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12月30日(水) チリも積もれば山となる-2009年の仕事 [日常]

 激動の年2009年も明日で終わりです。1年の最後に、今年の仕事をまとめておきましょう。
 これについては、すでに12月9日と12日のブログに書きましたが、その後、明らかになったものもあります。追加した分も含めて、ここに整理しておくことにします。

 まず、論攷です。これは、長いものや短いものなど様々ですが、全部で37本になりました。

・こうして貧困は作られた-派遣法に焦点を当てた労働法制の変遷、『週刊金曜日』2009年1月30日付
・雇用と規制緩和-労働法制の変遷を振り返る『東京保険医新聞』3月25日付
・戦後日本の政治構造を根底から組み替える歴史的大転換の実現を―09総選挙の意義と可能性『革新懇話会』第41号(2009年3月25日)
・いま賃上げが必要な3つの理由『ひろばユニオン』3月号
・いま組合は反転攻勢を『連合通信・特信版』No.1032、2009年4月20日付
・労働組合に何ができるか-恐慌下、大量解雇と貧困のなかでレイバーネット日本4月例会・講演録(09年4月20日)
・新自由主義と労働政策-労働再規制に向けての動きを中心に『経済科学通信』No.119(2009年4月号)
・現在起きている雇用の問題点と今後の課題『ELDER』2009年4月号
・「再規制」のゴールを見つめる―「再規制」はタクシーの専売特許に非ず『交通界』第300号特集記念号、2009年5月号
・はしがき『日本労働年鑑』第79集(2009年6月25日)
・国際政治『日本労働年鑑』第79集(2009年6月25日)
・国内政治『日本労働年鑑』第79集(2009年6月25日)
・国会と各党の動向『日本労働年鑑』第79集(2009年6月25日)
・野党は麻生内閣不信任案を出して解散に追い込むべきだ『革新懇話会』第42号(2009年6月25日)
・規制緩和と労働問題『歴史地理教育』2009年6月号
・はしがき『占領後期政治・社会運動の諸側面(その1)』(2009年6月)
・「安心社会」実現のための安全網の整備『労政時報』第3754号、09年7月24日号
・今日の貧困と格差『労働の科学』64巻7号(2009年7月号)巻頭言
・緑のニューディールと福祉のニューディール『ELDER』2009年7月号
・私は「格差論壇」MAPをどう見たか『POSSE』第4号
・現在の情勢と労働組合の役割『けんせつ』第1932号(8月1日付)
・政権交代で「反転」はどこまで可能か『週刊金曜日』8月28日付
・書評:山田敬男著『新版 戦後日本史-時代をラディカルにとらえる』学習の友社『経済』2009年8月号
・新政権への期待と注文 労働と生活の改善を『連合通信・特信版』(No.1041、2009.9.20)
・「二大政党制」の実現なのか、それとも「一党優位政党制」の再版なのか『革新懇話会』第43号(2009年9月25日)
・新宿区労連「調査聞き取りへの感想」『われらの進路-新宿区労連第21回大会議案書』2009年9月26日
・新自由主義下における労働の規制緩和『社会政策』第1巻第3号(2009年9月)
・労働の規制緩和-いまこそチェックすべきとき『職場の人権』9月号(第60号)
・心に残る私の一冊 私の人生を決めた『戦争と平和』『企業と人材』42巻955号(2009年10月5日)
・戦後労働運動の第3 の高揚期を生み出す新たな条件が生まれている『日本労働研究雑誌』10月号巻頭言
・新政権への注文と社民党への期待―「生活が第一」「生活再建」を貫いて欲しい『月刊 社会民主』10月号
・「反転」へのとば口に立つ民主主義-政権交代後の課題とは何か『アジア記者クラブ通信』208号(2009年11月5日付)
・活路は「技術立国」に向けた人材の育成しかない『産業訓練』2009年11月号
・新連立政権の樹立と労働組合運動の課題『金融労働調査時報』No.701(2009年11・12月号)
・鳩山新政権への期待と問題点『国公労調査時報』No.564(2009年12月号)
・はしがき『棚橋小虎日記(昭和二十年)』(2009年12月)
・沖縄の米軍普天間基地にはお引き取り願うしかない『革新懇話会』第44号(2009年12月25日)

 続いて、新聞・週刊誌での談話です。これは以下の13点です。

・過去の利益を分配せよ『北海道新聞』2月1日付
・『産経新聞』2月6日付
・リクルート社『R25』2009.2/27→3/05
・雇用と政治(中)『東京新聞』3月7日付
・雇用と政治(下)『東京新聞』3月8日付
・今こそ政治決断する時『毎日新聞』3月25日付夕刊
・受け皿の整備、必要『朝日新聞』4月3日付
・職務権限大きい自民議員 捜査せねば漆間発言が的中に『週刊朝日』2009年4月10日号
・「小泉の影」におびえ 改革めぐり党内に亀裂『埼玉新聞』『東奥日報』『佐賀新聞』6月25日付
・生活支援 今頃言っても……『山陰新聞』『四国新聞』『中国新聞』『東奥日報』『新潟日報』『西日本新聞』『南日本新聞』8月1日付、『埼玉新聞』『信濃毎日新聞』8月2日付
・政界の底流にあり続ける「革新」『毎日新聞』8月19日付夕刊
・中小企業も支援すべき『朝日新聞』西部本社版2009年10月9日付
・格差は政治の責任『産経新聞』2009年10月21日付

 第3に、夕刊紙『日刊ゲンダイ』でのコメントです。これは54回になりますが、掲載号は以下の通りです。

 1月6日付、1月16日付、1月29日付、2月7日付、2月13日付、2月18日付、2月20日付、3月3日付、3月4日付、3月13日付、3月20日付、3月24日付、4月3日付、4月6日付、4月16日付、5月2日付、5月13日付、5月26日付、6月3日付、6月5日付、6月8日付、6月13日付、6月22日付、6月25日付、7月3日付、7月14日付、7月27日付、7月28日付、7月30日付、8月3日付、8月4日付、8月19日付、8月22日付、8月26日付、9月2日付、9月3日付、9月4日付、9月7日付、9月8日付、9月25日付、9月26日付、10月7日付、10月9日付、10月14日付、10月21日付、11月10日付、11月17日付、11月20日付、12月2日付、12月5日付、12月9日付、12月11日付、12月15日付、12月25日付

