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4月4日(土) 雇用と規制緩和-労働法制の変遷を振り返る [論攷]

〔以下の論攷は、東京保険医協会によって発行されている『東京保険医新聞』3月25日付に掲載されたものです〕

雇用と規制緩和-労働法制の変遷を振り返る

経済不況、日本の打撃はアメリカ以上

 日本は今、大変な経済不況に直面しています。昨年9月のリーマン・ショックに始まる国際的な金融・経済危機が、日本経済をも直撃したからです。しかし、その打撃は「本家」であるアメリカ以上に大きなものでした。
 昨年の秋以降、先進諸国はおしなべて経済成長率を低下させています。第4四半期のGDP成長率は、年率換算でアメリカが6.2%減、ユーロ圏は5.7%減であったのに、日本は12.1%もマイナスになりました。減少幅は米欧の約2倍になったのです。

日本経済の体力を低下させた元凶-規制緩和

 どうして、このような事態に陥ったのでしょうか。それは、外から大嵐が吹いてくる前に、すでに日本経済と社会は体力を大きく低下させていたからです。20年以上にわたる新自由主義的な規制緩和によって蝕まれ、経済と社会の骨格が揺らいでいたところに、強力な暴風雨が外から吹き付けました。こうして、日本はひとたまりもなく大打撃を被ることになったというわけです。
 このような規制緩和は、大規模小売店舗法による中小商店の倒産、許可制から届け出制への緩和によるタクシー配車の増大などの面で、大きな破壊力を発揮しました。小泉政権による構造改革や「地方分権」、郵政民営化によって、地方自治体と地域社会は崩壊の危機に瀕しています。そして何よりも、人々の労働と生活を荒廃に導いたのは労働の規制緩和といわれる政策転換でした。

そして断行された労働者派遣法の大幅見直し

 このような労働の規制緩和には、労働時間と雇用という2つの大きな領域がありました。労働時間の柔軟化は裁量労働制の導入などによって進められましたが、その頂点は06年の暮れに大きな問題となったホワイトカラー・エグゼンプション導入の試みでした。しかし、強力な反対運動の展開や参院選を前にした安倍首相の思惑などによって、この導入は最終的に断念されます。危ないところでした。
 他方の雇用の柔軟化は、労働者派遣法の規制緩和という形で進められます。戦後の日本ではもともと認められていなかった労働者派遣ですが、1985年の労働者派遣法の制定によって解禁されます。専門的で臨時的な業務であれば、例外として認めても良いのではないかというわけです。
 当初、対象業務は通訳など13の業務に限られていましたが、その後次第に増えていきます。そして、1999年には質的な転換が生じました。一部の業務を限って認めるポジティブ・リスト方式から、業務を限って禁止するネガテブ・リスト方式に逆転してしまったからです。こうして、それまでは基本的に認められていなかった派遣労働が、これ以降、基本的に認められるようになりました。
 さらに2004年からは、製造業への派遣も解禁されます。昨年の暮れから大量の「派遣切り」が問題になりましたが、その大半は製造業への派遣でした。業界の試算では、職を失う人が派遣や請負を合わせて40万人にも及ぶのではないかとされています。このときに、製造業への派遣が解禁されていなければ、このような問題は生じなかったでしょう。

膨大な非正規労働者の誕生と労働の劣悪化

 また、年収200万円以下という低賃金で働くワーキング・プアが1000万人を超えて注目を集めましたが、これも派遣労働の拡大によって非正規労働者が急増したからです。雇用の柔軟化やコスト削減という名の下に正規労働者が非正規労働者に置き換えられ、労働の劣悪化が進みました。確かに、雇用の機会は増えて失業率は低下しましたが、そこで働く労働者の身分は不安定で、貯金できないほどに賃金は低く、労災の防止や技術・技能の継承という点でも、多くの問題を抱えるものでした。

規制の再強化が必要な労働者派遣

 労働者派遣法の改正問題が浮上してきた背景には、このような派遣労働の現実があります。そこで生じている問題を解決するには、一方では、「派遣切り」を防ぎ、解雇された労働者の生活や就労への支援を強める必要があります。社会的な安全網の整備も必要でしょう。他方では、労働者派遣に対する規制を再強化するための法改正が求められます。
 現在、国会に出されている改正案は、日雇い派遣(日々または30日以内の期限を定めた雇用)の原則禁止を打ち出している点では評価できますが、登録型派遣はそのままで、事前面接や雇用申し入れ義務の緩和なども盛り込まれています。つまり、「薬」よりも「毒」が多く、このままでは問題を解決するよりも悪化させる可能性があります。
 その後、製造業派遣の禁止などの課題も出てきています。登録型派遣を原則的に禁止し、「ピンハネ」に当たるマージン率の上限を定めるなどの規制強化も必要でしょう。与野党が話し合い、改正案を「良薬」に変えてもらいたいものです。働く者が希望を持ち、まともな生活が送れるようにするところに、労働法制の存在意義があるのですから……。




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iPhone 4 ケース

うん、それがいい、それがいい。
by iPhone 4 ケース (2011-09-23 14:12) 

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