SSブログ

3月5日(木) 総選挙後の情勢と今後の展望(その3) [論攷]

〔以下の論攷は、『月刊全労連』No.217、2015年3月号、に掲載されたものです。4回に分けてアップします。〕

3 今後の展望

(1)安倍政権を待ち受ける難問とジレンマ

 総選挙での「圧勝」にもかかわらず、安倍首相はいくつもの難問に直面し、ジレンマを抱えることになる。その帰趨は決して予断を許さない。だからこそ、足場を固めるための解散・総選挙が必要だったのかもしれない。
 その一つは、沖縄の新基地建設をめぐるジレンマである。辺野古での新基地の建設に反対だという民意は今回の総選挙でもはっきりと示された。名護市長選挙、名護市議選挙、沖縄県知事選挙、そして今回の総選挙と、14年に入ってからの全ての選挙で新基地反対派が勝利している。
 それにもかかわらず、安倍政権は新基地建設を強行しようとしており、政府と沖縄との対立はさらに強まるだろう。その時、アメリカ政府はどう対応するだろうか。内外の批判が高まり、辺野古での新基地建設は無理だと諦めるようなことになれば、安倍政権は窮地に陥ることになる。そのような可能性も皆無ではない。
 もう一つは、TPP(環太平洋経済連携協定)への参加をめぐるジレンマである。中間選挙での共和党の勝利によってオバマ政権は今まで以上に強い態度で出てくる可能性があり、日本に譲歩することは考えられない。かといって、この段階での交渉離脱は政権危機を招き、交渉が妥結したとすれば日本が屈服したことを意味する。例外なしでの関税撤廃やISDS条項の導入など日本の国内市場の全面的な開放がなされ、農業を始め、商業、建設、医療、保険、金融などの分野は壊滅的な打撃を受けることになる。
 地方創生を言いながら、地方の壊滅に向けての扉を開くことになるだろう。このような政策展開は中央政府に抗して故郷を守ろうとする「保守」勢力との矛盾や対立を拡大し、自民党という政党の命取りになる可能性さえ生み出すにちがいない。
 三つめのジレンマは原発再稼働をめぐるものである。福島第1原発の事故は未だ原因も不明で事故は収束していず、放射能漏れを遮断する凍土壁は失敗し、放射能漏れ自体もこれまで発表されていた以上の量に上る。脱原発を求める世論は多数で、再稼働の強行は世論との激突を招くだろう。とりわけ、原発の周辺30キロ以内でありながら発言権を認められない周辺自治体の危惧と反発には強いものがある。
 エネルギーを原発に頼る政策への復帰によって、再生可能エネルギーの軽視や買い入れの停止などの動きも強まっている。太陽光発電などの再生可能エネルギーを新しいビジネスチャンスととらえて取り組んで来た企業や自治体などの反発は大きい。再生可能エネルギーをテコとした循環型経済による地域の活性化を目指してきた動きも封じられ、結局は地方創生の芽を摘むことになるだろう。
 さらに、四つめのジレンマは労働の規制緩和についてのものである。通常国会に労働者派遣法の改正案が出され、ホワイトカラーエグゼンプションの新版である「残業代ゼロ法案」提出の準備も進んでいる。これによって派遣労働が拡大され、労働時間が長くなれば、非正規雇用の拡大、雇用の劣化、過労死・過労自殺やメンタルヘルス不全が蔓延し、経験の蓄積、技能の継承、賃金・労働条件の改善、可処分所得の増大などは望めなくなる。消費不況と少子化は深刻化し、日本企業の国際競争力と経済の成長力は失われるにちがいない。
 当然、女性の社会進出はさらに困難となり、デフレ不況からの脱却は不可能になる。「この道しかない」と言って「成長戦略を力強く前に進め」た結果、自滅への道に分け入ってしまうわけで、これこそが最大のジレンマだと言わなければならない。 

