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9月2日(月) 強大な軍事力を持っていることの不幸 [国際]

 どれほどやりたいと思ってみても、そのための手段や道具がなければ、それをやることはできません。別の方法を考え、どれほど困難で時間がかかっても、そちらの方に力を注ぐでしょう。それしかやり方がないのですから……。
 ところが、何でもできてしまう大きな力があれば、どうしてもそれに頼ろうとします。それがどれほど悲惨で重大な結果を招こうとも……。

 今、私たちが目撃しているのは、まさにこのような問題なのではないでしょうか。シリアでの化学兵器使用について、オバマ大統領はアサド政権側の使用であると断定し、それに対する報復として軍事拠点に巡航式ミサイルを撃ち込もうとしています。
 いかなる理由があっても、核兵器と同様に化学兵器の使用は許されません。国際社会によって厳しく断罪され、再び使用されないようにすることが必要です。
 しかし、それをどのように行うか、が問題です。軍事拠点をピンポイントで空爆するような軍事的制裁を科すのか、外交的な手段で非軍事的な解決をめざすのか。

 オバマ大統領が限定的な空爆を行おうとしているのは、巡航式ミサイルという手軽で効果的な軍事的手段を持っているからです。それは正確に目標に到達し、人的被害を最小限に抑え、ピンポイントで対象を破壊することが可能だとされています。
 もし、そのような武器がなければ、オバマ大統領はどうするでしょうか。それがいかに困難で時間がかかっても、国際社会に訴え、非軍事的な解決を模索するにちがいありません。それしかやり方がないのですから……。

 これまでも、アメリカは同様な選択に直面することがありました。ベトナム戦争やイラク戦争などでも、アメリカは正義の旗を掲げてベトナムやイラクを攻撃してきました。
 しかし、そのような攻撃の理由とされたトンキン湾事件やフセイン政権による大量破壊兵器の保有は、いずれも間違いだったのです。その結果、ベトナムやイラクでの自然や国土、文化、産業は破壊され、それらの国の人々だけでなく、アメリカの若者も含めて多くの人命が失われました。
 恐るべき破壊と許されざる殺戮が、虚偽の情報と誤った判断によってなされてしまったのです。もし、このとき、ベトナムやイラクを攻撃できるだけの軍事力を持っていなかったら、アメリカはこのような悲劇的な過ちを犯したでしょうか。

 アメリカの失敗は、あまりにも強力な軍事力を持っていたことにあるのではないかと思われます。それは、アメリカ国民の税金によって賄われ、アメリカ国民を戦争に巻き込み、アメリカという国の威信と国力を低下させてきました。
 もし、「世界の憲兵」と言われるほどの軍事的実力を持っていなかったなら、それを支援する同盟国の助けがなかったなら、アメリカはこのような不幸を免れたかもしれません。アメリカの若者が、見知らぬベトナムのジャングルやイラクの砂漠で命を落とすこともなかったでしょう。
 これらの戦争で利益を得たのは、流れた血の量によって昇進を重ねた将軍たちであり、人殺しの兵器を売って戦争をビジネスとした「死の商人」たちでした。そして、これらの軍産複合体がアメリカの政治を動かし、軍事によって政治を歪めてきたのです。

 今、また同じことが繰り返されようとしています。武力による問題解決と手軽で効果的な軍事的解決への誘惑が、オバマ大統領を捉えようとしています。
 もし、ミサイル攻撃が実施されれば、シリアの一般市民にも犠牲が出るでしょう。シリア政府は反撃のために、地中海に展開している米軍の艦船にミサイルを撃ち込み、イスラエルやヨルダンなど、アメリカの同盟国に対する報復を行うかもしれません。
 化学兵器を使用したのがシリア政府であるとすれば、この報復攻撃で再び化学兵器が使用されないという保障があるでしょうか。今回も、あまりにも強力な軍事力を持っていることがアメリカに大きな不幸をもたらし、さらには中東全域、ひいては世界全体に大きな災厄を引き起こすことになるかもしれません。

 懲りない国ですね。アメリカという国は……。
 殺戮を防ぐために、ということで新たな殺戮を行ってきたというのが、これまでの軍事介入の歴史ではありませんか。その失敗を、またも繰り返そうというのでしょうか。
 このような失敗の歴史が示しているのは、今日の世界においてもはや軍事的手段は問題解決の選択肢に含まれていないということです。それは、問題を解決できないばかりか、さらに問題を拡大し複雑にし、泥沼化させるだけでしょう。

 問題を根本的に解決するためには、どれほど困難で時間がかかっても、非軍事的な解決手段を選択せざるをえないのです。それはまさに、日本国憲法が指し示す道であり、この点にこそ、憲法の前文と9条に示された平和主義原則の先進性があります。
 そして、安倍内閣も日本の政府である限り、「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」という9条の精神に則って行動しなければなりません。安倍内閣は直ちにシリア攻撃の中止を、オバマ米大統領に申し入れるべきです。

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