 第4に、今年一年の講演は23回に上ります。その詳細は、以下の通りです。

・1月30日 愛労連学習会「労働再規制によってル―ルある社会の実現を」
・1月31日 国分寺市本多公民館人権講座「職場で何が起きているのか―職場の人権を考える」
・2月19日 労働者教育協会「戦後労働組合運動と政治闘争―論点の提起に代えて」
・2月21日 贅沢な勉強会ふなばし「人間らしい働き方の実現をめざして―『労働再規制』をめぐる諸問題」
・2月28日 MIC(日本マスコミ文化情報労組会議)シンポジウム基調講演「守ろう雇用 活かそう憲法 今,マスメディアに求められているもの―滅びへの道から抜け出すために」
・3月3日 時局懇談会(第5回)「混迷する政局の深層を探る―構造改革路線からの決別をめぐって」
・3月5日 全労協全国一般なんぶ春闘講座「労働再規制によるルールの再建―反転攻勢の構図をどう描いていくのか」
・4月13日 日本外国特派員協会「現在の労働条件・賃金問題を含む雇用問題について」
・4月20日 レイバーネット日本4月例会「労働組合に何ができるか―恐慌下、大量解雇と貧困のなかで」
・5月9日 東京労働学校第115期基礎教室「この社会を変える展望―働くルールの確立と社会保障の充実を」
・5月14日 千代田9条の会「『活憲』から見える労働権・生存権―第9条や25条などの掲げられた憲法の理念を生かすには」
・6月7日 東京土建幹部学校「情勢の特徴と労働組合の役割」
・6月13日 全大教北海道労働問題フォーラム「労働政策の転換と非正規雇用―民間部門と公共部門の対比を意識して」
・6月28日 京建労第15期労働学校「新自由主義の破たん、資本主義の限界―労働組合の力でピンチをチャンスに変えよう」
・8月8日 私大教連教研集会「戦後日本政治の旋回と展望―構造改革と政権はどこに向かうのか」
・8月29日 雑誌『POSSE』読者セミナ―「総選挙直前に問う、雇用政策のゆくえ」
・9月24日 アジア記者クラブ9月例会「『反転』へのとば口に立つ民主主義―政権交代後の課題とは何か」
・10月3日 南大沢憲法9条の会・首都大学東京教職員9条の会「総選挙の結果と憲法運動の課題―憲法を活かす政治によって『特上の国』を作ろう」
・10月18日 POSSEシンポジウム「自公政権の崩壊と鳩山新政権の課題」
・10月31日 生協労連第2回生協政策研究集会「現代社会における生協と生協労組の役割」
・11月6日 働き方ネット大阪第9回つどい「働き方をどう変えるか―鳩山新政権に注文する」
・12月5日 三次労組連絡会「新自由主義がこわした産業の姿―働きがいのある仕事・明るい職場をめざして」
・12月7日 札幌学院大学法学部「新自由主義からの時代的転換―政権交代と労働政策」

 第5に、学会や研究会での報告があります。これは以下の6回になります。

・4月22日 大原社会問題研究所月例研究会「労働の規制緩和と再規制」
・5月30日 「職場の人権」研究会第116回研究会「労働の規制緩和―今こそチェックすべきとき」
・7月18日 労務理論学会第19回全国大会特別シンポジウム「労働再規制の構造とプロセス」
・10月26日 行財政総合研究所公務員制度研究会「労働組合運動から見た鳩山新政権」
・11月14日 歴史科学協議会第43回大会・総会「グローバリズム・新自由主義と歴史学の課題Ⅲ」萩原伸次郎報告・岡田知弘報告へのコメント
・12月4日 社会的労働運動研究会「政権交代後の労働運動の課題」

 第6に、各種のイヴェントやレセプションなどでのあいさつです。次のように、これは11回になりました。

・1月17日 全労協結成20周記念レセプション
・4月17日 立川社会教育の会
・4月18日 日本フェミニスト経済学会2009年度大会
・5月16日 法政大学大原社会問題研究所国際交流研究会
・6月27日 シンポジウム「児童労働と政策課題―インドとEUの経験に学ぶ」
・10月14日 第22回国際労働問題シンポジウム
・10月17日 松川事件60周年全国集会
・10月27日 大原社会問題研究所創立90周年記念フォーラム
・10月30日 展示会「水俣病と向き合った労働者たち」オープニングセレモニー
・11月12日 社会・労働関係資料協議会2009年度総会
・12月19日 労働総研結成20周年記念レセプション

 チリも積もれば山となる、でしょうか。とはいっても、やったことが全て「チリ」のようなものだったと思っているわけではありませんが……。
 大小とりまぜて、かなりの数になりました。今年一年の仕事は、論攷が37本、新聞・週刊誌での談話が13点、夕刊紙『日刊ゲンダイ』でのコメントが54回、講演が23回、学会や研究会での報告が6回、各種のイヴェントやレセプションなどでのあいさつが11回ということになります。
 これ以外にも、ブログの更新という作業があります。これは「趣味」のようなもので、「仕事」というわけではありませんが……。

 これらの活動が自公政権打倒の一助になったとすれば本望です。政治を変えて少しでも良い社会にするために、何らかの力にはなりましたでしょうか。
 ということで、今年最後の更新を終えます。皆様、良いお年をお迎え下さい。

12月29日(火) 沖縄の米軍普天間基地にはお引き取り願うしかない [論攷]

