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1月25日(月) 小沢「政治とカネ」、沖縄普天間移設問題に見られる共通の構図 [政局]

 大きなニュースが、相次いでいます。土曜日には民主党の小沢幹事長の「政治とカネ」問題について東京地検特捜部による事情聴取が行われ、日曜日には沖縄の名護市長選挙で米軍普天間飛行場の辺野古移設に反対する新人の稲嶺進候補が当選しました。
 この二つの問題には、共通する面があるように思われます。事態を複雑にしているのは、このような構図が背景にあるからではないでしょうか。

 共通の構図の1つは、いずれも、新政権と旧体制(自民党・官僚・財界・アメリカ・マスコミによって構成されるアンシャンレジーム)との対抗関係が背後にあり、旧体制(アンシャンレジーム)による鳩山政権に対する反撃が強まっているということです。
 「政治とカネ」の問題で追及されているのは、民主党幹事長の小沢さんだけでなく、鳩山さんも同様です。この追及の先頭に立っているのは検察・司法官僚で、自民党は勢力のばん回と民主党のイメージダウンのためにこれを利用しています。
 新聞などによる捜査情報の「リーク」が疑われていますが、それが事実がどうかは分かりません。しかし、マスコミを通じて検察側しか知り得ないような情報が流れているのではないかとの疑いは濃厚だと言わざるを得ません。

 普天間問題でも、新政権と旧体制(アンシャンレジーム)との対抗関係が強まっており、アメリカ内の「ジャパン・ハンドラー」と呼ばれる「知日派」が暗躍しています。日本のマスコミは、これをアメリカ全体の動向であるかのように報じていることは、皆さんご存知の通りでしょう。
 日本の国内でも、外務官僚や防衛官僚は、一貫して辺野古沖への移転という「現行案」の実行をめざしています。自民党も、これまでは同様でした。
 今回の名護市長選は、このような暗躍に対する名護市民の明確な回答でした。他方で、5月までは日米首脳会談を拒むという形で、アメリカからの揺さぶりがかけられています。

 第2は、このような反撃を跳ね返すことができないような弱点を、鳩山政権が抱えているということです。新政権にはアキレス腱があり、そこが執拗に狙われているということでしょう。
 「政治とカネ」の問題では、鳩山さんも小沢さんも、全く問題なしと言えるような状況ではありません。安倍さんや福田さん、麻生さんなどと同様の「旧体制」出身である「世襲議員」としての問題を沢山抱えていたということでしょうか。
 鳩山さんが受け取った多額の「子ども手当」や小沢さんが行った不可解な資金処理は、庶民には理解不能な面が多々あります。国会で真相を解明し、政治的道義的な責任を明らかにすることが必要でしょう。

 普天間問題でも、新政権側には弱点があります。安保条約に基づく日米同盟の役割と「抑止力論」に拘泥し続けている点です。
 安保に基づく日米同盟を肯定的に評価し、米軍基地の存在を「抑止力」と考えている限り、袋小路から抜け出すことはできません。鳩山さんが野党時代に唱えていた普天間基地の「県外・国外移設」論は、選挙目当ての戦術的主張に過ぎなかったということになります。
 軍事力によって安全を確保しようとするパワーポリティクスや軍のプレゼンスによる抑止力論は、すでに破綻しています。このような論理を明確に払拭できなければ、鳩山首相自身や閣僚による発言の揺れは、いつまでも続くことになるでしょう。

 第3は、問題の根本的な解決のためには、旧体制の構造や論理から明確に離脱するしかないということです。政権交代によって国民が求めたのは、これまでの政策をきっぱりと転換することだということを、鳩山政権はもう一度かみしめるべきでしょう。
 今回明らかになったのは、「政治とカネ」の問題は「政治改革」によって解決されなかったということです。それなら、もう一度、「政治改革」の課題をやり直さなければなりません。
 その中心は、企業・団体献金の禁止です。自民党も政治腐敗を追及している今が、法律を制定するチャンスでしょう。

 普天間問題の根本的解決のためには、無条件撤去しかありません。その結果、閉鎖するか、グアムなどの日本国外に持っていくかは、アメリカに任せれば良いのです。
 在日米軍基地の全てを撤去せよといっているわけではありませんし、フィリピンでは二つの米軍基地が撤去されても、何の問題も生じませんでした。この問題を解決することは、1996年以来、日米関係に突き刺さったとげを抜くことにもなるでしょう。
 名護市長選挙の結果を受けて、直ちに国会で「普天間基地の無条件返還を求める決議」を挙げ、閣議決定を行ってアメリカとの交渉に臨むべきです。政権交代によって民意が示され、今回の市長選で名護市民の意思が明確に表明された今が、問題解決のチャンスでしょう。

