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9月30日(金) 参院選の結果と今後の政治課題―参院選の歴史的意義、どう発展させていくか、都知事選惨敗結果もふまえて考える(その2の補充) [論攷]

〔以下の論攷は、8月13日に行われた講演の記録です。社会主義協会『研究資料』No.26,9月号、に掲載されました。4回に分けてアップさせていただきます。
 なお、昨日のアップには、後半部分が欠落していました。その部分を補充して、もう一度アップさせていただきます。〕  

 ついに見つけた新しい活路

 野党共闘は参院選前の「突貫工事」だったが、そのわりには上手くいったと言える。前回は1人区で野党系が勝ったのは2つだけで29敗していたのに対して、今回は11勝21敗へと9議席も増えた。秋田以外の東北・甲信越で勝利した。28選挙区で野党の比例区票の合計よりも選挙区票の合計の方が多くなり、山形選挙区では1.7倍、愛媛が1.66倍、長崎1.40倍、沖縄1.40倍、福井1.38倍、岡山1.36倍などとなっている。
 このうち、山形、沖縄では議席獲得に結びついた。26選挙区では前回よりも投票率がアップし、青森では9ポイントも上昇している。東北では、秋田の自民党候補が元プロ野球選手で一種のタレント候補が当選したが、それを除いて統一候補が勝った。甲信越の山梨、長野、新潟でも当選したが、統一候補でなかったらとても勝てなかった。福島と沖縄では現職大臣を落とすことができた。野党が統一したことで、各野党支持層に加えて政党支持なし層の関心を掘り起こし、票を上積みした。1+1が2以上になり、足し算以上に票が増大して共闘効果が発揮されている。
 民進党内には、共産党と共闘すると民進党支持者が離れるという意見があったが、実際には野党票の上積みとなり無党派票も引き寄せたことを証明している。野党共闘の最大の受益者は民進党だったのではないか。前回参院選1人区で野党が勝った2議席は、無所属の岩手と沖縄だけで、民主党の1人区当選者はゼロだった。今回は野党統一候補11人の当選者のうち、民進党公認は7人で大幅な議席獲得となった。比例区・選挙区を含めて32議席獲得した。民主党の前回参院選の当選議席は17だけだったし、その後も現在まで民進党の支持率は上がっていない。それが今回は大幅議席増で、しかも『朝日新聞』による予測(7月8日)よりも2議席多かった。
 今回の民進党の得票増は、民進党が野党共闘の中心だと見られ、その効果で選挙後半に党の勢いが高まったからだ。民進党単独で闘っていたら、こんな状況は生まれなかっただろう。民主党政権が期待を裏切ったという暗い過去を、新たに政治を切り開く野党共闘の中軸に座ることで一定程度払拭できたのではないか。北海道で2議席獲得し、東京でも小川敏夫候補が危ないと言われたが当選した。東京では、蓮舫候補の個人票もあるが民進党2人の得票数の方が自民党2人の得票数よりも多い。前回は惨憺たるものだったが、今回はそれを脱して上向いた。民進党内では共産党との共闘は是か否か、などと論争しているが、今回の参院選で野党共闘に助けられたことを忘れてはならない。
 もし野党共闘がなかったら民進党の議席は増えず、もっと自民党が圧勝するという悲惨な結果になっていたと思われる。それを一定程度押し止めたという面では大きな効果があった。このことをきちんと総括することが、今後の議論を進める前提だ。当選者数を見ても、投票率アップを見ても、得票増を見ても野党共闘の効果は歴然としている。この事実をきちんと見ておかなければならない。
 共産党は、改選議席3から6人当選と倍増し、比例票は86万票増の601万票で、1998年の820万票に次ぐ2番目の高い得票数となった。しかし、6議席に倍増したとはいえ、前回13年参院選の8議席には及ばず、完勝とは言えない。前回の参院選後の共産党の支持率増や今回の野党共闘の牽引などから見て、共産党はもう少し伸びると見られていたが、大阪や神奈川で取りこぼした。
 中国の南シナ海への海洋進出や北朝鮮のミサイル発射を利用した反共キャンペーン、自衛隊予算を「人殺しの予算」と呼んだ藤野発言などが影響したようだ。1人区での統一候補の勝利に向けて全力をあげたために、複数区に手が回らなかったということもあるだろう。これはそれなりの代償を払って野党共闘に取り組んだということであって悪いことではない。自党の躍進よりも野党共闘の成功を優先させたということを証明しているようなものだから。
 社民党は改選より1議席減だったが、前回同様1議席を確保した。比例票は28万票増えた。社民党は、小林節氏の「国民の怒りの声」のあおりを食ったのではないか。小林氏は比例区での当選をめざして「怒りの声」を立ち上げたが、失敗だったと言わざるをえない。選挙への関心を高めて投票率を上げたなら良かったのだが、そうはならず、「怒りの声」に投票した比例票は「死票」になってしまった。
 生活の党は比例で12万票得票を増やし、1議席を確保した。比例では議席を取れないと見られていたから、予想を覆す成果だった。しかも、野党統一候補で岩手と新潟で党籍のある候補が当選した。今回の野党共闘で民進党と共産党の仲を取り持ったのは小沢一郎氏で、共闘の実現に大きな役割を果たした。それが報われたのではないか。