〔以下の論攷は、八王子革新懇の機関紙『革新懇話会』第44号(12月25日付)に掲載されたものです。〕

沖縄の米軍普天間基地にはお引き取り願うしかない

 沖縄にある普天間基地の移設問題が注目を集めています。私も、沖縄に行ったとき、沖縄国際大学の校舎の屋上から基地を見たことがあります。それは、周辺を住宅に囲まれた町のど真ん中にありました。
 この基地を移設するという日米合意がなされたのは13年前の1996年のことでした。その県内移設に反対して11月8日、沖縄では大規模な県民集会が開かれています。その折も折、沖縄駐留米兵によるひき逃げ事件が発生しました。県民の憤激が高まるなか、11月13日にはアメリカのオバマ大統領が初めて来日しています。しかし、普天間基地の移転問題は主要な議題にならず、問題は先送りになりました。
 普天間基地の名護市辺野古への移設は「前政権の合意」だと言います。しかし、あくまでもそれは「前政権」にとってのことです。アメリカも日本も、どちらも政権が交代したのですから、改めて新しい計画で合意し直せば良いではありませんか。
 沖縄の普天間基地の移設問題についての唯一の解決策は、普天間基地を閉鎖し、無条件で撤去することです。端的にいえば、普天間基地はお引き取り願うしかない、ということです。グアムでもどこでも、アメリカの領土内に移設すればよいでしょう。アメリカ軍の基地なのですから……。
 もし、アメリカがこの基地を引き取っても置く場所がないというのであれば、基地をなくせばよいだけのことです。この基地を利用して行ってきたベトナム戦争、イラク戦争、アフガン戦争の全ては誤りであり、この基地があったために沖縄は間違った戦争の出撃基地とされてきました。このような基地がなければ、間違った戦争も起きなかったかもしれません。
 以下、この問題について、いくつかの視点からコメントすることにしましょう。

 まず第1に、鳩山政権の対応については、基本的に評価したいと思います。普天間基地が日米間で解決すべき大きな問題であるということを可視化させたからです。
 自民党政権であれば、辺野古沖への基地移設という日米合意に基づく「既定の路線」を押しつけるだけで、その他の選択肢は問題にならなかったでしょう。鳩山首相のリーダーシップには問題があり、閣僚の発言が揺れ続けたとはいえ、普天間基地の移設問題に内外の関心を集め、それが問題であることを明らかにした点を、まず評価する必要があります。
 今では、辺野古以外への移設や閉鎖・撤去も現実的な選択肢として検討の対象になってきています。これは大きな変化です。普天間基地移設問題を政治的争点として再浮上させたことは、政権交代の重要な成果であったと言うべきでしょう。
 鳩山首相は、関係閣僚の様々な発言への世論の反応、アメリカの対応などを見ながら、時間稼ぎをしつつ“落としどころ”を探っているようです。しかし、沖縄県民が望んでいる“落としどころ”は、基地の撤去しかありません。そこに“落とす”ことができるかどうかという点で、鳩山首相の政治的手腕が試されています。
 第2に、日米関係の不均衡さが明らかになり、隠されてきた権力構造も可視化したということです。自国にある外国の基地をどうするかということについて自由な意見表明が咎められるというのでは、独立国とは言えません。
 10月20日に来日したアメリカのゲーツ国防長官は、岡田外相に「現行案が唯一実現可能なものだ。日米合意に従ってアメリカ軍の再編を着実に実施することが必要で、できるだけ早期に結論を出していただきたい」と迫りました。その後も、アメリカ政府は現行案通りの実行を求め続けてきました。アメリカにこう言われて外相や防衛相の発言が右往左往してしまうところに、不平等な日米関係が明瞭に示されています。新政権が「対等」な日米関係をめざすのであれば、まず、この点から是正する必要があります。
 このような「対等」ならざる関係は、11月12日のキャンベル米国務次官補の発言に明らかです。2日前に北京で開かれた日中韓3カ国首脳会談の冒頭で、鳩山首相が「今までややもすると米国に依存しすぎていた。アジアをもっと重視する政策をつくりあげていきたい」と語ったことについて、キャンベルさんは武正公一外務副大臣に「米大統領まで報告がいくような重大問題だ。我々に相談もせずに、鳩山首相がこういう発言をするとはどういうつもりか」と怒りをあらわにしたといいます。アメリカに「相談もせずに」、日本の首相は発言してはならないというのでしょうか。
 第3に、オバマ政権の弱点やオバマ大統領が打ち出しているChangeの限界もまた、この問題をめぐって明らかになったということです。オバマさんはアメリカの軍事政策や対日外交をほとんど転換しようとしていないというのは誠に残念です。
 この限界を突破するために、鳩山さんはオバマさんに手を貸してあげるべきでしょう。イラク戦争は間違いだったことを明言し、アフガニスタンからも手を引くべきだということ、増派などは米軍と現地住民の被害を拡大するだけで無益だということ、沖縄など海外の軍事基地を整理・縮小し、「世界の憲兵」のような役割を終わらせるべきだということを、率直にアドヴァイスしたらどうでしょうか。
 第4に、新聞などマスコミの対米従属性や植民地根性もまた、この間、きわめて明瞭になりました。新聞各紙は「日米同盟を危うくするな」とか、「アメリカの要求を受け入れよ」とか、「一体、どこの国の新聞なのか」と言いたくなるような主張を繰り返しています。
 総選挙で示された民意を無視して「これまで通りやれ」と恫喝するアメリカを批判するのではなく、逆に、「アメリカの言うことを聞け」という声ばかりが報道されています。これらのマスコミには、政治の転換を求めて政権交代を実現した国民の声が聞こえないのでしょうか。
 第5に、それでは、マスコミの言う「日米同盟」の「弱体化」「揺らぎ」「認識の落差」「影響」「きしみ」とは何かということです。それは、具体的には何を指しているのでしょうか。
 日米間の外交関係の断絶でしょうか、「核の傘」の撤回でしょうか、在日米軍の引き上げでしょうか、貿易関係の途絶でしょうか。そのいずれも、日本にとって以上にアメリカにとって不利益をもたらすものであり、現実的には考えられません。
 もし、アメリカが腹を立てて在日米軍を引き上げるのであれば、それこそ基地問題にとっては最善の解決策となるでしょう。「核の傘」を閉じれば、一方で核兵器の廃絶を言いながら、他方で「核の傘」に守られているという日本政府の「ダブル・スタンダード」も解消されるにちがいありません。
 そもそも、日米は成熟した関係にあります。普天間基地の移設など部分的な問題でアメリカの言う通りにならないからといって、直ちに弱体化したり、揺らいだり、きしんだりするほど脆弱なものではないはずです。現に、かつてフィリピンにあったスービック海軍基地とクラーク空軍基地という二つの米軍基地が撤去されましたが、それによってアメリカとフィリピンの関係は弱体化したり、揺らいだり、きしんだりしたでしょうか。中国からの脅威が増したり、アジア情勢が不安定になったりしたりしたでしょうか。
 このような問題で動揺するほど、日米関係は脆弱ではありません。保守派の論客ほど、日米関係の強固な基盤に対する確信がないのは、どういうことなのでしょうか。「日米同盟」の確かさを信頼していないのでしょうか。
 鳩山さんが率直な発言をすれば、オバマさんが腹を立てるとでも思っているのでしょうか。腹蔵なく話し合え、相手がいやがることでも言いあえる間柄こそ、真の友人関係ではありませんか。