 どちらの課題も難題であり、政権を揺るがす可能性があることは否定できません。しかし、今こそ、根本的な解決を打ち出せるチャンスでもあります。
 旧体制(アンシャンレジーム)の反撃の前に、グズグズして中途半端な対応を繰り返し、世論の支持を失って政権交代の意味を台無しにしてしまうのか。それとも、腐敗政治を一掃して普天間基地の返還を実現し、政権交代に託された国民の期待に応えるのか。
 果たして、鳩山首相はどちらの道を選ぶのでしょうか。

 というような話を、今週の木曜日に予定されている「国民学校一年生の会」の勉強会でしようと思っています。
 なお、この勉強会を含めて、現在までに決まっている講演の予定は以下の通りです。関係者の皆さん、よろしくお願いいたします。

1月28日 国民学校一年生の会(東京・新宿)
2月6日 福岡県社会保障学校(福岡・二日市温泉)
2月13日 金融労連春闘学習会(福島県・岳温泉)
2月25日 全国社研連(滋賀県・立命館大学びわこ・くさつキャンパス)
2月26日 八王子市史編纂室市民講座(東京・法政大学大原社会問題研究所)
3月4日 全国一般東京南部春闘学習会(東京・大崎)
3月5日 神戸地区労・神戸ワーカーズユニオン春闘学習会(神戸・三宮)
3月6日 三多摩革新懇談会(東京・立川)
3月12日 重税反対全国統一行動中央各界代表者集会(東京・国会)

 場所や時間、内容などの詳細については、それぞれの主催団体にお問い合わせ下さい。多くの皆さんにご参加いただければ幸いです。

1月19日(火) 曖昧でスッキリしない小沢「政治とカネ」問題 [スキャンダル]

 どうも、曖昧模糊としてスッキリしません。このままでは、せっかくの政権交代が無駄になってしまうのではないかと、心配しています。

 民主党の小沢一郎幹事長と鳩山由紀夫首相の「政治とカネ」の問題です。曖昧なのは、当事者の説明もマスコミや検察側の対応も、ともに納得が得られるようなものとなっていないからです。
 小沢さんは、「やましいカネではなく、法に触れるようなことはしていない」と言っていますが、国民の多くは納得していません。世論調査では8~9割もの人が、説明には納得できないと回答しています。
 納得されないのは、十分な説明を小沢さんがしていないからです。「問題がない」と言うのであれば、疑惑としてあげられている事実の一つ一つについて、国民の理解と納得が得られるような説明をするべきでしょう。

 他方で、検察の主張ややり方も、果たして正しいかどうか、大きな疑念が残ります。「本丸」である小沢さんを狙っての「出城」である秘書の逮捕は、いわゆる「別件逮捕」に当たりますし、その容疑が「政治資金の不記載」であるというのも、これまでの例からすれば公平性に欠けるものです。
 本当の容疑は胆沢ダムの建設に絡んでゼネコンから贈られた裏献金にあるとされていますが、事実関係は未だに不明です。たとえゼネコンからの献金があったとしても、野党時代の小沢さんには職務権限はなく、収賄や汚職での立件は難しいでしょう。
 この容疑にしても、マスコミがそう伝えているだけで、東京地検は正式の記者会見で発表したわけではありません。「関係者の取材で分かった」として報じられているのは捜査関係者からの情報にすぎず、世論誘導のためのリークであるかもしれません。どこまで信用して良いものか、この点も曖昧です。

 つまり、両方の言い分や行動に、それぞれ納得できない点があるというわけです。国民のイライラが募るのも当然でしょう。
 そればかりではありません。今後の推移を予想しても、スッキリしません。
 「小沢対検察の最終戦争」などと言われていますが、どちらが「勝って」も目出度し目出度しとはいかないからです。どちらかが大きく傷つくことにならざるを得ません

 もし、小沢さんの側の言い分が正しく、政治資金報告書への不記載にとどまれば、東京地検特捜部は大きな間違いを犯したことになります。小沢さんの政治的な失脚を狙った「国策捜査」だとの批判は免れず、検察の権威は失墜します。
 そうなれば、政治家の不正や汚職など「政治とカネ」の問題に対して、特捜部の捜査は慎重になるでしょう。ヒョッとしたら、捜査を手控えるかもしれません。
 これは困ります。東京地検特捜部には、これまで通り「巨悪」を追及し、金権政治や政治腐敗を防いでもらわなければならないからです。

