応えて、〇七年の中央最低賃金審議会は加重平均で時給一四円増となるような一〇年ぶりの高水準の答申を出すことになる*16。
 そのための圧力行使の手段として円卓会議は利用されたわけだが、それは労働側ではなく、経営側を押さえるためのものであった。政策形成における機能としては、経済財政諮問会議や規制改革会議とは逆の役割を果たしたことになる。
 この後、〇七年一二月三日の経済財政諮問会議に、大田経財相は「成長力底上げ戦略の推進状況について」という資料を提出した。ここには「基本的な考え方と推進体制」として「最低賃金を引き上げるための施策を推進する」と書かれている。
 つまり、最賃の引き上げが、経済財政諮問会議によって目指されていたということになる。それは、「成長力底上げ戦略の推進状況」における実績として、明確に意識されていたのであった。
 そればかりではない。この日の会議では、大田経財相が「最低賃金の中長期的な引上げの基本方針について検討を開始する」と発言し、丹羽も「今般成立した改正最低賃金法の趣旨を踏まえつつ、中長期的な引上げの基本方針について、関係者の合意形成を目指すべきである」と念を押していた。この時点で、円卓会議でのさらなる最賃引き上げへの要望は、既定路線になっていたのである。
 こうして、〇八年六月二〇日の円卓会議で、「中小企業の生産性向上と最低賃金の中長期的な引上げの基本方針について」の合意が成立した*17。それは「最低賃金については、賃金の底上げを図る趣旨から、社会経済情勢を考慮しつつ、生活保護基準との整合性、小規模事業所の高卒初任給の最も低位の水準との均衡を勘案して、これを当面五年間程度で引き上げることを目指し、政労使が一体となって取り組む」というものであった。「骨太の方針二〇〇八」で打ち出されていた最賃引き上げ容認論は、このような流れを追認するものだったのである。
 六月三〇日、〇八年度の最賃について審議する中央最低賃金審議会が開かれた。今年の最低賃金改定は、改正最低賃金法の施行と以上に見たような円卓会議での中長期方針合意という追い風の中で行われることになり、その結果が注目されている。

3 厚労省による「新雇用戦略」の作成

 「労働ビッグバン」について集中審議を行った〇六年一一月三〇日の経済財政諮問会議には柳沢厚労相も臨時議員として出席し、「労働市場改革について*18」という資料を提出していた*19。席上、八代議員は「第一に、労働ビッグバンでどのような労働市場を目指すかについては、一番目に、働き方の多様性の実現。画一的な労働市場の規制に縛られるのではなく、労使自治に基づく多様な雇用契約を可能とし、労働者と企業にとって雇用機会が拡大することが大事」と発言した。これに対して、柳沢厚労相は次のように反論している。

 もう一つは、先ほど労使自治ということを言われたが、労使自治で労使が対等の交渉ができるかというと、実際の力関係から言ってできない、という考え方で労働法制ができている。これを全く平等でフリーマーケットでやれるなら、民法でやればいい。何のために労働法制が制定されたか。最低限の労働者保護規定を設けることは労働法制の一番の基本なので、そこはしっかり考えていただけたら大変ありがたい。

