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9月28日(土) 第二次安倍内閣がめざす労働の規制緩和(その5) [論攷]

〔以下の論攷は、『労働法律旬報』No.1799、2013年9月10日付、に掲載されたものです。6回に分けてアップします。〕

2 雇用ワーキング・グループ
 雇用ワーキング・グループは、前述のように、二月一五日に開催された規制改革会議の第二回会議で設置が決まった。その構成メンバーは表7(省略)のとおりであり、座長には鶴光太郎慶応義塾大学教授が就任した。このグループは報告書を提出するまで七回の会議を開いているが、その内容は資料12に示されているとおりである。
 第一回会議では、第三回規制改革会議に提出された資料「雇用改革の『三本の矢』―人が動くために」について鶴座長が説明し、一定の議論の後、中原参事官によって事務局から検討事項の説明がなされた*42。その内容は規制改革会議の第二回会議で示された資料10とほぼ同じものである。この二つの報告によってワーキング・グループでの議論の課題と枠組みが設定されたことになる。
 第二回会議では、有識者からのヒアリングがなされた。招聘されて報告したのは佐藤博樹東大教授、大内伸哉神戸大教授、濱口桂一郎労働政策研究・研修機構統括研究員、小嶌典明大阪大教授の四人である。
 限定正社員について報告した佐藤教授は、「正社員の限定化は、実態としては進んできている。ただし、企業の人事管理、例えば就業規則等、あるいは労使関係上、整備すべき課題が残っている。それに取り組む上で、実は、法改正が必要な部分はそれほどなくて、企業なり労使が自主的に取り組むことによって相当そこは整理できるのではないか」と発言している。
 同じく限定正社員と試用期間について報告した大内教授は、「解雇の理由について、今以上に規制を緩和させるべきではない」こと、「不明確性」については「法律で指針を決め、企業に具体化を義務付けるというアイデア」がありうること、「必要な解雇であったとしても、セーフティネットが十分に整備されていなければ」、「正当化できていないと批判をせざるを得ないこと」を指摘し、「解雇ルールは、雇用社会あるいは社会全体に関わる非常に重要なルールであって」、「慎重な議論と丁寧な説得、説明が必要だ」と釘を刺している。
 続いて、濱口統括研究員は「職務や時間や空間が限定されている」のが「ジョブ型正社員」だとし、「配転をしなければ雇用が維持されない状況であれば、雇用終了は当然、正当なものであるとなってくるだろう」と指摘した。同時に討論では、「どうやったら解雇できるかというところから話をすると、多分話はうまくいかない」との注意も行なっている。
 さらに、職業紹介について説明した小嶌教授は、「休職者に職業紹介サービスを優良で提供するというビジネスが依然として微々たる規模にとどまっている」ことを指摘し、「我が国の場合、仮に年収要件を緩和したとしても、その効果はあまり期待できない」として「煩瑣な規制の撤廃に努力すべきではないか」と提案している。
 この後、質疑があったが、そのほとんどはジョブ型正社員の解雇問題に集中した。そして結論的に、鶴座長は「通常の無限定の人と差別化がされていないというか、違った取扱いになっていない」から「企業の方がリスクテイクできない」として、正規労働者以上に解雇を容易にすることによってジョブ型正社員を増やしたいという趣旨の発言を行なっている*43。
 第三回会議では、引き続き「ジョブ型正社員」と「職業紹介」について議論された。このとき、「限定正社員」では「やはり少しわかりにくい」ということで、「ジョブ型正社員」という「呼び名で統一していこう」(鶴座長)ということになった*44。
 第四回会議*45と第五回会議*46では、厚生労働省からのヒアリングがなされ、「多様で柔軟な働き方」と「企画業務型裁量労働制等」については村山労働条件政策課長、「有料職業紹介事業」と「労働者派遣事業」については富田需給調整事業課長が説明を行なった。ここでは厚労相側と委員との間で激しい攻防が展開され、きわめて興味深い内容に満ちているが、くわしく紹介する余裕はない。
 ただ、「就業規則における解雇事由の定めについて」は、「労使間の自主的な決定に委ねられるべき事項」であって、「解雇すること自体に客観的合理性と社会的相当性があると認められるかどうかは個別のケースごとに、最終的には司法判断される」とし、「限定された職務等が消滅した場合の雇用の終了について、特に力点を置いて記述がなされている」けれども、「ある人のジョブが限定されているとか、勤務地が限定されているとか、そういったような労働契約の形式のみではなくて、働き方の実態全体に応じて判断されるもの」だと、きわめて常識的で正当な反論がなされていることは重要である。
 また、「法解釈等について、最終的に立法事項とするのが難しければ、解釈通達などで明文化してはどうか」という提起については、「行政が積極的に立ち入って解釈を示して行政指導とかをやっていくような体系ではない」と釘を刺している点も注目される。
 この後、第六回会議と第七回会議では、報告書についての議論がなされた。報告書については次項に譲る。

