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11月13日(日) TPP協議で問われる「拒否できない日本」の交渉力 [TPP]

 野田佳彦首相は昨日の朝、米ハワイでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議などに出席するため羽田空港を出発しました。今日にも、オバマ米大統領と会談して環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉に参加する方針を伝えるものとみられています。

 これに先立って、玄葉外相らはAPECでTPP交渉への参加方針を説明しました。米通商代表部(USTR)のカーク代表はその後の共同記者会見で、日本市場について、①牛肉、②自動車、③かんぽ生命保険――の3分野について「あまたの協議を重ねてきた特別の問題だ」と閉鎖性の強さを指摘し、日本との事前協議で取り上げる意向を示したそうです。
 事前協議に向けて、早速ジャブを繰り出してきたということでしょうか。カーク代表の発言は、アメリカの狙いがどこにあるのかを明瞭に物語っています。
 毎年、アメリカが日本に出してきた年次改革要望書について叙述した関岡英之さんは、その著に『拒否できない日本』という表題をつけました。これからアメリカが突きつけてくる要求を、日本は「拒否」できるのでしょうか。

 昨日の『朝日新聞』の「天声人語」は、「無論、TPP参加が国民のくらしに資するかどうかは、ひとえに交渉力、要は米国にどれほど物が言えるかである。毒にも薬にもなるものを、いかにして日本再生の良薬とするか。本当の試練はそこに尽きる」と書いています。
 これを書いた方は、「拒否できなかった」日本の過去を知らないのでしょうか。これまでとは違いこれからは「物が言える」と確信して、こう書いているのでしょうか。
 その根拠はなんでしょうか。「毒にも薬にもなるもの」を「日本再生の良薬」にできるような交渉力を、日本の政治家や官僚が持っていると考えているのでしょうか。

 そのような交渉力があれば、沖縄の普天間基地移設問題などは、とっくの昔に解決しているでしょう。沖縄県民の望むような形で……。
 そのような交渉力があれば、米軍基地や日米地位協定を始めとした日米安保の異常な実態は、とっくの昔に解消していたはずでしょう。アメリカによる新自由主義や規制緩和の押しつけにも、断固として抵抗できたはずです。
 そのような交渉力があれば、『拒否できない日本』などという本が書かれることもなかったでしょう。このような本が書かれるほどに、アメリカの要求に対して唯々諾々と従ってきたのが、これまでの日本の姿ではありませんか。

 TPPの協議では、「毒」であることが分かっていながら無理やりそれを飲まされるということはないのでしょうか。これまでも、しばしばそうであったように……。
 そのような懸念は杞憂にすぎないと言いたいのは山々ですが、そう言えるだけの根拠がありません。それが、悲しい現実なのです。


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11月12日(土) 国の進路を左右する重大事がこのような誤魔化しで決着させられて良いのか [TPP]

 昨晩、野田首相はついに「火中の栗」を拾いました。しかし、ちょっとした「トリック」によって反対派をたぶらかしながら……。
 こんなことが許されるのでしょうか。党内融和を最優先した玉虫色の誤魔化しで、実質的にTPP参加を強行してしまうようなことが……。

 昨晩の会見で野田首相は、環太平洋経済連携協定(TPP)について「交渉参加に向けて関係国と協議に入ることにした」と表明しました。「TPPへの参加」ではなく「協議に入る」というわけで、協議への参加は、即、TPPに参加することを意味しないというわけです。
 この表明について、民主党の山田正彦前農水相は「ほっとした。交渉参加表明でなく、事前協議(の表明)にとどまった」と評価し、反対派も矛を収めてしまいました。というより、振り上げた拳の落としどころとして、「協議に入る」という妥協案が工夫されたのかもしれません。
 これで、野田さんは米ハワイで開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議でオバマ米大統領らTPP関係国首脳に交渉参加方針を伝え、他方で、民主党内の反対派はTPP参加自体は先送りされたと言い訳できるようになりました。なんという玉虫色、なんという二枚舌でしょうか。

 誤魔化しの極致ではありませんか。このようなたぶらかしの手法によって、日本の進路を左右するにちがいない重大事が決着させられて良いのでしょうか。
 野田首相としては、党内の反対論を抑え、集団離党のような重大事に至らなくてホッとしているでしょう。しかし、これほど国民に対して不誠実なことはありません。
 TPPに参加することが日本のためになるという信念があるなら、どうして正直にそう言わないのでしょうか。国民を説得しようという気概を示さないのでしょうか。

