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7月12日(木) 世論調査が示す自民党「悪夢」のシナリオ  [参院選]

 今日、注目の参院選が公示されました。投票日である7月29日(日)までの間、激しい選挙戦が展開されます。

 今回の選挙の意義は、「今の日本はこのままでよいのか」という問いに、国民が直接答えることができる機会だという点にあります。「このような日本を作ってきたこれまでの政治は良かったのか」という問いに対しても答えることができます。
 また、政権与党が掲げているこれからの日本の青写真や進路に対して、「その方向に進んでいっても良いのか」という問いへの回答も可能でしょう。日本の現在のみならず、過去と未来についても、私たちは回答できる得難いチャンスを手にしているということになります。
 「参院選だから、中間選挙のようなものだ」という意見は間違いです。安倍内閣が発足してから初めての国政選挙になりますし、時の政権が改憲の是非を争点として国政選挙に臨むのも初めてになります。日本の進路を決める歴史的な意義を持つ選挙だと言うべきでしょう。

 選挙の争点は、平和と民主主義を志向してきた「戦後レジーム」を改憲によって覆そうとする安倍首相の野望を打ち砕くかどうかにあります。そして、そのような野望を掲げる首相を送り出すまでに劣化してしまった自民党の統治を継続させるかどうかにあります。
 すなわち、争点は安倍改憲政権の是非であり、自民党統治の是非そのものです。このような首相と政党に政権をまかせ、日本の進路をゆだねて良いのでしょうか。
 今回の選挙で問われている核心は、まさにこのような問いなのです。「宙に浮いたり消えたり」という年金問題、定率減税の廃止や消費税率引き上げによる増税などの税金問題、相次ぐ閣僚の暴言や赤城農水相の事務所費問題に見られる政治とカネの問題、餓死者が出るほどの困窮を生み出している貧困と格差などは、これに付随して生じている具体的な争点にほかなりません。

 今回の選挙では、与党が過半数を維持できるかどうかが注目されています。しかし、真の注目点は、もはやそこにはありません。
 現在の情勢では、与党が過半数を下回ることは確実です。真の注目点は、与党の敗北ではなく、どれほど負けるかという点にあります。
 過去の参院選で、与党が敗北した典型的な例は89年と98年です。89年参院選では自民党が36議席しか獲得できず、宇野宗佑首相が辞任し、98年参院選での自民党の獲得議席は44議席で、やはり橋本龍太郎首相が辞任しました。

 今回の参院選での改選は選挙区73議席・比例区48議席で、計121議席になります。このうち、与党の過半数維持には64議席以上が必要です。
 公明党が目標とする13議席を獲得するとすれば、自民党は51議席が必要になります。51議席という目標は、04年参院選の時と同じです。まず、この04年参院選と比較してみましょう。
 用いる数字は、『朝日新聞』が行った世論調査です。新聞社によって数字に違いはありますが、傾向としてはそれほど大きく異なっておりません。

 04年の参院選の投票日は7月11日(日)でした。その3週間ほど前の6月19、20日に行われた世論調査で、小泉内閣への支持率は支持40%、不支持42%です。今回、投票日の3週間前に行われた7月7、8日の調査では、安倍内閣への支持31%、不支持51%でした。
 内閣支持率は、今回の方がずっと厳しいものになっています。これだけでも、04年参院選の49議席を下回るだろうということが予想できます。
 政党支持率ではどうでしょうか。04年6月22、23日の調査では、自民党支持27%、民主党支持18%、公明党支持4%、共産党支持1%、社民党支持1%となっています。今回は、自民党支持26%、民主党支持20%、公明党支持4%、共産党支持3%、社民党支持1%で、自民党支持が1ポイント低いのに対して、民主党支持と共産党支持が2ポイント高く、公明党支持と社民党支持には変わりありません。これを見ても、自民党は04年選挙より苦戦するという結果が予想されます。

 さらに、今、比例区で投票するとしたらどこに入れるかとの問いに、04年では自民23%、民主23%と並んでいます。しかし、今回は自民22%、民主26%と、民主の方が4ポイント上回っています。
 選挙後の政権についても、04年には自民中心が41%で民主中心が34%でした。しかし、今回は、どちらが多数になって欲しいかという問いに、与党29%、野党48%と大きく逆転し、野党の方が19ポイントも多くなっています。

