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9月30日(月) 第二次安倍内閣がめざす労働の規制緩和(その6) [論攷]

〔以下の論攷は、『労働法律旬報』No.1799、2013年9月10日付、に掲載されたものです。6回に分けてアップします。〕

むすび

 第二次安倍内閣における「雇用改革」をめぐる論議には、相反する二つの傾向があるように見える。一つは、規制改革に対する期待と攻勢であり、もう一つは、懸念と躊躇である。
 「雇用改革」の主たる狙いは成長戦略の実行であった。雇用のあり方をめぐる規制を緩和すれば経済成長が実現するのではないかという期待がある一方で、それははたして労働者に理解され、上手くいくのかという躊躇がある。
 一方での経済成長への期待感は規制緩和に向けての攻勢を強めるが、他方での懸念は、その具体化における躊躇を生み出している。労働の規制緩和に向けての具体的検討が規制改革会議の傘下にある雇用ワーキング・グループで活発に議論されたのに、経済財政諮問会議の「骨太の方針」にほとんどその成果が反映されていないのは、そのためであろう。
 その背景には、すでに小泉内閣の時代に構造改革の一環として労働の規制緩和が着手され、それが非正規労働者の拡大を生み出し、貧困化や格差を増大させてきたという苦い経験があるからである。また同じような施策によって、同じような結果がもたらされるのではないかという懸念が生じ、その具体化に一定の躊躇を覚えるのも根拠のないことではない。
 今回の「雇用改革」論議で焦点となったのは「ジョブ型正社員(限定正社員)」であった。その評価をめぐっては研究者の間でも期待と懸念の両方がある。しかし、正社員なら雇用保障は万全だから、無理な配置転換や際限ない長時間労働を甘受すべきだと言わんばかりの議論には、大きな違和感を覚える。たとえ正社員であっても不当な首切りや「追い出し」は例外とは言えず、ワーク・ライフ・バランスやファミリー・フレンドリーな働き方は正社員にも保障されなければならないからである。
 また、ワーキングプア、ブラック企業、追い出し部屋やロックアウト解雇、常時リストラ、パワハラや資格ハラスメント、セクハラにマタハラ(マタニティー・ハラスメント)、サービス残業、過労死に過労自殺、メンタルヘルス不全などの言葉は、膨大な議事録や報告書のなかにはまったく登場していない。これらの現象こそ現代日本で働く人々が直面している最大の問題で、早急な解決が迫られているはずなのに、驚くべきことである。いったい、どこの国の話をしているのか。
 戦略的機関での審議に加わっている経営者や学識経験者が、日本の労働の破壊を意図しているとは思わない。もしそうなれば、それは日本経済や企業にとっても破滅への道を意味するからである。しかし、企業経営と国家経営とはまったく異なるものであり、国家経営においても経営者が有能だというのは幻想にすぎない。
 自らが関わる業界や企業を念頭に置いた発言や限られた範囲における経験にもとづく国政への関与は、意図せざる破壊的結果をもたらすかもしれない。これまでの民間議員主導による労働の規制緩和がそうであったように……。
 そうならないためにも、もっと日本の労働の現実を直視し、地についた議論を望みたいものである。安心して働ける人間らしい労働(ディーセントワーク)の実現に向けての「雇用改革」こそ、今の日本に求められている本当の改革なのだから……。

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