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8月24日(土) 「保守本流」路線からの転換をめざす安倍首相 [首相]

 参院選で勝利し、衆参両院で安定多数を得た安倍首相は、これまでの「猫かぶり」戦術を転換し、騎虎の勢いで全面的な攻勢に出ようとしています。衆参の「ねじれ」という「ブレーキ」を取り外した安倍政権は急速にハンドルを右に切り、「暴走」を始めつつあります。

 その行きつく先には何があるのでしょうか。安倍首相は、どのような方向に日本を導いていこうとしているのでしょうか。
 その答えは、一言で言えば「保守本流」路線からの転換です。「保守本流」路線と呼ばれる「戦後状況に適合する新たな政治モデル」は、安保闘争という国民的大闘争によって半世紀以上も前に自民党が採用せざるを得なくなったものでした。
 これについて私は、拙著『概説 現代政治-その動態と理論』(法律文化社)で、次のように書いています。

 60年安保闘争をクライマックスとした大衆闘争の展開によって、このような戦前型政治モデルがいかに不適切であるかを、保守勢力は思い知った。戦後状況に適合する新たな政治モデルが必要とされた。この時点で、戦前型政治モデルへの復帰衝動は最終的に断ち切られ、明文改憲路線の挫折、強権的な政治主義の破綻、対外的枠組みとしての新安保体制の確立は、その後の保守政治の枠組みを基本的に規定することになる。こうして、解釈改憲路線、経済主義路線、対米協調路線という政策路線に、合意漸進路線という政治手法を加えた政治運営のあり方は、やがて保守政治の基本路線として定着していく。それが戦後型政治モデルとして保守勢力内で認知された時、「保守本流」の政治路線としての地位を獲得することになるのである(80~81頁)。

 ここでも指摘しているように、「保守本流」路線は、政治路線としては解釈改憲路線、経済主義路線、対米協調路線の組み合わせであり、政治手法としては合意漸進路線を特徴としていました。それは長い間、「保守政治の基本路線」として定着してきたものです。
 安倍首相は、それを根本的に転換しようとしているようです。解釈改憲だけではなく明文改憲を前面に出して実質改憲(立法改憲)と組み合わせること、経済的な利益誘導だけではなくイデオロギー的な政策課題を掲げて政治的対決を迫ること、対米協調だけではなく国際的な孤立化を厭わず軍事的自立を高めることなどを目指しているからです。
 このような路線転換は、戦後保守政治のあり方を大きく変容させるでしょう。それは安倍首相の祖父である岸元首相が試みた戦前型政治モデルへの復帰衝動を心情的に受け継ぐものだといえます。

 しかし、このような路線転換は、保守勢力内での亀裂を生み出すことになるでしょう。これまでの解釈改憲路線から96条明文改憲路線への転換は、すでに「保守本流」路線を担ってきた勢力からの反発を生み出しています。
 古賀さんや野中さんなどの自民党長老からの異議申し立ては、その現れにほかなりません。このような自民党内の亀裂は今後、憲法問題だけでなく、原発、沖縄基地、オスプレイ、消費増税や社会保障改革などの政策問題でも顕在化していくでしょう。
 TPP交渉への参加が本格化し、その内容が明らかになれば、自民党内での亀裂はさらに大きなものになる可能性があります。民主党は消費増税問題で分裂しましたが、自民党もTPPへの対応をめぐって分裂するかもしれません。

 また、「保守本流」路線を支えてきた官僚からの抵抗も生まれつつあります。集団的自衛権の行使容認を急ぐ安倍首相は、内閣法制局長官の首をすげ替えるという強権的な手法を採りましたが、これはやりすぎだったのではないでしょうか。
 慣例を無視したこのような人事のやり方は、当然、官僚全体の反発を招くことになります。とりわけ、内閣法制局内での反感は強まり、小松新長官は目に見えない抵抗に遭遇するのではないでしょうか。
 前法制局長官である山本最高裁判事は憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使容認について「私自身は非常に難しいと思っている」と異例の発言を行っていますが、これは法制局内の雰囲気を反映しているように思われます。それにもかかわらず、安倍首相が強引なやり方をとり続ければ、当然、摩擦や抵抗は大きなものにならざるをえません。

 60年安保闘争に懲りて政治モデルを転換させたのは、戦後保守政治の「狡知」であると同時にある種の「叡智」でもありました。この時点での「保守本流」路線への転換は、その後の保守支配の安定と自民党長期政権を生み出す要因の一つになったからです。
 その路線を捨て去り、再び転換しようとしているのが安倍首相にほかなりません。それは同時に、保守支配の安定と自民党長期政権を生み出した要因の一つを捨て去ることになるのだということを、安倍首相はどこまで自覚しているのでしょうか。

 さて、私にとってのお休みは今週で終わりです。来週からは毎週のように講演が続き、再び繁忙期に入ることになります。
 現在、依頼されている講演には以下のようなものがあります。関心のある方に参加していただければ幸いです。

8月27日(火)19時~、建設プラザ東京 東京土建9条の会「自民党改憲草案と日本の未来」
8月30日(金)18時半~、杉並産業商工会館 すぎなみ革新塾「自民党の圧勝/共産党の躍進をもたらした要因は これから政治はどう動く」
9月6日(金)18時半~、 神奈川県学習協
9月8日(日)14時~、月島社会教育会館 損保9条の会「自民党改憲草案と日本国憲法の意義」
9月10日(火) 静岡民商
9月12日(木) 憲法改悪反対共同センター
9月28日(土) 東京革新懇
10月5日(土) 府中革新懇
10月19日(土) 日野革新懇

 関係者の皆さんには、お世話になります。よろしくお願いいたします。

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