8月15日(木) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]
〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』8月15日付に掲載されたものです。〕
*巻頭特集:岸田首相退陣表明 絶望的に選択肢がない自民党の総裁選
他に総裁選への出馬が取りざたされる河野はマイナカード問題で話にならないし、高市早苗経済安保相は総務相時代に テレビ局の「電波停止」に言及した札付きだ。石破は戦争の放棄を明記した憲法9条の2項の削除を求めているし、ま、これはこれの持論としてしょうがないとして、ガックリするのは、閉塞感に覆われている国民が高揚するような「政策」を打ち出せていないことだ。茂木敏充幹事長もパワハラ疑惑にまみれ「政治とカネ」の問題がくすぶったまま。この総裁選は、絶望的な選択肢のなさである。
法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)が言う。
「第2次安倍政権以降の自民党議員は『1強』の総理の歓心を買うため、平和憲法をないがしろにし、どんどん右傾化していきました。その結果、所属議員の多様性が失われていったのです。どの議員も同じような主張を展開していますから、選択肢がないのは当然と言えば当然です。加えて、官邸の顔色をうかがう議員や、世襲が優遇される状況になったことで、全体の質も落ち込んでいる。その結果が裏金事件だと言えます。もはや、自民党は自浄作用が失われており、総裁選を通じた疑似政権交代では何も変わらないでしょう」
*巻頭特集:岸田首相退陣表明 絶望的に選択肢がない自民党の総裁選
他に総裁選への出馬が取りざたされる河野はマイナカード問題で話にならないし、高市早苗経済安保相は総務相時代に テレビ局の「電波停止」に言及した札付きだ。石破は戦争の放棄を明記した憲法9条の2項の削除を求めているし、ま、これはこれの持論としてしょうがないとして、ガックリするのは、閉塞感に覆われている国民が高揚するような「政策」を打ち出せていないことだ。茂木敏充幹事長もパワハラ疑惑にまみれ「政治とカネ」の問題がくすぶったまま。この総裁選は、絶望的な選択肢のなさである。
法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)が言う。
「第2次安倍政権以降の自民党議員は『1強』の総理の歓心を買うため、平和憲法をないがしろにし、どんどん右傾化していきました。その結果、所属議員の多様性が失われていったのです。どの議員も同じような主張を展開していますから、選択肢がないのは当然と言えば当然です。加えて、官邸の顔色をうかがう議員や、世襲が優遇される状況になったことで、全体の質も落ち込んでいる。その結果が裏金事件だと言えます。もはや、自民党は自浄作用が失われており、総裁選を通じた疑似政権交代では何も変わらないでしょう」
2024-08-15 05:59
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8月13日(火) 自民党政治に対する追撃戦――その課題と展望 [コメント]
〔以下の論攷は『全国革新懇ニュース』2024年7・8月合併号、8月10日付、に掲載されたものです〕
首都決戦を戦う力を失った自民党
、
東京都知事選挙は現職の小池百合子知事が292万票を獲得して3選され、同時に実施された都議補選で自民党は2勝6敗となりました。政権党でありながら自民党は首都の首長選挙に独自候補を擁立できず、議員選挙でも敗北しています。自民党は首都で選挙を戦う力を失っていたのです。
また、独自候補を立てる必要性もありませんでした、小池候補に相乗りすればよかったからです。自民党都連は全力支援を打ち出しましたが表面には出ず、「ステルス戦法」を取りました。小池候補が政策論争を避け、政党との関りを避けたことも功を奏したようです。裏金問題で政治不信を高めた都民は、同時に既成政党への不信感も強めていたからです。
このような傾向は無党派層により強いものでした。それが石丸伸二候補にはプラスに、蓮舫候補にはマイナスに働きました。石丸候補がSNSを駆使して選挙戦を展開し、蓮舫候補はこの点で不十分であったことも、無党派や青年層へのアピールという点で明暗を分けました。劇場型選挙への変貌がトリックスターへの注目を強めたのかもしれません。
当選した小池候補の得票は石丸候補166万票と蓮舫候補128万票の合計294万票を下回っていました。石丸候補の選対本部長は元自民党関係者で、小池批判票を分断する役割を演じたことになります。蓮舫候補が属していた立憲民主党の支持団体である連合東京は小池候補を支援しました。このような分断や裏切り行為が蓮舫3位という結果を生み出したことを直視し、厳しく批判しなければなりません。
数々の自民党悪政を追撃するたたかいへ
都知事選の告示直後に通常国会が幕を閉じました。この国会では自民党派閥の裏金事件が焦点となり、改正政治資金規正法が成立しました。日本維新の会との間でひと悶着あったとはいえ、岸田首相の狙い通りの結果です。
しかし、その内容は抜け穴だらけで、企業・団体献金、政治資金パーティー、使途を公開しない政策活動費を温存し、政治資金をさらに不透明にするものでした。今後も「自民党とカネ」、裏金事件の追及を行うことが必要です。法の抜け穴を利用した不正蓄財の根を絶たたなければなりません。
通常国会では、生活や平和を脅かす悪法も次々と成立しました。十分な審議もなく、採決を強行した国会軽視は大きな問題です。暮らしや人権をめぐっては、子育て支援金を社会保険料に上乗せする子供・子育て支援法、永住許可を取り消せるようにした改定入管法・技能実習法、共同親権を導入した改定民法など、安全保障面では、陸海空自衛隊の統合作戦司令部設置を定めた防衛省設置法の改定、武器輸出を可能にする次期戦闘機共同開発条約、特定秘密保護の範囲を経済分野に拡大する経済秘密保護法、国による地方自治体への指示権を導入した改定地方自治法などが成立しました。国民の生活や権利が脅かされないか、その運用に対する監視が必要です。
能登半島地震の復旧・復興の遅れ、物価高の下での国民生活の困難、26か月連続での実質賃金マイナス、マイナ保険証の強硬導入、沖縄での米兵による性的暴行事件の隠ぺいなど、岸田政権の悪政には限りがありません。川崎重工の裏金による利益供与、特定秘密の不適切な扱い、パワハラや潜水手当の不正受給など防衛省・自衛隊の不祥事、自動車大手6社の認証不正やトヨタ系列企業の下請け法違反など企業犯罪も続発しています。岸田政権は末期症状を呈し、自民党内では「岸田下ろし」の動きが始まりました。
解散に追い込んで政権交代を
来年10月には衆院議員の任期が切れ、7月には都議会議員選挙と参院選が行われます。地方選挙で連戦連敗の岸田政権への追撃戦を展開し、解散・総選挙に追い込んで政権交代を実現しなければなりません。
追い込まれた自民党の狙いは「自民党をぶっ壊す」といって自民党を救った「小泉劇場」の再現にあります。それを許さず、野党は通常国会で実現した「反腐敗連合」を継続し、共産党も含む幅広い連携を形成しなければなりません。
とりわけ、地域や地方の草の根から市民のイニシアチブを生かして無党派層や青年層への働きかけを強めることが求められており、この点で革新懇の真価が問われています。今回の都知事選では、主要な駅頭で「ひとり街宣」が数千人にも広がるなど、新しい動きが始まりました。
都議補選では、知事選と結んで各選挙区で野党候補を一本化してたたかいました。足立区で勝利しましたが、多くは議席に結びつけられませんでした。勝利のためには力をさらに合わせることが必要ですが、維新や国民民主党、連合などによる野党勢力内での分断や裏切りを許さず、「活路は共闘にあり」という原則を貫くことが必要です。
14年ぶりに保守党から労働党への政権交代を実現したイギリス、事前の予想を覆して左派の「新人民戦線」が第一党となって極右内閣を阻止したフランスに続きましょう。
政治は動かすことができる、歴史は変えることができるということを、この日本でも実証しようではありませんか。
首都決戦を戦う力を失った自民党
、
東京都知事選挙は現職の小池百合子知事が292万票を獲得して3選され、同時に実施された都議補選で自民党は2勝6敗となりました。政権党でありながら自民党は首都の首長選挙に独自候補を擁立できず、議員選挙でも敗北しています。自民党は首都で選挙を戦う力を失っていたのです。
