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11月25日(日) 「『謀略』『三鷹事件の真実にせまる』合同出版記念のつどい」でのあいさつ [挨拶]

 昨日、松本善明著『謀略』(新日本出版社、1500円)、梁田政方著『三鷹事件の真実にせまる』(光陽出版社、1714円)合同出版記念のつどいが武蔵野スイングホールで開催され、全国から172人もの方が集まりました。私もこのつどいの呼びかけ人の一人として出席するつもりでしたが、その前日に思いがけない電話がかかってきました。
 このつどいで呼びかけ人代表あいさつを予定していた金子満広元日本共産党衆院議員が、事情により出席できなくなったというのです。ついては、そのピンチヒッターをお願いできないかというお話しでした。
 私が呼びかけ人の皆さんを代表できる立場にないことは明瞭ですが、主催者としては困ってしまった結果、私に助けを求めてきたにちがいありません。ここは一肌脱ぐべきだと思い、これをお引き受けすることにしました。

 ということで、この「合同出版記念のつどい」での呼びかけ人代表あいさつを、以下に掲載させていただきます。

 今、ご紹介されたような事情で、あいさつをさせていただくことになりました、法政大学大原社会問題研究所の五十嵐でございます。
 「ピンチヒッターとして使い勝手がよい」ということだったのかもしれませんが、昨日、電話をいただいて、急遽、呼びかけ人を代表して、ということになりました。お二人の著書への感想とあわせて、あいさつさせていただきます。
 とは言いましても、三鷹事件にしても松川事件にしましても、私が生まれる前の事件でして、全く印象はございません。これまでも本などで知るだけでしたが、お二人の著書にも、大いに学ばせていただきました。

 お二人の著書は、「日本の黒い霧」と言われた占領時代の謀略事件に歴史の光を当て、再検証を試みたものです。
 一方の、松本善明さんの著書『謀略』は主として松川事件を取り上げ、犯人と思われる一人からの手紙を紹介したり、CIA文書を通じて謀略部隊の存在を明らかにしたりした点に大きな意義があると思います。他方の、三鷹事件に焦点を当てた梁田政方さんの著書『三鷹事件の真実に迫る』は竹内景助さんの「死後再審」を勝ち取って無念を晴らすための強力な武器になるものでして、弁護団の対応や裁判のあり方を厳しく批判されていますが、かといって、一方的な糾弾の書になっていない点を高く評価したいと思います。

 お二人の著書は、いずれも権力犯罪を告発し、被害者の救済と真犯人逮捕の必要性を改めて提起したものとなっています。読んでみて気がついたいくつかの論点にしぼって、感想を述べさせていただこうと思います。

 第1に、被害者概念の拡大です。えん罪で逮捕・収監された人々はまさに被害者そのものですが、その家族や事件の犠牲者・殉職者、受難者遺族と周囲の人々もまた事件の被害者であるという指摘は重要だと思いました。事件が及ぼす被害の範囲を拡大して捉えることは、その事件の重大性と犯人の罪の重さを改めて確認することになるからです。

 第2に、えん罪の捉え直しです。松本さんは著書の中で、①無実の人の長期拘束、②真犯人の捜査放棄、③被害者に対する国家責任の放棄という3点にわたってその問題点を指摘されています。このようなえん罪には、意図せざるえん罪と意図したえん罪があるように思われます。後者のえん罪は、特定の政治目的のために犯人をでっち上げるもので特に問題です。でっち上げる側にとっては、その時点での「社会的雰囲気」を醸し出すことが目的で、必ずしも有罪にならなくてもそれは達成されます。このために、とりわけえん罪が起きやすい構造になっているという点を指摘しておきたいと思います。

 第3に、大衆的な救援活動の意義と重要性です。今、述べたような意図したえん罪を晴らすためには、このような救援活動が不可欠です。それは、被告を救済する(名誉回復を含む)、裁判の歪みを正す、真相を明らかにする、真犯人逮捕への道を開くなどの点で、大きな意義をもっているからです。救援活動は裁判を歪めるものではなく、元々あった歪みを正し、公正な裁判の環境を整え、誤りを犯した司法をも救済して、その名誉と信頼を回復するものだということを強調しておきたいと思います。

 第4に、裁判の持っている二面性を指摘しておく必要があります。無罪確定諸事件におけるパターンは、まず、不自然で非常識な逮捕と起訴があり、予断と偏見に満ちた一審判決で有罪、上告審で無罪となるというものです。その間に、新たな事実、証拠、アリバイが発見されています。一方で、これらが一審で明らかにされないという点での問題がありますが、他方では、上級審、再審で是正されるという可能性もあるということです。是正可能性を持っているという点で、裁判はそれなりに機能している。下級審で有罪判決が出たからと言って、決して諦めてはならないということです。

 第5に、今後の真相解明・真犯人逮捕に向けての課題です。松本さんの本で明らかにされた「CIA謀略部隊」の存在の検証、事件当時の鑑定書や捜査記録の公開などが必要です。三鷹事件については、報道機関の検証も必要でしょう。今後、アメリカ側資料の公開と分析が進めば、新たな事実が発見される可能性もあります。
 たとえば、松本さんの本では鹿地亘拉致事件が出てきますが、これについて早稲田大学の加藤哲郎教授は、驚くべき事実を明らかにしました。MIS(米国陸軍情報部)鹿地ファイルの中から、米国政府宛で交わした1845年7月17日付のAgent契約書(月200ドルの金銭授受)が出てきたというのです。米国側はなお鹿地をエージェントとして扱おうとして拉致したのではないかというわけです。加藤さんは、「占領期日本の三大事件(下山事件、三鷹事件、松川事件)等とG2キャノン機関やCIAの関連を示唆する謀略の資料は、個人ファイル類を含め、今のところ見つかっていない」と書かれていますが、今後見つかる可能性も皆無ではないと思います。

 このように、真相の解明と被害者の救援のためには、なお検証され、明らかにされるべき多くの課題が残っています。お二人の著書は、その解明に大きな貢献をするものであり、その刊行を共に喜びたいと思います。その著書の、今後の普及へのご協力をお願いいたしまして、「合同出版記念のつどい」へのあいさつとさせていただきます。

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