 「危険水域」に入ったがすぐ「沈没」するわけではない

 改憲勢力が衆参ともに3分の2議席を突破して非常に危険な状態になった。しかし、「危険水域」に入ったからといって、すぐに「沈没」するわけではない。「舵取り」を上手にすれば、改憲を阻止することができる。3分の2とは言っても、その中身は一様ではないからだ。憲法のどこをどのように変えるのかを明確にしなければ話にならない。
 改憲勢力と言われている自民・公明・おおさか維新の会・日本のこころ・無所属は、「改憲」と「壊憲」が混在している。公明党は加憲で、9条には手をつけないと言っている。おおさか維新の会は道州制などを主張しているが、9条を変えるとは言っていない。
 「改憲」は統治ルールの変更だが、「壊憲」は文字どおり憲法を壊すことで、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義という「憲法三大原理」の侵害を意味している。この両者を厳密に区別することが重要だ。憲法の理念を壊すこと、自由で民主的な平和国家という国の形を変えるような「壊憲」は許してはならない。
 改憲論の中には、改憲には賛成だが9条改憲には反対だ、安倍首相の下での改憲には反対だなど、様々なものがある。9条改憲論にも全く反対の意見がある。自衛隊が海外へ出て行くことができないように明記すべきだという意見は安倍改憲とは逆だ。「国防軍」化・「外征軍」化を可能にする「壊憲」と不可能にする「改憲」では正反対になる。
 これから臨時国会で憲法審査会が再開され改憲論議が始まるが、まず、現行憲法の原理・理念に抵触しないことを明らかにしてから議論を始めなければならない。「憲法の三大原理」の維持が大前提だ。憲法の原理や理念が形作っている国のあり方の基本を変えないことを前提にしなければ話にならない。野党は最初にこれを確認した上で、憲法審査会での議論に加わるべきだ。
 その際でも、自民党改憲草案の撤回が前提だ。自民党が2012年に出した改憲草案は「憲法の三大原理」を否定するもので、これは「改憲」ではなく「壊憲」に当たる。帝国憲法に押し戻そうとしているという批判があるが、私に言わせれば帝国憲法以下だ。伊藤博文でさえ憲法創設の精神について「第一君権ヲ制限シ、第二臣民ノ権利ヲ保護スルニアリ」と述べていた。
 帝国憲法は近代憲法の枠に入っているが、自民党の改憲草案は立憲主義そのものを否定している。近代憲法原理を真っ向から否定する、憲法の名に値しない代物だ。こんなものを「たたき台」にしてはならない。軍部独裁の下での総力戦体制を憲法の条文にするとああいうものになる。軍部独裁、自民党独裁の「壊憲」草案だ。
 ドイツは戦後、何回も基本法(憲法)改正をやっているが、「闘う民主主義」という原理・原則には手をつけていない。それ以外の時代にあわせた微調整を行っているにすぎない。日本の「改憲」だって、そのようなものであれば問題にするには当たらない。現行憲法の原理や理念、安倍首相が良く言う「自由と民主主義、基本的人権の尊重、法の支配という共通の価値観」、自由で民主的な平和国家という国の形を変えないものであれば何も問題はない。
 最近の世論調査では、9条改憲は反対だという声が増えている。また、安倍首相による改憲はダメだという声も増えている。安倍首相は信用できないからだと。当然の感覚で、極めて正しい受け止め方だ。安倍首相がめざしているのは立憲主義の破壊であり、近代憲法原理の否定だ。このような「壊憲」は絶対にだめだという声を広げていかなければならない。
 野党は第一次安倍内閣で法務大臣をやった長勢甚遠(ながせじんえん)を除名せよと要求すべきだ。2012年5月10日に開かれた極右団体の「創生『日本』」の第3回東京研修会で、長勢元法相は主権在民、基本的人権、平和主義の三大原理全部をまとめて否定し、これをなくさないと日本は良くならないと主張している。元法相として、というより国会議員としての基本的な資質を欠いている。この研修会には安倍首相も稲田朋美現防衛大臣も出席し、長勢の発言に拍手を送っていた。これが安倍首相の本心であり、自民党の本音なのだ。


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9月29日(木) 参院選の結果と今後の政治課題―参院選の歴史的意義、どう発展させていくか、都知事選惨敗結果もふまえて考える(その2) [論攷]