また、独自候補を立てる必要性もありませんでした、小池候補に相乗りすればよかったからです。自民党都連は全力支援を打ち出しましたが表面には出ず、「ステルス戦法」を取りました。小池候補が政策論争を避け、政党との関りを避けたことも功を奏したようです。裏金問題で政治不信を高めた都民は、同時に既成政党への不信感も強めていたからです。
このような傾向は無党派層により強いものでした。それが石丸伸二候補にはプラスに、蓮舫候補にはマイナスに働きました。石丸候補がSNSを駆使して選挙戦を展開し、蓮舫候補はこの点で不十分であったことも、無党派や青年層へのアピールという点で明暗を分けました。劇場型選挙への変貌がトリックスターへの注目を強めたのかもしれません。
当選した小池候補の得票は石丸候補166万票と蓮舫候補128万票の合計294万票を下回っていました。石丸候補の選対本部長は元自民党関係者で、小池批判票を分断する役割を演じたことになります。蓮舫候補が属していた立憲民主党の支持団体である連合東京は小池候補を支援しました。このような分断や裏切り行為が蓮舫3位という結果を生み出したことを直視し、厳しく批判しなければなりません。
数々の自民党悪政を追撃するたたかいへ
都知事選の告示直後に通常国会が幕を閉じました。この国会では自民党派閥の裏金事件が焦点となり、改正政治資金規正法が成立しました。日本維新の会との間でひと悶着あったとはいえ、岸田首相の狙い通りの結果です。
しかし、その内容は抜け穴だらけで、企業・団体献金、政治資金パーティー、使途を公開しない政策活動費を温存し、政治資金をさらに不透明にするものでした。今後も「自民党とカネ」、裏金事件の追及を行うことが必要です。法の抜け穴を利用した不正蓄財の根を絶たたなければなりません。
通常国会では、生活や平和を脅かす悪法も次々と成立しました。十分な審議もなく、採決を強行した国会軽視は大きな問題です。暮らしや人権をめぐっては、子育て支援金を社会保険料に上乗せする子供・子育て支援法、永住許可を取り消せるようにした改定入管法・技能実習法、共同親権を導入した改定民法など、安全保障面では、陸海空自衛隊の統合作戦司令部設置を定めた防衛省設置法の改定、武器輸出を可能にする次期戦闘機共同開発条約、特定秘密保護の範囲を経済分野に拡大する経済秘密保護法、国による地方自治体への指示権を導入した改定地方自治法などが成立しました。国民の生活や権利が脅かされないか、その運用に対する監視が必要です。
能登半島地震の復旧・復興の遅れ、物価高の下での国民生活の困難、26か月連続での実質賃金マイナス、マイナ保険証の強硬導入、沖縄での米兵による性的暴行事件の隠ぺいなど、岸田政権の悪政には限りがありません。川崎重工の裏金による利益供与、特定秘密の不適切な扱い、パワハラや潜水手当の不正受給など防衛省・自衛隊の不祥事、自動車大手6社の認証不正やトヨタ系列企業の下請け法違反など企業犯罪も続発しています。岸田政権は末期症状を呈し、自民党内では「岸田下ろし」の動きが始まりました。
解散に追い込んで政権交代を
来年10月には衆院議員の任期が切れ、7月には都議会議員選挙と参院選が行われます。地方選挙で連戦連敗の岸田政権への追撃戦を展開し、解散・総選挙に追い込んで政権交代を実現しなければなりません。
追い込まれた自民党の狙いは「自民党をぶっ壊す」といって自民党を救った「小泉劇場」の再現にあります。それを許さず、野党は通常国会で実現した「反腐敗連合」を継続し、共産党も含む幅広い連携を形成しなければなりません。
とりわけ、地域や地方の草の根から市民のイニシアチブを生かして無党派層や青年層への働きかけを強めることが求められており、この点で革新懇の真価が問われています。今回の都知事選では、主要な駅頭で「ひとり街宣」が数千人にも広がるなど、新しい動きが始まりました。
都議補選では、知事選と結んで各選挙区で野党候補を一本化してたたかいました。足立区で勝利しましたが、多くは議席に結びつけられませんでした。勝利のためには力をさらに合わせることが必要ですが、維新や国民民主党、連合などによる野党勢力内での分断や裏切りを許さず、「活路は共闘にあり」という原則を貫くことが必要です。
14年ぶりに保守党から労働党への政権交代を実現したイギリス、事前の予想を覆して左派の「新人民戦線」が第一党となって極右内閣を阻止したフランスに続きましょう。
政治は動かすことができる、歴史は変えることができるということを、この日本でも実証しようではありませんか。
2024-08-13 05:48
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8月11日(日) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]
〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』8月11日付に掲載されたものです。〕
*巻頭特集:「予知」が無理でもやることは山のようにあるだろう 政府も地震学者も「やっているふり」
■備えを求めるなら原発をまず止めてくれ
震災の「予知」は無理でも、政府が今やるべきことは山のようにある。南海トラフ巨大地震の被災想定地域は「原発銀座」だ。
今回の注意情報の対象エリアには中部電力・浜岡原発、四国電力・伊方原発、九州電力・川内原発が林立する。うち浜岡1、2号機と伊方1、2号機は廃炉作業中。浜岡3~5号機、伊方3号機、川内1号機は定期検査のため停止中で、川内2号機は今も運転中である。法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)は、こう言った。
「国民に巨大地震への備えを求める以上、政府も大きなリスクである原発を停止するのが自然な流れのはず。能登半島地震で石川の志賀原発は難を逃れたとはいえ、半島部の住民避難リスクが露呈しました。伊方原発も愛媛県の半島部の山あいにあり、巨大地震のリスク対策は不十分。いざ事故発生後に巨大地震で道路が寸断すれば住民は逃げ場を失い、津波が襲えば船での避難の道も絶たれてしまいます。福島の未曽有の事故を経験した地震大国にとって、原発再稼働は棄民政策としか言いようがないのです」
東日本大震災と原発事故から13年以上が経過したが、今も約2万6000人の福島県民が県内外での避難生活を余儀なくされている。放射能汚染で故郷を奪われた人々の悲しみを決して忘れてはいけない。
「日本の国土はいつ、どこで巨大地震が発生してもおかしくない。防衛よりも防災が大事で、戦艦よりも病院船、戦車よりもトイレトレーラーが必要なのに、岸田政権は“台湾有事”を前提とした空想的軍国主義に傾斜。現実的な危機対応能力が欠落しています。せめてイタリアのように災害発生から72時間以内に設置し、快適に過ごせる避難所の充実に予算を割いて欲しいものですが、軍拡路線はその余力を失わせるだけ。避難所暮らしの肉体的、精神的ストレスから多数の震災関連死を招く地震大国の被災者切り捨ては、永久に放置されたままです」(五十嵐仁氏=前出)
阪神・淡路、中越、東日本、熊本、そして能登--。この国は過去30年で巨大地震をいくつも経験してきた。国民の犠牲と引き換えに得た教訓を生かそうとしない「やっているふり」のボンクラは、それだけで首相を続ける価値ナシだ。
*巻頭特集:「予知」が無理でもやることは山のようにあるだろう 政府も地震学者も「やっているふり」
■備えを求めるなら原発をまず止めてくれ
震災の「予知」は無理でも、政府が今やるべきことは山のようにある。南海トラフ巨大地震の被災想定地域は「原発銀座」だ。
今回の注意情報の対象エリアには中部電力・浜岡原発、四国電力・伊方原発、九州電力・川内原発が林立する。うち浜岡1、2号機と伊方1、2号機は廃炉作業中。浜岡3~5号機、伊方3号機、川内1号機は定期検査のため停止中で、川内2号機は今も運転中である。法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)は、こう言った。
「国民に巨大地震への備えを求める以上、政府も大きなリスクである原発を停止するのが自然な流れのはず。能登半島地震で石川の志賀原発は難を逃れたとはいえ、半島部の住民避難リスクが露呈しました。伊方原発も愛媛県の半島部の山あいにあり、巨大地震のリスク対策は不十分。いざ事故発生後に巨大地震で道路が寸断すれば住民は逃げ場を失い、津波が襲えば船での避難の道も絶たれてしまいます。福島の未曽有の事故を経験した地震大国にとって、原発再稼働は棄民政策としか言いようがないのです」