 もし、検察側の狙いが正しく、小沢さんが不正を行っていた場合、民主党の幹事長職にとどまることはできないでしょう。議員辞職などによって、政治生命を絶たれる可能性もあります。
 そうなれば、鳩山政権にとっては大打撃となります。始まったばかりの通常国会が大混乱に陥ることは避けられません。
 これも困ります。鳩山政権には、国民生活を支え景気回復のための施策に全力を傾注してもらわなければならないからです。

つまり、どちらが「敗れて」も、日本の政治と行政にとっては大きな痛手が残る可能性があります。どうもスッキリしないと感じてしまうのは、このためです。
 小沢さんは、先手を打って事情聴取に応じ、事態の推移によっては幹事長職を辞任するかもしれません。そうすれば、検察は最後まで小沢さんを追い込むようなことを控える可能性があります。
 少なくとも、国民はそう期待しているのではないでしょうか。小沢さんに幹事長辞任を求める声が多いのは、そのためだと思われます。

 幕がかかったままでの舞台の上で、小沢対検察の対決劇が上演されているようなものです。国民は、「早く幕を上げて欲しい」と思っていることでしょう。
 しかし他方で、本当に見たい劇はこのようなものではないという思いも強いはずです。政権交代後の新しい政治劇を期待していたのに、相も変わらぬ古典劇にガッカリしているのではないでしょうか。
 もっと早く、企業・団体献金を禁止して、このような問題の土壌をなくしておけば良かったのです。そうすれば、西松建設や水谷建設などのゼネコンに絡んだ疑惑が生まれることもなかったはずです。

 事実の解明と真相究明は必要です。しかし、それが自民党の復権を助けするような形にならないよう、細心の注意を払ってもらいたいと思います。
 通常国会に臨む谷垣さんと自民党が元気になり張り切っています。そうさせてしまっただけでも、民主党と小沢さんの責任は大きいと言わざるを得ません。

1月16日(土) 自民党・官僚・財界にアメリカとマスコミが加わった「体制」側による総反撃の開始 [スキャンダル]

 この忙しいときに、大きな事件が起きてしまいました。小沢一郎民主党幹事長の元私設秘書で陸山会の会計事務担当だった民主党の石川知裕衆院議員の逮捕です。
 18日から通常国会が始まれば、逮捕には議院の許諾が必要になります。その前に、逮捕してしまおうというわけでしょう。

 石川さんは「出城」にすぎません。本当の狙いは、「本丸」にあります。
 狙われているのは、小沢一郎民主党幹事長です。その突破口を開くために、まず、「出城」である石川議員が逮捕されたというわけです。
 石川議員の逮捕容疑は政治資金規正法違反(不記載)となっていますが、本当の容疑は別にあります。検察は国発注の胆沢ダムをめぐって水谷建設から受け取ったとされる資金の裏献金疑惑で小沢さんを狙っているのでしょう。

 私は、以前、今回の政権交代について、「ただし、変え切れなかった部分もある。継続性の象徴としての鳩山首相という問題がある。エスタブリッシュメント内のエリートの交代ということであり、この辺は残念に思うところだ。庶民から出てきたたたき上げの、アメリカでいえばオバマさんのような人が望ましかった。ボランティア活動の経験があったり、社会的な運動の経験を持っている人が政権のトップになれば、本当に政治は変わったということになる。しかし、鳩山さんはそういう人ではない。所有する株式の時価が61億円、総資産額90億円だと言われているが、本当はいくらになるか分からないくらいの財産を持っている」(「『反転』のとば口に立つ民主主義-政権交代後の課題とは何か」『アジア記者クラブ通信』208号(2009年11月5日付))と、話したことがあります。
 この「エスタブリッシュメント内のエリートの交代」だったことが、いかに大きな弱点だったのか。このことを、この間の「政治とカネ」の問題が極めて明瞭に示しています。
 鳩山さんと小沢さんという鳩山政権のツートップが共に「政治とカネ」の問題を抱え、検察に狙われているというのでは話になりません。ここに、「エスタブリッシュメント内のエリートの交代」という形で生じた鳩山政権のアキレス腱があったということになります。

 それにしても、まだこのような問題を抱えていたとは、情けない限りです。鳩山さんも小沢さんも、自民党田中派以来のDNAを受け継いでいたということなのでしょうか。
 これで小沢さんにまで司直の手が及ぶとなれば、「師匠」であった金丸さんと同じことになります。田中-竹下-金丸-小沢と続く、「政治とカネ」の悪しき因縁というほかありません。
 かつての私設秘書が逮捕されたわけですから、小沢さんはきちんと説明し責任を明らかにするべきでしょう。民主党も、事態を解明する責任があります。