 野田首相のたぶらかしと、それにコロッと騙された(振りをしている?)山田さんなどの反対派の姿を見ていて、内閣不信任案を出されたときの菅首相と鳩山さんの姿を思い出しました。あの時も、民主党内の反対派の動きを抑えるために、菅首相はすぐに辞任するかのようなそぶりを見せて鳩山さんをたぶらかし、不信任案賛成を明言していた鳩山さんはそれにコロッと騙されて矛を収めてしまいました。
 その後、菅さんはのらりくらりと言い逃れ、結局、3ヵ月間も延命に成功したのです。騙された鳩山さんは「ペテン師だ」と強く菅首相を批判しましたが、後の祭りでした。
 この時と同じような「たぶらかしの政治」が、今回もまた繰り返されたようです。しかし、その「たぶらかし」の効果も3ヵ月間しかもたなかったというのも事実です。

 今回は、どうなるのでしょうか。APECで野田首相がオバマ米大統領に会えば、こんなたぶらかしなどはすぐに底が割れてしまうでしょう
 すでに、今日の朝刊各紙は一斉に「TPP参加表明」と報じています。騙された(振りをしている?)のは山田さんだけなのではないでしょうか。


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11月11日(金) 野田首相がTPP参加表明を強行すれば「大火傷」は避けられない [TPP]

 オヤオヤ、というところです。昨日、TPPへの参加を表明すると見られていた野田首相は、「一日ゆっくり考えさせて欲しい」と言って、今日に先延ばししました。

 民主党のプロジェクトチームから「慎重な判断」を求める提言が出されたからです。強行突破をさけて「冷却期間」を設けた方が良いと、興石幹事長や平野国対委員長が助言したといいます。
 野田首相も自信が持てなかったのかもしれません。ポーズだけでも「慎重」さを示しておいた方が得策だと考えたのでしょう。
 それに、今日は衆参の予算委員会で合計7時間もの集中審議があります。参加表明をして集中砲火を浴びるのを避けたということかもしれません。

 しかし、このような小手先の対応では、民主党内に生じた対立を収めることはできないでしょう。「日本もTPP交渉に参加して欲しい」というオバマ米大統領の要請を気軽に引き受けてしまったために、野田さんは進退窮まる苦境に立たされることになりました。
 そもそも、党内に反対が多いのに、参加を強行しようとしていることに無理があります。対立や紛糾が生ずるのは当たり前でしょう。
 その背後には、TPP参加に不安を抱く地方や農家の声があります。それを説得できるような材料も提供せず、安心させようという努力もせずに、一方的な態度表明によって参加を既成事実化しようとするやり方が、さらに大きな反発を生み出す結果になっています。

 何という拙劣さ。何という民意への鈍感さでしょうか。
 「どじょう」のように泥の中に潜っているばかりでは、この危局を打開することは不可能です。当初の見通しが甘かったと言うしかありません。
 よしんば参加表明を強行できたとしても、米議会の承認手続きには90日間要し、その前にも事前協議が必要で、その後交渉に参加しても日本にとって不利な条件や情報が明るみに出る可能性があり、交渉が妥結しても国会で批准されないかもしれません。TPPの発効までには越えなければならない数多くの峰が横わたっており、発効した後にはアメリカ流のルールに基づく日本改造、というより日本破壊が強行されることになるでしょう。

 「火中の栗」を拾おうとして手を出すのをためらっているのが、今の野田首相の姿です。おそらく、今夕にでも手を突っ込んで「栗」を拾うことになるでしょうが、これだけ火の手が強まっているわけですから、「大火傷」をすることは避けられません。

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10月31日(月) TPPへの参加は日本を破滅へと導くことになる [TPP]

 米軍普天間基地の移設問題と並んで、アメリカのオバマ政権に対する野田政権の迎合ぶりを示すもう一つの典型的な例は、TPP(環太平洋経済連携協定)への参加問題です。この問題は野田さんの「ポチ」ぶりを示すにとどまらず、日本をアメリカに売り渡し、破滅へと導くことになるでしょう。