 内閣支持率、政党支持率、比例区での投票予定、選挙後の勢力関係への期待において、今回は04年よりも自民党や与党に厳しい結果が出ています。つまり、現状のままだと、自民党や与党は04年以上の敗北が避けられないということになります。
 04年参院選での当選は、自民党49議席、公明党11議席でした。世論調査の結果が正しければ、これを下回ることは確実だということになります。
 両党合わせても60議席にしかなりませんから、過半数維持のために必要な64議席以上を獲得することはできません。与党が過半数を上回ることは、不可能だということになります。

 さて、それでは、与党はどれほど負けるのでしょうか。ここで参考になるのが、89年参院選と98年参院選の例です。
 まず、自民党が44議席にとどまり、責任を取って橋本首相が辞任した98年と比較してみましょう。今回の世論動向は、自民党にとってこの年よりも良いのか、悪いのか、ということです。
 98年参院選の投票日は7月12日(日)でした。やはり、その3週間ほど前の6月20、21日に、『朝日新聞』は世論調査を実施しています。その結果はどうだったでしょうか。

 まず、内閣支持率では、橋本内閣への支持は26%で、不支持は51%です。政党支持率では、自民党23%、民主党7%、公明党4%、社民党4%、共産党2%、自由党2%となっています。
 比例区への投票予定では、自民党22%、民主党8%です。選挙後の政権については、自民単独14%、自民中心の連立47%、自民党以外の政党の連立23%となっています。
 内閣支持率を除いては、今回よりも自民党に甘い結果が出ています。つまり、今回の方がより厳しいということになりますから、今回の自民党の獲得議席は98年参院選を下回る可能性があるということになります。
 ただし、98年の選挙では、投票直前に減税問題での橋本首相の発言が迷走するという大きなマイナス要因がありました。この世論調査はそれ以前ですから、投票日の頃には、世論はもっと厳しい反応を示していたかもしれません。

 それでは、自民党にとって最も厳しい結果となった89年参院選で、世論はどのような状況だったのでしょうか。分かり易いように、以下に比較しておきましょう。
 前者が89年で後者が今回です。また、89年の内閣支持率は6月9、10日の調査、それ以外は7月9、10日の調査で、投票日は7月23日です。

*内閣支持率        支持28%、不支持44%    支持31%、不支持51%
*政党支持率        自民28%、社会21%      自民26%、民主20%
*比例区への投票予定 自民20%、社会29%      自民22%、民主26%
*選挙後の政権       安定多数+伯仲56%     与党29%
     与党の過半数割れ36%    野党48%

 いかがでしょうか。内閣への支持と比例区への投票予定では今回の方が甘く、政党支持率と選挙後の政権では、今回の方が辛くなっています。
 とはいえ、どちらにしても、それほど大きな差ではありません。ということは、世論状況は89年と極めて似通っているということになります。
 世論のあり方が89年と今回とで似通っているということであるなら、それによって生まれる選挙の結果もまた、似通ったものになるでしょう。つまり、自民党が40議席を割ることもあり得るということです。

 ここで、自民党にとっての大きな「不安要因」を指摘しなければなりません。それは、安倍内閣に対する不支持率が51%と、過半数を超えていることです。
 戦後の参院選は20回を数えますが、内閣に対する不支持率が過半数を超えたままで参院選に突入した例はありません。今回が、初めてになります。
 それだけ、安倍政権に対する拒否感情や政治のあり方に対する怒りが強いということになるでしょう。それがどういう結果をもたらすのか、過去最低であった36議席を下回り、戦後初めてというほどの自民党の歴史的敗北をもたらすことになるのか、大いに注目されるところです。

 いずれにせよ、このような自民党にとっての「悪夢」が「正夢」になるためには、29ある定数1の小選挙区での勝敗が決定的になります。89年の大敗のとき、定数1の選挙区は26でしたが、与党にとっては3勝23敗という結果に終わりました。逆に、「小泉ブーム」に乗って大勝した01年の参院選では、27の1人区で自民党は25勝2敗です。
 世界を見れば、もっとすごい例があります。カナダの下院では、景気の低迷と高失業率への不満を背景に、93年10月の総選挙(小選挙区制)で与党の進歩保守党が解散前の152議席からわずか2議席に激減するという歴史的大敗を喫しました。
 与党からすれば、2勝150敗という結果です。小選挙区制には、勝敗を増幅するという特性があり、勝つものはより多く勝ち、負けるものはより多く負けるのです。