 もし、小沢逮捕にまで発展すれば、政権中枢への一撃であり、鳩山政権にとっては大きな打撃になります。政権交代によって、一時は茫然自失となった自民党・官僚・財界にアメリカとマスコミが加わった「体制」側による総反撃の開始なのかもしれません。
 このような包囲網の形成によって、鳩山政権は次第に「転換路線からの転換」を強いられてきたように見えます。これが、この間の政策的な「揺れ」の背景でしょう。

 急激で構造的な転換を阻もうとする「体制意思」が働いているように見えます。検察を先兵とする「体制意思」によるブラフ(脅し)対民意を背景にした民主党との対決が、本格的に始まろうとしているのかもしれません。


1月15日(金) 怒濤の如く仕事が押し寄せてきた [日常]

 大学は先週の金曜日の8日が初日でした。研究所も、同様です。
 しかし、すぐに月曜日までの3連休になりましたので、本格的な始まりは12日(火)でした。

 それから、あっと言う間に4日経ってしまいました。この間、ブログもお休みです。
 年末・年始の休暇が終わったと思ったら、怒濤の如く仕事が押し寄せてきています。息つくヒマもありません。
 休暇中にすませておくべき仕事も貯まっています。サボって、お酒ばかり飲み狂っていたツケが回ってきたようです。

 『日本労働年鑑』の執筆と編集が始まる2月からは、本格的な繁忙期を迎えます。その前に、法律文化社から頼まれている政治学の入門書を書かなければなりません。
 一昨年の秋に執筆を依頼されたのですが、「もうすぐ選挙になって、政権が交代するから」と言って、延ばしてもらっていたものです。その「政権交代」が実現しました。
 もう、逃げられません。困りました。

 再来週の「国民学校1年生の会」を手始めに、講演の依頼も6件ほど入っています。間もなく、仕事に忙殺されて、ブログの更新もままならなくなってしまうでしょう。
 などと書いている余裕も、本当はないんですが……。

1月11日(月) やはり日本企業の活路は人と技術にある [企業]

 昨年、、『産業訓練』2009年11月号の「巻頭言」として、「活路は『技術立国』に向けた人材の育成しかない」という論考を書きました。そのこともあって、今日のテレビ朝日の番組「スーパーモーニング」を見ました。
 番組の案内欄に「雇用を守る企業戦略 昭和の機械で不況打破」と書いてあったからです。見て驚きました。前掲の論考での私の主張を裏付けるような内容だったからです。

 番組では、山形県寒河江市の「佐藤繊維」という企業が取り上げられていました。ノルウェーのオスロで行われたオバマ米大統領のノーベル平和賞授賞式でミシェル夫人が着ていたカーディガンの糸を提供した企業です。
 高級モヘア糸の極細の糸の開発に成功し、それがニナ・リッチのニット製カーディガンに使われました。この糸を使って織られた洋服がミシェル夫人の目に留まったというわけです。
 この企業は、使い古された昭和の機械を改良して再利用し、経験をつんだ技術者の職人技を生かして新製品の開発に成功したそうです。だから、「雇用を守る企業戦略 昭和の機械で不況打破」というわけです。

 番組では、この企業の成功を生みだした4つのコンセプトを紹介していました。①昭和の技術にアイデアを加え最新技術に、②日本がだめなら海外へ、③正社員として雇用、社員を大切に、④地元とともに発展、という4つです。
 どれも、うなづけるような内容です。これにもうひとつ付け加えるとすれば、積極的な営業活動ということでしょうか。
 これらのコンセプトはこれからの日本企業の活路を示しているように思われます。それは「技術立国」のための必要条件ということでもあるでしょう。

 この中でもっとも大切なものは何か、と問われれば、それは「社員を大切に」というところでしょう。昭和の機械を使うのも、それにアイデアを付け加えるのも、そのために技術を生かすのも、すべて「人」だからです。
 このような方針を打ち出して会社を生き返らせたのも社長の力です。つまり、経営者としての「人」の力にほかなりません。
 日本の資源が「人」にあるということは、昔から言われてきたことです。しかし、新自由主義や構造改革路線の跋扈によってそれが忘れられ、このような大切な資源が枯渇しようとしているところにこそ、今の日本が直面している最大の危機があるように思われます。

 それを克服するためには、まず、企業のトップにいる「人」を変えなければなりません。社長の考えを変えさせるか、それとも交代させるのか。いずれにしても、まず、企業のトップがこれまでの「コスト・イデオロギー」の呪縛から解き放たれることが必要です。
 同時に、「人」を大切にし、「人」を生かすような企業のあり方への転換が図られなければなりません。活路を人と技術に求めることができるような経済・産業政策や企業のあり方を実現できるかどうかに、日本経済の将来がかかっているというべきではないでしょうか。

