５月18日（月） 反対票を投じて大阪市を守った市民の良識

　これが民主主義というものなのだ、と橋下徹大阪市長は語っていました。その結果に従い、任期いっぱい市長を務めた後は市長選に立候補せず、政界を去って政治家として復活することはない、とも……。

　橋下徹大阪市長（大阪維新の会代表）が掲げた「大阪市解体構想」についての住民投票の結果が出ました。賛成が69万4844票、反対が70万5585票で、１万741票差で反対が多数となっています。当日有権者数は210万4076人で、投票率は66.83％でした。
　この構想は大阪市を廃止し、５つの特別区に分割して再編するというものでした。反対が多数となった結果、大阪市は廃止されず、政令指定市として存続することになります。
　自らの投票によって、大阪市民は大阪市を守りました。良識の勝利だった言うべきでしょう。

　敗北の要因について、橋下市長は「僕自身に対する批判もあるだろうし、都構想について、しっかり説明できていなかった僕自身の説明不足だと思う」と述べています。この構想は「二重行政」を解消するために大阪市をなくすというものでしたが、その解体後にどのような具体的なメリットが生ずるのか、明らかにすることができなかったということでしょう。
　また、橋下市長の強引なやり方も、市民の投票行動に影響を与えたように見えます。都構想の骨格となる協定書は大阪維新の会がほとんど単独でまとめ、府・市議会でいったん否決されたにもかかわらず、公明党の協力を得て住民投票に持ち込んだという経過がありました。
　この間の水面下での交渉は。昨年の衆院選で公明候補が立つ選挙区に維新が対立候補を擁立しなかったことが背景にあったとみられています。こうした経緯も「裏取引」との批判を招き、投票自体の正当性への疑問を生みました。

　その結果、反対が多数となりましたが、同時に、賛成もほぼ同数に上っています。つまり、市民の中には、現状のままではいけないという意見も約半数あるということになります。
　全国一多い生活保護受給者、11兆円を超す府と市の借金など、大阪が抱える問題には変わりありません。それをどう解決するかは、今後の課題になります。
　基礎自治体のあり方や都道府県との関係などについても、多くの論点が出されています。それらを参考に、今後の地方自治体の改革についての新たな方向性を打ち出すこともこれからの課題となるでしょう。

　住民投票の結果を受けて、維新の党の江田憲司代表は辞任する意向を明らかにしました。近く代表選が行われる見通しで、江田代表は後任に松野頼久幹事長を推す考えを示しています。
　江田さんは辞任の理由として「都構想は維新の原点中の原点だと繰り返し申し上げてきた。（同党の最高顧問の）橋下（徹）さんという稀有（けう）な政治家を引退に追い込んだ。サポートが全く不十分だった。責任を痛感している」と述べています。石原慎太郎、橋下徹に次いで、江田憲司の退場ということになります。
　維新の党の凋落はさらに進み、改憲に向けての応援団としての影響力も低下するにちがいありません。この点でも、今回の結果は国政に大きな影響をもたらすことになりました。

　このように、安倍首相が進めようとしている改憲戦略にも大きな打撃となります。住民投票での維新の敗北は、安倍首相にとっても大きな誤算だったでしょう。
　橋下さんは、「都構想に意義があると総理が言われたのは、僕はうれしくてしょうがなかった」「総理がチャレンジされるのであればすごいことだ」「できることは何でもしたい」「憲法改正は絶対必要。ぜひ（安倍）総理に実現してもらいたい」「（憲法改正の）予行練習ですよ」など述べていました。また、今回の住民投票は一般の選挙に比べて運動はほぼ無制限で、大阪維新の会は広報費用に４億5000万円をつぎこみ、報道は橋下市長に集中し、市主催の住民説明会は橋下市長の独演会になっていました。
　選挙運動の実態はまさに改憲国民投票の「予行練習」の様相を帯びましたが、その結果は否決でした。今後あるかもしれない「お試し改憲」の国民投票でも、同様の結果を出すことは十分可能だということになります。

　このような勝利をもたらした力は、自民党から共産党にいたる反維新「オール大阪」の実現でした。「都構想反対」の一点で力を合わせる共同こそが、大きな力を生んだという点は極めて教訓的です。
　辺野古での「新基地建設反対」で団結した「オール沖縄」に次ぐ、共同の勝利だと言えるでしょう。このような形での共同を、「戦争立法反対」の一点で実現することが今後の課題です。
　この点で、大阪での勝利は国政への大きな示唆を与えるものだと言えます。この「大阪初夏の陣」での勝利こそ、安倍暴走政治阻止に向けての展望を切り開く端緒となるにちがいありません。