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4月11日(金) 大原社会問題研究所の歴史と意義(その3) [論攷]

〔以下の論攷は、科学的社会主義研究会『研究資料』第11号(2014年3月)に掲載されたものです。3回に分けてアップします。〕

7 大原社会問題研究所の現状

 大原社会問題研究所としては、社会・労働関係文書資料館、レイバー・アーカイブスとしての活動が年々重要になってきている。残念ながら、日本には公的な形で労働・社会問題についての資料館・文書館が存在していないからだ。労働組合ナショナルセンターのもとでのレイバー・アーカイブスも十分に整備されていない。そのため、社会・労働関係の労働資料館・文書館の不備を代替するような役割を、大原社会問題研究所が担うことになった。これからも、そのような役割の発揮が期待されているように思われる。
 研究所は、同時に調査・研究機関でもあるから、調査・研究プロジェクトにもとり組んでいる。その研究成果としては、毎年、「ワーキングペーパー」や「研究所叢書」が刊行されてきた。
 出版活動も活発で、毎年『日本労働年鑑』を、毎月『大原社会問題研究所雑誌』を出している。私立大学の附置研究所で、月刊誌と年鑑を一緒に刊行しているところは皆無だろう。
 『日本労働年鑑』は2014年6月に第84集を数える。戦時下の10年間を除いて、1920年からずっと継続して発行されているイヤー・ブックだ。これは国際的にもめずらしいのではないだろうか。大原研究所が所蔵している資料の大半は、この『日本労働年鑑』の作成のために収集、あるいは寄贈をお願いして集めたものだ。
 シンポジウムやウェブ・サイトの公開などもとり組まれている。毎年、ILO駐日事務所との共催でILO総会での議題の一つをテーマにシンポジウムを開き、適宜、シンポジウムも開催されている。最近では、学生や地域住民を対象に映画の上映と講演を行う「大原シネマ・フォーラム」も始まった。
 研究所のウェブ・サイトは、研究所の紹介だけでなく、資料の公開や研究支援という面でも大変充実している。研究所の現状や活動の詳細、資料の所蔵内容などについて、詳しくは研究のサイト「OISR.ORG 総合案内」http://oohara.mt.tama.hosei.ac.jp/index.htmlをご覧頂きたい。
 最近、活発になってきているのは国際交流である。研究所は毎年、客員研究員という形で、国内外の研究者を受け入れているが、外国からの研究者については、88年以降30人以上を受け入れた。また、外国からの研究者を招いた国際シンポジウムなども開催されている。研究所は労働史研究機関国際協会(IALHI)の日本唯一の加盟機関であり、世界の労働関係資料館などとの国際的な交流も行っている。

8 特色のある貴重な資料

 大原社会問題研究所には、「一点もの」を含む原資料類が所蔵されている。「一点もの」というのは、他にはどこにも所蔵されていない現物の資料のことを言う。印刷して出版されたものや定期刊行物などは比較的入手が容易だが、これら「一点もの」は毀損したり紛失したりすればお終いだ。
 大量に出回る印刷物や定期刊行物でも、保存されなければ消滅してしまう。運動の中で大量にばらまかれるパンフ類やビラなどもそうである。これらは資料としては極めて貴重だが、このような特色ある原資料類のいくつかを紹介しておこう。
 労働組合関係では、組合同盟や全労系の本部所蔵資料、産別会議、総評、同盟、連合、全労連などの本部資料、単産レベルでの大会記録のほか、東京電力及び各産業のレッドパージ等関係資料、全国銀行従業員組合連合会関係資料、全逓権利闘争裁判関係資料、全金南大阪労働運動資料、全国税労働組合資料、東芝労働組合連合会関係資料、アジア太平洋労働者連帯会議資料などがある。
 また、社会党関係者から寄贈されたものとしては、前述の向坂逸郎関係原資料(図書、雑誌・新聞以外の資料)、木原実関係文書、棚橋小虎関係文書、下坂正英関係資料、国民文化会議資料などがある。
 このほか、日本農民組合、全国農民組合、全日本農民組合など農民組合関係記録、日本労農党系など無産政党本部資料、治安警察法・治安維持法、松川事件、メーデー事件などの裁判記録、米騒動資料などもある。
 さらに、自由民権運動、部落問題、竹久夢二、ジョルジュ・ビゴーなどの藤林伸治資料、共産党、新左翼、個人史料などを含む春日庄次郎資料、「ベルリンの壁崩壊」当時の旧東ドイツ新聞・書籍類、竹前栄治氏より寄贈されたGHQ資料(アメリカ議会図書館で所蔵していたGHQ資料の内、社会・労働運動関係のファイルのコピー)、西田勝反核資料(元法政大学文学部教授の西田勝氏が収集された反核・平和運動の関連資料)、労働組合や社会運動団体の旗、バッジ、看板など、団体や個人に関わる写真、書簡類も大量に所蔵されている。
 以上のような現物資料の詳細についても、詳しくは研究所のウェッブ・サイトを参照していただきたい。

むすび

 最後に、本稿を閉じるに当たって、三つのお願いをしておきたい。
 一つは、資料の寄贈についてである。諸運動の記録を歴史に残すためには運動関係者からの資料の寄贈をお願いしなければならない。と同時に、収納スペースには限界があり、どのようなものでも受贈するというわけにはいかない。
 このような事情から、大量の資料受贈はできず、原資料に限って選択的に受け入れるという原則を立てている。寄贈に当たっては必ず研究所と連絡し、事前に許可を得ていただきたい。
 二つは、研究所を積極的に利用していただきたいということである。大原社会問題研究所は閲覧者の資格を問わず、研究者だけでなく誰でも利用することができる。せっかくの貴重資料も利用されなければ「宝の持ち腐れ」になる。活用されて初めて、資料は息を吹き返すことができる。
 資料の閲覧を希望する場合、特に原資料については事前にウェッブ・サイトを見たうえで閲覧係に連絡していただきたい。せっかく来ても、見つけるのに時間がかかったり、見つからなかったりということもある。無駄足を踏むようなことになっては気の毒だ。
 三つは、研究所に対する資金面の援助のお願いである。大原社会問題研究所の資金は法政大学から拠出されているが、一私立大学の資金力には限界がある。
 法政大学自体も寄付金を募集しているが、大原社会問題研究所を指定しての寄付もできる。その方法についても、詳しくはウェッブ・サイトの「ご寄付のお願い」http://oohara.mt.tama.hosei.ac.jp/notice/kifu.htmlを参照していただければ幸いである。

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