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8月26日(月) 今日の政治・経済情勢の特徴と労働組合の役割(その2) [論攷]

〔以下の論攷は、5月16日に開かれた全農協労連2013年単組三役専従者会議での講演を文章化したものです。『労農のなかま』NO.543、2013年7月号、に掲載されました。4回に分けてアップします。〕

 (2)アベノミクスの暴走による生活と労働の破壊

◆アベノミクスではなく〝アベノリスク〟
 アベノミクスの「3本の矢」ということで、大胆な金融緩和、財政政策、成長戦略が示されています。その目標はデフレからの脱却だとされていますが、本当は消費増税の前提である成長率2%の数字をたたき出すことです。しかし、実体経済の改善なしに物価が上がる可能性が高い。これはアベノミクスというより、〝アベノリスク〟ではないかと言われています。
 金融緩和をして通貨の発行量を増やせば、どんどん物価が上がるのは当然です。円安になれば、輸入品の価格も上がります。しかし、人々の収入は増えていません。そればかりか、来年の4月から消費税が上がれば、家計における義務的な経費が増えることになります。使えるお金(可処分所得)が減れば、モノを買うことができません。物価が上がれば、ますますモノが買えなくなります。そうなると、景気はもっと悪くなるでしょう。

◆公共事業大判振る舞いの〝アホーノミクス〟
 5月15日に今年度予算が成立しました。それを見ると、これまでにない大型予算で、公共事業の大盤振る舞いです。これが国土強靱化を名目にした積極的な財政出動というわけです。麻生さんが、この公共事業大盤振る舞いの古い自民党型政策を主張する中心人物です。アソーノミクスと言われていますが、私に言わせれば〝アホーノミクス〟です(笑い)。
 これまでとは次元の違う大胆な金融緩和をやろうとするアベノリスクと、財政出動をがんがんやって公共事業に投資しようというアホーノミクスという「水と油」の政策が合体しているわけです。そうなると、財政規律がゆるんで物価が上がり、物を買うことができずに不況が続くというスタグフレーションの状態になっていきます。

◆どこかに吹っ飛んだ「財政再建」
 すでに、いろいろな問題が出てきています。債権・株ダブル安と5月15日の新聞も報じていました。国債が安くなって金利が上がっているというのです。金利が上がると、ローンの利息や貸出金利は高くなります。こういう変調が出てきています。
 この間、財政再建が国政の大きな課題でした。このままでは財政が破綻するから、消費税率の引き上げが必要だと言われてきました。しかし、これは去年までのことで、今年になったら財源問題はほとんど語られなくなっています。どんどん公共事業をやる、10年間で200兆円もの費用は国債発行でまかなうというのです。その国債を日銀に買わせればいいという話になっています。そうなると、財政赤字はますます累積します。孫子の代に大きな借金を残すことになり、財政破綻による国債暴落の危険性が増大するでしょう。

 (3)96条先行改憲戦術の提起とその失敗

◆参院選で改憲を提起する自民党政権
 三つ目の問題は改憲問題です。安倍内閣は、憲法の解釈を変えるこれまでのやりかたに加えて、憲法の条文そのものを変えると言いだしました。衆院選でこのような方針を掲げ、参院選でも公約に掲げてその是非を問おうとしています。
 自民党は1955年に結成されて以来、改憲を党是にしてきましたが、それを自分の内閣で具体的な実践課題に掲げた政権はありませんでした。第1次安倍内閣は自らの内閣で改憲をめざすとした初めての政権です。そして、国民投票法という憲法を変えるための法的整備を行いました。
 今回は、参院選で明確に改憲を提起しています。しかも、まず96条を変えるというのです。96条は憲法改正の手続きを定めたもので、衆参両院でそれぞれ3分の2以上の多数によって改憲を発議し、国民投票で過半数の賛成を得られれば憲法を改定できるというものです。その結果、いままでになく改憲の危機が高まりました。

