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9月27日(金) 第二次安倍内閣がめざす労働の規制緩和(その4) [論攷]

〔以下の論攷は、『労働法律旬報』No.1799、2013年9月10日付、に掲載されたものです。6回に分けてアップします。〕

二 規制改革に向けての本格的な検討

1 規制改革会議
 規制改革に向けての本格的な検討は、規制改革会議で行なわれた。会議の構成メンバーは表5(省略)のとおりである。規制改革は「成長戦略の一丁目一番地」で「経済の成長、そして雇用を作っていくことが目的」(第一回会議での安倍首相のあいさつ)だとされていた*32。
 規制改革会議のテーマは多岐にわたるが、「雇用の分野」は「健康・医療の分野」「エネルギー・環境の分野」とともに三つの「重点分野」の一つとされた。その検討内容は資料4(省略)を参照されたい。答申が出されるまでに一二回の会議が開かれているが、労働や雇用に関わる審議がなされたのは、第二~四回、第八回、第一〇回、第一一回である。
 第二回会議では重点分野についてのワーキング・グループが設置され、構成メンバーが提案されている。また、表6(省略)のような検討すべき事項が示されたが、それは「経済界等から寄せられた規制改革要望のうち、その代表的なものを整理し、分野別に列挙したもの」であった*33。
 会議のなかで、鶴委員は「短期的にはいろいろ痛みはあるかもしれないけれども、そこに向かって頑張りましょうということを、どうやって説得的に言っていくかということが非常にポイントになる」と発言している*34。規制改革による「痛み」は当然のこととされていたのである。また、会議後の記者会見では「解雇しやすいようにするということなのでしょうか」という質問に、岡議長は「そういう偏った意見ではなかったと思います。やはり経済活動をより活性化するため、あるいは新しい雇用を創出するためには、一種の出口論として考え、解雇というものもある程度できるような状態にした方がいいのではないでしょうか。ただし、その方は、企業のためだけという視点ではなくて、ともおっしゃっていました」と答えている*35。「解雇というものもある程度できるような状態」は労働者のためでもあるという回答であった。
 第三回会議では、鶴委員によって「雇用改革の『三本の矢』(試案)―人を動かすために*36」が提案された。このなかでは、「勤務地や職種が限定されている労働者についての雇用ルールの整備」「『解雇補償金制度』の創設」「派遣対象業種の見直し等」「有料紹介職業事業における年収要件の引下げ」「『常用代替防止(常用雇用に影響を与えることの防止)』という考え方を見直す必要」などが提起されている。
 また、「雇用(規制)改革を行うに当たっての七原則」が示され、原則二として「最終的に労使双方の納得感とメリットを生む改革(労使片方のみに『しわ寄せ』する改革は行わない)」、原則七として「合理的な理由のない差別的又は不利益な取扱いを許さない改革」が掲げられていた。これらの「原則」が順守されることを願うばかりである。
 第四回会議では、雇用ワーキング・グループについて鶴委員から説明があり、「雇用改革の三本の矢」として、正社員改革、民間人材ビジネスの規制見直し、セイフティネット整備、職業訓練や教育訓練の強化が示された*37。
 第八回会議でも、鶴委員から雇用ワーキング・グループにおける検討の経緯が説明され、「正社員改革につきましてはジョブ型正社員。これは職務、地域、労働時間が限定された正社員の雇用ルールを整備する。これは優先項目として扱っています」との発言があった*38。ここで注目されるのは、「ジョブ型正社員」の定義に、いつの間にか「職務、地域」だけでなく「労働時間」が付け加わっていることである。「労働時間が限定された正社員」がどうして「ジョブ型」なのかについては説明されていない。
 第一〇回会議で、鶴委員は雇用ワーキング・グループについても報告書を用意していたのだが、と断りながら、「今日御報告申し上げるつもりで準備をしておったのですけれども、厚労省とも閣議決定の短冊の部分でかなりデッドロック状態になり、幾つかありますが、一番大きいのはジョブ型正社員の問題でございます」と、報告できないことを詫びている。そのうえで、「厚労省は何かと言えば規制改革会議と、先ほども議論が少しありましたが、ある意味で対立構造の中で、自分たちのお座敷、三者構成でやらないとだめですということをおっしゃいます。私は、この対決型の発想を変えて、四者構成でどうですかと。規制改革会議もある意味では大きなメンバーとしてその中に入っていって、実はこれから始まるような研究会とか審議会とかそういう中で、我々がある意味で積極的に関与をする」という意向を示していた*39。
 第一一回会議では、前回提出できなかった雇用ワーキング・グループの報告書について、座長である鶴委員からの報告があった*40。会議終了後の記者会見では、大田議長代理が「解雇無効のときの金銭解決というのは、やはり大きい問題ですので、ここにも書いてありますように、丁寧に議論をしていく」と答え、これを引き取る形で、岡議長が「今回は答申の中に入っていませんけれども、引き続き関心を持ってフォローしていきたいと思います」と述べていた。今後の課題だというのである。
 また、大田議長代理は「ジョブ型の場合は非正規から正規に移りやすくするというのが一つの重要な目的ですので、そのとき雇用形態による大きい処遇の違いがないようにするという考え方がしっかりと根底にはございます」と答えていたが、逆に「正規から非正規に移りやすくなる」可能性については言及されていない*41。

*32 第一回規制改革会議議事録。 http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/committee/130124/gijiroku0124.pdfを参照。
*33 このような「経済界等から寄せられた規制改革要望」の典型的なものは、一三年四月一六日に出された経団連「労働者の活躍と企業の成長を促す労働法制」(http://www.keidanren.or.jp/policy/2013/033_honbun.pdf)と七月二四日付の同「今後の労働者派遣制度のあり方について」(http://www.keidanren.or.jp/policy/2013/070_honbun.html)である。
*34 第二回規制改革会議議事録。http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/committee/130215/gijiroku0215.pdfを参照。
*35 第二回規制改革会議終了後記者会見録。http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/committee/130215/interview0215.pdfを参照。
*36 http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/committee/130225/item10.pdfを参照。
*37 第四回規制改革会議議事録。http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/committee/130308/summary0308.pdfを参照。
*38 第八回規制改革会議議事録。http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/committee/130502/summary0502.pdfを参照。
*39 第一〇回規制改革会議議事録。http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/committee/130522/gijiroku0522.pdfを参照。
*40 第一一回規制改革会議議事録。http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/committee/130530/gijiroku0530.pdfを参照。
*41 第一一回規制改革会議終了後記者会見録。http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/committee/130530/interview0530.pdfを参照。

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