5月16日(日) ブラック会社と周辺的正社員の問題を解決するために「若者よ、起て」 [労働]
久しぶりに、熊沢誠先生にお会いしました。昨日の午後、明治大学で開かれた「職場の人権」研究会に出席したからです。
以前にお会いしたのも、大阪で開かれた「職場の人権」研究会でした。そこで、私は報告者として話をし、その内容は職場の人権研究会の雑誌『職場の人権』9月号(第60号)に掲載され、09年10月7~8日付のブログにもアップしました。
今回は、久しぶりの東京での開催です。しかもテーマは「ブラック会社で働く若者たち-周辺的正社員の明日」というものでした。
以前、研究所の運営委員をお願いしていた法政大学社会学部の樋口明彦先生が司会で、報告者は、研究所のプロジェクト「労働運動再活性化国際比較研究」に加わっていただいている明治大学の遠藤公嗣先生、それに著名な本田由紀先生、おまけに、昨年お世話になったNPO法人POSSEの代表である今野晴貴さんというラインナップです。出席しないわけにはいきません。
というわけで、明治大学のリバテイ・タワーにやってきました。会場は、この3階にある大教室です。明治大学の学生と思われる若い人々を中心に100人以上の方が出席され、大盛況でした。
遠藤さんは、労働問題に対する学生の反応は、2年ほど前から大きく変わったという話をされていました。労働相談などに取り組んでいるPOSSEの今野さんも、全国で150人ほどの若者がボランティアで協力していると話されていました。
労働問題についての若者の意識が変わってきたということでしょうか。それだけ、青年をめぐる労働のあり方が厳しくなってきているということの反映でもあるでしょう。
報告と質問、それに対する回答は、いずれ雑誌『職場の人権』に掲載されます。ここでは、いくつか印象に残ったことを、紹介しましょう。
その第1は、正社員といっても定期昇給や賞与のない人々が存在しているということです。これが「周辺的正社員」ですが、この言い方は、会場にも顔を見せていた木下武男さんが最初に使ったものです。
このシンポジウムの趣旨を説明された熊沢先生は、この周辺的正社員の状況をそのままにして、非正規労働者の正規化を進めても問題は解決しないということを強調されていました。特に、低賃金と長労働時間の二つを解決することが課題であり、職場の労使関係における労働組合の規制力を強めなければならないと力説されていました。
第2に、自分の働きで家計収入を支えなければならない家計自立型非正規労働者と周辺的正社員との相互補完性が指摘されていたことです。一方の存在が他方の存在を支えるという関係にあるというのです。
この両者を解決するためには、「失業の自由」が必要だという指摘もありました。どのように賃金が低く労働条件の悪い仕事であっても、いったん正社員でなくなってしまえば非正規での仕事くらいしか残っていません。
再就職が厳しく、失業できないために、労働条件が悪くても正社員の仕事にしがみつくという状況が生まれているというわけです。雇用保険の充実や職業訓練など、失業を可能にするセーフティーネットの充実が働く条件の向上にも役立つという点が重要でしょう。
第3に、ブラック会社では、賃金・労働条件が劣悪であるだけでなく、雇用もまた、極めて不安定です。特に、景気が悪く、就職希望者があふれている現在、代わりはいくらでもいるから、いつでもクビが切れるという会社側の意識が強まっているという指摘がありました。「失業の恐怖」が、周辺的正社員の存在を許しているというわけです。
我慢できなくなって会社を辞める例も多いようですが、そのときでも「自己都合扱い以外では離職表を出さない」といいます。離職表が出なければ雇用保険をもらえません。
また、いじめやパワハラが雇用調整の手法として用いられているという話には驚きました。面談で相手を追い込んで辞めさせるためにパワハラ専門の職員までいるそうで、その結果、人格が破壊され、親から相談が寄せられても、職場のことを思い出すと過呼吸になるため本人と話ができないそうです。
第4に、ブラック会社で働く若者の意識について、「やりがい」と「能力主義」が落とし穴になっているという指摘もありました。このような意識が、若者の異議申し立てを阻む壁になっているというのです。
働く上での「やりがい」は重要ですが、今の若者はこの点へのこだわりが強く、「やりがい」があれば、低賃金・劣悪条件の下でも、ついつい働きすぎてしまうといいます。
過労死についても、しばしばこのような問題が指摘されますが、ブラック会社や周辺的正社員から抜け出せない背景としても、このような意識があるというわけです。また、社会や会社への不満を持っていても、能力主義的な発想が強ければ「自己責任」論にとらわれ、集団的な解決の方向には向かいません。
このような問題を解決するには、どのような政策的対応が必要なのかと、私も質問しました。EU型の労働条件を実現しなければならない、というのが、熊沢先生のお答えでした。私もそう思いますが、そこにいたる道程はなお遙かなり、と言わざるを得ません。
学校教育や公的な職業訓練のあり方の重要性も指摘されました。これまでの学校教育はあまりに教養主義的であり、職業教育と労働の権利についての教育の両方をもっと強めていくべきだというわけです。
ブラック会社をなくす、周辺的正社員の労働条件を改善する、民事的な殺人とも言えるほど苛酷な働き方や馘首のあり方を是正すること―そのいずれもが必要です。そのためには、職場での労働組合による規制力を強めると共に、法的制度的な条件整備にも取り組まなければなりません。
報告の最後で、遠藤さんは「大きな社会変革に必要なエネルギーをもつのは若者のみである」と指摘しつつ、「若者よ、起て」と呼びかけておられました。私も、それに和して呼びかけたいと思います。
「若者よ、起て」
以前にお会いしたのも、大阪で開かれた「職場の人権」研究会でした。そこで、私は報告者として話をし、その内容は職場の人権研究会の雑誌『職場の人権』9月号(第60号)に掲載され、09年10月7~8日付のブログにもアップしました。