◆「九条の会」が一気に活性化
 そのために「九条の会」の活動が一気に活性化しました。第1次安倍内閣が改憲を言い出したために、各地で「九条の会」が結成されます。その後の福田内閣や麻生内閣で改憲問題は後景に退き、さらに民主党政権になりましたから、会の活動も下火になった。
 ところが、第2次安倍内閣が発足して再び改憲の危機が高まっています。まず、96条を変えるといっているが、それは9条を変えるためだというので、「九条の会」の活動が一気に高まってきたのです。私は3月3日に明治大学で講演しましたが、驚いたことに、260人入る教室に450人集まりました。このように、いま各地で「九条の会」の活動が活発になっています。ですから、安倍さんは「九条の会」の「生みの親」であり、「育ての親」でもあるということになります(笑い)。

◆改憲論者も反対する96条の改正
 しかし、96条先行改憲論を言い出したのは、安倍さんの失敗だったと思います。安倍さんは、9条改定にはいろいろと抵抗があるが96条なら簡単に行けると思ったのでしょう。9条よりも国民の抵抗は少ないだろうと勘違いしたわけです。まず、やりやすい96条改憲を実現し、国民に〝改憲癖〟をつけて、次に9条を初めとするその他の条項を変えようと考えていた。
 これは浅はかな思い違いでした。9条を変えるのはいいけれど、96条を変えるのは反対だという、思いもかけない反対論が出てきたからです。小林節慶大教授は「私は9条改憲論者だが、改正ルール緩和(96条改正)は邪道。立憲主義否定は認められぬ」(『毎日新聞』4月9日付夕刊)と反対しています。これは“裏口入学”のようなもので、やり方があまりにもあざといというのです。

◆憲法改正のハードルが高いのは世界の常識
 なぜ、改憲発議において衆参両院の3分の2という高いハードルをもうけたかというと、愚かな国会議員がたまたま多数を取って憲法を変えようと発議し、国民に丸投げするという無責任なことをやってもらっては困るからです。憲法は国家を縛るもので、その縛りを具体的に定めているのが、この96条の規定です。
 憲法は、国務大臣や国会議員、公務員などの為政者を縛るもので、その縛りを緩めてくれと、縛られている当人が言い出すのはとんでもないことです。これに対して国民を縛るのは法律で、憲法は法律の適否を判断する基本になる「法律の法律」ですから、どこの国でも改正のハードルは高いのです。
 アメリカは6回も改定しているじゃないかという人がいますが、アメリカでも上下両院でそれぞれ3分の2以上の多数で発議され、その改憲草案は、各州議会の4分の3以上の賛成がないと認められません。韓国は一院制ですが、3分の2以上で発議して国民投票にかけ、過半数の賛成で成立するという点では日本と同じです。しかし、この国民投票は有権者の過半数が投票しなければ成立しません。国民投票の実施自体に厳しい条件が課されているわけです。これをクリアできるような改憲でなければ提議してはいけません、というのがその趣旨なのです。

◆自民党の憲法草案をぜひ読んでみてほしい
 昨年4月に発表された自民党の憲法草案をぜひ読んでいただきたいと思います。とんでもない内容が、いっぱい盛り込まれています。例えば、憲法21条は表現の自由を保障していますが、その第2項として「前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない」を付け加えています。人権に関する条文に例外規定を盛り込むこと自体、そもそも間違いです。第2項を入れたのは、表現の自由を取り締まりたいということの現れなのです。
 また、憲法24条の改正案には、あきれてしまいました。「家族は助け合わなければならない」と書いてあります。余計なお世話です(笑い)。こんなこと、憲法に書くことですか。大変なことです。助け合わなかったら憲法違反ですよ(笑い)。夫婦げんかもできなくなっちゃいます(笑い)。
 第1条は、天皇を「元首」にするとある。第3条の2で「日本国民は、国旗及び国歌を尊重しなければならない」と義務化しています。こうなると、各家庭での国旗掲揚は義務となり、学校の先生だけでなく、国民すべてが国旗に礼をし、起立して「君が代」を歌うことが義務化され、違反すると罰せられるかもしれません。今でも、先生は処分されているのですから。
 自民党の憲法草案は、普通の理解力を持っている国民が読めば、誰にでもそのひどさが分かるような内容になっています。ぜひ、読んでみてほしいと思います。また、96条改正については、全ての世論調査で反対が上回っています。
 自民党は、今度の参議院選挙で議席を増やし、維新の会とあわせて3分の2以上を突破して改憲発議を行おうとしていましたが、今回の橋下発言などで微妙になりました。いずれにしても、参議院選挙では、憲法改正問題が争点の一つになることは間違いありません。
(続く)

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