 「米軍基地がなければ日本の平和は保たれない」と言う方がおられます。先に見たように、マスコミのほとんどもこのような論調です。このような主張が成り立つためには、そのことが実証されなければなりません。もし、こう主張するのであれば、戦後日本の歴史において、米軍基地があったために保たれた平和とはどのようなものだったのかを、実例を挙げて具体的に検証するべきではないでしょうか。
 普天間基地の無条件撤去に向けて、国を挙げての世論を高めることが重要です。国民世論を背景に閣議で撤去を決め、無条件撤去を求める国会決議を挙げればよいでしょう。日本国民が一丸となって基地の撤去を求めているということを、誰も否定できないような形で示せば良いのです。
 そうすれば、アメリカはこの民意に従わざるを得なくなるでしょう。何しろ、「民主主義の母国」を売り物にしている国なのですから……。

12月28日(月) デフレ克服のためには賃上げと雇用の安定、セーフティネットの充実が必要だ [マスコミ]

 だが日本のデフレは突出している。日本は7~9月期に約35兆円の需要不足に陥った。国内総生産(GDP)に対する比率は7%で、米欧の3~4%を上回る。少子高齢化といった固有の問題もあって需要の収縮がひどく、価格の下落が顕著になっている。
 クレディ・スイス証券の白川浩道氏は「雇用慣行にも原因がある」と話す。日本の企業は人員の削減を抑える代わりに、賃金のカットで不況に対応してきた。賃下げよりも人員整理に動きやすい米欧の企業とは対照的だ。これがモノだけでなく、サービスの価格も押し下げているという。(「デフレと闘う(上)」『日本経済新聞』2009年12月17日付)

 一昨日に続いて、日経新聞のこの記事についても言いたいことがあります。「賃下げよりも人員整理に動きやすい米欧の企業とは対照的」に、「日本の企業は人員の削減を抑える代わりに、賃金のカットで不況に対応」するから、「モノだけでなく、サービスの価格も押し下げ」、「日本のデフレは突出」するのだと書かれているからです。
 日本のデフレが突出しているのはその通りです。その原因が、「賃金のカットで不況に対応」する点にあるというのも、間違いではありません。しかし、「日本の企業は人員の削減を抑え」ているでしょうか。

 これについては、2つの点を指摘しておく必要があるでしょう。
 一つは、「米欧に比べれば」という相対的な意味で、そう言えるに過ぎないということです。失業率は、日本よりも米欧の方が高くなっていますから、それに比べれば「日本の企業は人員の削減を抑え」ているということになります。
 もう一つは、「正社員に限って言えば」という限定的な意味で、そう言えるだけだということです。派遣労働者などの非正社員が中途解雇や雇い止めにあったりしていることは誰もが知っている事実です。

 12月25日に総務省が発表した労働力調査によれば、11月の完全失業率(季節調整値)は前月よりも0.1ポイント悪化して5.2%になりました。デフレや消費低迷などによって、依然として雇用環境は厳しい状況が続いています。
 完全失業者数は331万人で、前年同月から75万人増加しました。13カ月連続での増加です。
 就業者数は前年同月比131万人減の6260万人で、22カ月連続のマイナスでした。これらの数字からすれば、「日本の企業は人員の削減を抑え」ているなどと言えるかどうかは大いに疑問です。

 しかし、それでも失業率が10%を前後しているヨーロッパなどと比べれば、日本の失業率は低くなっています。それは何故でしょうか。
 日経新聞の記事は、クレディ・スイス証券の白川さんの言葉を引きながら、人員削減を抑えて賃金をカットする「雇用慣行」のせいだとしています。ヨーロッパでは、賃下げではなく人員を削減するから、価格の下落が顕著にならないというのです。
 この記事によって、日経新聞の記者は賃金をカットせずにもっと首を切れと言いたいのでしょうか。ヨーロッパのように雇用を削減すれば、デフレを克服できると主張しているのでしょうか。

 とんでもありません。そんなことをしたら、日本の景気はさらに悪化し、デフレはもっと酷くなるにちがいないでしょう。
 どうして米欧では雇用の削減が可能なのかと言えば、とりわけヨーロッパ諸国では失業補償が充実しており、職を失ってもすぐに生活に困るということがないからです。再就職に向けての職業訓練などの支援措置も整っています。
 下にきちんとしたセーフティネットが張られているから、「落ちる」ことが怖くないのです。そのようなセーフティネットが、この日本にあるのでしょうか。

 低賃金で蓄えもなく、不十分で貧弱な失業補償のために、職を失ったら住む場所もなくなって路頭に放り出されてしまうというのが、この日本の現実ではありませんか。だから、「日本の企業は人員の削減を抑える代わりに、賃金のカットで不況に対応」せざるを得ないのです。
 このような状況で職を失えば、購買力の低い人々が今以上に大量に排出されるでしょう。そうなれば、もっと需要が収縮することは火を見るよりも明らかです。
 モノもサービスも、さらに価格を下げなければなりません。いっそうデフレが深刻化することになります。

 日本のデフレが突出しているのは、労働者の可処分所得が極端に減少してしまったからです。そのうえ、将来が不安でお金を使うことができません。
 これを解決するには、二つの道しかないと言って良いでしょう。一つは、可処分所得の増大のために、収入を増やして国民負担を減らすことであり、もう一つは、雇用を安定させて将来への不安をなくし、安心してお金を使えるようにすることです。
 今度の春闘での賃上げや、国民の懐を暖めて安心感を与えるような施策が必要です。雇用の創出と確保、ヨーロッパ並みのセーフティネットの充実も不可欠でしょう。