 今度の参院選で、果たして、このような「悪夢」が自民党を襲うことになるのかは分かりません。しかし、そのような可能性が生まれてきているということもまた事実です。
 世論調査が示す自民党にとっての「悪夢」のシナリオが、現実のものとなるかどうか。その答えが出るのは、約2週間後のことになります。


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コメント 4

contack

いつもわかりやすい文章で、興味深く読ませてもらっています。
今回のこの記事は、世論調査を基にして主観を排して単純な事実関係を書いているものだと思いますが、ちょっと問題があるんじゃないかと思ったのでコメントします。
この記事の後半で定数1の小選挙区部分についての言及がありますが、五十嵐さんがおっしゃるように、小選挙区制は勝敗を増幅する制度です。
自民党にとっての「悪夢」が実現し、1人区での自民党大敗北はありうることかもしれません。
しかしそれは小選挙区制によって得票率以下に不当に議席が少なく配分されるためです。
こういうことは五十嵐さんはもちろん把握された上でこの記事を書いていることと思います。
ただ事実として今回の選挙でそういう可能性があると書いているだけであるにしても、小選挙区制に一言の批判もしないままこういう記事を書くことは、小選挙区制に対する「政権交代が起こりやすい選挙制度だ」という幻想を広げる手助けになるのではないかと思うのです。
私の思い込みかもしれませんが、それは今までの五十嵐さんの記事らしくないなぁと思うのですが、いかがでしょうか。
by contack (2007-07-13 22:12) 

igajin-sonet

 コメント、ありがとうございます。今回の記述について、「ただ事実として今回の選挙でそういう可能性があると書いているだけであるにしても、小選挙区制に一言の批判もしないままこういう記事を書くことは、小選挙区制に対する「政権交代が起こりやすい選挙制度だ」という幻想を広げる手助けになるのではないかと思うのです」と書かれています。ここでの記述は小選挙区制の特性について指摘しただけで、そうなるとも、だから良いとも悪いとも書いてません。まして、「政権交代が起こりやすい」ということを主張したわけではありません。今度の参院選で、小選挙区制がどのような意味を持つかということを指摘し、その結果について注目しただけです。
 なお、私は政治改革と選挙制度の見直しが問題になったときから小選挙区制の導入に反対し、そのカラクリを批判し続けてきました。詳細については、拙著『一目で分かる小選挙区比例代表並立制』労働旬報社、1993年、『徹底検証 政治改革神話』労働旬報社、1997年、『概説 現代政治-その動態と理論〔第三版〕』法律文化社、1999年、『現代日本政治-「知力革命」の時代』八朔社、2004年、などをご覧下さい。
by igajin-sonet (2007-07-14 09:42) 

サブちゃん

>なお、私は政治改革と選挙制度の見直しが問題になったときから小選挙区制の導入に反対し、そのカラクリを批判し続けてきました。

そうでしたね。
イガさんは山口の無責任野(二?)郎なんかとは雲泥の差があります。
エセ非自民勢力への変な幻想をバラ撒いてはいません。

問題は、小選挙区制の廃止と第三極の確保・育成の課題の間で循環論のような議論に拘泥することではありません。二大政党幻想を一刻も早く一掃し、第三極を確保・育成するためには、無媒介な直進路線に固執するのではなく、「一歩前進二歩後退」を覚悟し、敵失を利用することまで腹を決めることではないでしょうか。
「必要悪」とは、よく言ったものだと思います。
エセ非自民政権の実現は、必要悪です!
by サブちゃん (2007-07-20 22:03) 

contack

五十嵐さんが小選挙区制に反対していることは存じています。
この記事ではたしかに小選挙区制に対して良いとも悪いとも言及しません。しかし、そのために読んだ人が「あっ小選挙区制っていいじゃん」と思ってしまうのではないかと私は懸念しています。杞憂ならよいのですが、与野党逆転を期待する人が多い中で、勝敗増幅装置というのは歓迎されてしまうのではないでしょうか。
by contack (2007-07-28 01:26) 

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