東日本大震災と原発事故から13年以上が経過したが、今も約2万6000人の福島県民が県内外での避難生活を余儀なくされている。放射能汚染で故郷を奪われた人々の悲しみを決して忘れてはいけない。
「日本の国土はいつ、どこで巨大地震が発生してもおかしくない。防衛よりも防災が大事で、戦艦よりも病院船、戦車よりもトイレトレーラーが必要なのに、岸田政権は“台湾有事”を前提とした空想的軍国主義に傾斜。現実的な危機対応能力が欠落しています。せめてイタリアのように災害発生から72時間以内に設置し、快適に過ごせる避難所の充実に予算を割いて欲しいものですが、軍拡路線はその余力を失わせるだけ。避難所暮らしの肉体的、精神的ストレスから多数の震災関連死を招く地震大国の被災者切り捨ては、永久に放置されたままです」(五十嵐仁氏=前出)
阪神・淡路、中越、東日本、熊本、そして能登--。この国は過去30年で巨大地震をいくつも経験してきた。国民の犠牲と引き換えに得た教訓を生かそうとしない「やっているふり」のボンクラは、それだけで首相を続ける価値ナシだ。
2024-08-11 06:39
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8月10日(土) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]
〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』8月10日付に掲載されたものです。〕
*記事:「南海トラフ巨大地震注意」の中途半端 宮崎震度6弱で初発表も…“出さないよりマシ”なレベル
■岸田政権の防災への「答え」
「巨大地震注意」は、「日頃からの地震への備えを再確認してください」(平田会長)ということに尽きる。地震発生直後から民放各社は特番に切り替え、初の「臨時情報」の発表に固唾をのんでいたが、何のことはない、ただの注意喚起に過ぎなかった。
せいぜい警戒感を強めるキッカケにはなるが、それ以上でも以下でもない。「巨大地震注意」について、気象庁の担当者は会見で「防災対策を個人レベルでも、社会レベルでも見直す契機にして欲しい」と訴えていた。まあ「出さないよりマシ」なレベルだ。
「これが防災・減災を主要政策に掲げる岸田政権の『答え』です。いかに無策か。『危ない』と注意喚起するだけでは、住民も困惑するだけです。実は政府も南海トラフにどう対処していいか、分かっていないのではないか。岸田政権は有事対応をしきりに強調しますが、自然災害だって有事です。軍事的な文脈だけを有事だと思っているのでしょうか。軍事強化に偏重するより、もっと防災にカネと労力をかけるべきです」(法大名誉教授・五十嵐仁氏=政治学)
*記事:「南海トラフ巨大地震注意」の中途半端 宮崎震度6弱で初発表も…“出さないよりマシ”なレベル
■岸田政権の防災への「答え」
「巨大地震注意」は、「日頃からの地震への備えを再確認してください」(平田会長)ということに尽きる。地震発生直後から民放各社は特番に切り替え、初の「臨時情報」の発表に固唾をのんでいたが、何のことはない、ただの注意喚起に過ぎなかった。
せいぜい警戒感を強めるキッカケにはなるが、それ以上でも以下でもない。「巨大地震注意」について、気象庁の担当者は会見で「防災対策を個人レベルでも、社会レベルでも見直す契機にして欲しい」と訴えていた。まあ「出さないよりマシ」なレベルだ。
「これが防災・減災を主要政策に掲げる岸田政権の『答え』です。いかに無策か。『危ない』と注意喚起するだけでは、住民も困惑するだけです。実は政府も南海トラフにどう対処していいか、分かっていないのではないか。岸田政権は有事対応をしきりに強調しますが、自然災害だって有事です。軍事的な文脈だけを有事だと思っているのでしょうか。軍事強化に偏重するより、もっと防災にカネと労力をかけるべきです」(法大名誉教授・五十嵐仁氏=政治学)
2024-08-10 09:26
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8月9日(金) 『しんぶん赤旗』に掲載されたコメント [コメント]
〔以下のコメントは『しんぶん赤旗』8月8日付に掲載されたものです。〕
献金業界融通する自民政治
自民党がもっている〝宿痾〟の一つが金権化です。それには自民党政治の構造と国会議員の意識という二つの背景があります。
自民党は大企業べったりで、財界に頼りきって政治を運営してきました。当然のように企業に対して献金を求め、裏金をつくる。それを選挙などでばらまいて権力を維持する構造ができています。
岸田首相は「自民党の政策判断は献金には左右されない」と言いますが、政治の実態を見ればそうでないことが分かります。大手の製造業や金融業は政策的に支援されています。一方で、教育、保育、介護など福祉への政策支援は不十分です。自民党への献金で手厚く保護され、支援されている業界と、そうではない業界にわかれているのです。
意識の点でも、裏金事件への対応を見ると、倫理規範、順法精神が腐ってしまっていると言わざるを得ません。個々の政治家の堕落には、安倍政権以降顕著になった憲法軽視、民主主義破壊、ルール無視が影響していることは間違いないでしょう。
献金業界融通する自民政治
自民党がもっている〝宿痾〟の一つが金権化です。それには自民党政治の構造と国会議員の意識という二つの背景があります。
自民党は大企業べったりで、財界に頼りきって政治を運営してきました。当然のように企業に対して献金を求め、裏金をつくる。それを選挙などでばらまいて権力を維持する構造ができています。
岸田首相は「自民党の政策判断は献金には左右されない」と言いますが、政治の実態を見ればそうでないことが分かります。大手の製造業や金融業は政策的に支援されています。一方で、教育、保育、介護など福祉への政策支援は不十分です。自民党への献金で手厚く保護され、支援されている業界と、そうではない業界にわかれているのです。
意識の点でも、裏金事件への対応を見ると、倫理規範、順法精神が腐ってしまっていると言わざるを得ません。個々の政治家の堕落には、安倍政権以降顕著になった憲法軽視、民主主義破壊、ルール無視が影響していることは間違いないでしょう。
2024-08-09 06:34
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8月3日(土) 戦後史における自民党政治―その罪と罰を考える(その3) [論攷]
〔以下の論攷は『学習の友 別冊 2024』「自民党政治を根本から変えよう」に掲載されたものです。3回に分けてアップさせていただきます〕
旧傍流右派路線の全面開花としての第2次安倍政権
中曽根政権による「戦後政治の総決算」路線は、安倍元首相による「戦後レジームからの脱却」路線へと継承されます。中曽根による「戦後政治」も、安倍が言う「戦後レジーム」も、戦後憲法を前提にした統治スタイルを選択した保守本流路線のことでした。その「総括」や「脱却」をめざした両者に共通するのは、憲法に対する敵視と侮蔑です。中曽根元首相は「マック(マッカーサー)憲法」と呼び、安倍元首相は「みっともない憲法」だと軽蔑していました。
また、国際的役割の重視とアメリカ追随、軍事大国化や戦前回帰という点でも共通しています。中曽根元首相の「国際国家論」は、国際社会における発言力の増大、国際関係における積極性・能動性の発揮、「西側の一員」としての責任分担などでした。これらは「同盟国・同志国」における軍事分担論に基づく集団的自衛権の行使容認をめざした第2次安倍政権に受け継がれ、平和安保法制(戦争法)の成立に結びつきます。
さらに、ボトムアップ型の政策形成や官僚主導への嫌悪、ブレーンなどの利用や権力主義的な政治手法などでも共通していました。中曽根元首相は審議会を多用して「新議会」政治と批判され、安倍元首相も有識者会議や閣議決定を優先し、国会審議をスルーしました。いずれも「国会の空洞化」を生み出し、議会制民主主義を踏みにじるものです。
統一協会と深く癒着していたという点でも、両者には大きな共通性があります。615巻もある文鮮明発言録で最も多く名前が出てくるのは中曽根康弘の名前で、大勝した86年衆参同時選挙では中曽根勝利のために60億円以上もつぎ込んで支援していました。安倍首相も統一協会の広告塔として大きな役割を演じ、そのために狙われ凶弾に倒れています。
少数者の権利や人権、ジェンダー平等に無関心であることはどの自民党政権にも共通する弱点ですが、戦前回帰を目指して靖国神社を参拝するなど中曽根と安倍は抜きんでています。中曽根首相は1985年8月15日に戦後初の公式参拝を行い、安倍元首相も2013年12月に参拝してアメリカから「失望している」と批判されました。
