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4月14日(土) 労働運動の社会的役割と今日的課題(その2) [論攷]

〔以下の論攷は、月刊『全労連』第182号(2012年4月号)に掲載されたものです。3回に分けて、アップします〕

○3.11の「災後」における新たな緊急課題

 今日において労働組合が取り組むべき課題には、以前から解決を迫られている継続的な課題と、昨年の被災によって生じた緊急の課題とがある。新自由主義的構造改革と規制緩和などによって、しばらく前から貧困は蓄積され格差は拡大していた。被災する前から、労働と生活は危機に瀕していたのである。そこに大震災と原発事故が襲い、日本社会は大きな困難に直面することになった。
 特に、被災の中心となった東北地方では、新自由主義による継続的で緩慢な破壊におおいかぶさるようにして、震災と津波、原発事故による放射能被害という突発的で急激な破壊が襲いかかった。
 構造改革や三位一体の改革、「平成の大合併」などによって、「(震)災前」の地域と社会は災害に対して脆弱化していたのである。放射能被害が「人災」であることは明らかだが、大震災による被害もまた「天災」のみならず「人災」によって増幅されたという事実を忘れてはならない。
 このような甚大な被災に対して、労働組合は救助・救援活動に取り組み、復旧・復興に向けてのボランティア活動を展開した。生活と営業、就業の再建に向けた、このような復旧・復興支援の活動は引き続き取り組まれなければならない。これは「災後」において労働組合が担うべき第1の緊急課題である。
 大震災の被災にともなう第2の緊急課題は、被災地における雇用の維持と創出である。大震災を理由とした解雇、派遣切りや雇い止めを防ぎ、働く場を確保しなければならない。失業手当受給期間の延長によって、仕事に就くまでの間、生活が維持されるようにすることも必要であろう。
 第3に、労働条件の低下防止と新たな就業に向けての支援である。被災地では、土木・建設業などを中心に復旧・復興需要が高まり、今後、徐々に景気が回復してくると思われる。このような条件を生かして、低賃金・長時間労働を減らして質の良い仕事を増やすために労働組合は働きかけを強めるべきである。また、被災地の農業、漁業、商業は甚大な被害を受けた。その再建を援助するとともに、転職を希望する人々への職業訓練なども求めていくべきだろう。
 震災からの復興については、先ず自らの努力が大切だという自助論によって公的責任を曖昧にする論調がある。また、宮城県などで進められている特区構想、農地や漁港の集約化も新自由主義型の復興ビジョンだと言うべきだろう。今が「チャンス」だということで、勝手に上から描いたビジョンを地域に押しつけるようなことは極力避けるべきであり、大震災を「好機」とする「ショック・ドクトリン」の発動に対する警戒を怠ってはならない。
 憲法第25条は「健康で文化的な最低限度の生活」の保障を定めている。これを踏まえた新福祉国家型の復旧・復興こそが構想されなければらない。被災者の要求や都合を最優先に、コミュニティの維持・再建、生産手段の取得による生業の回復を実現することが必要である。東日本大震災においても、新自由主義型復興と新福祉国家型復興との二つの道の対決が存在しているのであり、前者ではなく後者の道を実現するために労働組合は力を尽くす必要がある。

○労働組合にとっての脱原発課題の意味

 3月11日に勃発した福島第1原子力発電所の過酷事故は、労働組合や労働運動にとっても、そのあり方が問われる大きな問題を提起した。とりわけ連合に対して、この事故は深刻な反省を迫るものだった。というのは、会社と一体となって原発推進の立場に立つ東電労組や電力総連を傘下に置き、しかも連合自身、原発の推進に向けてエネルギー政策の舵を切ったばかりだったからだ。
 また、連合は民主党を支持しているが、その民主党も2010年6月に「エネルギー基本計画」を策定し、原発を積極的に推進する立場へと転換していた。その直後に、福島第1原発での未曾有の事故が発生することになる。
 電力総連は原発事故発生の前年である2010年9月に開かれた第30回定時大会で、「プルサーマルの推進、核燃料サイクルの確立を含め、原子力発電の推進は、エネルギー安定供給、地球環境問題への対応の観点において、極めて重要な課題」だとして、「私たちは、労働組合の立場から労働界をはじめ国民各層への理解活動を強化していかなければなりません」との方針を打ち出していた。電力会社と一体どこが違うのか、と言いたくなるような方針である。
 このような傘下単産による「理解活動」の効果もあって、連合は2010年8月19日の中央執行委員会で「エネルギー政策に対する連合の考え方」を採択し、原発推進へと舵を切った。そこでは、化石エネルギー、原子力エネルギー、再生可能エネルギーの「ベストミックスの推進」を図るとし、「現在計画中の原子力発電所の新増設については、……これを着実に進める」としていた。「ベストミックス」という言葉は、民主党政権による「エネルギー基本計画」にも登場するキー・タームである。
 その半年後、未曾有の原発震災が福島を襲い、このような路線を維持することは不可能となった。連合は2011年4月20日の中央執行委員会で、原子力エネルギーを推進する従来の政策を「凍結する」として棚上げし、10月の定期大会で「中長期的に原子力エネルギーに対する依存度を低減していき、最終的には原子力エネルギーに依存しない社会をめざしていく必要がある」との方針を打ち出すことになる。
 しかし、「凍結」では不十分であり、再稼働を認めるなどというのはとんでない。原子力発電に依存する社会のあり方やエネルギー政策からの転換を明確に打ち出し、労働組合はそのためにイニシアチブを発揮すべきだろう。それは連合とその傘下組合だけでなく、全ての労働組合が共同して取り組むべき最重要課題となっている。
 原発の職場は常に放射能による被ばくの危険と隣り合わせで、最下層における被ばく労働を前提にして成り立っているシステムである。そのような危険に満ちた労働から働く人々を守ることは、労働組合としての当然の責務であり、原発で働く人々の安全と健康を守るために、本来、労働組合こそが原発労働に異議を唱えるべきだったのだ。
 今なお、福島第一原発の放射能漏れの防止と沈静化のために必至で働いている労働者を守り、二度と再び、このような危険な作業が必要とされないようにするために、全ての原発を廃止しなければならない。目指すべきは、アンチ・ニュークリア(反核・脱原発)国家であり、核兵器の開発に反対し、原子力発電への依存から脱却する方向性を明確にするべきである。
 「福島の教訓」を踏まえ、連合は原発推進に一度は転じてしまった誤りを深く反省しなければならない。すでにその方向を明確にしている全労連とともに、エネルギー政策の転換に向けて、ナショナルセンターの枠を越えた共同の取り組みを進めるべきだろう。昨年9月の集会では、傘下組合において部分的にこのような協力・共同が実現した。この方向での運動を拡大していくこともまた、今日における労働組合にとっての緊急課題なのである。

