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3月4日(水) 総選挙後の情勢と今後の展望(その2) [論攷]

〔以下の論攷は、『月刊全労連』No.217、2015年3月号、に掲載されたものです。4回に分けてアップします。〕

2 鮮明になった「自共対決」

(1)共産党の躍進

 共産党は公示前の8議席から倍増以上の13議席も増やして21議席となり、議案提案権を獲得した。それだけでなく沖縄1区では赤嶺政賢候補の当選を実現した。辺野古での新基地反対の「一点共闘」という「統一戦線の萌芽形態」によって「小選挙区制の壁」を突破することに成功したのは大きな成果である。
 比例代表でも、10%を超えたのは、東京(15.4%)、近畿(12.8%)、北海道(12.1%)、南関東(11.9%)、北関東(11.7%)、北陸信越(10.1%)、四国(10.1%)の7ブロックに及び、22都道府県(比例代表)と36都道府県(小選挙区)で10%を超す得票率を獲得し13年の参院選を大幅に上回った。特に、比例代表の得票率で20.3%を得た高知県と18.6%を得た京都府では、民主、公明、維新などを抑えて自民党に次ぐ第2党になった。
 東京の比例代表の投票では、自民党の185万票、民主党94万票に次いで共産党は89万票を獲得して第3党である。しかも、無党派層の投票先では一番多かったのが共産党で22.5%、自民党は20.6%、民主党は20.3%であった。
 これまでも政策的には「自共対決」とも言うべき構造が存在していた。今回の選挙では、有権者の投票行動においても、これからの国会での勢力分野でも、一段と「自共対決」の構図が強まった。高知県と京都府の比例代表の得票では、実際にこのような構図になっている。
 共産党躍進の最大の理由は、安倍首相の暴走に対する信頼できるブレーキ役としての期待である。このような期待の表明は今回が初めてではなく、13年夏の東京都議選でも参院選でも示されてきた。
 この参院選によって衆参の「ねじれ状態」が解消され、国家安全保障会議(日本版NSC)設置法や特定秘密保護法の制定、集団的自衛権の行使容認の閣議決定など「安倍カラー」の強い政策が強行され、靖国神社の参拝など暴走が一段と激しくなった後に行われたのが、今回の総選挙であった。そのため、共産党にたいするブレーキ役としての期待はさらに高まった。それが得票増にはっきりと示されている。
 安倍首相は、国民の反発を買うような暴走を続けた挙句、それに対する審判を下す機会を国民に提供した。世論を無視した強権的な姿勢を強めなければ、国民はこれほど強く反発しなかったかもしれない。国民が反発を強めることがなければ、共産党への支持がこのような形で高まることもなかっただろう。こう考えれば、共産党の躍進と「自共対決」の鮮明化を招いた張本人は、安倍首相その人だったともいえる。

(2)過去2回の躍進との比較

 戦後の国政選挙を振り返れば、共産党には躍進した時期が過去二回あった。一回目は70年代で、二回目は90年代の後半である。今回の結果は、この過去二回に続く三回目の躍進に当たる。
 一回目の躍進期では、72年の第33回衆院選で38議席を獲得し、議会第3党・野党第2党になった。この年、田代文久議員が特別委員会の石炭対策委員会委員長に選出され、共産党議員として初の委員長が誕生した。
 79年の第35回衆院選でも39人を当選させている。これは過去最多の獲得議席である。10月には林百郎議員が衆院懲罰委員長に選出され、共産党議員として初の常任委員会での委員長が誕生した。
 この背景には、東京の美濃部都政など共産党と社会党などの革新共闘による革新自治体の発展があった。また、70年7月の共産党第11回党大会は革新統一戦線によって70年代の遅くない時期に民主連合政府を作るとの政権構想を打ち出し、76年には「自由と民主主義の宣言」という綱領的文書を採択するなど、ソ連型モデルとは異なる社会主義像を提起していた。これらは、この時期の共産党の躍進を生み出す重要な要因であったと思われる。
 2回目の躍進期では、現行の小選挙区比例代表並立制になってから初めての選挙となった96年の第41回総選挙で26議席を獲得した。小選挙区でも京都3区の寺前巌、高知一区の山原健二郎の2人を当選させている。98年の参院選でも15議席を獲得し、非改選議員と合わせて予算を伴う議案提案権を初めて獲得した。
 96年総選挙では、消費税の3%から5%への引き上げが争点となった。また、村山自社さ政権への失望、社会党の社民党への衣替え、民主党の結成など目まぐるしい政党再編などもあって、政治や政党への不信が高まるなかで選挙が実施された。
 とりわけ、共産党は行き場を失った旧社会党支持者の受け皿となることによって、当選者を増やしたように思われる。現に、橋本龍太郎政権の与党であった社民党が15議席減らしたのに対し、野党の中で最も議席を増やした共産党は11議席増となっている。
 この2回と比べれば今回の躍進は控えめなものにすぎず、96年総選挙には議席数で及ばない。比例代表の得票数でも、96年の727万票や2000年の672万票を下回っている。まだ伸びしろがあるということになる。
 ただし、前回の躍進については一時的なもので、共産党を除く「オール与党」現象によって他に投票したい政党がないので共産党に投票している「雨宿り現象」だという説があった。投票したい政党が出てくれば離れていくという見方である。その後の経緯からすれば、これが当たっていた面もあったように思われる。
 これに比べれば、今回の躍進は13年の東京都議選、参院選に続くもので、これが初めてではない。13年7月の都議選では前回の8議席から民主党を上回る17議席を獲得し、都議会第3党、野党では第1党となった。
 その直後に行われた参院選でも、改選3議席から比例5議席、選挙区3議席を獲得し、非改選を含めると11議席となって04年参院選で失った議案提案権を回復した。12年ぶりに選挙区で議席を獲得した東京、大阪、京都では、いずれも民主党と「第三極」を抑えての議席獲得となった。すでに13年の都議選、参院選の時点で、「二大政党づくり」は破綻していたということになる。
 また、今回の躍進はこれまで以上に主体的な努力によって勝ち取ったという側面が強い。たとえば、08年にニコニコ動画に公式チャンネルを設置したり、ツイッターやフェイスブックに公式アカウントを取得したりするなど、ネット選挙を意識した試みが行われていた。インターネット選挙が解禁された前回参院選と今回衆院選での「カクサン部」の活躍などに、これが結びついている。
 さらに、候補者でも個性的で魅力的な若い候補者の発掘に努め、女性候補者も多く擁立し当選させた。雇用問題やブラック企業対策などの若者向け政策を打ち出し、消費税問題でも具体的な対案を掲げた。これらが若者の支持拡大にも大きな力を発揮したように思われる。