岸田政権による安倍政治の拡大再生産――右傾化・強権化・腐敗の継承
岸田首相が会長だった宏池会は吉田茂の愛弟子である池田勇人によって創設された本流派閥の代表でした。しかし、今では旧傍流右派の軍門に下り、改憲・大軍拡の先兵になっています。岸田政権は宏池会出身というリベラルの仮面を意識的に悪用し、安倍政治を拡大再生産していることに注意しなければなりません。
その第1は、突出した改憲志向です。任期中に明文改憲を行いたいとの安倍元首相の野望を受け継ぎ、憲法審査会で改憲支持政党による条文案の作成などを画策しました。同時に、重要経済安保情報保護法(経済安保情報法)や改定防衛省設置法、改定地方自治法、武器輸出を可能にする次期戦闘機共同開発条約など、憲法9条に反する実質改憲を推し進めています。経済安保情報法は安倍元首相が成立させた特定秘密保護法を民間分野に拡大するものですが、そのルーツは中曽根元首相が提出して廃案となったスパイ防止法案にあります。
第2は、着々と進められている従米・軍事大国化です。過去の政権は憲法を盾にアメリカからの要求を拒もうとする姿勢がありましたが、岸田政権はアメリカからの要求を受け入れるために憲法を変えようとしています。真逆とも言える変質です。中曽根元首相は軍事費のGNP比1%枠突破、安倍元首相は集団的自衛権の一部行使容認、岸田首相は5年間で国内総生産(GDP)比2%を上回る43兆円の大軍拡を打ち出し、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を目指しています。「盾」だけでなく「矛」としての役割分担、専守防衛の変更、グローバル・パートナーシップに基づく日米一体となったシームレス(切れ目のない)な統合戦略などは、戦後安全保障政策の根本的な転換にほかなりません
第3は、経済無策による国民生活の破壊です。安倍政権が推し進めた新自由主義的なアベノミクスと異次元の金融緩和によって円安が進み、物価高で国民はかつてない生活難に直面しました。経済政策重視を掲げて「所得倍増」などを打ち出したかつての保守本流の姿はどこにもありません。岸田首相も当初は「新しい資本主義」や「資産倍増」などを口にしていましたが。軍拡のための増税や子育て支援を名目にした社会保険料の増額、実質賃金の減少や年金の目減りなどによって国民負担率の増加が続いています。
第4は、「聞く力」によってカモフラージュされた民意の無視です。コンセンサスを重視した保守本流派閥にはもっと国民や野党の声を意識し尊重する姿勢がありました。今では、ことさら「聞く力」を強調せざるを得ないほどに、民意の無視が際立っています。その「耳」がどれほどのものであるかは、沖縄・辺野古での新基地建設推進、インボイスの強行実施、マイナカードの押し付けとマイナ保険証への切り替え強要、「いのち輝く」どころか「いのち危うく」になりそうな大阪・関西万博の開催、水俣病患者団体との懇談会でのマイクオフなど、私たちが目にしている通りです。
第5は、金権腐敗の極致としての裏金事件です。過去の自民党は、企業・団体献金の問題性をそれなりに認識していました。だから政治改革関連法によって個人向けの献金は禁止し、政党向けの献金も5年以内の禁止を飲んだのです。しかし、これは実施されず企業・団体献金はもとより、政治資金パーティ―や政策活動費についても温存しようとしています。金権腐敗政治にどっぷりとつかり、そこから抜け出す意志さえ失った腐敗政党へと変質してしまったのです。
むすび―罰を与えるのは主権者としての国民
自民党は80年代中葉に反憲法政治へと転じ、平和・安全・生活・営業・人権を破壊する悪政を続けながらも、「疑似政権交代」によって権力の座に居座り続けてきました。その最大の罪は政権交代のある民主主義を阻害し続けてきたことにあります。自民党が犯してきた数々の罪に対して、今こそきっちりとした罰を与えなければなりません。
ただし、自民党が犯した罪に対して全く罰が与えられなかったわけではありません。過去において危機に瀕した自民党は派閥間の抗争や「振り子の論理」によってあたかも政権交代したかのような外見を凝らすことで国民の目を欺き、2勝2敗の結果を残しています。危機は自動的に政権交代に結びつくわけではなく、国民の運動や選挙による審判がなければ生き延びてしまうのです。
裏金事件で自民党による宿痾の温存と自浄能力のなさが明らかになりました。党改革や政治改革は中途半端に終わり、金権化と腐敗が存続し、右傾化・金券化・世襲化という重病を治療する力を失っています。自らの力で治癒できないのであれば、国民の力で治療するほかありません。
宿痾を克服するチャンスを与えるのは、自民党がまともな政党に生まれ変わるためでもあります。国会の中で解決できないのであれば、国会の外で決着をつけるしかないのです。次の総選挙がその機会となるでしょう。それまでのあらゆる選挙で自民党とそれに連なる候補者に「ノー」を突き付けることが必要です。
自民党がこれまで犯してきた数々の罪に対して、はっきりとした罰を与えなければなりません。政権交代という形での明確な罰を。最近の世論調査に示されているように、国民もそれを望んでいるのではないでしょうか。政権担当者を交代させることこそ、生殺与奪の権を握っている主権者としての国民の役割であり権利なのですから。(文中敬称略)
旧傍流右派路線の全面開花としての第2次安倍政権
中曽根政権による「戦後政治の総決算」路線は、安倍元首相による「戦後レジームからの脱却」路線へと継承されます。中曽根による「戦後政治」も、安倍が言う「戦後レジーム」も、戦後憲法を前提にした統治スタイルを選択した保守本流路線のことでした。その「総括」や「脱却」をめざした両者に共通するのは、憲法に対する敵視と侮蔑です。中曽根元首相は「マック(マッカーサー)憲法」と呼び、安倍元首相は「みっともない憲法」だと軽蔑していました。
また、国際的役割の重視とアメリカ追随、軍事大国化や戦前回帰という点でも共通しています。中曽根元首相の「国際国家論」は、国際社会における発言力の増大、国際関係における積極性・能動性の発揮、「西側の一員」としての責任分担などでした。これらは「同盟国・同志国」における軍事分担論に基づく集団的自衛権の行使容認をめざした第2次安倍政権に受け継がれ、平和安保法制(戦争法)の成立に結びつきます。
さらに、ボトムアップ型の政策形成や官僚主導への嫌悪、ブレーンなどの利用や権力主義的な政治手法などでも共通していました。中曽根元首相は審議会を多用して「新議会」政治と批判され、安倍元首相も有識者会議や閣議決定を優先し、国会審議をスルーしました。いずれも「国会の空洞化」を生み出し、議会制民主主義を踏みにじるものです。
統一協会と深く癒着していたという点でも、両者には大きな共通性があります。615巻もある文鮮明発言録で最も多く名前が出てくるのは中曽根康弘の名前で、大勝した86年衆参同時選挙では中曽根勝利のために60億円以上もつぎ込んで支援していました。安倍首相も統一協会の広告塔として大きな役割を演じ、そのために狙われ凶弾に倒れています。
少数者の権利や人権、ジェンダー平等に無関心であることはどの自民党政権にも共通する弱点ですが、戦前回帰を目指して靖国神社を参拝するなど中曽根と安倍は抜きんでています。中曽根首相は1985年8月15日に戦後初の公式参拝を行い、安倍元首相も2013年12月に参拝してアメリカから「失望している」と批判されました。
岸田政権による安倍政治の拡大再生産――右傾化・強権化・腐敗の継承
岸田首相が会長だった宏池会は吉田茂の愛弟子である池田勇人によって創設された本流派閥の代表でした。しかし、今では旧傍流右派の軍門に下り、改憲・大軍拡の先兵になっています。岸田政権は宏池会出身というリベラルの仮面を意識的に悪用し、安倍政治を拡大再生産していることに注意しなければなりません。
その第1は、突出した改憲志向です。任期中に明文改憲を行いたいとの安倍元首相の野望を受け継ぎ、憲法審査会で改憲支持政党による条文案の作成などを画策しました。同時に、重要経済安保情報保護法(経済安保情報法)や改定防衛省設置法、改定地方自治法、武器輸出を可能にする次期戦闘機共同開発条約など、憲法9条に反する実質改憲を推し進めています。経済安保情報法は安倍元首相が成立させた特定秘密保護法を民間分野に拡大するものですが、そのルーツは中曽根元首相が提出して廃案となったスパイ防止法案にあります。
