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9月17日(土) 「手のひら返し」の「壊憲」暴走を許さない―参院選の結果と憲法運動の課題(その4) [論攷]

〔以下の論攷は、憲法会議の『憲法運動』9月号、に掲載されたものです。4回に分けてアップさせていただきます。〕

4、「護憲+活憲」による憲法運動の発展

*「活憲」による憲法再生と将来ビジョンの構築を

 今から11年前、私は『活憲―「特上の国」をめざして』(山吹書店、2005年)という本を出した。その「はしがき」には、「憲法は護らなければならない。しかし、それだけでいいのか?」という問いと、「護るだけでなく、日々の暮らしに活かすことこそ必要だ」という回答を記している。
 「改憲を阻むだけでは、現実がそのまま残るだけ」であり、「その現実は、長年の『反憲法政治』によって、憲法の理念と大きく乖離してい」るから、それを放置するのではなく、「現実も変えていくことが必要」なのである。これが「活憲」であり、「憲法の基本理念に基づいた政治を実現し、憲法を日々の暮らしに活かすこと」にほかならない。
 憲法を活かし憲法を再生させることによって、本来の可能性を全面的に開花させればどのような明るく素晴らしい未来が開けてくるのかというビジョンを打ち立てる必要がある。こうして、守勢から攻勢へと憲法運動の発展を図ることが求められている。
 そのために必要なことは、憲法についての学習を深めることである。小さなグループで自民党憲法草案と現行憲法との対照表を用いてじっくり比較するのが良いと思う。憲法とはどうあってはならないかを実際に条文化した格好の教材が自民党の憲法草案であり、それと対比しながら各条文の意味や意義を学べば憲法に対する理解が一段と深まるだろう。そのことによって、「壊憲」が生み出す社会の恐ろしさと現行憲法が目指している社会のすばらしさが認識されるにちがいない。
 また、安保法の発動や米軍基地の強化、自衛隊の増強などに反対し、平和を求める9条理念の具体化を図ることである。基本的人権の尊重などの憲法理念についても、その具体化を目指さなければならない。ヘイトクライムや障害者、女性、少数者への差別などに反対して人権を守ること、マスメディアへの介入や規制を許さず報道の自由や知る権利を擁護すること、政治的中立を名目とした集会規制や教育への介入などを許さないこと、非正規労働者の処遇改善やブラックバイトの是正、職場での労働者の権利拡大など、社会生活と労働の各方面における民主主義の確立に努めることである。
 憲法が保障する権利や自由、民主主義が行き渡っていけばどれほど風通しが良く、希望にあふれた社会に変わるのか。そのような展望とビジョンを示さなければならない。憲法が蹂躙されている「今」を告発するだけでなく、それが活かされた場合の「明日」を豊かに描くことによって、はじめて憲法がめざしている社会に向けての夢と希望が湧いてくるにちがいない。

*自衛隊をどう活かすか

 「活憲」の中でも最大の課題は、自衛隊をどう活かすかという問題である。前述したように、改憲には賛成でも9条改憲には反対だという立場や9条改憲に賛成でもそれは自衛隊の国防軍化や外征軍化を阻止するための改憲だという意見がある。このような人々も味方にして「壊憲」阻止勢力を拡大するには、この問題についての回答を示さなければならない。
 そのためには、自衛隊の役割と位置づけを明確にする必要がある。たとえば、「自衛隊を活かす会」は「自衛隊を否定するのでもなく、かといって集団的自衛権や国防軍に走るのでもなく、現行憲法のもとで生まれた自衛隊の役割と可能性を探り、活かす道」を「提言」している。これなどを参考にした政策の緻密化が求められる。
 そもそも、自衛隊は「戦闘部隊」としての性格と「災害救助隊」としての性格という二面性を持っている。前者が主たる任務で後者が副次的任務となっており、将来的にはこれを逆にするべきだが、実際にも「災害救助隊」としての自衛隊の有用性が高まっている。
 阪神・淡路大震災以降、自衛隊は災害救助面で大きな役割を発揮し、東北大震災や熊本地震での活動などもあって副次的任務への評価が増しているという変化がある。自衛隊に入隊する若者の志願動機の多くは「人の役に立ちたい」というもので、それは被災者を救うことにほかならない。
 また、「戦闘部隊」としても、9条に基づく「専守防衛」を国是としてきた自衛隊の任務は外敵による急迫不正の侵害から国土を防衛することであり、海外での任務遂行は前提とされてこなかった。そのような「自衛」隊を海外の戦地に送り、戦闘に巻き込まれるようなリスクを高めてはならないというのが、安保法に反対する論拠の一つであった。
 つまり、安保法の成立による自衛隊の変質への批判と抵抗は、自衛のための戦闘部隊としての位置づけを前提とするものである。そのうえで、自衛隊をどう活かしていくのか。今後、自衛隊の役割と位置づけについての再定義が必要となろう。それは野党共闘による新しい政府が採るべき安保・防衛政策を練り上げていく作業でもある。