 その芽は、すでに具体的な形で現れています。「佐藤繊維」は、その具体例の一つです。
 昭和の技術にアイデアを加えて最新技術に変え、日本がだめなら海外へと販路を広げ、正社員として雇用した社員を大切にしながら、地元とともに発展することをめざす。これこそ、これからの企業が進むべき方向なのではないでしょうか。

1月10日(日) 派遣が増えても税金が減っても工場は海外に移転していた [再規制]

 NHKの「クローズアップ現代」という番組を見ていたときです。見慣れた顔が画面に映りました。
 法政大学大学院の先輩で、今は昭和女子大の教授をされている木下武男さんです。労働者派遣法の見直し問題がテーマでしたから、木下さんが登場するのも当然だといえば当然ことですが……。
 でも、ゴールデンタイムでのNHKの番組への登場となれば話は別です。メジャーになりましたね、よかったですね~、木下先輩。

 この番組では、派遣労働についての規制が強化されれば廃業もやむなしという経営者の声や工場が海外に出て行ってしまうなどという意見が紹介されていました。だから、労働者派遣法の改正による規制強化は困るというわけです。
 冗談じゃありません。派遣労働が主力の企業は、賃金が安く不安定な劣悪労働に寄生して収益を上げてきたのではありませんか。
 その恩恵を受けているのは派遣労働者を使っている企業だけではありません。派遣している会社の08年度の売上高も過去最高の7兆7892億円(07年度比20.5%増)となっています。

 このような劣悪労働に依存する企業の廃業は当然でしょう。廃業したくなければ、労働者を安くこき使うようなことはやめるべきです。
 雇用の維持と言いますが、問題はその質です。働いても生活できず、いつクビを切られて路頭に迷うかもしれないような雇用は、断じて維持されるべきではありません。
 日雇い派遣などの劣悪労働に依存する企業が淘汰されれば、働く人々の労働環境が改善されることになります。そのためにこそ、労働者派遣法の改正による規制強化が必要だということが分からないのでしょうか。

 そんなことをしたら、工場が海外に逃げてしまうという主張についてはどうでしょうか。このような主張は良く耳にしますが、それは正しいのでしょうか。
 これについては、NHKの番組の中でも木下さんがグラフを示して反論していました。同様の反論が、今日の『東京新聞』にも出ています。
 「派遣労働と海外現地生産」「派遣減れば工場は海外に移転する?」という見出しの特集記事です。ここにはいくつかのグラフが掲載されており、派遣法の改正ごとに派遣労働者と事業所数が増え続けてきたこと、04年度以降、派遣料金や賃金は低下、横ばい傾向であること、世界の三大派遣市場はアメリカと日本、イギリスであること、海外生産比率は派遣労働者に比例して上昇していること、派遣が増えると海外生産も増えていることなどが示されています。
 そして記事は、「登録型、製造業への派遣が原則禁止されれば、経営者などは『海外に生産拠点を移す』と繰り返し主張しています。本当に海外生産は、派遣労働のいかんによって決まるのでしょうか?」と問題を提起し、次のように書いています。大変、重要な指摘です。

 そこで、海外生産比率と派遣労働者総数や製造業への派遣数との関係を調べると、海外生産は派遣が増加するほど増える関係にあります。解釈は別として、データからは、派遣が増えなくなる(減る)と、海外生産が増えるとはいえません。
 海外生産の原因として挙げられているのは、安価な労働力以上に現地の需要動向です。さらに今後、需要増加が見込まれる中国や新興国などをはじめ、世界的に保護貿易傾向が強まっており、現地進出しなければならない状況にある、との指摘もされています。派遣法改正を声高に理由として挙げるのは疑問です。

 つまり、「登録型、製造業への派遣が原則禁止されれば」工場が海外に移転するというようなことはないというのです。安心して、労働者派遣法を改正し再規制を強化していただきたいものです。
 ただし、労働政策審議会が示した原案は、このような使用者側委員による主張に引きずられて、中途半端で不十分なものになっています。派遣労働の規制強化、派遣労働者の保護と均等待遇の実現、派遣先使用者責任の強化という方向をさらに強める形で法案を作成する必要があるでしょう。

 なお、付言すれば、この間、海外生産が増え続けてきたということ、その原因は「安価な労働力以上に現地の需要動向」にあるとすれば、もうひとつの主張の誤りも明らかになります。
 それは、企業に対する優遇税制を無くしたり税率を引き上げたりすれば、海外に逃げていってしまうのではないかという議論です。このような議論も、間違いだということになります。
 バブル経済が崩壊して以降、企業に対する税率も金持ちに対する累進税率も段階的に引き下げられてきました。つまり、企業が払うべき税金が安くなっていたわけですが、それにもかかわらず、企業は海外での生産を拡大していたということになります。
 