第2は、着々と進められている従米・軍事大国化です。過去の政権は憲法を盾にアメリカからの要求を拒もうとする姿勢がありましたが、岸田政権はアメリカからの要求を受け入れるために憲法を変えようとしています。真逆とも言える変質です。中曽根元首相は軍事費のGNP比1%枠突破、安倍元首相は集団的自衛権の一部行使容認、岸田首相は5年間で国内総生産(GDP)比2%を上回る43兆円の大軍拡を打ち出し、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を目指しています。「盾」だけでなく「矛」としての役割分担、専守防衛の変更、グローバル・パートナーシップに基づく日米一体となったシームレス(切れ目のない)な統合戦略などは、戦後安全保障政策の根本的な転換にほかなりません
第3は、経済無策による国民生活の破壊です。安倍政権が推し進めた新自由主義的なアベノミクスと異次元の金融緩和によって円安が進み、物価高で国民はかつてない生活難に直面しました。経済政策重視を掲げて「所得倍増」などを打ち出したかつての保守本流の姿はどこにもありません。岸田首相も当初は「新しい資本主義」や「資産倍増」などを口にしていましたが。軍拡のための増税や子育て支援を名目にした社会保険料の増額、実質賃金の減少や年金の目減りなどによって国民負担率の増加が続いています。
第4は、「聞く力」によってカモフラージュされた民意の無視です。コンセンサスを重視した保守本流派閥にはもっと国民や野党の声を意識し尊重する姿勢がありました。今では、ことさら「聞く力」を強調せざるを得ないほどに、民意の無視が際立っています。その「耳」がどれほどのものであるかは、沖縄・辺野古での新基地建設推進、インボイスの強行実施、マイナカードの押し付けとマイナ保険証への切り替え強要、「いのち輝く」どころか「いのち危うく」になりそうな大阪・関西万博の開催、水俣病患者団体との懇談会でのマイクオフなど、私たちが目にしている通りです。
第5は、金権腐敗の極致としての裏金事件です。過去の自民党は、企業・団体献金の問題性をそれなりに認識していました。だから政治改革関連法によって個人向けの献金は禁止し、政党向けの献金も5年以内の禁止を飲んだのです。しかし、これは実施されず企業・団体献金はもとより、政治資金パーティ―や政策活動費についても温存しようとしています。金権腐敗政治にどっぷりとつかり、そこから抜け出す意志さえ失った腐敗政党へと変質してしまったのです。
むすび―罰を与えるのは主権者としての国民
自民党は80年代中葉に反憲法政治へと転じ、平和・安全・生活・営業・人権を破壊する悪政を続けながらも、「疑似政権交代」によって権力の座に居座り続けてきました。その最大の罪は政権交代のある民主主義を阻害し続けてきたことにあります。自民党が犯してきた数々の罪に対して、今こそきっちりとした罰を与えなければなりません。
ただし、自民党が犯した罪に対して全く罰が与えられなかったわけではありません。過去において危機に瀕した自民党は派閥間の抗争や「振り子の論理」によってあたかも政権交代したかのような外見を凝らすことで国民の目を欺き、2勝2敗の結果を残しています。危機は自動的に政権交代に結びつくわけではなく、国民の運動や選挙による審判がなければ生き延びてしまうのです。
裏金事件で自民党による宿痾の温存と自浄能力のなさが明らかになりました。党改革や政治改革は中途半端に終わり、金権化と腐敗が存続し、右傾化・金券化・世襲化という重病を治療する力を失っています。自らの力で治癒できないのであれば、国民の力で治療するほかありません。
宿痾を克服するチャンスを与えるのは、自民党がまともな政党に生まれ変わるためでもあります。国会の中で解決できないのであれば、国会の外で決着をつけるしかないのです。次の総選挙がその機会となるでしょう。それまでのあらゆる選挙で自民党とそれに連なる候補者に「ノー」を突き付けることが必要です。
自民党がこれまで犯してきた数々の罪に対して、はっきりとした罰を与えなければなりません。政権交代という形での明確な罰を。最近の世論調査に示されているように、国民もそれを望んでいるのではないでしょうか。政権担当者を交代させることこそ、生殺与奪の権を握っている主権者としての国民の役割であり権利なのですから。(文中敬称略)
2024-08-03 05:55
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8月2日(金) 戦後史における自民党政治―その罪と罰を考える(その2) [論攷]
〔以下の論攷は『学習の友 別冊 2024』「自民党政治を根本から変えよう」に掲載されたものです。3回に分けてアップさせていただきます〕
保守政治の転換点としての中曽根政権
自民党内の3つの潮流は同じような力関係で推移したわけではありません。とりわけ、保守本流と傍流右派の力関係は1980年代中葉に大きく変化します。1982年から87年までの中曽根政権時代に、保守本流と傍流右派の力関係が逆転し始めるからです。
中曽根首相は憲法改正を含む占領政策の是正という改進党の政策大綱を1952年に起草し、56年には「この憲法のある限り無条件降伏続くなり」という「憲法改正の歌」を作詞していました。政治家となった最初から、一貫して明確な明文改憲論者だったのです。首相時代にも自分の内閣ではタイムテーブルに載せないと断りつつ、憲法改正の必要性を主張していました。
対外政策では、「国際国家論」を掲げて対米忖度従属路線を選択し、就任早々に訪韓して悪化していた軍事政権との関係を修復しました。「日米両国は運命共同体」だとして日本列島不沈空母論、3海峡封鎖、シーレーン防衛などを唱え、GNP比1%枠の突破など軍事力強化の方向を打ち出し、戦後の首相として初めて靖国神社を参拝するなど復古的な言動も目立ちました。このような憲法の平和主義に反する軍事大国化の方向は後継政権に引き継がれ、岸田政権の大軍拡路線で全面開花することになります。
中曽根首相は「戦後政治の総決算」を掲げましたが、その真意は保守本流路線への挑戦にありました。実際には戦後(保守本流)政治の総決算であり、これによって国の富を軍事ではなく経済や産業の育成、福祉などの民生に振り向ける「9条の経済効果」は薄れていきます。80年代をピークに、バブル経済がはじけるとともに高度経済成長は幕を閉じ、90年代以降、国力を衰退させる下り坂を歩み始めることになります。
新自由主義の全盛期としての小泉政権
1986年の「死んだふり解散」によって中曽根首相は大勝し、総裁任期を延長して「86年体制」を豪語しました(これについて、詳しくは拙著『戦後保守政治の転換―「86年体制」とは何か』ゆぴてる社、1987年、を参照)。この時、戦後保守政治は反憲法政治へと転換し、保守本流と傍流右派との力関係は逆転し始めます。憲法を敵視し蹂躙する右派的な政治路線は旧田中派の一部の離党などもあって勢力を拡大し、右傾化を完成させることになるのです。
また、中曽根政権は第二次臨時行政調査会(第二臨調)を設置して臨調・行革路線を打ち出し、国鉄の分割・民営化などを断行しました。修正資本主義的な福祉国家路線と全面的に対峙する新自由主義の始まりです。政治手法としても、野党や党内の抵抗を回避するために国会審議を経ずに政策決定を行う審議会多用のブレーン政治を活用しました。これは安倍政権や岸田政権による有識者会議などの利用、閣議決定による官邸主導の政策決定に受け継がれます。
新自由主義は新保守主義経済学の一流派で、ケインズ主義的な福祉国家政策に対して「小さな政府」を主張しました。具体的には、国鉄・電電・専売の3公社など国有企業の民営化、公的規制の緩和、民間活力の発揮を打ち出します。その嚆矢は中曽根政権でしたが、全盛期は小泉政権の郵政民営化などの「聖域なき構造改革」でした。
郵政民営化には自民党内からも反対が出て関連法案は参院で否決されます。小泉首相は衆院を解散して反対する議員を排除し、「刺客」を送って落選させるなど官邸主導で強引な党運営を行いました。コンセンサスを重視する保守本流の合意漸進路線とは正反対の政治手法です。
しかし、ポピュリスト的な言動とテレビなどを活用したパフォーマンスによって小泉内閣は高い支持率を獲得し、総合規制改革会議などを設置して労働の規制緩和などの構造改革を推し進めます。契約社員や派遣社員などの非正規労働者が激増し、実質賃金の低下と労働条件の悪化も進みました。貧困化と格差の拡大、社会保障の削減と「平成の大合併」や地方交付税の削減などの「三位一体の改革」によって地方は疲弊し、日本は持続困難な社会へと変質していきます。
罰としての政権交代