(2)安倍「大惨事」内閣の出発

 昨年末のギリギリになって第2次安倍政権の第3次内閣が発足した。国民にとっては、さらなる暴走によって大事故を引き起こす可能性の高い「大惨事」内閣の出発である。この内閣は、総選挙で確保した衆院での3分の2以上の与党勢力を持っており、「国民の信任」を得たと言い張ってさらなる暴走に出る危険性が高い。
 選挙ではほとんど触れずに隠し通した争点についても、「白紙委任」を得たかのような居直りに出ることだろう。しかし、安倍首相の前途はそれほど容易なものではなく、多くの難問が待ち受けている。
 第1に、「政治とカネ」の問題である。第3次内閣ではただ一人、江渡防衛相だけが再任されなかった。閣僚の椅子の「防衛」に失敗したわけだが、それは「政治とカネ」の問題で野党から追及されていたからである。
 しかし、他の閣僚には「政治とカネ」の問題がないのだろうか。11月末に公表された政治資金収支報告書では、宮沢経産相の「SMバー」の領収書など問題のある使われ方や不実記載などが続々と判明している。今後、通常国会でもこれらの問題が追及されることは避けられない。
 第2に、安倍改造内閣が「目玉」としていた地方創生の問題である。安倍政権がやろうとしていることはアクセルを踏みながら同時にブレーキを踏んでいるようなものだといえる。地方を元気にするためには、地域社会を担っている農家や中小業者、労働者が希望をもって働け、安定した収入が得られるようにしなければならない。しかし、TPPで農産物の関税が下がり、非関税障壁の撤廃ということで中小業者への保護がなくなり、非正規労働が拡大して収入が減れば、地方社会の活力は低下するばかりである。
 安倍首相が行おうとしている財政支出による補助金や公共事業では、地方再生にほとんど効果がないことはこの間の経験で証明済みである。農業の生き残りのためということで「農業改革」を打ち出し、「岩盤規制」に穴を開けようとしているが、結局それは農地の規模拡大と企業の進出によるビジネスチャンスの創出にすぎず、そのために邪魔になるJA全中と農業委員会を弱体化させ、地方社会を実際に担っている農家経営の衰退をもたらし、農村の荒廃を促進するだけだろう。
 第3に、女性の活躍推進という問題である。これについても、安倍内閣が打ち出しているのは「エリート女性」の社会進出とキャリア・アップの支援にすぎない。社会の底辺で差別され、多くの困難を抱えている「ノン・エリート女性」は切り捨てられたままで、雇用改革による非正規労働の拡大はこのような女性の困難をさらに増大させるにちがいない。ひとり親の女性や子育て支援などについても効果的な施策はなく、女性の家事労働時間を減らすためには男性の残業をなくすしかないのに「残業代ゼロ」法案によって労働時間を延ばそうとするなど、まったく逆行していると言うしかない。
 従軍慰安婦問題についての発言にみられるように、安倍首相は女性の人権についても無頓着である。女性活躍推進担当相についても、戦前の教育を再評価して伝統的な子育てに回帰することを推奨する「親学」の信奉者を据えるなど、チグハグさが際立っている。
 第4に、集団的自衛権の行使容認をめぐる問題がある。これから本格的な法案準備のプロセスに入るわけだが、公明党の「壁」、内閣法制局の「壁」、世論の「壁」という「3つの壁」を突破しなければならない。公明党との間では、適用範囲を日本周辺に限るのか、機雷封鎖解除にまで適用するのか、停戦以前でも可能とするのかなどの点についての微妙な「ズレ」が存在している。また、内閣法制局が了承しなければ国会に法案を出せない。これまでの解釈をどこまで変え、それをどのように条文に反映させるのか、法制局の対応が注目される。
 もし、この2つの「壁」を突破することができても、最後の世論の「壁」を突破するのは容易ではないだろう。共産党が勢力を増やした国会で本格的に審議されれば問題点や危険性はいっそう明らかになり、大きな大衆運動が盛り上がるにちがいない。このような運動の盛り上がりによって改定を阻止することが、これからの課題である。

拙著『対決 安倍政権―暴走阻止のために』(学習の友社、定価1300円+税)刊行。
購入ご希望の方は学習の友社http://www.gakusyu.gr.jp/tomosya.htmlまで。


nice!(1)  トラックバック(0) 

nice! 1

トラックバック 0