 『東京新聞』1月10日付の特集記事が示していることは、海外生産は現地の需要に伴って拡大しているのであり、労賃の安さや税金の高さなどとは関係がないということです。このような事実を明らかにすることは極めて重要です。
 同じ様に労働者派遣法の改正問題を取り上げていても、規制強化によるマイナス面を強調してるように見えるNHKの番組と、そのような俗論をくつがえすような事実を提示した『東京新聞』の記事とは、その印象が大きく異なります。どちらが、マスコミとしての役割をきちんと果たしていると言えるのでしょうか。

1月9日(土) 規制改革会議は延命させるべきではない [新自由主義]

 このところ「仮死状態」にあった規制改革会議が、息を吹き返しそうです。このような組織を延命させるべきではありません。

 本日の『しんぶん赤旗』の報道によれば、昨日、仙谷由人国家戦略・行政刷新担当相は政務三役会議で、行政刷新会議の下に規制改革の分科会を新たに設置する方針を決めました。12日に正式決定されるそうです。
 これは、09年度末で設置期限を迎えた規制改革会議の後継組織で、議長を務めている草刈隆郎日本郵船相談役らもメンバーになるといいます。看板を架け替えての存続ということでしょう。
 規制改革会議は、経済財政諮問会議とともに、これまで「構造改革」の旗振り役を果たしてきた組織です。その廃止を主張してきた私としては、このような形での実質的な存続を認めることはできません。

 もちろん、私は「規制改革」そのものに反対しているわけではありません。世の中には、不要な規制もあれば、既得権擁護のための規制もあります。
 時代が移り社会が変化すれば、それ以前には有効であった規制も不要になったり、変更したりする必要も出てくるでしょう。政権交代によって政治のあり方が変わるわけですから、規制のあり方も含めて、それまでの政治の仕組みを見直そうということになるのは当然です。
 しかし、規制改革会議には、そのような役割を担うことはできません。民営化と規制緩和の旗を振り続けてきた過去の実績をみれば、規制改革会議それ自体が見直しの対象とされるべきものです。

 もし、政権交代に伴う「規制改革」が必要であるとすれば、これまでとはまったく異なった陣容によって、新しい組織を立ち上げればいいんです。これまで議長を務めてきた草刈日本郵船相談役らの再任など、とんでもありません。
 まして、規制改革会議労働タスクフォースの「脱格差と活力をもたらす労働市場へ」の事実上の起草者とされている福井秀夫政策研究大学院大学教授などをメンバーに加えてはなりません。しかし、残念ながら福井さんが加わる可能性は高いでしょう。
 というのは、先に行われた「仕分け作業」でも、行政刷新会議第2ワーキンググループの「仕分け人」として福井さんも加わっていたからです。こんな人が紛れ込むなんて、「仕分け人」についての「仕分け作業」が不十分だったといわざるを得ません。

 福井さんの「仕分け人」への採用や規制改革会議の実質的な延命などに見られるように、鳩山政権は新自由主義のくびきから完全には離脱していません。ここに鳩山政権の限界と制約があります。
 それは、第1に、もともと民主党は新自由主義に対して親和的だったからです。小泉政権の初期には小泉首相にエールを送り、規制緩和路線を競い合うこともありました。
 つまり、民主党の中には新自由主義にシンパシーを持つ人々もたくさんいたということです。もちろん、「私も当初、一瞬だけですが、小泉さんの改革に、もしかしたらシンクロできるのではないか、という期待感を持ったことがありました。……(しかし)今では、小泉さんの規制緩和はアメリカのためだったのではないか、と思っています」(野田佳彦『民主の敵―政権交代に大義あり』新潮新書、2009年、54~55頁)と書いている野田さんのように、今では反省している人もいますが、それが全体のものになっていないということでしょうか。

 第2に、「生活が第一」「コンクリートから人へ」の転換が、戦略的なものではなく戦術的なものだったからだと思われます。このような形で民主党の政策が「転換」するのは小沢さんが代表になってからですが、簡単に言えば、自民党との違いを際だたせるための「方便」としての側面がありました。
 少なくとも、この「転換」は構造改革の結果に対する批判であり、主として選挙対策のための戦術的な対応だったのではないでしょうか。そのために、貧困と格差をもたらした構造改革に対する根本的な総括や反省、新自由主義そのものからの脱却という点で、不十分さを残すことになったように思われます。
 鳩山政権に対しては、哲学や理念、国家像が不明であるとか、明確なビジョンが打ち出されていないという批判があります。このような批判が生まれるのも、構造改革路線や新自由主義的な国家像を明確に否定し、それに代わる新しい理念や国家像を対置できないからではないでしょうか。