 「ない袖は振れない」けれど、「ある袖」なら振れるはずです。大企業の内部留保が218.7兆円もあるという事実を、何故、新聞はきちんと報道しないのでしょうか。
 新聞記者には、問題の指摘だけでなく、その背景や意味、解決に向けての見通しなど、正確な論評ができるだけの能力が求められます。「俗論・俗説の垂れ流しをやめてもっと勉強せよ」と、もう一度、強調させていただく必要がありそうです。
 もちろん、勉強が必要なのは記者だけではありません。自戒を込めつつ、そう書かせていただくことにしましょう。

12月27日(日) ブログへのコメントももっと勉強せよ [マスコミ]

 昨日のブログに対して、「労働分配率は過去最高を記録しましたよ。あなたこそ勉強したら?笑」という「通りすがり」のコメントがありました。日経新聞の記者の身内の方でしょうか?(笑)

 確かに、労働分配率は過去最高を記録しました。日経新聞社の集計によれば、上場企業の2008年度の労働分配率は55.1%となり、過去25年間で最高になっています。
 だから、労働者は貧しくないと言いたいのでしょうか。可処分所得は減っていないと言うのでしょうか。
 企業の内部留保はそれほど多くないと反論したいのでしょうか。『2010年国民春闘白書』では、2008年10~12月の内部留保はプラスの1.7%(5頁の表2参照)と記述されているのに……。

 そもそも、労働分配率とは何でしょうか。それは、財やサービスなどによって生み出された国民所得のうち、労働者が受け取る雇用者報酬の割合を示すもので、労働分配率(%)=人件費÷付加価値×100によって得られます。
 これを見ても分かるように、変数は二つあります。人件費と付加価値です。
 人件費が増えても付加価値が減っても、労働分配率は増えます。短期的には、労働分配率は景気循環とは逆方向に動く傾向があり、景気拡大期に低下し、逆の縮小期には上昇します。

 今回の場合、リーマン・ショック後の急速な景気後退がありました。景気が急激に縮小したから、労働分配率が急上昇したのです。
 それは、人件費が増えたからなのでしょうか。それとも、付加価値が減ったからでしょうか。
 答えは明らかです。世界的な景気後退の影響によって業績が悪化し、企業の付加価値額が大幅に減少したためです。人件費が増大したからでも、労働者の取り分が増えたからでもありません。

 こんな簡単なことも分からないようでは困ります。ブログにコメントする場合も、もっと勉強してからにしてもらいたいものです。

12月26日(土) 日経新聞の記者は俗論・俗説の垂れ流しをやめてもっと勉強せよ [マスコミ]

 日本は何で稼いでいくのか―。「日本のように人口が減る国で家計部門への分配にばかり政策が偏ることはリスクが大きい」。米コロンビア大学のロバート・マンデル教授は言う。
 来年の参院選に縛られる政治の事情はあるにせよ、企業が太らないことには家計の回復もままならない。つけを残して今を取り繕うより、雇用の受け皿を育て、未来を拓(ひら)く方がよい。(「日本に成長を①」『日本経済新聞』2009年12月7日付)

 少し前になりますが、日経新聞らしい記事です。記者が、どれほど俗論・俗説にどっぷりと浸かってしまい、いかに勉強していないかが良く分かるような記事です。

 まず、コロンビア大学のマンデル教授の発言から見てみましょう。「日本のように人口が減る国で家計部門への分配にばかり政策が偏ることはリスクが大きい」というのが、それです。
 「日本のように人口が減る国」はその通りです。日本は、05年に戦後初めて人口が自然減になり、06年にはいったん回復しましたが、07~08年と、2年続けて自然減となっているからです。
 しかし、「家計部門への分配にばかり政策が偏る」というのは、真っ赤な嘘です。一体、どこの国のことなのでしょうか。日本であれば、いつの時代のことなのでしょうか。
 少なくとも、最近のことではないでしょう。「家計部門への分配にばかり政策が偏」っていたのであれば、これほど貧困化や格差が拡大し、家計が苦しくなることはなかったでしょうに……。

 これを引用した記者も、おそらくマンデル教授と同じように考えているのでしょう。「家計部門への分配にばかり政策が偏」っていたところに問題があるのだと……。
 だから、臆面もなく、その後にこう続けるのです。「企業が太らないことには家計の回復もままならない」と……。
 このような考え方は、理論的にも経験的にも、すでに完全に破綻したものではありませんか。それを未だに堂々と主張するところに、不勉強さが示されていると言わざるを得ません。

 理論的に言えば、これは一種の「トリクルダウン理論」です。企業が潤えば、その滴くがしたたり落ちるように家計も回復するにちがいないというわけですから……。
 しかし、このような理論は破綻しました。企業は肥え太ったのに、家計はちっとも楽にならなかったからです。
 02年から07年まで、日本は戦後最長の景気回復を経験し、大企業は5年連続で最高益を更新し続け、10年間で内部留保を倍増したことは、すでに労働総研の試算によって紹介したとおりです。しかし、「この10年間で労働者の賃金は月3万5000円以上減収になっている」(『2010年国民春闘白書』10頁)のです。名目の雇用者報酬は6期連続のマイナスで、253兆円と92年の水準にまで落ち込んでしまいました。

 日経新聞の記者は、この事実を知らないのでしょうか。戦後最長の景気回復があったにもかかわらず、家計は潤わなかったという現実が目に入っていないのでしょうか。
 少なくともこのことは、財界団体でさえ、ちゃんと認識していたのです。たとえば、07年12月に発表された日本経団連の『経営労働政策委員会報告』は、「わが国の安定した成長を確保していくためには、企業と家計を両輪とした経済構造を実現していく必要がある」と書いていました。
 「企業と家計を両輪とした経済構造を実現していく必要がある」と07年末に書いていたのは、それ以前の5年間にわたる景気回復があったにもかかわらず、このような「企業と家計を両輪とした経済構造」が実現していなかったからです。この時、日本経団連が「家計」に言及することで、賃上げの容認に転じたと話題になりました。新聞記者なのに、新聞を読んでいないのでしょうか。