*「壁」の高さと「ブレーキ」の効き具合

 衆院憲法審査会の保岡興治会長(自民党)は7月30日までに共同通信のインタビューに答えて、「首相は改憲を主導する立場にない。スケジュールは審査会幹事会の(与野党の)議論を尊重して決める。現時点で明確にしようとしても無理だ」と述べている。改憲に向けての動きが期限を決めて一瀉千里に早まるという状況にはない。
 さし当り、3つの「壁」ないしは「ブレーキ」がある。
 第1には、安倍政権を支える二階俊博幹事長など、改憲消極派の存在である。二階幹事長は憲法改正について「急がば回れだ。慌てたら、しくじる」と述べ、「首相の政治的信条は分かるが、強引にやっていくスタイルは受け入れられない」と指摘している。
 第2には、与党内における公明党の存在である。山口那津男代表は「公明党は『加憲』の立場です」としつつ、「基本的人権の保障が一番の憲法の意義です。それをいたずらに抑制・制限しない統治の仕組みを定めていく」として「壊憲」には反対する立場を明らかにしている(『毎日新聞』2016年8月7日付)。改憲勢力とされるおおさか維新の会も9条改憲を前面に出しているわけではなく、統治機構の再編など「壊憲」とは異なった構想を示している。
 第3には、国民世論の動向がある。世論は改憲に積極的ではなく、安倍政権での憲法改正について「反対」が49%で「賛成」は38%となっている(『日経新聞』2016年7月25日付)。しかも、最終的には国民投票で過半数の賛成を得る必要がある。この世論の「壁」を乗り越えなければ、通常の「改憲」にしても安倍首相が狙う「壊憲」にしても夢物語に終わる。

*民主的政府の下での憲法理念の具体化

 『毎日新聞』の曽我豪編集委員は「実際いま、『3分の2』の側を取材して感じるのは、勝者の高揚感ではなく、困惑や緊張、自省と言った感情である」とし、「大きな図体の維持や運営に失敗すれば、かえって、改憲が遠のくからだろう」と書いている(2016年8月7日付「日曜に想う」)。「浮き」が水面下に引き込まれたのを確認して慎重に竿を引き上げようとしている釣り師のようなものかもしれない。一旦ばらしてしまえば、二度と釣り上げるチャンスが巡ってこないことを良く知っているからだ。
 悲願としてきた「壊憲」の野望を実現する可能性が高まり、安倍首相は「いよいよ着手できる」と胸を高鳴らせているにちがいない。しかし、改憲勢力が3分の2を占めたとは言っても、憲法のどこをどう変えるのかという点については様々で、選挙中の沈黙を破って改憲を無理強いすれば改憲勢力内の不協和音を生み、公明党の反発を強め、野党の批判と国民世論の抵抗を高めるリスクがある。
 安倍首相にすれば、念願の改憲を急ぎたいけれど、さりとて世論の反発を招いて国民投票で否決されるリスクを強めるような冒険は避けたいと考えているにちがいない。ここで求められているのは、慎重に急ぐという難しいかじ取りだ。このジレンマの中でどうするのが最善かを、今、見極めようとしているのではないだろうか。
 安倍首相や「壊憲」勢力の前には「壁」があり、一定の「ブレーキ」も備わっている。その壁がどれほどの高さかは分からない。ブレーキがどれほどの効き具合かは不明である。
 しかし、確かなことは、その壁を高くするのも低くするのも、ブレーキの効き具合を良くするのも悪くするのも、私たちの運動次第だということである。そして、最終的に勝利するのは世論を味方につけた側なのだ。
 「改憲勢力3分の2突破」という報にたじろがず、「危険水域」に入ったことに悲観せず、さりとて自らの力を過信して楽観せず、彼我の力関係を冷静に見極めながら世論に働きかけていく以外にない。このような地道な憲法運動こそが「壊憲」を阻むだけでなく、民主的な政府の下での憲法理念の具体化という「活憲」に向けての新たな地平を拓くにちがいない。

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