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7月12日(月) 参院選の結果をどう見るか [参院選]

 「見通しが甘いのよ、バカタレ」
 菅首相は、伸子夫人にこう言われたかもしれません。女性スキャンダルが発覚して、「脇が甘いのよ、バカタレ」と言われたときのように……。

 注目の参院選は、予想通りというか、予想した以上にというか、民主党の惨敗に終わりました。民主党が苦戦するであろうということは、選挙前の調査や推計から明らかでしたが、これほどまでに負けるというのは、予想以上だったかもしれません。
 選挙の結果は、以下のようになっています。

 民主44 自民51 公明9 共産3 社民2 国民0 みんな10 たちあがれ1 改革1

 これを、『朝日新聞』7月9日付の推計と比較すれば、次のようになります。

 民主-5 自民+7 公明+1 共産-1 社民+1 国民-1 みんな-1 他+1

 事前の推計が大きく狂ったのは、民主党と自民党です。他は±1となっており、大きな変化はありません。
 つまり、事前の推計より、民主党はさらに負け、自民党は勝ちを増やしたということになります。『毎日新聞』7月5日付の推計でも、民主は最低で49、自民は最大で48とされていましたが、結果はそれよりも、民主が-5、自民が+3となっています。
 選挙結果は、予想されていた以上に、民主党が負け、自民党が勝ったことを示しています。というより、民主党の自滅であり、「オウン・ゴール」であったと言うべきでしょう。

 菅首相は、どうしてボールを自陣営に蹴りこんでしまったのでしょうか。鳩山・小沢のダブル辞任によって内閣と民主党の支持率はV字回復を実現し、そのまま参院選に突入すれば勝利は確実だと考えたからこそ、国会を延長しなかったのではありませんか。
 実は、これが「躓きの石」だったように思います。支持率と一緒に、菅さんも「舞い上がって」しまったからです。
 第1に、ようやく首相になれて、政策課題実現に向けての意欲を高めたけれども、そのための戦略・戦術はなく、第2に、高い支持率を背景にすれば、かなりのことができると過信し、第3に、「政治とカネ」の問題と沖縄普天間基地撤去問題は「クリアできた」と思い込んでしまったのです。

 こうして、持ち出してきたのが、消費税の税率アップという「劇薬」でした。支持率の高さに気をよくした菅さんは、「自民党の10%案を参考にしたい」と口走ってしまったのです。消費税率のアップに賛成する意見が多数だという世論調査に惑わされた面があったかもしれません。
 しかし、この発言の直後から、内閣支持率は急落します。慌てた菅首相は、発言を二転、三転させました。
 そして、そのことがかえって首相の発言への信頼感を損ね、迷走を印象づけました。こうして、支持率低下と迷走とのスパイラル現象が始まり、今回の民主党の惨敗となったわけです。

 このように、民主党の惨敗は明らかです。それなら、自民党が勝ったと言えるのでしょうか。
 今回の参院選で、自民党が勝ったわけではありません。民主党の自滅と選挙制度に助けられたために、得点を上げることができたにすぎません。
 政党間の力関係が現れる比例区での当選者は過去最低水準で、民主16対自民12と、民主党より4議席少なくなっています。自民党が民主党に勝てたのは、唯一、1人区で自民21対民主8と、13議席も上回ったからです。

 公明党は、今回の選挙でも底力を示しました。『朝日新聞』の事前推計を1議席上回って9議席となり、『毎日新聞』の推計「7~10」の最大に近い数字になりました。
 東京選挙区でも、早々と新人の竹谷とし子さんが当選を決め、最終的には2位になっています。自民党の1人区での好調さも、選挙区での公明党の支援によるものでしょう。
 このような好調の要因の一つは、梅雨空の影響などもあって、投票率が前回よりも下がった点にあります。投票率が下がれば、当選に必要な得票数という「水位」も下がり、公明党候補の当選可能性が増すという「棒杭効果」が、今回も生じたのではないでしょうか。