今回は、久しぶりの東京での開催です。しかもテーマは「ブラック会社で働く若者たち-周辺的正社員の明日」というものでした。
以前、研究所の運営委員をお願いしていた法政大学社会学部の樋口明彦先生が司会で、報告者は、研究所のプロジェクト「労働運動再活性化国際比較研究」に加わっていただいている明治大学の遠藤公嗣先生、それに著名な本田由紀先生、おまけに、昨年お世話になったNPO法人POSSEの代表である今野晴貴さんというラインナップです。出席しないわけにはいきません。
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遠藤さんは、労働問題に対する学生の反応は、2年ほど前から大きく変わったという話をされていました。労働相談などに取り組んでいるPOSSEの今野さんも、全国で150人ほどの若者がボランティアで協力していると話されていました。
労働問題についての若者の意識が変わってきたということでしょうか。それだけ、青年をめぐる労働のあり方が厳しくなってきているということの反映でもあるでしょう。
報告と質問、それに対する回答は、いずれ雑誌『職場の人権』に掲載されます。ここでは、いくつか印象に残ったことを、紹介しましょう。
その第1は、正社員といっても定期昇給や賞与のない人々が存在しているということです。これが「周辺的正社員」ですが、この言い方は、会場にも顔を見せていた木下武男さんが最初に使ったものです。
このシンポジウムの趣旨を説明された熊沢先生は、この周辺的正社員の状況をそのままにして、非正規労働者の正規化を進めても問題は解決しないということを強調されていました。特に、低賃金と長労働時間の二つを解決することが課題であり、職場の労使関係における労働組合の規制力を強めなければならないと力説されていました。
第2に、自分の働きで家計収入を支えなければならない家計自立型非正規労働者と周辺的正社員との相互補完性が指摘されていたことです。一方の存在が他方の存在を支えるという関係にあるというのです。
この両者を解決するためには、「失業の自由」が必要だという指摘もありました。どのように賃金が低く労働条件の悪い仕事であっても、いったん正社員でなくなってしまえば非正規での仕事くらいしか残っていません。
再就職が厳しく、失業できないために、労働条件が悪くても正社員の仕事にしがみつくという状況が生まれているというわけです。雇用保険の充実や職業訓練など、失業を可能にするセーフティーネットの充実が働く条件の向上にも役立つという点が重要でしょう。
第3に、ブラック会社では、賃金・労働条件が劣悪であるだけでなく、雇用もまた、極めて不安定です。特に、景気が悪く、就職希望者があふれている現在、代わりはいくらでもいるから、いつでもクビが切れるという会社側の意識が強まっているという指摘がありました。「失業の恐怖」が、周辺的正社員の存在を許しているというわけです。
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また、いじめやパワハラが雇用調整の手法として用いられているという話には驚きました。面談で相手を追い込んで辞めさせるためにパワハラ専門の職員までいるそうで、その結果、人格が破壊され、親から相談が寄せられても、職場のことを思い出すと過呼吸になるため本人と話ができないそうです。
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働く上での「やりがい」は重要ですが、今の若者はこの点へのこだわりが強く、「やりがい」があれば、低賃金・劣悪条件の下でも、ついつい働きすぎてしまうといいます。
過労死についても、しばしばこのような問題が指摘されますが、ブラック会社や周辺的正社員から抜け出せない背景としても、このような意識があるというわけです。また、社会や会社への不満を持っていても、能力主義的な発想が強ければ「自己責任」論にとらわれ、集団的な解決の方向には向かいません。
このような問題を解決するには、どのような政策的対応が必要なのかと、私も質問しました。EU型の労働条件を実現しなければならない、というのが、熊沢先生のお答えでした。私もそう思いますが、そこにいたる道程はなお遙かなり、と言わざるを得ません。
学校教育や公的な職業訓練のあり方の重要性も指摘されました。これまでの学校教育はあまりに教養主義的であり、職業教育と労働の権利についての教育の両方をもっと強めていくべきだというわけです。
ブラック会社をなくす、周辺的正社員の労働条件を改善する、民事的な殺人とも言えるほど苛酷な働き方や馘首のあり方を是正すること―そのいずれもが必要です。そのためには、職場での労働組合による規制力を強めると共に、法的制度的な条件整備にも取り組まなければなりません。
報告の最後で、遠藤さんは「大きな社会変革に必要なエネルギーをもつのは若者のみである」と指摘しつつ、「若者よ、起て」と呼びかけておられました。私も、それに和して呼びかけたいと思います。
「若者よ、起て」
2010-05-16 06:47
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1988年に社会学部の学生として、先生の一般教養科目「政治学」を履修していました。
現在、同族のブラック企業で、「周辺的正社員」として働いています。
その現状として、給与は、創業者一族はそれこそ長者番付に載るほど貰っておきながら、社員はそうでもなく、このため独身が多いです。これに関し、創業者は、「夫婦共働きで暮らせば、普通に暮らせていけるほど給与を払っているのに、何故、結婚しないのか。」です。ボーナス、昇給もここ数年はなく、生物学的にいう種の保存より、個体保持をするのがやっとです。
労働組合も作りましたが、それについて、創業者は御用組合を立ち上げ、潰そうとするほどです。
以上より、日々について、明日が見えない感じです。
by 赤坂亭風月 (2010-05-17 21:32)
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