政権担当者が犯した罪に対する最大の罰は、政権から追い出されることです。自民党もこのような形で罰を受ける危機に瀕したことがあります。保守本流政治が定着した70年代以降、自民党が政権を失うかもしれない瀬戸際に立たされたことは4回ありました。
1回目は、田中角栄政権末期から三木政権にかけてです。『日本列島改造論』と狂乱物価、金脈問題の暴露によって田中首相は辞任に追い込まれ、その後、ロッキード事件が発覚して元首相の逮捕という驚天動地の事態が起きました。しかし、自民党は「ダーテイー田中」から「クリーン三木」へという「振り子の論理」による「疑似政権交代」で国民の目を欺き、政権維持に成功します。
2回目は、宮沢喜一政権から細川護熙政権にかけてです。自民党の金権体質は改善されず、リクルート事件、東京佐川急便事件、ゼネコン汚職や金丸信副総裁の巨額脱税事件などによって政治改革が大きな課題になりました。宮沢首相は衆院を解散し、自民党が分裂して新生党や新党さきがけが結成され、日本新党など8党・政派による細川連立政権が樹立されます。その結果、「55年体制」は崩壊しました。
3回目は、森喜朗政権から小泉純一郎政権にかけてです。森首相は「日本の国、まさに天皇を中心としている神の国」と述べ、衆院選挙中に無党派層は「投票日には寝ていてくれればいいのだが」と発言し、支持率が急落して辞任します。このとき、「自民党をぶっ壊す」と言って登場したのが小泉純一郎でした。結局、自民党は息を吹き返し、「疑似政権交代」を取り繕うことで生き延びたのです。
4回目は、麻生太郎政権から鳩山由紀夫政権にかけてです。麻生政権は閣僚などの失態や漢字の読み間違いなどで顰蹙を買い、支持率が急落して都議選で大敗します。追い込まれた麻生首相は任期満了直前になって解散・総選挙に踏み切りましたが自民党は大敗して過半数を割り、民主・社民・国民新3党の連立で鳩山政権が成立します。これは戦後初めての本格的な政権交代でしたが、中心となった民主党の不手際や準備不足もあって3年という短さで幕を閉じ、自民党政権の復活を許すことになります。
保守政治の転換点としての中曽根政権
自民党内の3つの潮流は同じような力関係で推移したわけではありません。とりわけ、保守本流と傍流右派の力関係は1980年代中葉に大きく変化します。1982年から87年までの中曽根政権時代に、保守本流と傍流右派の力関係が逆転し始めるからです。
中曽根首相は憲法改正を含む占領政策の是正という改進党の政策大綱を1952年に起草し、56年には「この憲法のある限り無条件降伏続くなり」という「憲法改正の歌」を作詞していました。政治家となった最初から、一貫して明確な明文改憲論者だったのです。首相時代にも自分の内閣ではタイムテーブルに載せないと断りつつ、憲法改正の必要性を主張していました。
対外政策では、「国際国家論」を掲げて対米忖度従属路線を選択し、就任早々に訪韓して悪化していた軍事政権との関係を修復しました。「日米両国は運命共同体」だとして日本列島不沈空母論、3海峡封鎖、シーレーン防衛などを唱え、GNP比1%枠の突破など軍事力強化の方向を打ち出し、戦後の首相として初めて靖国神社を参拝するなど復古的な言動も目立ちました。このような憲法の平和主義に反する軍事大国化の方向は後継政権に引き継がれ、岸田政権の大軍拡路線で全面開花することになります。
中曽根首相は「戦後政治の総決算」を掲げましたが、その真意は保守本流路線への挑戦にありました。実際には戦後(保守本流)政治の総決算であり、これによって国の富を軍事ではなく経済や産業の育成、福祉などの民生に振り向ける「9条の経済効果」は薄れていきます。80年代をピークに、バブル経済がはじけるとともに高度経済成長は幕を閉じ、90年代以降、国力を衰退させる下り坂を歩み始めることになります。
新自由主義の全盛期としての小泉政権
1986年の「死んだふり解散」によって中曽根首相は大勝し、総裁任期を延長して「86年体制」を豪語しました(これについて、詳しくは拙著『戦後保守政治の転換―「86年体制」とは何か』ゆぴてる社、1987年、を参照)。この時、戦後保守政治は反憲法政治へと転換し、保守本流と傍流右派との力関係は逆転し始めます。憲法を敵視し蹂躙する右派的な政治路線は旧田中派の一部の離党などもあって勢力を拡大し、右傾化を完成させることになるのです。
また、中曽根政権は第二次臨時行政調査会(第二臨調)を設置して臨調・行革路線を打ち出し、国鉄の分割・民営化などを断行しました。修正資本主義的な福祉国家路線と全面的に対峙する新自由主義の始まりです。政治手法としても、野党や党内の抵抗を回避するために国会審議を経ずに政策決定を行う審議会多用のブレーン政治を活用しました。これは安倍政権や岸田政権による有識者会議などの利用、閣議決定による官邸主導の政策決定に受け継がれます。
新自由主義は新保守主義経済学の一流派で、ケインズ主義的な福祉国家政策に対して「小さな政府」を主張しました。具体的には、国鉄・電電・専売の3公社など国有企業の民営化、公的規制の緩和、民間活力の発揮を打ち出します。その嚆矢は中曽根政権でしたが、全盛期は小泉政権の郵政民営化などの「聖域なき構造改革」でした。
郵政民営化には自民党内からも反対が出て関連法案は参院で否決されます。小泉首相は衆院を解散して反対する議員を排除し、「刺客」を送って落選させるなど官邸主導で強引な党運営を行いました。コンセンサスを重視する保守本流の合意漸進路線とは正反対の政治手法です。
しかし、ポピュリスト的な言動とテレビなどを活用したパフォーマンスによって小泉内閣は高い支持率を獲得し、総合規制改革会議などを設置して労働の規制緩和などの構造改革を推し進めます。契約社員や派遣社員などの非正規労働者が激増し、実質賃金の低下と労働条件の悪化も進みました。貧困化と格差の拡大、社会保障の削減と「平成の大合併」や地方交付税の削減などの「三位一体の改革」によって地方は疲弊し、日本は持続困難な社会へと変質していきます。
罰としての政権交代
政権担当者が犯した罪に対する最大の罰は、政権から追い出されることです。自民党もこのような形で罰を受ける危機に瀕したことがあります。保守本流政治が定着した70年代以降、自民党が政権を失うかもしれない瀬戸際に立たされたことは4回ありました。
1回目は、田中角栄政権末期から三木政権にかけてです。『日本列島改造論』と狂乱物価、金脈問題の暴露によって田中首相は辞任に追い込まれ、その後、ロッキード事件が発覚して元首相の逮捕という驚天動地の事態が起きました。しかし、自民党は「ダーテイー田中」から「クリーン三木」へという「振り子の論理」による「疑似政権交代」で国民の目を欺き、政権維持に成功します。
2回目は、宮沢喜一政権から細川護熙政権にかけてです。自民党の金権体質は改善されず、リクルート事件、東京佐川急便事件、ゼネコン汚職や金丸信副総裁の巨額脱税事件などによって政治改革が大きな課題になりました。宮沢首相は衆院を解散し、自民党が分裂して新生党や新党さきがけが結成され、日本新党など8党・政派による細川連立政権が樹立されます。その結果、「55年体制」は崩壊しました。
3回目は、森喜朗政権から小泉純一郎政権にかけてです。森首相は「日本の国、まさに天皇を中心としている神の国」と述べ、衆院選挙中に無党派層は「投票日には寝ていてくれればいいのだが」と発言し、支持率が急落して辞任します。このとき、「自民党をぶっ壊す」と言って登場したのが小泉純一郎でした。結局、自民党は息を吹き返し、「疑似政権交代」を取り繕うことで生き延びたのです。
4回目は、麻生太郎政権から鳩山由紀夫政権にかけてです。麻生政権は閣僚などの失態や漢字の読み間違いなどで顰蹙を買い、支持率が急落して都議選で大敗します。追い込まれた麻生首相は任期満了直前になって解散・総選挙に踏み切りましたが自民党は大敗して過半数を割り、民主・社民・国民新3党の連立で鳩山政権が成立します。これは戦後初めての本格的な政権交代でしたが、中心となった民主党の不手際や準備不足もあって3年という短さで幕を閉じ、自民党政権の復活を許すことになります。
2024-08-02 06:21
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8月1日(木) 戦後史における自民党政治―その罪と罰を考える(その1) [論攷]
〔以下の論攷は『学習の友 別冊 2024』「自民党政治を根本から変えよう」に掲載されたものです。3回に分けてアップさせていただきます〕
はじめに
自民党はもう終わりです。歴史的な役割を終えた政党には退場してもらうしかありません。政権から追い出さなければ、この国に害悪を及ぼすだけです。それが早ければ早いほど、不幸はより小さく希望はより大きくなるでしょう。