 共産党は比例区のみで3議席の獲得にとどまりました。『朝日新聞』の推計よりも1減で、『毎日新聞』の推計通りです。東京選挙区で小池晃さんが当選できなかったのは、誠に残念でした。今後の国会やテレビなどでの論戦を考えれば、小池さんが共産党の国会議員でなくなったことの痛手は大きいと思います。
 最後の議席を、みんなの党の松田公太さんと争ったのは象徴的だっと言えるでしょう。東京では消費増税論の影響は少なく、民主党も2議席を獲得しました。
 これは、消費増税や構造改革継続への支持は地方より大都市圏の方が多く、都民には「勝ち組」も少なくないという事情を反映しているように思われます。もっとも、石原慎太郎が都知事を務めているくらいですから、それも当然かもしれませんが……。

 以上のような参院選の結果は、3つの「恐ろしさ」を実証したように見えます。
 第1に、消費税増税問題を持ち出すことの「恐ろしさ」です。消費税の税率アップは手っ取り早く税収を図ることができる簡単な方法ですが、庶民の生活を直撃して景気に悪影響を及ぼすだけに反対も強く、取り扱いに注意しなければならない「劇薬」であるということです。
 第2に、小選挙区制という選挙制度の「恐ろしさ」です。昨年の衆院選で民主党に勝利を与えたのが「小選挙区制のカラクリ」であったとすれば、逆に今回、民主党に敗北を与えたのも「1人区(小選挙区制)のカラクリ」でした。
 第3に、有権者の眼の「恐ろしさ」です。この間、「世論」は大きく乱高下しましたが、それは菅首相の消費税発言に、有権者が敏感に反応したからです。

 とりわけ、この最後の点が重要です。このような民意の急激な変化は、たとえば、05年総選挙での自民党勝利、07年参院選での自民党敗北、09年総選挙での民主党勝利、10年参院選での民主党敗北というめまぐるしい選挙結果に、如実に示されています。
 それには、世論調査が容易になったという技術的背景があります。マスコミは、頻繁に世論に問うことができるようになり、それを見ながら「空気を読んで」、有権者は自分の意見や態度を決めるようになりました。
 これには、プラスとマイナスの両面があるように思われます。政治が民意によって動くようになってきたというプラス面と、それが必ずしも「熟議」によるものではなく、一定の方向が出ると付和雷同的に加速され政治を歪めるというマイナス面です。

 さて、今後、菅首相は厳しい国会運営に直面することになるでしょう。その厳しさはどこにあるでしょうか。
 第1に、衆院と参院での多数派が異なる「ねじれ現象」が、再び生じたことです。与党は再議決できる衆院での3分の2議席を持っていませんから、最悪の場合、参院でことごとく否決されて法律が成立しないという事態が生じるかもしれません。
 第2に、有権者の厳しい目は選挙が終わったからといって無くなるわけではないということです。選挙で惨敗しましたから、今後はもっと与党に厳しくなるかもしれませんし、内閣支持率がさらに低下する可能性もあります。
 第3に、消費税論議をやり直す必要が出てくるでしょうが、一直線に増税へ、というやり方は許されません。選挙結果を真摯に受け止めるなら、歳出の削減や消費税以外での財源などを検討する必要が出てくるでしょう。

 菅政権を待つハードルも、決して低くはありません。参院選で不信任された菅首相に、これを飛び越えていくエネルギーが残っているのでしょうか。
 第1に、国会の運営があります。臨時国会で院の構成を決めますが、参院議長の選出でもめる可能性があり、その後の国会運営も、前述の「ねじれ現象」の下で厳しいものとなるでしょう。
 第2に、9月に予定されている民主党の代表選挙があります。それを「前倒し」するべきだという意見もあり、参院選惨敗の責任論ともからんで予断を許しません。
 第3に、次の総選挙があります。最大で、今後3年間の任期がありますが、それを全うできず、かなり早い時期に解散・総選挙せざるを得なくなるかもしれません。

 参院選の結果についてマスコミからのインタビューを受ける菅首相は、渋い顔をしていました。このような前途の困難さに思いを馳せていたのでしょう。
 安倍政権以来、福田、麻生、鳩山と、「日替わり定食」ならぬ「年替わり宰相」が続きました。毎年、総理大臣が入れ替わってきたのです。
 参院選の結果、菅政権も1年もつかどうか分からなくなりました。菅さんは「最小不幸社会」を作りたいと言っていましたが、日本はもう、「宰相不幸社会」になってしまったのかもしれません。

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