 野田さんはこの問題について11月のAPECホノルル会議を前に結論を出すことを急いでいます。どうしてそんなに急ぐのかと思っていましたら、その答えが27日に判明しました。
 交渉に参加した場合のメリットなどを分析した政府作成の内部文書があり、それは「APECで交渉参加を表明すべき理由」として12年の米大統領選をあげ、「米国はAPECで相当の成果を演出したいと考えている」から、日本が交渉参加を表明すれば「米国は『日本の参加でTPPが本格的なFTA(自由貿易協定)となる』と表明可能」になって大統領の成果になると分析しているそうです。
 何ということでしょうか。急いでいるのは日本の利益になるからではなく、オバマさんを大統領選で有利にさせるためだというのです。オバマ大統領に気に入られたい一心でのTPP参加促進というのですから、呆れかえってしまいます。

 さて、TPPについては、農業分野への影響が甚大であるとされています。政府が10月17日に民主党プロジェクトチームに提出した資料では、「農林水産品(コメ、小麦、砂糖、乳製品、牛肉、豚肉、水産品等)を含む940品目について、関税撤廃を求められる」と明記されています。
 これが実施されれば、日本の農業は壊滅するでしょう。すでに39%にまで低下している食糧自給率はさらに下がり、農村は荒廃し、地方はとめどなく衰退していくことになります。
 もちろん、規模の拡大によるコスト・ダウンや品質の改善による競争力ある農産物の生産などで、一部には生き残る「勝ち組」の農家もあるでしょう。しかし、それは例外に過ぎず、農業全体がそのような形で再生し、全ての農家が生き残る可能性は皆無です。

 日本の国土は狭隘で山地が多く、農地の拡大といっても絶対的な限界があります。広域化によって農業の生き残りを図るなどという夢物語は、山や丘を崩してから言ってもらいたいものです。
 農産物の自由化とそれに対する農業対策の効果にしても、これまでの失敗の歴史をきちんと総括してから主張するべきでしょう。TPPがどれ程の悪影響を及ぼすか、将来のことだから分からないという人は、人間が過去の歴史や経験から学ぶことができるということを忘れています。
 これまで繰り返されてきた農産物の市場開放、たとえば牛肉やオレンジの自由化がどのような結果をもたらしたのか、コメの部分自由化を決めたウルグアイ・ラウンド対策として計上された6兆円もの巨額の対策費が農業を守ることになったのか、過去の経験をしっかりと検証してもらいたいものです。

 ウルグアイ・ラウンド対策費の6兆円は、農道空港や温泉保養施設などに姿を変えてしまいました。これらの対策が効果をあげていれば、今日のような農業の衰退も、農村の荒廃もなかったでしょうに……。
 これから問題にされるのは、コメ、小麦、砂糖、乳製品、牛肉、豚肉、水産品等を含む940品目もの多数に上ります。特定の品目についての部分的な関税撤廃とはわけが違います。
 すでに、日本の農産物の平均関税率は11.7%まで低下しています。それが完全に撤廃されるとなれば、オーストラリアやアメリカ産の安いけれど必ずしも安全ではない農産物によって国内市場は席巻されるにちがいありません。

 しかも、TPPは単に農業の問題にとどまらないという点が重要です。このことは、ようやく最近になって広く理解されるようになってきました。
 サービス業の規制緩和、投資の自由化、労働法制や雇用の問題、公的医療保険制度の解体や医療の営利化、金融など、その対象はきわめて広い分野に及んでいます。それは21分野(24の作業グループを設定)に及び、国境の垣根が低くなってモノやサービス、人の移動が拡大することになるでしょう。
 端的に言って、日本の市場がアメリカによってこじ開けられてしまうというわけです。これまでもアメリカは、日米構造協議や年次改革要望書によって市場開放の圧力をかけ続けてきましたが、TPPという形を借りて、ついに積年の野望を実現しようとしているわけです。

 さて、ここで特に注意しなければならない事柄をいくつか指摘しておきましょう。これらについては、多くの誤解があるからです。
 一つは、今回のTPPには中国や韓国が加わっていないということです。
 二つ目は、多国間交渉のTPPは二国間交渉のFTAやEPAとは基本的な枠組みが異なっているということです。
 三つ目は、いったん交渉に参加すればそこからの離脱は実際には不可能だろうということです。