(3)社会・労働運動にとっての意味

 このような「第三の躍進」によって14人の新人議員を含む21人の衆院議員が誕生し、共産党は衆参あわせて32人の国会議員団を擁することになった。これは、社会・労働運動にとってどのような意味を持つのだろうか。
 第1に、国会内に強力な援軍を送り込み、これらの議員を通じて国政に直接要求をぶつけ追及することが可能になる。衆院ではこれまで11の常任委員会に委員を置いていたが、法務、農林水産、環境、国家基本、決算行政監視、懲罰の6つの常任委員会には委員がいなかった。これからは17の全常任委員会に委員を配置し、うち内閣、総務、法務、財務金融、文部科学、厚生労働、農林水産、経済産業、国土交通、予算、決算行政監視の11委員会では複数委員を置くことができる。
 特別委員会では9委員会すべてに委員を配置し、うち7委員会で複数委員となった。予算委員会をはじめ、各委員会での質問時間も増え、いままでよりずっと多くの共産党議員が幅広い領域で論戦に参加できるようになる。また、国家基本委員会に志位和夫共産党委員長が所属し、党首討論で安倍首相と一対一で論戦を戦わせることができる。
 第2に、衆院での議席が21議席となったため、参院に続いて衆院でも予算を伴わない議案提案権を獲得した。共産党は13年の参院選の躍進で得た議案提案権を生かしてブラック企業規制法案、秘密保護法廃止法案を提出しているが、ブラック企業規制法案提出後、厚生労働省は4000を超える事業所に是正指導を行った。
 政治を前に動かすこのような活動が、これからは衆院でも行えることになる。そうなれば、各党とも法案への立場を明らかにせざるを得ず、省庁も何らかの対応を迫られることになるだろう。そのような動きについては、我々も『しんぶん赤旗』の報道を通じて知ることができる。
 第3に、様々な場面で社会運動・労働運動と国会活動との連携が進むことだろう。たとえば、大衆運動が問題を提起して議員が国会で追及し、そこでの結果を持ち帰って運動に役立てるという相互の連係プレーが考えられる。
 また、紹介議員を通じての運動関係者と各省庁との交渉や影響力も強まり、要求の伝達や取次など、これまでよりもずっと容易に、また頻繁に行われるようになるだろう。国政調査権を用いて様々な情報へのアクセスも増え、調査能力が格段に向上し、情報の入手と運動関係者への提供などが期待される。議員がマスコミに登場する回数も格段に増えるだろうし、社会的なアピールの度合いもこれまで以上に大きなものとなるにちがいない。
 第4に、今回の躍進は大衆運動と選挙活動との結合によって生まれたものであった。反原発の官邸前集会をはじめ、TPP反対の農民団体との共闘や沖縄での新基地反対運動、労働の規制緩和や社会保障の切り下げに反対する運動など、「デモの復権」ともいわれる大衆運動の復活とそこで形成された共産党とのつながりが、今回の選挙での支持の広がりを生み出したと思われる。
 共産党の吉良佳子参院議員のように、議員になる前から毎回のように脱原発の官邸前集会に出て挨拶をするというような努力を行っている政党が他にあっただろうか。このような地道な努力こそが、それぞれの課題で切実な要求を抱いている関係者の信頼を得て支持の拡大に結びついていった。このような運動と選挙の連携との「好循環」は、今後も重視され継続されるべきだろう。

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