 第3に、これらを含めて、やはり鳩山政権は過渡的な中間段階の政権であると言わなければなりません。あらゆる点で、中途半端だからです。
 普天間基地の移設問題、労働者派遣法の改正、後期高齢者医療制度の見直し、政官関係の組み替え、予算の仕分けや税制の再編など、着手はしても、その内容は不徹底で、方向は不明確です。
 これまでの自公政権が生み出した問題を解決しようという意図は評価できますが、国民が求めるような形で決着するかどうかは分かりません。「新米ドライバー」の運転ですからやむをえない面はありますが、どこに向かおうとしているのか、地図は持っているのか、いまひとつはっきりしないのです。

 新自由主義のもたらした害悪をきちんと総括し、そこからの離脱を明確にするべきでしょう。そのような観点から、構造改革の残りかすを一掃し、明確な転換のための国家ビジョンとそこにいたる見取り図を示さなければなりません。
 政官財による開発主義という「古い自民党政治」と、民営化や規制緩和による新自由主義という「新しい自民党政治」のいずれでもない、国民生活と家計を重視した新福祉国家路線への転換こそ、目指すべき目標です。もし、鳩山さんがそのような目標もそこへの地図も持っていないというのであれば、新しいドライバーを採用するためのさらなる政治変革が必要になるでしょう。

1月7日(木) 藤井財務相の辞任は鳩山政権への打撃となるか [政局]

 藤井裕久財務相が辞任しました。健康問題が理由です。
 後任は、菅直人副総理が兼務することになりました。これは鳩山政権にとって大きな打撃になるだろうとの見方があります。
 しかし、そうでしょうか。私は、そうは思いません。

 以前、西松建設問題で小沢代表が辞任し、鳩山さんに交代したときも、同じように大きな打撃となるという見方がありました。しかし、小沢辞任は民主党にとって打撃になったでしょうか。
 かえって、民主党の看板を代えてイメージを好転させ、総選挙での躍進にプラスになったのではないでしょうか。辞任した小沢さんも背後に回って得意の選挙活動に専念でき、かえってよかったのではないでしょうか。
 確かに、追い込まれた形での辞任ではありました。しかし、辞めた小沢さんにとっても、代わりに代表になった鳩山さんにとっても、また、代表が交代した民主党にとっても、この代表交代は決してマイナスではなかったように思われます。

 今回も、同じようなことが言えるのではないでしょうか。少なくとも、通常国会での予算審議の最中に藤井さんが過労などでぶっ倒れるよりはましだったでしょう。
 いや、健康問題などではなかった、という見方もあります。小沢さんとの関係が悪化して、藤井さんが財務相の地位を投げ出したのだというのです。
 その場合でも、嫌気がさしてやる気をなくしていた人を続投させるよりはましでしょう。その後任が小沢さんとの関係の良い菅さんですから、なおさらです。

 予算決定のプロセスに問題があったのだという見方もあります。特に、ガソリンの暫定税率の問題をめぐる小沢さんとの確執です。
 藤井さんは、暫定税率の廃止を主張していました。これをひっくり返したのが小沢さんで、最終的に鳩山さんはこれに従いました。
 通常国会での審議では、当然、この点を追及しようとして、自民党などは手ぐすねを引いていたはずです。しかし、菅さんさんなら前言との矛盾に悩む必要はなく、自民党は肩すかしを食った格好になるでしょう。

 さらに、自由党時代の政治資金についての疑惑を指摘する意見もあります。これについて追及されるのを避けるための辞任だったというのです。
 これが本当だとすれば、藤井さんは先手を打ったことになります。自民党などは、この点でも攻め手を失ったわけです。
 民主党からすれば、これ以上、「政治とカネ」の問題を抱え込まずにすんだということになります。政権への打撃というよりも、それを避けるための方策だったということではないでしょうか。

 藤井さんの後任に、菅副総理が横滑りしたという点も重要でしょう。当初は、野田佳彦財務副大臣や仙谷由人行政刷新相の名前も挙がっていたようで、菅さんも何回か固辞されたそうですが、結局は引き受けました。
 ここでも考慮されたのは、小沢さんとの関係だったといいます。その結果、菅さんが起用されたため、かえって、鳩山・菅・小沢の「トロイカ体制」は磐石になったように見えます。
 これまで影が薄いとされてきた菅さんの出番も増え、指導力をふるえる体制ができたことになります。仙谷由人行政刷新相は国家戦略担当相を兼務することになり、負担は2倍になるかもしれませんが、行政刷新と国家戦略の作成という両機能は一体化することになります。