 現在の日本経済が抱えている最大の問題は、一方で、大企業は内部留保を218.7兆円も溜め込んだのに、他方で、貧困率15.3%と先進国で2番目に貧しい国になってしまったというところにあります。その原因は、家計に回るべき富が大企業の懐に蓄積されてしまったからです。
 だから、可処分所得が増えず、使える金が少ないから消費に回せず、モノが売れないから内需は拡大せず、ますます景気が悪くなり、賃金が下がってモノが買えなくなるという悪循環に陥ってしまいました。これがデフレ・スパイラルにほかなりません。
 企業から富をはき出させ、家計へと回すべき時に、「家計部門への分配にばかり政策が偏ることはリスクが大きい」「企業が太らないことには家計の回復もままならない」などとお説教を垂れる。何という逆立ち。何という妄言。

 このような妄言を信ずるかぎり、デフレ・スパイラルから抜け出すことは無理でしょう。家計が潤い内需が拡大することは、日本経済新聞社の売り上げ向上にとっても必要不可欠なことだということが分からないのでしょうか。
 俗論・俗説を垂れ流すことは、もうやめてもらいたいと思います。日経新聞の記者はもっと勉強せよ、と言いたくなります。


12月25日(金) 今年最後の出勤 [日常]

 大原社会問題研究所への今年最後の出勤です。昨日の葬儀を終えて出てきた年末の研究所は、何だか寒々として見えます。

 それにしても、何という1年だったのでしょうか。公私ともに大きな出来事が続き、私にとっては忘れがたい年になりました。
 公的な面での最大の出来事は、秋の政権交代です。「自民党政権打倒」は、私の学生時代からの夢であり、我が人生の大目的でした。
 それが、とうとう実現したのです。その結果、生きる目的を失い、しばらく虚脱状態に陥りました。

 でも、その後の経過を見ると、「これは、ほっとけない」と思われることばかりです。ドライバーが交代してUターンし、崖からの転落を免れはしましたが、その後の進路がはっきりしません。
 新米ドライバーは迷走を繰り返しています。目的地を示す地図も持っていないようです。
 それでも、テレビ受けのするアクロバット運転を繰り返した小泉運転手、ハンドルを右にしか切らなかった安倍運転手、初めからやる気のなかった福田運転手、道路標識の漢字も読めないような麻生運転手よりはましでしょう。ジグザグ運転で交代させられた麻生さんは、十津川村に行って「中津川」と言ってみたり、「リーマン・ショック」を「ルービン・ショック」と口走ったり、相変わらずのお馬鹿ブリを発揮していたようですが……。

 私的な面では、悲しい出来事が相次ぎました。春には、都立大学時代の恩師だった塩田庄兵衛先生ご夫妻の逝去が明らかになり、秋には義母が亡くなりました。
 そして、この度のKさんの急逝です。全く予期しなかった出来事に、ただただ呆然とするばかりでした。
 昨年の10月、KさんとSさんと私の3人で塩田先生のお見舞いに行き、4人で写真を撮りました。そのうちの2人が、今では幽明界を異にすることになってしまいました。

 とても、クリスマスや新年を祝う気にはなれません。しかしそれでも、時間の経過とともに、新しい年はやって来るのですが……。

12月24日(木) Kさんの急逝を悼む [日常]

 親しい友人であったKWSKさんが、突然、あの世へと旅立たれてしまわれました。悲しみに、打ちひしがれています。

 一昨日、自宅のマンションの台所で倒れているところが発見されました。くも膜下出血による突然死です。
 1人住まいでした。連絡が取れなくなってから1週間ほどのことです。
 市役所に連絡して民生委員に訪問してもらい、マンションの管理組合と警察官の立ち会いの下でカギを壊して中に入ったのだそうです。諸般の状況から、亡くなったのは14日の朝のことだったと思われます。

 労働旬報社の旧社員でした。中央大学で非常勤講師をされ、『日本労働運動資料集成』の編集委員でもありました。
 研究所では、長い間、『大原社会問題研究所雑誌』の割付をお願いしていました。私が雑誌の編集担当だったときからですから、かなり長くなります。
 月に一度、割付の作業で出勤したときには、ほとんど毎回、一緒に飲んでいました。おしゃべりが大好きな人なつこい性格で、沢山の友人がいました。

 今日、お葬式です。今はただ、安らかにお眠り下さいと、祈るだけです。
 一緒に飲んだとき、「僕が骨を拾ってあげるからね」と冗談で言っていました。それが、こんなに早く、現実になってしまうなんて……。

12月23日(水) 『週刊ダイヤモンド』に掲載された特集「労働組合の腐敗」 [労働組合]

 「特集 労働組合の腐敗」という文字が目に入りました。『週刊ダイヤモンド』2009年12月5日号です。
 この特集号のためだったんですね。しばらく前、研究所に「労働組合の財政についての資料はありますか」という取材の電話がかかってきたのは……。

 この『週刊ダイヤモンド』の特集にも、大原社会問題研究所の刊行物が使われています。35ページにある「表 労働組合戦後60年史」の「参考文献」として挙げられている『社会・労働運動大年表』です。
 この『大年表』は、労働旬報社(現・旬報社)から出されていて、これに、『日本の労働組合100年』と『日本労働運動資料集成』を加えた3点を、私たちは「旬報社3部作」と呼んでいます。現在、これ加えて『社会労働大事典(仮題)』の刊行も準備していますので、いずれ、「旬報社4部作」になるでしょう。
 たまたま昨日、この『大事典』の編集会議が開かれました。今年最後の会議だったので、終わってから忘年会に行きましたが……。

 それはともかく、この『週刊ダイヤモンド』の特集記事で残念なのは、現在までに出された「旬報社3部作」のうち『大年表』しか参照しなかったようだということです。他の『日本の労働組合100年』の「組織系統図」や、『日本労働運動資料集成』の別巻を参照していれば、あのような間違いはなかったでしょうに……。
 というのは、46ページの「離合集散送り返し 戦後の労働組合再編の歴史」の図に大きな間違いがあるからです。労働組合の系統図の最後のところで、「全労協」と「全労連」が入れ替わり、逆になっています。

 「統一労組懇」の後継組織は「全労協」ではなく「全労連」だということは、日本の労働組合運動について多少の知識を持っていれば、すぐにわかることです。これは、あまりにも初歩的な間違いですから、「旬報社3部作」を見なくてもすぐに気づくに違いありません。
 ということは、『週刊ダイヤモンド』の記者さんは、そのような知識を持たない人々だということになります。そのような記者や週刊誌が労働組合についての大きな特集を組んだということに、私としてはある種の感慨を覚えてしまいます。