 また、専門調査会の第一次報告が出された〇七年四月六日の経済財政諮問会議にも柳沢厚労相は出席し、「労働市場改革について*20」という資料を提出している。
 つまり、厚労省は、これらの経済財政諮問会議で民間議員や専門調査会とは別に「労働市場改革について」の独自の案を出し続けていたのである。それは、民間議員の提案や専門調査会とは異なる一連の流れであり、基本的には厚労省の防戦を意味していた。
 しかし、〇七年四月六日の経済財政諮問会議で「労働市場改革について」説明した柳沢厚労相は「就職率の問題については、専門調査会は二〇一七年ということで一〇年後を目標にしているが、我々は二〇三〇年でほぼ同じようなというか、就業率の向上を目指す、そういう見通しを示しており、それでしか労働人口の減を補う方法はないと、私どももこの点を重要視している」と述べている*21。つまり、経済財政諮問会議で民間議員と厚労省は別々の提案をしていたが、すでにこの時点で専門調査会と厚労省との溝は埋まり、両者の認識は基本的に一致するようになっていたのである。
 こうして、両者の歩み寄り、というよりは調査会側が厚労省側に近づいていった結果、両者の「融合」が生ずることになる。あるいは、次第に、厚労省のイニシアチブが強まっていったということかもしれない。
 他方、厚労省は「雇用労働政策の基軸・方向性に関する研究会」を発足させており、独自の理論武装の準備を始めていた。この研究会は八月九日に報告書「『上質な市場社会』に向けて―公正、安定、多様性*22」を発表する。
 この報告書は、「競争力の強化、経営の効率化」と「労働者の職業生活の安定、自己実現」との調和を図るために、適切に市場メカニズムを活用しつつ、①公正の確保、②安定の確保、③多様性の尊重の三つの要素を満たしていくこと、この意味での「上質な市場社会」に向けて政策を講じていくことを、雇用労働政策を策定する上での基軸としなければならないと主張していた。「多様性」より以上に、「公正」と「安定」が重視されている点に注目していただきたい。
 一二月二一日に出された労働政策審議会の建議「今後の雇用労働政策の基本的考え方について―働く人を大切にする政策の実現に向けて*23」で示されている「基本的考え方」も、「公正の確保」「安定の確保」「多様性の尊重」というものだった。八月九日の報告と基調は共通している。
 このような流れを受けて、〇八年二月一五日に開かれた経済財政諮問会議で舛添厚労相は「『新雇用戦略』について*24」報告した。その際、「公・労・使の三者構成の審議会において調査・審議をしていただいた結果、資料の左に記したように、公正の確保、安定の確保、多様性の尊重、この三つの基本理念を軸に、働く人を大切にする政策を実現する」と発言している*25。
 この会議にも、舛添厚労相によって出された文書と共に民間四議員による「成長戦略Ⅰ:『新雇用戦略』の全体像*26」という説明資料が提出されていた。これについて八代議員は「まず、全員参加の経済戦略の第一弾として、働く意欲のあるすべての人々が年齢や就業の形態に関わりなく能力を発揮することを目指して、以下の内容を骨子とする『新雇用戦略』を策定するべきである」と説明していた。
 ここでも、民間議員と厚労省の両方から案が出されている点が注目される。しかし、その内容にはほとんど違いはなかった。
 最後に、大田経財相が「春には、今度は舛添臨時議員から、新雇用戦略の具体的な数値目標などを含めたプランをお出しいただいて議論できればと思う。今日の民間議員からの提案も踏まえながら、舛添プランを御提示いただければと思う」と発言している。このとき、「新雇用戦略」作成のイニシアチブは、明確に厚労省の側に移ったといって良い。
 こうして、四月二三日の経済財政諮問会議で、舛添厚労相は「『新雇用戦略』について*27」報告した。このとき、民間議員も「三年間で二二〇万人の雇用充実に向けて-一〇〇万人の正社員化、一二〇万人の雇用創出*28」という説明資料を出すが、補足的な参考資料にすぎなかった。このとき、八代議員は「二月一五日に民間議員が提案を行ったが、このたびの厚生労働大臣のプランは、それに沿ったものとして評価させていただきたい」述べて、厚労省のプランを「評価」した。この時点で、「勝負あった」ということになるだろうか。
 この四月二三日の経済財政諮問会議で報告された「『新雇用戦略』について」こそ、「骨太の方針二〇〇八」の中で「新雇用戦略について」(平成二〇年四月二三日経済財政諮問会議舛添臨時議員提出資料)」と明記されたものである。以上の経過から明らかなように、それは民間議員の提案を加味する形を取りながらも、基本的には、厚労省のイニシアチブの下に作成された案であった。

4 規制改革会議の孤立化

 規制改革会議は、七月二日に「中間とりまとめ-年末答申に向けての問題提起」を行った。これは年末に予定されている「第三次答申」に向けて「問題提起」したものである。労働関係についても「問題提起」されているが、その内容は〇七年一二月の「第二次答申」を引き継いでおり、経済財政諮問会議や厚労省などが目指している方向とは大きく異なっていた*29。
 規制改革会議の下に設置された労働タスクフォースは、〇七年五月二一日に「脱格差と活力をもたらす労働市場へ―労働法制の抜本的見直しを*30」を明らかにし、「一部に残存する神話のように、労働者の権利を強めれば、その労働者の保護が図られるという考え方は誤っている」との見解を示した。これは、多方面での反発を受け、その後に発表された「第一次答申*31」には採用されなかった。
 しかし、この見解はしぶとく生き残り、一二月二五日の「規制改革推進のための第二次答申―規制の集中改革プログラム*32」に組み込まれる。
 これに対して、厚生労働省は一二月二八日に「規制改革会議『第二次答申』(医療分野及び労働分野の問題意識)に対する厚生労働省の考え方*33」という反論を明らかにし、全面的な批判を展開した。規制改革会議は、これに対して〇八年二月二二日に「『規制改革会議「第二次答申」(労働分野の問題意識)に対する厚生労働省の考え方』に対する規制改革会議の見解*34」という見解を明らかにし、「労働者の保護に必要な法的な手当を行うべきことは当然である」と釈迦せざるを得なくなる。
 その後、規制改革会議は「措置したものをきちんとやっているかどうかのチェック」を行って実施状況をフォローアップし、タスクフォースを整理して七グループ一九タスクフォースという体制に再編する。その後に出てきたのが、今回の「中間とりまとめ」であった。
 この文書の「Ⅱ. 各重点分野における規制改革」の「5 社会基盤」という項目の二番目が「労働分野」となっている。「概要*35」によれば、その主な内容は以下の通りである。