自民党に功績が全くなかったわけではありません。政権政党となり、長きにわたって権力を維持できた背景には、それなりの根拠があるからです。その最大のものは戦後復興を担って高度経済成長を実現し、国民総生産(GNP)第2位の経済大国を実現したことにあります。
しかし、それは80年代中葉までのことにすぎません。開発独裁型経済成長、修正資本主義的な経済政策、コンセンサス重視で漸進的な政策決定、そして戦後憲法体制を前提とした政権運営が、大きく転換し始めたからです。これ以降、自民党政治は功よりも罪多きものへと変質してきました。
このような保守政治の転換によってもたらされた罪を明らかにし、罰を与えるべき必然性とその根拠を示したいと思います。自民党は完全に役割を終え、罪の上塗りと責任逃れに終始しているからです。過去の遺物となった自民党にとって、最後に果たすべき役割は一つしかありません。これまでに犯してきた数々の罪を真摯に反省し、最大の罰として政権の座を去るという役割です。
自民党における3つの宿痾と3つの潮流―保守本流・傍流右派・傍流左派
自民党には、治癒不可能な宿痾(しゅくあ)ともいうべき3つの病があります。右傾化・金権化・世襲化という病気です。第1の右傾化は、憲法に対する敵意、軍事大国化と戦前の社会や家族のあり方へのこだわり、歴史修正主義と少数者や外国人の人権無視、女性差別とジェンダー平等への反感などに示されています。
第2の金権化は、最近も明らかになった裏金事件などの金銭スキャンダルの多発です。そして、第3の世襲化は、最近になってますます強まってきている二世や三世議員などの跋扈です。小選挙区比例代表並立制が導入された1996年の総選挙以降の自民党の首相のうち、世襲でないのは菅義偉1人にすぎません。
これらの長く続く病は自民党の体質となり、もはや自らの力で治すことは不可能なほど全身を蝕んでいます。岸田政権の大軍拡路線や裏金事件、世界基督教統一神霊協会=世界平和統一家庭連合(統一協会)との癒着、閣僚における世襲議員の跋扈などは、この病がますます重篤化し、日本政治を毒する元凶となっていることを示しています。
このような自民党には、大きく分けて3つの潮流が存在していました。それは、保守本流・傍流右派・傍流左派という派閥の流れです。このような分岐はそれほど明確ではなく、最近ではますます違いが不明瞭になっていますが、完全に消滅したわけではありません。
第1の「保守本流」は、政策的には経済政策重視の解釈改憲路線、政治手法としては合意漸進路線を取りました。吉田首相の人脈と政策路線を受け継いだ池田勇人、佐藤栄作、大平正芳、田中角栄、福田赳夫、竹下登、宮澤喜一、橋本龍太郎、小渕恵三などが担い手となっています。60年安保闘争後の解釈改憲路線の採用と池田政権における所得倍増政策の成功によって自民党政治を安定させ、「本流」の地位を占めることになりました。
これに対して、右に位置したのが第2の「傍流右派」であり、左にあったのが第3の「傍流左派」です。第2の傍流右派は明文改憲と再軍備を掲げ、コンセンサス軽視で政治的対決をいとわなかった岸信介を源流に、中曽根康弘、森喜朗、小泉純一郎、安倍晋三などによって継承されました。
第3の傍流左派はきわめて少数のリベラル護憲派で、三木武夫や宇都宮徳馬、鯨岡兵助や加藤紘一、『新憲法代議士』という本を上梓した護憲リベラルの白川勝彦などにすぎません。最も注目されたのは三木内閣が成立した時で、その後は次第に影を薄めてしまいました。
はじめに
自民党はもう終わりです。歴史的な役割を終えた政党には退場してもらうしかありません。政権から追い出さなければ、この国に害悪を及ぼすだけです。それが早ければ早いほど、不幸はより小さく希望はより大きくなるでしょう。
自民党に功績が全くなかったわけではありません。政権政党となり、長きにわたって権力を維持できた背景には、それなりの根拠があるからです。その最大のものは戦後復興を担って高度経済成長を実現し、国民総生産(GNP)第2位の経済大国を実現したことにあります。
しかし、それは80年代中葉までのことにすぎません。開発独裁型経済成長、修正資本主義的な経済政策、コンセンサス重視で漸進的な政策決定、そして戦後憲法体制を前提とした政権運営が、大きく転換し始めたからです。これ以降、自民党政治は功よりも罪多きものへと変質してきました。
このような保守政治の転換によってもたらされた罪を明らかにし、罰を与えるべき必然性とその根拠を示したいと思います。自民党は完全に役割を終え、罪の上塗りと責任逃れに終始しているからです。過去の遺物となった自民党にとって、最後に果たすべき役割は一つしかありません。これまでに犯してきた数々の罪を真摯に反省し、最大の罰として政権の座を去るという役割です。
自民党における3つの宿痾と3つの潮流―保守本流・傍流右派・傍流左派
自民党には、治癒不可能な宿痾(しゅくあ)ともいうべき3つの病があります。右傾化・金権化・世襲化という病気です。第1の右傾化は、憲法に対する敵意、軍事大国化と戦前の社会や家族のあり方へのこだわり、歴史修正主義と少数者や外国人の人権無視、女性差別とジェンダー平等への反感などに示されています。
第2の金権化は、最近も明らかになった裏金事件などの金銭スキャンダルの多発です。そして、第3の世襲化は、最近になってますます強まってきている二世や三世議員などの跋扈です。小選挙区比例代表並立制が導入された1996年の総選挙以降の自民党の首相のうち、世襲でないのは菅義偉1人にすぎません。
これらの長く続く病は自民党の体質となり、もはや自らの力で治すことは不可能なほど全身を蝕んでいます。岸田政権の大軍拡路線や裏金事件、世界基督教統一神霊協会=世界平和統一家庭連合(統一協会)との癒着、閣僚における世襲議員の跋扈などは、この病がますます重篤化し、日本政治を毒する元凶となっていることを示しています。
このような自民党には、大きく分けて3つの潮流が存在していました。それは、保守本流・傍流右派・傍流左派という派閥の流れです。このような分岐はそれほど明確ではなく、最近ではますます違いが不明瞭になっていますが、完全に消滅したわけではありません。
第1の「保守本流」は、政策的には経済政策重視の解釈改憲路線、政治手法としては合意漸進路線を取りました。吉田首相の人脈と政策路線を受け継いだ池田勇人、佐藤栄作、大平正芳、田中角栄、福田赳夫、竹下登、宮澤喜一、橋本龍太郎、小渕恵三などが担い手となっています。60年安保闘争後の解釈改憲路線の採用と池田政権における所得倍増政策の成功によって自民党政治を安定させ、「本流」の地位を占めることになりました。
これに対して、右に位置したのが第2の「傍流右派」であり、左にあったのが第3の「傍流左派」です。第2の傍流右派は明文改憲と再軍備を掲げ、コンセンサス軽視で政治的対決をいとわなかった岸信介を源流に、中曽根康弘、森喜朗、小泉純一郎、安倍晋三などによって継承されました。
第3の傍流左派はきわめて少数のリベラル護憲派で、三木武夫や宇都宮徳馬、鯨岡兵助や加藤紘一、『新憲法代議士』という本を上梓した護憲リベラルの白川勝彦などにすぎません。最も注目されたのは三木内閣が成立した時で、その後は次第に影を薄めてしまいました。
2024-08-01 22:28
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7月31日(水) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]
〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』7月31日付に掲載されたものです。〕
*巻頭特集:広島出身の岸田首相 「核なき世界」を踏みにじる亡国軍拡の二枚舌
■平和の祭典も平和憲法も形骸化
29日誕生日を迎えた岸田は、官邸でブリンケン国務長官、オースティン国防長官と面会。2+2は「有意義だった」と評価し、「さまざまなレベル、分野の協力を通じて同盟の抑止力、対処力をより一層強化していきたい」と前向きだ。
自らの手で米国の戦争に参画する可能性を高めた悲壮感や、自身が訴える「核なき世界」との矛盾を露呈してしまった恥辱、双肩に国の未来を背負って決断を下すに至った懊悩はどこにも見えない。そういう能天気だから、秋の総裁選での再選にも自信を持っていられるのだろう。この手の大将は敵より怖いというヤツだ。