 「労働組合の腐敗」という表題からもわかるように、特集の内容は労働組合運動に対して好意的なものとはいえません。しかしそれでも、このような週刊誌に労働組合が特集として取り上げられたことには意味があると思いますし、「民主党パーティ券を購入した労組一覧」「連合傘下の産別労組の集票力」「労組の政治団体から政治献金を受けた主な民主党議員」「ひと目でわかる! 労組業界勢力図」「労働貴族の呆れた実態」などの興味深い図表や事実も紹介されています。
 
 たとえば、旧JPU(日本郵政公社労働組合)の幹部の年収は「単純平均では、1人2500万円」で「事務次官並みの好待遇」(39頁)だといいます。また、「NTT労組が積み上げたスト資金は前期末で548億円」(40頁)だそうです。
 548億円ものスト資金があっても、ストをする可能性はありません。この資金をどうするのでしょうか。
 スト用の「闘争資金」なのですから、「闘争」用に使うべきでしょう。0.1%の利子でも、5480万円になりますから、この利子だけでも、全額、非正規労働者の運動のためにカンパしたらどうでしょうか。

 年収が高くてもスト資金が積み上がっても、それ自体が悪だというわけではありません。それに見合った運動を指導したり、展開したりすれば良いのです。
 労働運動の発展のために役立てるべき資金が生かされないとき、それは無駄金になります。「労働貴族」とか「恐竜労組」などと後ろ指を指されないために、そのお金をどう生かすのか、真剣に考えるべき時ではないでしょうか。

12月22日(火) 「再規制」を明確にした労働者派遣法の改正が必要だ [規制緩和]

 労働政策審議会労働力需給制度部会が12月18日に開かれ、労働者派遣法改正の公益委員案が示されました。労働再規制に向けての第一歩だといってよいでしょう。

 法律の名称・目的に、「派遣労働者の保護」が明記されるといいます。事業法から保護法へと法の性格が変わった点は評価できます。
 短期の契約を繰り返す「日雇い派遣」については、2カ月以内の契約が禁止されました。派遣労働者の待遇についても、同種の業務に従事する派遣先労働者との「均衡を考慮する」規定が入っています。1人あたりの派遣料金の明示も義務付けられました。
 拙著『労働再規制-反転の構図を読みとく』(ちくま新書)の中で、私が「反転」を指摘してから、一年以上も経っています。ようやく、具体的な法改正という形で、「反転」が具体化することになりそうです。

 しかし、残念ながら、この「反転」は極めて慎ましやかなものだというべきでしょう。労働政策審議会において使用者側が激しく抵抗し、これに一部の公益委員が同調したため、麻生政権時代の野党3党(民主・社民・国民新)案より後退している面があるからです。
 たとえば、焦点の製造業派遣の禁止では、登録型ではない常用型については認める内容になっています。偽装請負や期間制限違反など違法派遣があった場合の「みなし雇用」についても、違法があったとき自動的に直接雇用になるのではなく、派遣先が派遣労働者に「労働契約を申し込んだものとみなす」とし、派遣労働者がこれを受け入れれば、派遣先に直接雇用され、派遣先が直接雇用を拒否した場合に、行政が勧告する形になっています。
 また、仕事がある時だけ働く「登録型」派遣について、現行法で例外扱いされている専門業務などを除いて禁止していますが、審議会では専門職の範囲を決めるところまで議論が深まらず、今後の検討課題としたそうです。これが「抜け穴」になる可能性もあります。

 とはいえ、これまでは派遣労働の拡大に向けて規制が緩和される方向でした。それに比べれば、労働政策が反転したことは明らかです。
 今後は、この公益委員の案を元に法案化が進められます。厚労省は改正法案をまとめて、来年の通常国会に提出するといいます。
 経済界はこのような法改正に反発しており、今後も曲折が予想されます。これ以上、悪くなるのを防ぎ、不十分な内容をさらに改善する方向で、とくに改正案作成の段階では社民党にがんばってもらいたいものです。
 改正法案が閣議で決定される前に、よりよい内容に変えることが重要です。その後、法案は国会に提出され審議されますが、この時点では、共産党にがんばっていただきたいと思います。
 与党案に対する批判や対案の提起は野党の役割ですが、自民党や公明党には期待できません。労働者派遣法の制定や規制緩和に反対し、その見直しに向けてもっとも徹底した立場を示してきた共産党の役割は大きいと言うべきでしょう。

 労働者派遣法改正に向けての公益委員案が出された18日(金)には、パナソニック(旧松下)プラズマディスプレイの偽装請負を告発して解雇された労働者に対する最高裁の判決も出されました。偽装請負については会社側に非があるとしたものの、派遣先との間に「黙示の労働契約」が成立しているとして地位を認めた昨年4月の大阪高裁判決は取り消されました。
 「派遣法の規定に違反していた」として偽装請負を認定し、直接雇用されてから不必要な作業を強いられ、雇い止めされたことについても、「申告に起因する不利益な取り扱い」だと指摘して違法行為の損害賠償を命じたにもかかわらず、会社の雇用者責任は否定されました。それを取り締まる法律がないからです。
 法の不備によって不正行為が罰せられなかったということになります。派遣法がどのような欠陥を持っているかをハッキリと示した判決だと言うべきでしょう。

 最高裁は、取り締まって欲しいなら法律を変えなさいと言っているのです。不正を許さないためには法の改正が必要だということなのです。
 11月の「働き方ネット大阪」の講演会でお会いした村田浩治弁護士は、裁判後の記者会見で「派遣契約なら派遣元に雇用責任があると形式的にとらえた判断。しかし偽装請負や違法行為を認めざるをえなかった」と指摘しています。「再規制」を明確にした労働者派遣法の改正によって、派遣元だけでなく、派遣先の雇用責任も問えるようにすることこそ、何よりも必要なことなのではないでしょうか。

12月21日(月) 新宿区労連調査聞き取りへの感想 [論攷]