○日本の経済と産業の担い手として社会の崩壊を防ぐ

 東日本大震災と原発事故とともに、今日の日本の経済と産業、そして社会は大きな困難を抱え込もうとしている。これを阻むことも緊急の課題である。日本の経済と産業の担い手として、労働組合は社会の崩壊を防がなければならない。
 日本社会が抱え込もうとしている大きな困難とは、消費税の税率引き上げと環太平洋経済連携協定(TPP)への参加問題である。これらの問題は昨年の後半から急浮上してきた政治課題であり、ここには以下のような共通する問題がある。
 第1に、政権交代に際して約束された民主党のマニフェスト(政権公約)に違反しているということである。2009年の総選挙に際して明らかにされたマニフェストでは、消費税の増税についても、その後に急浮上したTPPの問題についても、全く触れられていなかった。
 このようなマニフェスト違反は国民に対する約束違反であるというだけでなく、政権交代に託した国民の期待を真っ向から裏切るものであり、厳しく批判されなければならない。
 第2に、国民に対する説明抜きに海外で約束し、「国際公約」をタテに反対論を押し切ろうとしていることである。いずれも、外国での発言によって既成事実化が図られてきた。
 野田首相は、2011年11月にG20(主要20カ国・地域)首脳会議に出席した際、消費税を2010年代半ばまでに10%に引き上げることを「国際公約」として表明した。また、今年のダボス会議に対しても、「消費税引き上げを含む改革を必ずや実現する」と強調し、改めて「国際公約」とした。
 TPPについても、ハワイでのAPECに出席した際、オバマ大統領との日米首脳会談において、野田首相は交渉参加に向けての協議に加わるとの方針を伝え、「すべての物品・サービスを交渉テーブルに載せる」と約束したと報じられた。この発言は後になって否定されたが、米側の報道では取り消されていない。
 第3に、そのような政策が実行されれた場合の予想される結果について十分な検討も説明もなされていないということである。
 消費増税については、税制改革が消費税の増税論にだけ絞り込まれ、それが中・長期的に税収増をもたらすことになるのか、社会保障財源の安定や社会保障の拡充に結びつくのか、財政再建に役立つことになるのか、所得の再分配による貧困の解決や中間層の所得増などに資するのか、などの懸念や疑問には全く答えられていない。
 同様に、TPP参加問題についても、日米構造協議から始まり、日米投資イニシアチブ、年次改革要望書へと連なる市場開放要求の今日的な現れであり、アメリカ好みの社会改造によって、農業の壊滅、「非関税障壁」としての国内慣行の破壊、ISD制度の導入による訴訟の乱発などを通じて日本市場がこじ開けられ、アメリカ企業によってシャブリ尽くされてしまうのではないか、などの懸念や疑問にも全く答えられていない。
 大震災と放射能被害に加えての消費増税、TPP参加、復興増税というトリプルパンチによって、農業・漁業は壊滅し、小零細企業の破綻、地方・地域の崩壊が進むことになろう。生活苦の増大→消費の減少→地方の荒廃→国内市場の縮小→景気悪化→さらなる生活苦の増大という「悪魔のサイクル」が、「失われた20年」に引き続いて、再び始まる可能性が高い。
 これらの消費増税やTPP参加問題は労働運動にとっての独自課題というわけではない。国民各層と共通する政治的な課題である。そうであるが故に、共同の取り組みが重要となる。消費増税の問題では大きな影響を受ける商工業者など、TPP参加問題では農業団体や医療関係者などの運動との連携や提携が図られなければならない。
 労働組合は、地域における組織された社会的勢力であり、そのような力を有効に発揮することが求められている。政策・制度をめぐる中央段階での取り組み、政党や議員などへの働きかけも必要だが、働く市民としてのそれぞれの労働組合員が、生活する場において地域の民主的団体と共にこのような運動に自覚的に取り組むという主体的で自発的な姿勢が大切であろう。

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