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4月22日(水) なぜテレビは政治を正面から報じないのか(その1) [マスコミ]

〔下記の座談会は、『前衛』No.922、2015年5月号、に掲載されたものです。出席者は、五十嵐仁(法政大学元教授)、岩崎貞明(放送レポート編集長)、砂川浩慶(立教大学准教授)、永田浩三(武蔵大学教授)の4人ですが、私の発言部分だけを3回に分けてアップします。他の方の発言を含めたやり取りをお知りになりたい方は掲載誌をお読みください。〕

 五十嵐 私はテレビ関係者ではないので、視聴者の立場あるいは政治をみている立場ということで話をさせていただきます。
 これまで指摘されてきた問題の背景にあるのが「テレビ離れ」です。情報を入手するうえでテレビのもっている比重が低下しているという事実がある。情報入手のルートや手段がテレビや新聞などから、インターネットやSNSなどに変わってきています。テレビや新聞などが生き残りを図ろうとすれば、政権への配慮や自粛という対応も起きやすくなっていると思います。
 もう一つは、このように自粛や配慮をおこなって政権との間合いの取り方を変えてきているということが、インターネットなどを通じて、一般の視聴者にもわかってしまうという事情があります。どういう圧力がかかっているのか、どういう動きが背後にあるのかが、ブログやツイッター、フェイスブックなどで知られてしまう。その結果、ますますテレビや新聞に対する信頼が低下し、「テレビ離れ」が進むという悪循環に陥っています。
 ネット社会ではときどき「マスゴミ」という言い方がなされます。「マス=大量」のゴミ、マスコミによって流される情報はゴミばかりだというとらえ方です。しかし、十把一絡げにマスコミは役に立たないというのは間違いで、情報入手のルートとしてはいまも重要な役割を担っています。それだからこそ、テレビや新聞などのマスメディア、マスコミのあり方が問題になるのです。
 ここで立ち止まって、もう一度政権や政治との間合いの取り方を見直し、どう国民や視聴者の信頼を取り戻すかを本気で考えなければなりません。それがテレビなどの生き残りをはかるうえで不可欠の前提条件になってきています。
 ただ、先の総選挙に関して言えば、突然の解散だったので、メディアの側も十分に準備する余裕がなかったということもあると思います。報道するような材料があまりなかったということと、政権から文句をいわれて面倒になるのは嫌だという気分が、選挙報道に対する消極性を生んだのではないでしょうか。
 また、メデイアによって伝えられる側(つまり政治)の問題もあります。もっと面白い選挙であれば――例えば「郵政選挙」のようにあちこちに「刺客」が送られて、選挙がある種「ゲーム」としての面白さがあれば――それを伝えることは視聴率を高めることにつながり、テレビ局は何がなんでも報じたと思います。しかし民主党は、自民党に対抗すべき野党第一党であるにもかかわらず十分な候補者を立てず、選挙そのものへの興味が高まらなかった。
小選挙区制はもともと選挙自体の面白さをなくすという弱点・欠点を持っていますが、今回はいっそう野党の側、与党に対抗する側が十分な体制をとって対決するという構図を作れなかったがために、「いい絵」になるような場面が少なく、テレビは報道する意欲に欠けたという面もあったと思います。このような観点から言えば、選挙だけでなくて国会での論戦なども、与野党の対決によって政治本来の活力を取り戻すということも、伝えられる側にとっては大きな要素になるのではないでしょうか。

 五十嵐 テレビにしてもマスコミにしても、そのような対応の仕方は自滅への道だと思いますね。籾井会長が何を言っても、現場が自立していて自由に報じれば問題はありません。かつてはそういう面があったかも知れませんが、最近はテレビ局も巨大化して企業としての内部統制が確立し、社としての方針に現場の制作者や記者が拘束される、あるいはそういうことを忖度したり斟酌したりして番組づくりや記事を書いたりする傾向が強まっているようです。マスコミとしては、それは自分で自分の首をしめているようなもので、ますます情報を得る手段としては信頼・信用されなくなる。テレビ離れ、新聞離れとなってしまうでしょう。

 五十嵐 民放の場合だと視聴率競争に巻き込まれて、数字が取れるかどうかが問題になります。内容が劣悪でも、話題になって視聴率が取れれば評価されるという面がある。これとは違って、NHKの場合には視聴率を気にせずによい番組をつくれるというよさがあります。NHKにはいろいろ問題点もありますが、やはり速報性や取材力に優れ、全国どこでも同じ番組を見られるというメリットがあります。企業や業界などからも自由で、スポンサーを気にする必要もない。視聴率を気にしないでよい番組をつくることができるという、NHKとしてのよさを大切にした番組づくりをしてもらいたいと思います。

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