〔以下の論攷は、新宿労連・新宿一般調査プロジェクトチームに加わって行った聞き取り調査への感想です。新宿労働組合総連合(新宿労連)『われらの進路-新宿区労連第21回大会議案書』に収録されています。このプロジェクトチームによる調査の報告書も、大原社会問題研究所のワーキング・ペーパーとして刊行される予定です〕

新宿区労連調査聞き取りへの感想

 私は、新宿区労連調査の正式メンバーではないが、労働運動の現場で活動されている方の声を直接聞き、現在の労働組合運動のリアルな状況を知りたいと思い、オブザーバーとして、2回にわたって調査に参加させていただいた。一回は4月24日のグリーンキャブ労組からの聞き取りで、もう一回は6月8日の新宿一般労働組合の組合員からの聞き取りである。以下、お話しをうかがっての感想を書かせていただくことにする。

 グリーンキャブ労組からの聞き取りでは、タクシー業界における規制緩和がどれほど大きな害悪と困難を引き起こしているかが、具体的かつ豊富な事例によって明らかにされた。「労働再規制」を主張し、『交通界』誌でのインタビューで運輸業界での再規制を主張した私としては、大変、参考になる有益なお話を聞かせていただくことができた。
 また、このような状況の下でのタクシー・ドライバーの職能的労働組合として、注目すべき活動の数々に接することもできた。以下、簡単にコメントすることにしよう。
 その第1は、職場委員制度である。これは中央委員を支える幹部活動家を職場委員とするもので、組合員10人に1人くらいの割合になるという。話を聞いていて、イギリスのショップ・スチュワードに似ているという印象を持った。熟達した組合員の経験と積極性を活かすという点ではプラス面が大きいと思われるが、同時に、いつまでも先輩が幅をきかせていて若い幹部が育たないのではないかというマイナス面も懸念される。両者のかねあいと運営上の工夫が求められるように思われる。
 第2は、世話役活動の重要性である。組合は、賃上げだけでなく生活上の多様な要求に対応しており、一人ひとりに対するケアを重視しているという。特に、タクシー・ドライバーにとって大きな問題である交通事故などへの対応では、顧問弁護士の力も借りて適宜に即応しており、会社からも頼りにされているほどだという。労働組合としてのお手本のような活動であり、ハイ・タク労働者の組織率の高さの秘密はここにあるように思われる。
 第3は、民主的運営や異なる潮流の労働組合との共同への配慮である。少数意見の尊重という観点から、労働組合の役員選挙でも完全連記制にはしていないという。多様な意見の組合役員の選出を保障するということであろう。連合系や企業内組合などの労働組合との共同についても配慮しており、可能な限り共同行動にとり組んでいるという。
 第4は、産業別労働組合の役割である。この点では、上部団体である自交総連東京への注文が多く出された。独自の賃金制度を維持しているが、基本的には産業別レベルでの賃金協定が必要であり、産別組合にイニシアチブを取って欲しいということであった。また、タクシー業界は過当競争に陥りがちで、売り上げを上げるために長時間労働になりやすいという傾向がある。これを是正するためにも、産業別の労使協定が望まれるという。
 第5は、技能や技術の向上に向けての取組である。職能的な労働組合として、タクシー運転手としての技能・技術の向上や専門性を高めることにも努めている。介護タクシーを運行するために2級ヘルパーの資格を取ったり、救急救命士の資格を取るなどである。また、タクシー運転免許法の制定などもめざしているが、この点でも産別労組の機能発揮が求められるという。

 後者の新宿一般労働組合では、2人の組合員から聞き取りをした。そのうちの一人は法政大学の卒業生でもあった。ここでも、大変有益な話をうかがうことができた。
 第1に、インターネットなどの新しい情報手段の活用である。組合のHPはデザイナーの協力を得て作成されたとのことだが、労働組合としての組織色を薄め、専門的な用語を少なくすることに心がけたという。その結果、日本機関紙協会のホームページ作成コンクールで奨励賞を獲得している。今後は、更新頻度を高めて内容の充実を図り、個々の組合員が書き込みをできるようにするなどの点で、さらなる改善が必要だろう。
 第2に、「しゃべり場」など組合員が自由に集まれる場所の確保である。非正規の拡大などで働き方が多様化し、成果・業績主義の導入などもあって労働者が分断されている現状では、労働現場におけるコミュニテイの形成自体に大きな価値が生まれている。すなわち、「仲間のいる幸せ」を提供するという点での労働組合の役割であり、存在意義である。したがって、何でも話せる仲間がいること、いつでも集まって話せる場があるということの意味は大きいといえる。
 第3に、非正規労働者に対する働きかけの重要性である。この点で、強調されたのが「目線」の問題であった。つまり、どれだけ正規労働者が非正規労働者の置かれている状況や立場を理解したうえで働きかけているのかということであろう。両者の条件の違いをわきまえつつ、同時に、非正規と正規との「労労対立」にならないような対応が求められる。このような違いに対して非正規労働者は敏感に反応するが、得てして正規労働者側は鈍感だという。特に、この点では正規労働者側の配慮が必要であろう。
 第4に、労働相談などの増大とそれへの対応という課題である。担当できる者が限られていて、相談が増えれば組合活動に支障が生ずることもあるという。この点では、学習教育活動などを通じて労働相談に対応できる担当者を増やすことが必要であろう。同時に、このような活動に従事する中で経験を積んでいく、OBなどの経験者を活用する、他の組合や上部団体の援助を仰ぐなど、様々なやり方を組み合わせ、全体として労働相談に対応できる体制の充実を図るなどということも重要であろう。
 
 最後に、両方に共通していたのは、学習教育活動への取組の重視である。前者では、年1~2回、賃金を保障し、ホテルを借り切って泊まり込みで組合の歴史などを繰り返し学んでいるといい、後者でも学習会が頻繁に開かれているという。聞き取りをした1人は、学習教育委員会担当の執行委員であった。一般労組でも、学習教育活動がきちんと位置づけられているという点が重要である。世代交代が進んで幹部が入れ替わり、新しい組合員が多いという条件の下で、組合幹部の力量を高めて新規組合員の定着を図るうえで、このような取組はさらに意識的に進められる必要がある。我々研究者も、このような領域でもっと協力すべきだと痛感した次第である。
以上