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1月21日(水) 安倍首相の「積極的平和主義」が引き起こした日本人人質への殺人予告 [国際]

 イスラム過激派の組織「イスラム国」のメンバーとみられる男が、安否不明となっていた湯川遙菜さんと後藤健二さんを人質とし、身代金2億ドルを要求するという事件が起きました。72時間以内に支払わないと、2人を殺すというのです。

 人質を取って要求を突きつけ、受け入れられなければ殺害すると脅す。これは完全な犯罪行為であり、どのような理由があっても許されず、強く非難するものです。
 このような形で人命をもてあそび、力ずくの脅迫によって要求を受け入れさせようとするやり方は極めて卑劣であり、断じて認められません。脅しに屈することなく断固とした対応が求められますが、同時に2人の命も救わなければなりません。
 しかし、23日(金)の午後までという72時間のタイムリミットがあり、日本政府は難しい対応を迫られています。パレスチナ側の支援をはじめ関係国と連携しながら、人質となっている2人が無事に解放されることを望みたいものです。

 それにしても、日本を対象に、どうしてこのような事件が起きてしまったのでしょうか。これまでも「イスラム国」が人質を取って身代金を要求する事件はあり、フランスやスペインはお金を払ったと言われています。
 しかし、日本人がその対象とされたことはありませんでした。要求された身代金の額もこれまでは数億円で、2億ドル(約236億円)という多額の要求も初めてです。
 湯川さんが行方不明になったのは昨年の夏で、「イスラム国」に拘束されているらしいという情報はありました。しかし、これまでの半年間、身代金の要求もなければ、このような形での脅迫もありませんでした。

 それなのに、今回、突然このような形で表面化したのは何故でしょうか。その原因は、はっきりしています。
 安倍首相の中東歴訪であり、とりわけエジプトでの演説で表明した「イスラム国」対策のための2億ドルの資金援助でした。これが今回の事件の「引き金」を引いたことは明白です。
 「あなた方の政府は、『イスラム国』と戦うために2億ドルを支払うという馬鹿げた決定をした」という脅迫者の発言でも、そのことは明瞭に示されています。2億ドルという巨額な身代金の額も、安倍首相が示した拠出額と同じです。

 今回の中東歴訪は安倍首相が自ら望み、わざわざ出かけたものでした。それが、拘束していた日本人の扱いに困っていた「イスラム国」に、絶好のタイミングと格好の口実を与える結果になったのではないでしょうか。
 安倍首相は「飛んで火にいる夏の虫」ならぬ、「飛んで火にいる冬の安倍」になってしまいました。この時期に、このような形で中東諸国を訪問せず、エジプトであのような演説を行わなければ、今回のような事件は起きなった可能性が高いと思われます。
 もちろん、2億ドルの資金援助は非軍事的なもので、脅迫者の言うような「馬鹿げた決定」ではないと弁解することは可能です。その拠出自体は人道的なものだったとしても、それを中東歴訪と絡めて、あのような形で目立つように華々しく打ち出す必要があったのでしょうか。

 今回、安倍首相がわざわざ中東に出かけて行って、「イスラム国」対策として2億ドルの支援を表明したのは、「積極的平和主義」の実績を示す絶好のチャンスだと考えたからではないでしょうか。そのようなパフォーマンスを見せつけることで、これから始まる通常国会での集団的自衛権行使容認に向けての安保法制の整備に有利な状況を作り出したいという思惑があったように思われます。
 中東での難民支援や非軍事的な資金を拠出するにしても、紛争当事国に大金を渡すのではなく、国連や赤十字などに粛々と支援金を送ればいいだけの話でしょう。それなら誰からも恨みを買うことはなかったはずです。財界人など46社約100人の幹部を引き連れた派手な訪問で2490億円もばらまいて日本企業を売り込み、多額の経済援助で「いい恰好」しようなどと考えたのが間違いの元でした。
 それが思わぬ形で裏目に出てしまったということになります。中東の情勢にも「イスラム国」の出方についても全く無知で、判断を大きく誤った結果だったと言って良いでしょう。

 そればかりではありません。難民支援のための非軍事的な援助であるにもかかわらず、その2億ドル拠出が敵視されたことにも、この間の安倍首相の言動や日本の立ち位置の変化が微妙に反映しているように見えます。
 集団的自衛権の行使容認や改憲を目指すことによってアメリカとの同盟関係を強めようとしてきたからです。そのための自衛隊の海外派遣など、中東への軍事的な関与を強めようとしてきたという経緯もあります。
 それ以前、ブッシュ米大統領が始めたイラク戦争を支持して自衛隊を派遣したころから、イスラム社会の日本を見る目が変わり始めていました。それまでは、中東諸国でも日本は平和国家として認識され、廃墟の中から経済復興を遂げた国としての尊敬と信頼を集めていたのです。

 これは戦後日本が持っていた、国際社会における貴重な政治的資産だったのです。しかし、小泉元首相や安倍首相は、この資産を食いつぶしてしまいました。
 今また、安倍首相は集団的自衛権行使容認を閣議決定してアメリカ寄りの姿勢を明確にし、日本への敵意を掻き立てようとしています。今回の事件の背後には、このような安倍政権による外交・安全保障政策の転換があります。
 それは安倍首相にとっても誤算だったでしょうが、それを引き出してしまった責任の一端が首相にもあることは否定できません。その責任をどのようにして取るつもりなのでしょうか。

 テロリストとは交渉せず、屈服しないという原則を貫きながら、身代金を支払わずに人質を解放させることができるのでしょうか。それが成功し、2人が無事に解放されることを強く望みますが、予断は許されません。
 もし、身代金を支払えば、テロとの戦いを放棄したものとして国際社会から非難を浴びるでしょうし、支払わなければ2人の人質は殺害されてしまうかもしれません。安倍政権は大きなジレンマに陥り、極めて難しい対応を迫られることになりました。

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