「秋の米大統領選でトランプ氏が勝利すれば、再び在日米軍を無駄なコストと言い出す可能性がある。その前に同盟強化を進めてしまうのが岸田首相の狙いでしょう。『核の傘』で米国に守ってもらうために進んでスリ寄り、自衛隊を米軍の下請け組織に差し出した。中国との外交努力を放棄して危機をあおり、有事の際には自ら橋頭堡になろうとするのは、自民党内でも国民世論にも不人気の岸田首相がすがるのは米国という後ろ盾しかないからです。保身のために日本の主権も、自衛隊の独立も、国民の安全も米国に売り渡した。こんな亡国政権はありません。それも、国民にしっかり説明することがないまま、五輪に気を取られている間に密約まがいの交渉が進められている。大メディアも五輪報道にかまけていないで、こういう安全保障上の重要な問題を大きく報じて警鐘を鳴らすべきでしょう。いつもの後出しジャンケン批判で済ませるのは、あまりに無責任です」(法大名誉教授・五十嵐仁氏=政治学)
*巻頭特集:広島出身の岸田首相 「核なき世界」を踏みにじる亡国軍拡の二枚舌
■平和の祭典も平和憲法も形骸化
29日誕生日を迎えた岸田は、官邸でブリンケン国務長官、オースティン国防長官と面会。2+2は「有意義だった」と評価し、「さまざまなレベル、分野の協力を通じて同盟の抑止力、対処力をより一層強化していきたい」と前向きだ。
自らの手で米国の戦争に参画する可能性を高めた悲壮感や、自身が訴える「核なき世界」との矛盾を露呈してしまった恥辱、双肩に国の未来を背負って決断を下すに至った懊悩はどこにも見えない。そういう能天気だから、秋の総裁選での再選にも自信を持っていられるのだろう。この手の大将は敵より怖いというヤツだ。
「秋の米大統領選でトランプ氏が勝利すれば、再び在日米軍を無駄なコストと言い出す可能性がある。その前に同盟強化を進めてしまうのが岸田首相の狙いでしょう。『核の傘』で米国に守ってもらうために進んでスリ寄り、自衛隊を米軍の下請け組織に差し出した。中国との外交努力を放棄して危機をあおり、有事の際には自ら橋頭堡になろうとするのは、自民党内でも国民世論にも不人気の岸田首相がすがるのは米国という後ろ盾しかないからです。保身のために日本の主権も、自衛隊の独立も、国民の安全も米国に売り渡した。こんな亡国政権はありません。それも、国民にしっかり説明することがないまま、五輪に気を取られている間に密約まがいの交渉が進められている。大メディアも五輪報道にかまけていないで、こういう安全保障上の重要な問題を大きく報じて警鐘を鳴らすべきでしょう。いつもの後出しジャンケン批判で済ませるのは、あまりに無責任です」(法大名誉教授・五十嵐仁氏=政治学)
2024-07-31 06:17
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7月30日(火) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]
〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』7月30日付に掲載されたものです。〕
*巻頭特集:バリ五輪で騒いでいるのは無節操なテレビ局だけ どこか空疎な「パンとサーカス」
国際刑事裁判所(ICC)から7つの戦争犯罪や人道に対する罪で逮捕状請求を明言されているネタニヤフ首相のイスラエルが堂々と行進しているのに、どこもそのおかしさを指摘しない。かつてヒトラーに利用された五輪は、その負い目があるからだろうが、かくも五輪の「平和」なんて欧米の事情によって左右されるということだ。ここもまた偽善の極みである。法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)はこう言う。
「この瞬間にも激しい戦闘が繰り広げられ、そうした映像が次々に中継されてくる。世界は分断されていますが、欧米側も一枚岩でなく、極右が台頭し、政治的混乱が続いている。この間、TVや大新聞の報道は五輪一色になるのでしょうが、その裏側の混乱がかくも不気味な五輪も異常です。五輪中継も無理やりナショナリズムを煽るような報道にならないことを祈るばかりです」
日本の政治に目を転じても、「五輪しめしめ」とほくそ笑んでいる連中が大勢いるような気がする。
海自の潜水手当不正受給では昨年11月に警務官によって、4人の隊員が逮捕されているのに、大臣に報告が上がらなかった。文民統制もへったくれもない。事務次官や海自トップなど218人が処分され、川崎重工からの賄賂疑惑まで噴出しているのに、木原防衛相はしがみつき、28日は日米韓の防衛相会議に出席。米国に言われるがままに軍事同盟強化にシャカリキだった。この問題を巡る国会の閉会中審査はようやく30日に開かれるが、衆参で1日だけ。それも五輪でかき消されてしまうのは見えている。本来であれば、大臣は即刻、辞任ではないか。
「それをしないのは、総裁選前後の内閣改造も視野に入れると後任のなり手がいないからです。時間稼ぎしてゴマカすしかない」(政界事情通)というからふざけた話だ。
■誰もが「俺がこう変える」とは言わない
その総裁選もさながら「五輪休戦」ではないか。
「米国では11月の大統領選に向けて、活発な集会、議論が繰り広げられています。日本は9月に事実上、日本のトップが決まる選挙があるのに、この期に及んで、誰が出てくるのかすらわからない。それは与党・自民党だけでなく、野党・立憲民主党も同じです。候補者の名前は出てくるが、“意向を固めた”という報道だけで、本当なのか、わからない。本来であれば、このタイミングで候補者が揃って、活発な議論を展開し、メディアもそれをきちんと報じる。それこそが民主主義のあるべき姿なのに、五輪をコレ幸いにして、皆が息をひそめている。こうして、国民の忘却を待っているのだとしたら、とんでもない話です」(五十嵐仁氏=前出)
*巻頭特集:バリ五輪で騒いでいるのは無節操なテレビ局だけ どこか空疎な「パンとサーカス」
国際刑事裁判所(ICC)から7つの戦争犯罪や人道に対する罪で逮捕状請求を明言されているネタニヤフ首相のイスラエルが堂々と行進しているのに、どこもそのおかしさを指摘しない。かつてヒトラーに利用された五輪は、その負い目があるからだろうが、かくも五輪の「平和」なんて欧米の事情によって左右されるということだ。ここもまた偽善の極みである。法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)はこう言う。
「この瞬間にも激しい戦闘が繰り広げられ、そうした映像が次々に中継されてくる。世界は分断されていますが、欧米側も一枚岩でなく、極右が台頭し、政治的混乱が続いている。この間、TVや大新聞の報道は五輪一色になるのでしょうが、その裏側の混乱がかくも不気味な五輪も異常です。五輪中継も無理やりナショナリズムを煽るような報道にならないことを祈るばかりです」
日本の政治に目を転じても、「五輪しめしめ」とほくそ笑んでいる連中が大勢いるような気がする。
海自の潜水手当不正受給では昨年11月に警務官によって、4人の隊員が逮捕されているのに、大臣に報告が上がらなかった。文民統制もへったくれもない。事務次官や海自トップなど218人が処分され、川崎重工からの賄賂疑惑まで噴出しているのに、木原防衛相はしがみつき、28日は日米韓の防衛相会議に出席。米国に言われるがままに軍事同盟強化にシャカリキだった。この問題を巡る国会の閉会中審査はようやく30日に開かれるが、衆参で1日だけ。それも五輪でかき消されてしまうのは見えている。本来であれば、大臣は即刻、辞任ではないか。
「それをしないのは、総裁選前後の内閣改造も視野に入れると後任のなり手がいないからです。時間稼ぎしてゴマカすしかない」(政界事情通)というからふざけた話だ。
■誰もが「俺がこう変える」とは言わない
その総裁選もさながら「五輪休戦」ではないか。
「米国では11月の大統領選に向けて、活発な集会、議論が繰り広げられています。日本は9月に事実上、日本のトップが決まる選挙があるのに、この期に及んで、誰が出てくるのかすらわからない。それは与党・自民党だけでなく、野党・立憲民主党も同じです。候補者の名前は出てくるが、“意向を固めた”という報道だけで、本当なのか、わからない。本来であれば、このタイミングで候補者が揃って、活発な議論を展開し、メディアもそれをきちんと報じる。それこそが民主主義のあるべき姿なのに、五輪をコレ幸いにして、皆が息をひそめている。こうして、国民の忘却を待っているのだとしたら、とんでもない話です」(五十嵐仁氏=前出)
2024-07-30 06:18
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