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8月22日(月) 市民と野党の共同の発展を願う―参議院選挙をふりかえって(その1) [論攷]

〔以下の論攷は、『雑誌 経済』2016年9月号、に掲載されたものです。2回に分けてアップします。〕

 日本の進路を左右するとして注目されていた参院選です。7月10日に、その投開票が行われました。選挙結果を示すボードに赤い花をつける安倍首相は満面の笑みを浮かべていました。マスメデイアも改憲勢力が3分の2を越したことを大きく報じていました。
 一方、この選挙結果を見て、都知事選挙に手を挙げたのが鳥越俊太郎氏で、野党与党と市民の共闘が実現しました。こうして、あらたなたたかいが開始されたのです。

 目標は達成したけれど

 参院選に際して、安倍首相は与党による改選議席の過半数(61議席)突破という目標を掲げていました。与党の獲得議席は、自民党56議席、公明党14議席で合計70議席でしたから、目標を達成したことは明らかです。それだけでなく、大阪維新の会や無所属などの改憲勢力全体で参院の3分の2の議席を超えました。
 しかし、自民党圧勝であったかといえば、必ずしもそうは言えません。もう一つの悲願であった27年ぶりの単独過半数を回復できなかったからです。選挙後、無所属だった平野元復興相を自民党に入党させて実現しましたが、これは姑息な政治工作によるものでした。
 また、自民党は3年前の2013年参院選と比べて9議席減となっています。比例代表では1議席増となったにもかかわらず、選挙区で10議席を減らしたからです。実は、自民党の議席は衆院で12年総選挙を頂点として14年総選挙で2議席減となり、参院の議席も13年をピークに今回は9議席減っています。自民党の力は衆参両院で下り坂にあるということになります。

 安定志向に助けられたのでは

 自民党の党勢が弱まりつつあり、昨年は「2015年安保闘争」ともいえる市民の運動が高揚したにもかかわらず、どうして自民党は勝ち、野党は安倍首相を追い詰めることができなかったのでしょうか。
 世界的に見ても、アメリカの大統領選挙では既成政治家への不信感が高まって「トランプ現象」や「サンダース現象」が起こり、ヨーロッパでは極右勢力が台頭しています。イギリスでもポピュリズムが強まってEU離脱が決まりました。それなのに日本の安倍政権は国会内と自民党内での「ダブル一強」を維持しています。それは何故でしょうか。
 それには、移民問題の不在や日本周辺の安全保障環境が大きく影響していると考えられます。欧米の先進国に比べて外国からの難民の流入は少なく、大きな社会問題にはなっていません。北朝鮮の核開発やミサイル実験、中国の南シナ海での埋め立て、尖閣諸島周辺での不穏な動きなど、安全保障面で不安をあおるような報道が相次ぎました。
 世界経済の先行きが不透明になり、バングラデシュのテロ事件で日本人が狙われて犠牲になるなど、国民の多くは不安感を抱き安定志向を強めたのではないでしょうか。バブル崩壊以来、長期のデフレ不況に痛めつけられてきた国民は民主党政権に裏切られ、もうこりごりだと思っているところに安倍首相から「あの暗い、停滞した時代に戻っても良いのですか」と言われてひるんでしまったのです。アベノミクスによって得られたというささやかな成果にかすかな期待をつなぎ、その行く末を見極めようとしたのかもしれません。

 「選挙隠し」と「争点隠し」

 これに加えて、今回の参院選は「選挙隠し」「争点隠し」とも言うべき選挙戦術が駆使されました。マスメディアの選挙報道は貧弱で、とりわけテレビからの情報は極端に少ないものでした。選挙権が18歳以上へと70年ぶりに変わった歴史的な国政選挙であったにもかかわらず、ワイドショーがもっぱら報じたのは参院選ではなく都知事選でした。
 事実、調査会社エム・データの集計ではNHKを含む在京地上波テレビの放送時間は2013年の前回参院選より3割近く減っています。情報・ワイドショー番組で民放は6割減だったそうです。安倍政権による懐柔と恫喝によってメディアが委縮して放送を控え、結果的に選挙への関心を低めて「選挙隠し」と「争点隠し」に手を貸すことになりました。
 また、安倍首相による「争点隠し」という選挙戦術も顕著でした。その最たるものは安保関連法や改憲に関わる争点です。「首相が本気で改憲を目指すのであれば、自ら国民に問いかけるべきではないか」(『朝日新聞』11日付)と批判されるように、街頭演説では完全に口をつぐんでしまいました。
 その代わり、安倍首相は都合のよい数字を並べてアベノミクスの成果を誇り、政策を訴えるのではなくネガティブキャンペーンを全開させ、共産党への反感をあおり野党共闘への批判を繰り返しました。このような選挙戦術が一定の効果を上げたことは否めません。
 しかし、争点を隠しきれなかったところでは厳しい審判を受けています。TPP(環太平洋連携協定)への不信が強い北海道や東北・甲信越、東日本大震災や原発被害への対応の遅れが批判を浴びた被災3県、米軍基地被害や辺野古新基地建設が怒りを引き起こした沖縄などでは野党が善戦し、福島と沖縄では現職閣僚が落選しています。

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