 第1の中国や韓国の不参加については、ほとんど知られていないというより、なるべくその事実を隠そうとしているかのようです。というのは、TPPに参加しなければ「アジアの成長の波」から取り残されてしまうかのように脅す言説さえあるからです。
 「アジアの成長の波」というのに、その中心である中国はもとより、韓国、台湾、フィリピンなど東アジア諸国も、ASEAN最大のGDPを持つインドネシア、タイやインドも、このTPPには参加していません。逆に、中国に対する経済的な包囲網としての意味合いまで持たせられています。
 つまり、中国を牽制するために日本などを囲い込もうというのが、今回のTPPの狙いの一つなのです。中国を主導力とする「アジアの成長の波」に乗ろうというのであれば、TPPに参加してはならず、それとは違った形で中国や韓国との経済・貿易面での連携を強化するべきなのです。

 第2の経済的連携における多国間交渉と二国間交渉との違いの重要性です。これについても、マスコミはほとんどまともな解説をせず、国民もきちんと理解していません。
 今回のTPPは06年に発効したシンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイ4ヵ国の経済連携協定(EPA)「P4」が母体で、これに、アメリカ、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシアが加わろうということで交渉を進めているものです。11月12~13日のAPEC首脳会議で大筋の合意を図り、来年6月に正規の合意にこぎつけようというわけで、野田首相が参加を決めたいと焦っているのはそのためです。
 多国間の交渉ですから、日本だけの都合でものごとを決めることはできず、たとえ日本には不利であっても多数が合意した共通ルールであれば、それに従わなければなりません。これとは違って、二国間の交渉であればどちらか一方にとって不利になる取り決めには合意できませんから、一方的にルールを押し付けられるということはありません。

 第3の交渉からの離脱については、最近、大きな注目を集めることになりました。不利なルールが決められそうになったら抜ければいいんだというわけです。
 それは理論的には可能ですが、実際にそのようなことをすれば日本に対する国際的な信用はどうなるでしょうか。国際的な信頼低下というリスクを冒してまで、交渉に参加するメリットがあるのか、また、アメリカの意向に逆らって日本政府だけが交渉からの途中離脱を決断できるのか、という問題があります。
 これについて、米国のワイゼル首席交渉官は「真剣に妥結に向かう意志がない国の参加は望んでいない」と指摘して途中離脱をけん制しています。つまり、「入るなら出るな、出るなら入るな」と言っているわけです。

 そもそも、TPPの拡大交渉が政治課題として浮上するようになったのは、これにアメリカが加わる意向を示してからのことです。08年のリーマンショックで経済不況に陥ったアメリカのオバマ大統領が成長著しいアジアに目をつけたからです。
 不況から抜け出すために、工業製品や農産物の輸出を増やして雇用増を図り、得意な金融分野でも海外展開を強化したいというわけです。そのために日本も参加させ、あわよくば積年の市場開放要求を実現しようと狙っているわけです。
 こうして、80年代初頭から始まったアメリカによる対日経済攻勢の最終段階が訪れようとしています。これを阻止できるかどうかが、日本の将来を決することになるでしょう。

 かつて、日米構造協議、市場開放、新自由主義と規制緩和、構造改革こそが日本を救うとして、これらの旗を振った人々がいました。今また、TPPへの参加こそが日本を救うとして、その旗を振っている人々がいます。
 しかし、これらの施策はいずれも貧困を増大させ、格差を拡大して、日本社会をぶっ壊してしまいました。TPPへの参加もまた、そうならないという保証があるのでしょうか。
 少なくとも、新自由主義と規制緩和、構造改革によって大きな失敗を犯した政治家、企業経営者、マスコミ人は、これまでの失敗を真摯に反省するべきでしょう。本来、責任を取って蟄居・謹慎すべきこれらの人々が、再び無責任な言説を振りまくことによって日本を破滅に導くことだけは厳に慎んでもらいたいものです。

 私は以前、野田首相について何をやりたいのか分からず、国家ビジョンも持っていないと批判したことがあります。これは間違いだったのかもしれません。
 野田さんは、ひたすらアメリカに気に入られたいと願い、日本をアメリカの属国にする国家ビジョンを抱いているようです。このような人物に日本の行く末と子ども達の未来をゆだねてしまったのは大きな誤りであり、やがて自民党に次いで民主党に対しても、歴史の審判が下るにちがいありません。

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