 菅さんにとって、この交代は青天の霹靂だったでしょう。と同時に、大きなチャンスでもあります。
 得意の弁舌によって通常国会を上手く乗り切ることができれば、「ポスト鳩山」の地位は確実となるにちがいありません。菅さんが、この試練をうまく乗り越えることができるかどうか、来るべき通常国会での予算審議に、もうひとつの注目点が付け加わったことになります。

1月5日(火) 大原社会問題研究所90周年-最近の取り組みと今後の展望 [論攷]

〔下記の論攷は、法政大学の広報紙『法政大学報』第35号(2010年1月1日付)に掲載されたものです。〕

大原社会問題研究所90周年-最近の取り組みと今後の展望

 大原社会問題研究所は大原孫三郎氏によって1919年(大正8)年に設立され、2009年2月9日に創立90周年を迎えた。社会科学分野の研究所としては、日本で最も古い歴史をもつ。
 大阪の天王寺で産声を上げ37年に東京移転。戦前・戦中の厳しい時代を経て、49年に法政大学の付置研究所となった。86年の多摩キャンパス開設に伴って研究所も移転した。09年は研究所が法政大学と合併してから60年という記念の年でもあった。
 大原社会問題研究所は、①社会・労働問題に関する調査・研究、②専門図書館・資料館、③社会・労働問題の資料・文献情報センターという機能を兼ね備えている。特に、労働組合運動関係原資料の保存では他の追随を許さず、所蔵図書17万冊、機関紙誌は約8000タイトル、原資料は総棚延長900メートルにおよぶ。毎年『日本労働年鑑』と研究所叢書を出版し、毎月『大原社会問題研究所雑誌』を刊行している。
 昨今の厳しい雇用情勢の下で、担うべき役割と社会的な期待も増大している。これに応える研究プロジェクトは、現代労使関係・労働組合研究会、戦後社会運動史研究会、協調会研究会、加齢過程における福祉研究会など10以上におよぶ。22年前に始まった国際労働問題研究シンポジウムは03年からILO(国際労働機関)駐日事務所との共催となった。昨年からは労働運動再活性化についての国際比較研究も始まり、また、海外から多くの客員研究員を受け入れるなど国際化にも対応している。
 90周年を迎え、10月27日に多摩キャンパスの百周年記念館で記念フォーラムを開催し、米ハーバード大学のA・ゴードン教授の講演などに120人が耳を傾けた。市ヶ谷キャンパスでは展示会「水俣病とむきあった労働者」を共催し、『社会労働大事典(仮題)』の記念出版も準備されている。
 今後とも、研究所の実績と特色を生かし、現代社会に生起する労働問題の解明を中心に、幅広い社会問題の研究に力を入れていきたい。法政大学および関係者各位のさらなるご支援をお願いする次第である。

1月4日(月) 去年(の自分の記録)には絶対に負けたくなかった [文化・スポーツ]

 「去年(の自分の記録)には絶対に負けたくなかった」 
 良い言葉じゃありませんか。箱根駅伝5区で自らの区間記録を更新して東洋大の往路優勝を実現した柏原君の発言です。

 柏原君は4分26秒差の7位でたすきを受け取り、6人抜きの快走によってトップに立ち、2位の日体大との差を2分39秒に広げました。人間離れした素晴らしい快走です。
 この時、柏原君は二つのものと闘っていたことになります。他の大学の走者と、去年の自分の記録との二つです。
 駅伝は勝負ですから、トップに立てば無理をする必要はありません。しかし、柏原君はその後も、「去年(の自分の記録)」との闘いを続けていたのです。

 この快走を、私はテレビで見ることはできませんでした。大学時代の友人宅での新年会に向かう途中、ラジオで聞きました。
 それでも、力強い走りを実感でき、興奮したものです。そして、翌日、この言葉を新聞で読みました。
 箱根の山登りで、柏原君は新しい自分に向かって走っていたのだと思います。小成に安んずることなく自らの可能性を求めて走り続けたからこそ、2分39秒もの貯金を生み出し、結果的にチームの総合優勝にも貢献できたのでしょう。

 他方、我が法政大学は残念な結果に終わりましたが、来年は頑張ってもらいたいものです。実は、娘が他の大学の応援団でラッパを吹いていまして、昨日、ゴール地点の大手町まで応援に行っていました。
 その大学はかなりの好成績でした。今年の箱根駅伝は、娘にとっても良い思い出となったにちがいありません。