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5月23日(土) 二人を見殺しにした安倍内閣に免罪符を与えた検証委員会の報告書 [国際]

 仲間うちの「検証」など、何の役にも立たないということが「検証」されたような報告書です。過激派組織「イスラム国」(IS)による邦人2人の人質事件に関する政府の検証報告書が出ましたが、それは安倍内閣に免罪符を与えるためのものにすぎませんでした。
 報告書の総括的な結論は、「今回の事件は救出が極めて困難なケースで、政府による判断や措置に人質の救出の可能性を損ねるような誤りがあったとは言えない。わが国の政策的立場や事件への対応方針についてのさまざまな発信は適切だった」というものです。新聞に要旨が掲載されていますが、それを読んでも、このような評価には納得できません。

 第1に、安倍首相の中東訪問と演説の内容です。外務省が2人の拘束可能性を認知したのは14年12月3日だとされています。「犯行主体などについて確定的な情報には接していなかった」という状況の下で安倍首相は中東訪問を決行し、エジプトでスピーチしました。
 エジプトのシーシー政権は軍事クーデターで発足した軍部独裁政権で、エジプト最大のイスラム教組織イスラム同胞団を弾圧しています。このような状況の下で、あえてそのような国を訪問して首脳会談を行う必要があったのか、という点については具体的な検証がなされていません。
 また、動画が公開される直前の1月17日にカイロで行った「イスラム国と戦う周辺各国に総額2億ドル程度の支援を約束する」というスピーチについても、英訳との違いが国会で質問されたりしましたが、具体的な検証はなされず、「首相の中東政策スピーチの内容・表現には、問題はなかった」とされているだけです。ただし、有識者からは、「ISILにより脅迫の口実にされたとの指摘や、善悪白黒の二元論ではなく、よりしたたかな発言を追求する必要があるとの指摘」があったとされている通り、あのスピーチが身代金要求の引き金を引き、その口実とされたことは明らかではないでしょうか。

 第2に、イスラエルとの関係です。報告書では、これについて何も書かれていません。
 安倍政権になってから日本はイスラエルとの関係を深めており、今回の中東歴訪も、中心的な目的はF35戦闘機などについての軍事技術協力を進めるためで、軍需産業関連の企業関係者を多数引き連れていったのはそのためだったという見方もあります。また、1月20日の動画確認後の緊急記者会見の際に、安倍首相の背後には日本の国旗とともにイスラエルの国旗が掲げられていました。
 これら一連の事実がIS側を刺激し、邦人2人の救出を困難にしたのではないでしょうか。しかし、そもそもこのような問題意識自体がなかったようで、これらについての検証は全くなされていません。

 第3に、現地対策本部のあり方の問題です。報告書を読んで驚いたのは、今回の人質事件でヨルダンの首都アンマンにある現地対策本部で指揮をとり、テレビにもたびたび登場していた中山泰秀外務副大臣の名前が全く出てこないことです。
 今回の対応策における最大の失敗は、現地対策本部をヨルダンに置いたことと、その本部長として日本・イスラエル友好議員連盟の元事務局長でイスラエルとの関係強化に尽力してきた中山さんに指揮を委ねたことにあると思われますが、「ヨルダンに現地対策本部が設置されたことは適切と考えられる」とされており、この点についての突っ込んだ検証もなされていません。
 アラブ世界から敵視されているイスラエルとの関係が深い中山さんに「現地の部族長や宗教関係者に連絡」をするなど、「あらゆるルート・チャンネルを活用」することが元々期待できたのでしょうか。解放交渉の途中から、ISに拘束されていると見られていたヨルダン人パイロットとヨルダン政府に捕らえられていたリシャウィ死刑囚との人質交換の話などが出てきて問題が錯綜しましたが、現地対策本部がヨルダンに置かれていなければこのような問題は生じなかったはずです。

 第4に、今後の課題として、報告書では「専門家の育成・活用をはじめ、情報の収集・集約・分析能力の一層の強化に取り組む」ことや「危険なテロリストが支配する地域への邦人の渡航の抑制」などが提案されています。しかし、それよりも大切なことは、狙われないようにすることではないでしょうか。
 報告書でも「在留邦人の安全確保及びテロの未然防止に万全を期していかなければならない」とされていますが、「未然防止」のためにどうするかが明記されていません。「平和国家・日本」のイメージを壊さないようにし、アラブの国々やイスラム社会から敵視されたり憎まれたりすることを極力避けることが何よりも大切だと、なぜ書かなかったのでしょうか。
 そのような観点からすれば、安倍政権が進めようとしている「安全保障法制」による日米同盟の強化が日本と日本人の安全を高めることになるのかという問題提起もすべきだったでしょう。アメリカの「下請け役」となりイスラエルの友好国となることが、テロの標的とされることを避けるうえでプラスになるのか、と……。

 本日の『東京新聞』に、紛争地での武装解除や停戦監視などに従事してきた伊勢崎賢治東京外大教授のインタビューが掲載されています。「非武装貢献こそ必要」という見出しの下で、伊勢崎さんは次のように語っています。

 「米国は06年、対テロ戦略を作り、テロが巣くう所に安定国家を樹立しようとしてきましたが、大量破壊兵器や通常戦略では撲滅できません。欧米にはテロの病巣がいっぱいあります。軍事的にたたくだけでは逆効果で、抜本的な治療や養生が必要です。
 中東での日本のイメージはいいですが、彼らの大義やカリフ制度、圧倒的な被害者意識が日本を敵と認めれば、敵になります。敵にされる口実を与えないよう、生きるしかありません。リーダーも含め、テロリストが大義としないよう口を滑らせないことです。」

 「日本の果たすべき役割は非武装貢献です。領土のせめぎあいには妥協点があるはずです。妥協すれば停戦監視のニーズが生まれます。そこへ非武装の自衛隊を送って停戦監視し、いい社会をつくり、現地の被害者意識をなくす手伝いをする。軍事力は必要ありません。」

 ISによる邦人2人の人質事件から学ぶべき最大の教訓は、ここにあると言うべきでしょう。もし無事に生還していれば、後藤健二さんもこう言ったにちがいありません。
 「日本の果たすべき役割は非武装貢献です。軍事力は必要ありません」と……。

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