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6月15日(水) 労働組合運動はなぜ重要なのか(その3) [論攷]

〔以下の論攷は、『学習の友』6月号に掲載されたものです。3回に分けてアップさせていただきます。〕

3、 労働組合運動が取り組むべき課題

 雇用の量と質の確保

 労働組合運動が取り組むべき課題の第1は、雇用の量と質の確保です。働く意思を持つ人がすべて働けるような雇用の場を確保すること、解雇や失業などによって職を失うことのないようにすることなどの雇用拡大と継続雇用の維持に取り組むことが必要です。
 同時に、雇用者の責任が曖昧で劣悪な賃金や労働条件であったり、期限が切られていたり(有期雇用)、いつ雇い止めになるか分からないような不安定な非正規雇用であったりしてはなりません。期限について定めのない直接雇用であること、失業しても生活を維持し再就職できるようにする失業補償と職業訓練を充実させることも必要です

 生活できる賃金の取得

 第2は、生活できる賃金の取得です。賃金は労働力の価格として支払われますが、それは働く人々の生活が維持されるだけでなく、通常の家庭生活を営んで次の世代を養育できるだけの水準でなければなりません。正規と非正規の均等待遇や同一労働同一賃金の実現、最低賃金の引き上げも必要です。
 働いて得た賃金があまりにも少なく、まともに生活できないような「ワーキングプア」が増えれば労働者の世代継承が困難になり、持続不可能な社会になってしまいます。少子化の背景には低賃金の問題があり、非正規でも生活できる賃金の保障は働く人々だけでなく使用者を含めた社会全体の課題となっています。

 生存を脅かさない労働時間の実現

 第3は、生存を脅かさない労働時間の実現です。長時間にわたる過密な労働は、働いている労働者本人の健康や精神を蝕んで過労死や過労自殺、メンタルヘルス不全などの社会問題を生み出しています。このような健康破壊は、せっかく育てた労働力を活用できなくなるわけですから、企業にとっても大きな損失です。
 長い労働時間や通勤時間によって帰宅が遅れれば、まともな家庭生活を営むこともできなくなります。余暇を過ごしたり、育児など子供と共有する時間を確保したり、政治や社会の問題に取り組んだりすることは、普通の市民として生活するための最低限の条件です。労働時間を短縮して家庭での生活時間を確保することは、働く人々の健康を維持するだけでなく、日本の社会をまともにするために必要な不可欠の課題になっています。

 労働と生活を支えられる社会保障の実現

 第4に、労働と生活を支えられる社会保障の実現です。働く人のライフステージに対応して必要となる経費や生活費は年齢に応じて変化します。結婚して家庭を持ち子供が生まれたり、親の介護が必要になったり、加齢によって病気がちになったりすれば、それに対応した費用が必要になります。
 これらは年功的な賃金によって確保されてきましたが、能力主義による成果・業績主義賃金が主流になれば、行政によって社会的に下支えされなければなりません。このような課題は労働組合運動が企業の枠を超えて政治にも働きかけることが必要になる背景の一つにもなっています。

 労働組合の組織化

 第5に、仲間を増やすこと、つまり労働組合の組織化です。労働者の最大の強みは数が多いということにあり、組合員を増やすことによって競争の是正や交渉力の強化、相互扶助のための財源の確保や手厚い援助などが可能になります。労働組合の側からすれば自らの存否に関わる重要な課題ですが、組合員の側からすれば要求実現のための武器を強めることになります。
 昨今のように競争が拡大して孤立感や疎外感が強まっている職場では、仲間のいる幸せを得られる場でもあります。労働組合に入ってもらうことは分断され孤立している仲間を救い、悩みを相談できる仲間の幸せを分かち合うことであり、組織する側だけでなく組織される側にとっても大きなメリットがあるということを忘れてはなりません。

 むすび

 労働組合は団結によって不利な条件を是正するためのものです。これによって労働者は資本家と対等になるのであって、それを上回る力を得て有利になるわけではありません。
 また、資本家と労働者の基本的な利害は対立していますが、相互に依存する関係でもあります。労働者がいなければ企業は存立できず、企業がなければ労働者は働く場を得ることができないからです。
 長い間の労働組合運動によって多くの成果が得られた結果、その必要性が十分に認識されず、労働組合の組織率が下がり、運動としての活力が低下しています。しかし、労働組合運動がなければ、雇用の確保や賃金の引き上げ、労働条件の向上も働く人々の人権を守ることもできなくなります。
 その結果、働く人々の困難が増し、非正規雇用の増大、貧困化や格差の拡大、過労死や少子化、可処分所得の減少による景気の低迷などの社会問題が生まれています。現代の社会では市民や消費者は同時に労働者や生産者でもあり、働く人々の困難は直ちに社会全体の問題の発生につながるからです。
 日本における社会問題の解決のためにも、労働組合運動が活力を回復し、働く人々の労働と生活条件の改善のために大きな力を発揮することが求められています。労働組合運動が果たすべき役割とその重要性は低下していないだけでなく、経済と社会の再生のためにますます大きなものになっているのです。


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