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7月31日(日) 「ブレーキ」が「アクセル」になってしまった「不安院」 [原発]

 原子力安全・保安院というのが正式な名称です。でも、こんなことをやっていたのでは、名前を変えた方がよいのではないでしょうか。「保安院」ではなく「不安院」と……。

 私は7月8日付のブログ「九電『やらせメール』は誰の指示だったのか」で、次のように書きました。

 つまり、停止中の原発の再稼働方針は経産省が打ち出したもので、その突破口として狙われたのが玄海原発だったのです。番組形式の説明会の主催者も県ではなく経産省であり、説明したのも県の役人ではなく経産省の下にある原子力安全・保安院の担当者でした。
 この説明会で玄海原発の再稼働について、反対ではなく賛成の方向が強まることを最も願っていたのは、一体、誰なのでしょうか。それは九電よりも、むしろ経産省の方だったのではないでしょうか。
 九電の元副社長や元常務は「よろしく頼む」などと部下に伝えたと報じられていますが、この言葉はさらに別の方から伝えられていたということはなかったのでしょうか。東の霞が関の方向から……。

 菅首相のストレステスト実施の指示によって海江田経産相は「はしご」を外されたと言われています。それ以上に「はしご」を外されたのは、停止中の原発の稼働再開を急いでいた経産省であり原子力安全・保安院だったように思われます。
 今回の「やらせメール事件」の背後に、果たしてこれらの勢力の画策はなかったのでしょうか。「やらせメール」をやらせたのは、一体、誰の指示だったのか、九電社内に限らず、とことん追及してもらいたいものです。(以上、引用終わり)

 ここで私は、九電の「やらせメール」の背後に、経産省や原子力安全・保安院の「画策はなかったのか」と問題を提起しました。その答えが出たようです。
 今回の「やらせメール」の発端は、直接的には佐賀県の古川知事の発言だったようです。九州電力玄海原発の説明番組が放送される数日前に、古川知事は九電の当時の副社長らと面談して「原発の再稼働を容認する意見を出すことが必要だ」と、番組にやらせ投稿を促すような発言をしていたことが明らかになったからです。
 そればかりではありません。今回の「やらせメール」と同じような「画策」を、あろうことか、原子力安全・保安院が以前から行っていたことも明らかになりました。

 古川知事によれば、説明番組開催を5日後に控えた6月21日朝、退任あいさつに訪れた段上守・前副社長や大坪潔晴・佐賀支社長ら九電幹部3人と知事公舎で20~30分間面談したとき、番組も話題となったそうです。知事は「自分に寄せられる意見はほとんど反対意見ばかりだが、電力の安定供給の面からも再稼働を容認する意見も経済界にはあるように聞いている。この機会を利用し、そうした声を出していくのも必要」という趣旨の発言をしたといいます。
 3人はこの後、佐賀市内の飲食店で会食しましたが、その際、番組への意見投稿を増やす必要性で一致し、その後、部下らが「やらせメール」の発信などを指示したといいます。この経過を見れば、面談の時の知事の発言が「やらせメール事件」の直接的な引き金になっていたことは明らかです。
 九電第三者委員会の郷原信郎委員長は、記者会見で「古川知事の発言がやらせメール問題の発端になった可能性が十分にある」と指摘しましたが、誰が見てもそう思うでしょう。知事は「軽率のそしりを免れないが、やらせを依頼したことはない」と釈明していますが、中立の立場で再稼働の是非を判断すべき県トップが「再稼働を容認」する方向で事実上の世論誘導を促していたことは重大であり、その責任は免れないでしょう。

 また、昨日(7月30日)付『朝日新聞』の一面に大きく、「保安院 やらせ指示」という記事も出ていました。記事は次のように伝えています。

 中部電力と四国電力は29日、原子力関連の国主催シンポジウムで、経済産業省原子力安全・保安院から、推進側の参加者動員や発言を指示されていたことを明らかにした。九州電力に端を発した原発のやらせ問題は、原発を規制する立場の保安院まで関与していたことが発覚。原子力を取り巻く不透明な癒着の構図が浮き彫りになってきた。
 経産省は九電の「やらせメール」の問題を受け、過去5年、計35回の国主催の原子力関連シンポジウムについて、電力7社に調査を指示。29日に各社が報告した。海江田万里経産相は、記者会見で「極めて深刻な事態。徹底解明したい」と述べ、第三者委員会による調査を指示した。8月末までに結果を出す方針だ。
 保安院がやらせを指示したのは、2006年6月に四電伊方原発のある愛媛県伊方町、07年8月に中部電浜岡原発のある静岡県御前崎市であったシンポジウム。使用済み核燃料をリサイクルして使う「プルサーマル発電」の是非をめぐる重要な説明会だった。(以上、引用終わり)

 原子力安全・保安院の「やらせ指示」は、今回の九電の説明番組についてではありません。しかし、九電に対しても、過去には参加への動員要請があったようです。
 今回の「やらせメール事件」についてはどうだったのでしょうか。これについても、きちんとした調査と報告を求めたいものです。
 いずれにしても、このような「やらせ」は、過去において「慣習」だったと言いますから、呆れてしまいます。管理・監督する立場にある原子力安全・保安院と原子力業界との癒着・一体化はこのような形で進行していたということになります。

 このような恐れがあるから、原子力安全・保安院は経産省から分離・独立させるべきだったのです。しかし、これに対して経産省は抵抗し続けてきました。
 自民党政権時代の甘利明経産相は、「経産省から規制(を担う保安院)を分離すると、推進だけが残り、ブレーキのきかない車になる」と国会で答弁していました。よく、こんなことが言えたものです。
 実際には、保安院は「ブレーキ」どころか、「推進」のための「アクセル」だったではありませんか。本来、「ブレーキ」役を務めるべきだった保安院は、経産省に取り込まれ、いつの間にか「アクセル」に変質していたのです。

 その結果、原発政策には「ブレーキ」が効かなくなりました。「推進だけが残」ったのです。
 いや、正確に言えば、新しい「アクセル」が組み込まれたということになるでしょう。プルサーマルの推進のために、肯定的な発言までやらせていたのですから……。
 経済産業省、原子力安全・保安院、原子力産業が一体となって、プルサーマル発電推進の「世論」作りに精を出していたというわけです。それは、従来の原発以上に危険なものだったにもかかわらず……。

 この保安院による「やらせ事件」は、昨日の新聞各紙の一面に出ていました。しかし、驚くべきことに、昨日(30日)朝のNHKニュースではほとんど報じられませんでした。
 さすがに、電力会社の社債を374億円も大量に保有し、経営委員の一部に電力会社の幹部を迎えているNHKらしい報道姿勢だと言うべきでしょうか。

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