○機会の平等と公正な待遇に向けて
・労使間の情報の非対称性を是正し、労使双方が充分納得した上で、選び取れるような様々な選択肢を確保するように労働市場の見直しを検討
○多様な働き方を選びうる為の方策・雇用を抑制しない為の方策
・労働者派遣法については派遣を臨時的、一時的な需給調整制度として例外視する法律から労働市場の環境変化に合わせて、派遣が有効活用されるための法律へ転換していくよう見直しを検討
・最低賃金法についてはその施行状況や最低賃金引き上げの雇用に与える影響を充分調査し、雇用機会喪失に繋がらないよう随時見直しを検討
・育児介護休業法については働きながら子育てをする労働者の能力発揮が阻害されることのないよう多様な施策から適切な施策を選択し、組み合わせることが重要
○労働市場におけるセーフティネットの拡充
・雇用保険については保険捕捉率向上や適用要件拡大等、真に労働者のセーフティネットとして機能するように見直しを検討
・退職金に対する優遇税制についてはやり直しや転職を抑制しない、労働市場の円滑化に資する税制への見直しを検討

 ここには次のような特徴がある。
 第一に、依然として「労働市場の見直し」最初に掲げられており、その前提として、「情報の非対称性」の「是正」や「様々な選択肢」の「確保」が掲げられている点である。つまり、「第二次答申」で示された基本線は変わっていないということになる。
 第二に、労働者派遣法についても、「例外視」せず「有効活用されるための法律」への「転換」が求められているという点である。秋の臨時国会に向けて与党のプロジェクトチームが合意した派遣法見直しとは、その方向が逆になっている。
 第三に、最低賃金についても、「引き上げ」論について牽制している。それが「雇用機会喪失に繋がらないよう随時見直し」するということは、あまり上げるなという主張にほかならない。
 これ以外の問題、たとえば、育児休業法、雇用保険や退職金優遇税制などのセーフティネットの拡充などでは、厚労省との見解の違いはない。さし当たり、派遣法をどのように見直すのか、最低賃金をどこまで引き上げるのかという二点で、今後、規制改革会議とその他の関係機関などとの綱引きが展開されるということになろう。
 そして、その他の関係機関の中には、自民党・公明党などの与党、厚生労働省、経済財諮問会議やその下の専門調査会、円卓会議などが含まれている。もちろん、野党や労働組合、それに世論が、規制改革会議とは反対の立場にあることは言うまでもない。
 新聞報道でも、「雇用や環境などの分野では規制強化の流れが加速。消費者行政推進を掲げる福田康夫首相も一段の規制緩和には慎重な立場とみられ、会議の推進力の減退が鮮明だ*36」との論評がある。
 労働分野では、「推進力の減退」は他の分野以上に際だっており、規制改革会議の孤立化は必至であると思われる。その主張はなかなか実行されず、時には無視され、時にはくつがえされるという状況は、恐らく、今後も続くことになろう。

むすび

 七月二日、自公両党がまとめた労働者派遣制度見直し案の全文が明らかになった。この案は、①日雇い派遣については、通訳など専門性の高い業務を除いて原則的に禁止、②派遣会社に手数料(マージン)の開示を義務化、③特定企業だけに労働者を派遣する「専ら派遣」についての規制強化などである。
 また、翌三日、国土交通省は増えすぎた台数の抑制などタクシーの供給過剰問題への対策案を発表し、新規参入や増車の事前チェックを厳しくするなど規制の再強化に踏み出した。緩和から規制の強化へ――明確な転換が生じたのである。
 「骨太の方針二〇〇八」も、基本的には、このような流れに棹さすものであった。構造改革による行き過ぎた規制緩和における「反転」が生じたのである。
 その背景は、小泉から安倍への首相の交代、格差の拡大や貧困化の増大、企業不祥事などの経済・社会問題の発生である。マスコミの変化や労働運動による取り組みも大きな意味を持った。
 労働運動の側からすれば、労働の規制緩和にジッと耐える「籠城戦」は終了したと言える。「城門」を開いて、攻勢に転ずる時期が訪れたということではないだろうか。



