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7月7日(木) 電力会社が抱く二つの危機感 [原発]

 「本件は我々のみならず協力会社においても極めて重大な関心事であることから、万難を排して対応に当たることが重要と考えている」
 「ついては関係者に対して説明会開催を周知いただくとともに、可能な範囲で当日ネット参加への協力を依頼するようお願いする」
 「説明会ライブ配信のウェブサイトにアクセスの上、会の進行に応じて発電再開容認の一国民の立場から、真摯に、かつ県民の共感を得るような意見や質問を発信」
 「なお、会社のPCでは処理能力が低いこと等から、是非、ご自宅等のPCからのアクセスをお願いする」

 これは、九州電力が「国主催の佐賀県民向け説明会へのネット参加について」という表題で「協力会社本店 各位」にあてたメールの概要です。この「やらせメール」問題は、昨日の衆院予算委員会で共産党の笠井亮議員が指摘しました。
 菅直人首相は「もし本当なら、けしからん話。しっかりとさせていきたい」と答弁し、海江田経産相も「非常に けしからん。しかるべき措置をする」と答えました。その直後、九電の真部利応社長が記者会見してこの事実を認め、謝罪しています。
 この九電の本社は、私が先日泊まったホテルニューオータニ博多の向かい側にありました。辞任した松本復興担当相と言い、今回の「九電やらせメール事件」と言い、博多関連のニュースが目に付きます。

 こんなメールを出すとは、なんて愚かなことをしたものでしょう。メールは転送すればたちどころに伝わっていきますし、記録が残りますから出所はすぐに分かってしまいます。
 ばれたときの逆効果について、思いが至らなかったのでしょうか。浅はかな愚行だと言うしかありません。
 メールを送ったのは、九電の原子力発電本部の課長級社員で、6月22日に本社の一部と玄海原発などの3事業所、子会社4社の担当者に依頼したとされています。しかし、これは個人名ではなく会社名で送られていますから、「課長級社員」が誰かの指示でメールを送ったことは明らかです。それを指示したのは、一体誰なのでしょうか?

 この「やらせメール」の発覚と共に、政府は全原発を対象に新たに安全性を点検するストレステスト(耐性試験)を行うと発表しました。これは原発再稼働を急ごうとした海江田経産相に対し、脱原発に傾きつつある菅首相が「待った」をかけたためであると見られています。
 このテストには3ヵ月ほどかかるとされています。「やらせメール」が批判を浴び、九電への信頼が地に墜ちたばかりか、新たな条件も加わって玄海原発の再稼働が遅れるのは確実となりました。
 原発の再稼働を急いだ背景には、電力会社が抱いていた二つの相反する危機感があったように思われます。一つは、この夏の電力供給が足りなくなるのではないかという危機感であり、もう一つは、電力供給が足りなくならないのではないかという危機感です。

 電力が足りなくなると大規模停電の恐れが生じ、それを避けるためには計画停電などが必要になります。そうなれば、産業や生活に巨大な影響が及ぶでしょう。
 電力会社が節電キャンペーンを展開し、停止中の原発の再稼働を急いだ理由はここにあります。その焦りが、今回の「九電やらせメール事件」を生んだ背景の一つです。
 どんな手を使ってでも、原発の再稼働を急ぎたいと考えたのでしょう。それが形だけの説明会番組の製作となり、それを利用した世論工作として「やらせメール」の依頼を出してしまったというわけです。

 同時に、もう一つの危機感があったように思われます。それは、もし電力不足を生ずることなくこの夏が無事に乗り切られたらどうしようかという危機感です。
 もしそうなったら、停止中の原発がなくても大丈夫だということが実証されてしまいます。そうならないためには、何基かの原発を再稼働させ、その結果、電力危機を乗り切ったという形を作らなければなりません。
 それは、電力需要がピークを迎える夏場までが勝負です。そして、九電はその勝負に出ようとして、大きな失敗を犯したというわけです。

 その結果、現在停止中の原発が再稼働する可能性はほとんどなくなりました。今度は、私たちが試されることになります。
 夏場の電力供給不足を回避するために、火力発電や大規模事業所の自家発電などによる電力供給を増大させなければなりません。同時に、政府や事業所、公共施設、そして各家庭での電力需要を増やさないための努力も欠かせないでしょう。
 ただし、問題は需要のピーク時での供給量であって、その他の時間での節電は必要ないということです。昼間の午後1時から4時くらいまでの間、電力需要を高めないために汗をかくことが必要です。

 この夏の電力供給が足りなくなるという危機を回避しつつ、同時に電力供給は足りなくならないということを実証しなければなりません。そうすることによって、原発がなくてもやっていけるということを示すための「社会実験」が、今始まろうとしているのです。
 この「社会実験」を成功裏にクリアーすることこそ、脱原発社会に向けての第1歩となることでしょう。そのために、皆さん、大いに汗を流そうじゃありませんか。
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