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6月4日(火) アベノミクスによる労働の規制緩和の再起動(その2) [論攷]

〔以下の論攷は、『月刊社会民主』6月号に掲載されたものです。2回に分けてアップします。〕

 雇用の柔軟化と労働時間規制の緩和

 日本経済再生本部の第1回会議で、安倍総理は「雇用関連、エネルギー・環境関連、健康・医療関連を規制改革の重点分野とする」ことを指示し、これに基づいて経済財政諮問会議の第2回会議に提出された「経済財政諮問会議の今後の検討課題(有識者議員提出資料)」は、「具体的検討事項」として「人材の活用及び人的投資の拡大・育成(特に若者や女性)、ライフサイクルを踏まえた雇用、柔軟性のある労働市場」を提起した。
 こうして、「整理解雇を一定の条件にて行うことを可能とする」こと、「有期雇用規制をとりやめる」こと、「White Collar Exemptionの欧米国並み適用、人材の流動化(例:解雇規制の緩和)」「正社員終身雇用偏重の雇用政策から多様で柔軟な雇用政策への転換」「地域や職務を限定した正社員や専門職型の派遣労働者など、『ジョブ型のスキル労働者』を創出すること」、「多元的な雇用システム」「ハローワーク全体の事業効率を検証するとともに、民間のノウハウ」の「最大限活用」「求職者支援制度や雇用保険事業などの内容」の「再検証」などの諸課題が浮上することになる。
 総じて、「企業に自由を与え、体質を筋肉質にしていくような規制改革」(産業競争力会議第1回会議での竹中発言)がめざされているのである。その焦点は、端的に言えば、雇用の柔軟化と労働時間規制の緩和に据えられている。

 働く人々の困難を解決できるのか

 しかし、小泉構造改革以来の労働の規制緩和は、「ワーキングプア」と呼ばれる低賃金で不安定な非正規労働者の増大、正社員を含めた労働者全体の賃金の低下、メンタルヘルス不全など心身の健康を損なう長時間・過密労働、技能継承の困難と技術力の低下、そして、家庭の形成・維持の困難や少子化による労働力再生産の阻害と社会の縮小化など、深刻な問題を生み出してきた。それを再起動することによって、これらの問題を解決することができるのだろうか。
 何よりも大きな問題は、規制改革が「成長戦略」の一環として提起され、働く人々が抱えている困難をいかに解決するかという視点を欠いていることにある。地域や職務を限定した「限定正社員」は時期不明の有期雇用という「名ばかり正社員」にすぎず、解雇規制の緩和は雇用不安を拡大させ、労働時間規制の緩和は過労死のリスクを高めてサービス残業の合法化をもたらすことになろう。
 このような規制改革は雇用と労働の劣化を促進し、低収入で結婚もできない労働者をますます増大させ、消費不況の長期化と国内市場の狭隘化をもたらすことになる。その結果は、「成長戦略」の推進ではなく、その阻害要因を拡大させるだけである。

 参院選での断固とした回答を

 小泉構造改革は貧困の増大や格差の拡大など多くの「負の遺産」を残してきた。このことはすでに国民の知るところであり、安倍首相も例外ではない。したがって、規制改革の「再稼働」には慎重にならざるを得ない面がある。
 また、安倍首相は、第一次内閣当時の07年1月にホワイトカラー・エグゼンプションの導入を断念したにもかかわらず、その後の7月参院選で大敗するという負の経験を持っている。労働の規制緩和に対して、ある種のトラウマを抱えている可能性もある。
 そのこともあって、行きすぎた規制緩和を批判している原丈人アライアンス・フォーラム財団代表理事を4月18日の経済財政諮問会議に招いてヒアリングしたり、民間議員が解雇規制の緩和についての主張を弱めたりするなどの動きがあった。ただし、解雇無効の判決が出た場合に補償金を支払う事後型の金銭解決については議論が継続され、その他の課題も参院選後に再浮上する可能性がある。今後の取り組みが重要になろう。
 そもそも、日本では労働規制を守らない「ブラック会社」が跋扈しており、違法がまかり通っている。規制を緩和するよりも、これらの違法企業への取り締まりを強化する方が先決ではないのか。それを放置するだけでなく、働くルールをさらに弱めることは、「ブラック会社」の合法化を図り、日本全体を「ブラック社会」にしてしまうだけである。
 それを阻止するためにも、参院選での断固とした回答が必要であろう。安倍首相のトラウマをさらに強め、労働の規制緩和を断念させるだけの手厳しい結果がもたらされることを期待したい。

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