*7 その問題点については、拙稿「労働政治の構造変化と労働組合の対応」『大原社会問題研究所雑誌』第五八〇号(二〇〇七年三月号)、参照。
*8「第八回経済財政諮問会議議事要旨」http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2001/0518/shimon-s.pdfを参照。
*9 飯島勲『小泉官邸秘録』日本経済新聞社、二〇〇六年、二二頁。
*10「『創造と成長』に向けて」http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2006/1013/item1.pdfを参照。
*11 「複線型でフェアな働き方に」http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2006/1130/item4.pdfを参照。
*12「労働市場調査会第一次報告(骨子)」http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2007/0406/item4.pdfを参照。
*13 「成長力底上げ戦略」の「基本姿勢」http://www.kantei.go.jp/jp/singi/seichou/dai1/siryou1.pdfを参照。
*14 成長力底上げ戦略構想チーム「成長力底上げ戦略(基本構想)」http://www.kantei.go.jp/jp/singi/seichou/070215honbun.pdfを参照。
*15 「第三回成長力底上げ戦略推進円卓会議議事概要」http://www.kantei.go.jp/jp/singi/seichou2/dai3/3gijiyousi.pdfを参照。
*16 法政大学大原社会問題研究所『日本労働年鑑』第七八集、二〇〇八年版、旬報社、二〇〇八年、三八一~三八二頁参照。
*17 「中小企業の生産性向上と最低賃金の中長期的な引上げの基本方針について(合意案)」http://www.kantei.go.jp/jp/singi/seichou2/dai6/siryou2.pdfを参照。
*18 「労働市場改革について」http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2006/1130/item5.pdfを参照。
*19 「平成一八年第二七回経済財政諮問会議議事要旨」http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2006/1130/shimon-s.pdf
*20 「労働市場改革について」http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2007/0406/item6.pdfを参照。
*21 「平成一九年第七回経済財政諮問会議議事要旨」http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2007/0406/shimon-s.pdfを参照。
*22 「雇用労働政策の基軸・方向性に関する研究会」報告書「『上質な市場社会』に向けて」http://www.jil.go.jp/press/documents/20070815.pdfを参照。
*23 労働政策審議会建議「今後の雇用労働政策の基本的考え方について」http://www.mhlw.go.jp/houdou/2007/12/h1221-4.htmlを参照。
*24 「『新雇用戦略』について」http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2008/0215/item9.pdfを参照。
*25 「平成二〇年第三回経済財政諮問会議議事要旨」http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2008/0215/shimon-s.pdfを参照。
*26 「成長戦略Ⅰ:『新雇用戦略』の全体像」http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2008/0215/item1.pdfを参照。
*27 「『新雇用戦略』について」http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2008/0423/item8.pdfを参照。
*28 「三年間で二二〇万人の雇用充実に向けて」http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2008/0423/item5.pdfを参照。
*29 規制改革会議「中間とりまとめ」のうちの「5 社会基盤」http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/publication/2008/0702/item080702_09.pdfを参照。
*30 規制改革会議労働タスクフォース「脱格差と活力をもたらす労働市場へ」http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/publication/2007/0521/item070521_01.pdfを参照。
*31 規制改革会議「第一次答申-規制の集中改革プログラム」http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/publication/2007/0530/item070530_02.pdfを参照。
*32規制改革会議「規制改革推進のための第二次答申」http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/publication/2007/1225/item071225_02.pdfを参照。
*33 厚生労働省「規制改革会議『第二次答申』(医療分野及び労働分野の問題意識)に対する厚生労働省の考え方」http://www-bm.mhlw.go.jp/houdou/2007/12/h1228-4.htmlを参照。
*34 「『規制改革会議「第二次答申」(労働分野の問題意識)に対する厚生労働省の考え方』に対する規制改革会議の見解」http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/publication/2007/0222_02/item08022202_01.pdfを参照。
*35 規制改革会議中間取りまとめ「概要」http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/publication/2008/0702/item080702_01.pdf
*36 『日本経済新聞』七月三日付。
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by モンクレール (2011-04-15 10:43) 

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by モンクレール (2011-08-24 11:51) 

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