3 雇用ワーキング・グループ報告書と規制改革に関する答申
 五月二九日の雇用ワーキンググループ第七回会議を経て提出された報告書は「雇用改革報告書―人が動くために*47」と題され、総論と各論に分かれている。各論では、①「ジョブ型正社員の雇用ルールの整備」として、労働条件の明示、均衡処遇・相互転換の要請、ジョブ型正社員の人事処遇のあり方の検討、②「有料職業紹介事業の規制改革」として、有料職業紹介事業の参入規制の見直し、求職者からの手数料徴収規制の見直し、バウチャー制度の導入、③「労働者派遣制度の合理化」として、業務区別の廃止、「常用代替防止」ではなく、派遣労働者保護の観点からの「派遣労働の濫用防止」の明確化、「人」をベースにした派遣期間の上限設定、均衡処遇の推進が提案されている*48。
 これに、別紙として「ジョブ型正社員に関する補足」「雇用改革を行うに当たっての七原則」「限定された勤務地・職務が消失した場合についての裁判例の分析」「有料職業紹介に関する国際先端テスト」「労働者派遣に関する国際先端テスト」が付されている。最後に、「具体的な規制改革項目」が示されているが、それは表8(省略)のとおりである。
 これをうけて規制改革会議は六月五日、「規制改革に関する答申―経済再生への突破口*49」を内閣総理大臣に提出した。答申の総論に続くⅡ「各分野における規制改革」の4として「雇用分野」が取り上げられている。「(1)規制改革の目的と検討の視点」と「(2)雇用改革を貫く横断的な理念・原則」は「雇用ワーキンググループ報告書」の総論部分を簡略化したものである。「(3)具体的な規制改革項目」は前掲「報告書」に対応しているが、②として、そこには欠落していた「企画業務型裁量労働制やフレックスタイム制等労働時間法制の見直し」が加わっている。この項目がなぜ欠落していたのかは不明である。
 この答申をふまえ、「対象となった規制や制度、その運用等については、直ちに改革に着手し、期限を定めて着実に実現を図っていくため」、六月一四日に「規制改革実施計画」が閣議決定された*50。計画の最後に、雇用分野における「個別措置事項」の一覧表が掲げられているが、これは前掲「報告書」の最後に付されていた表(表8)と同じものである。

*42 第一回雇用ワーキング・グループ議事概要。http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/wg/koyo/130328/summary0328.pdfを参照。
*43 第二回雇用ワーキング・グループ議事概要。http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/wg/koyo/130411/summary0411.pdfを参照。
*44 第三回雇用ワーキング・グループ議事概要。http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/wg/koyo/130419/summary0419.pdfを参照。
*45 第四回雇用ワーキング・グループ議事概要。http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/wg/koyo/130425/summary0425.pdfを参照。
*46 第五回雇用ワーキング・グループ議事概要。http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/wg/koyo/130509/summary0509.pdfを参照。
*47 http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/publication/130605/item4.pdfを参照。
*48 厚労省「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」は八月二〇日に報告書をまとめたが、そこでは「常用代替防止」を「根本から再検討することが必要」だとし、派遣期間について「人」単位に変更することが提言されている。
*49 http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/publication/130605/item1.pdfを参照。
*50 http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/publication/130614/item1.pdfを参照。

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