〔以下の論攷は、8月13日に行われた講演の記録です。社会主義協会『研究資料』No.26,9月号、に掲載されました。4回に分けてアップさせていただきます。〕  

 ついに見つけた新しい活路

 野党共闘は参院選前の「突貫工事」だったが、そのわりには上手くいったと言える。前回は1人区で野党系が勝ったのは2つだけで29敗していたのに対して、今回は11勝21敗へと9議席も増えた。秋田以外の東北・甲信越で勝利した。28選挙区で野党の比例区票の合計よりも選挙区票の合計の方が多くなり、山形選挙区では1.7倍、愛媛が1.66倍、長崎1.40倍、沖縄1.40倍、福井1.38倍、岡山1.36倍などとなっている。
 このうち、山形、沖縄では議席獲得に結びついた。26選挙区では前回よりも投票率がアップし、青森では9ポイントも上昇している。東北では、秋田の自民党候補が元プロ野球選手で一種のタレント候補が当選したが、それを除いて統一候補が勝った。甲信越の山梨、長野、新潟でも当選したが、統一候補でなかったらとても勝てなかった。福島と沖縄では現職大臣を落とすことができた。野党が統一したことで、各野党支持層に加えて政党支持なし層の関心を掘り起こし、票を上積みした。1+1が2以上になり、足し算以上に票が増大して共闘効果が発揮されている。
 民進党内には、共産党と共闘すると民進党支持者が離れるという意見があったが、実際には野党票の上積みとなり無党派票も引き寄せたことを証明している。野党共闘の最大の受益者は民進党だったのではないか。前回参院選1人区で野党が勝った2議席は、無所属の岩手と沖縄だけで、民主党の1人区当選者はゼロだった。今回は野党統一候補11人の当選者のうち、民進党公認は7人で大幅な議席獲得となった。比例区・選挙区を含めて32議席獲得した。民主党の前回参院選の当選議席は17だけだったし、その後も現在まで民進党の支持率は上がっていない。それが今回は大幅議席増で、しかも『朝日新聞』による予測(7月8日)よりも2議席多かった。
 今回の民進党の得票増は、民進党が野党共闘の中心だと見られ、その効果で選挙後半に党の勢いが高まったからだ。民進党単独で闘っていたら、こんな状況は生まれなかっただろう。民主党政権が期待を裏切ったという暗い過去を、新たに政治を切り開く野党共闘の中軸に座ることで一定程度払拭できたのではないか。北海道で2議席獲得し、東京でも小川敏夫候補が危ないと言われたが当選した。東京では、蓮舫候補の個人票もあるが民進党2人の得票数の方が自民党2人の得票数よりも多い。前回は惨憺たるものだったが、今回はそれを脱して上向いた。民進党内では共産党との共闘は是か否か、などと論争しているが、今回の参院選で野党共闘に助けられたことを忘れてはならない。
 もし野党共闘がなかったら民進党の議席は増えず、もっと自民党が圧勝するという悲惨な結果になっていたと思われる。それを一定程度押し止めたという面では大きな効果があった。このことをきちんと総括することが、今後の議論を進める前提だ。当選者数を見ても、投票率アップを見ても、得票増を見ても野党共闘の効果は歴然としている。この事実をきちんと見ておかなければならない。
 共産党は、改選議席3から6人当選と倍増し、比例票は86万票増の601万票で、1998年の820万票に次ぐ2番目の高い得票数となった。しかし、6議席に倍増したとはいえ、前回13年参院選の8議席には及ばず、完勝とは言えない。前回の参院選後の共産党の支持率増や今回の野党共闘の牽引などから見て、共産党はもう少し伸びると見られていたが、大阪や神奈川で取りこぼした。
 中国の南シナ海への海洋進出や北朝鮮のミサイル発射を利用した反共キャンペーン、自衛隊予算を「人殺しの予算」と呼んだ藤野発言などが影響したようだ。1人区での統一候補の勝利に向けて全力をあげたために、複数区に手が回らなかったということもあるだろう。これはそれなりの代償を払って野党共闘に取り組んだということであって悪いことではない。自党の躍進よりも野党共闘の成功を優先させたということを証明しているようなものだから。
 社民党は改選より1議席減だったが、前回同様1議席を確保した。比例票は28万票増えた。社民党は、小林節氏の「国民の怒りの声」のあおりを食ったのではないか。小林氏は比例区での当選をめざして「怒りの声」を立ち上げたが、失敗だったと言わざるをえない。選挙への関心を高めて投票率を上げたなら良かったのだが、そうはならず、「怒りの声」に投票した比例票は「死票」になってしまった。





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9月28日(水) 参院選の結果と今後の政治課題―参院選の歴史的意義、どう発展させていくか、都知事選惨敗結果もふまえて考える(その1) [論攷]

〔以下の論攷は、8月13日に行われた講演の記録です。社会主義協会『研究資料』No.26,2016年9月号に掲載されました。4回に分けてアップさせていただきます。〕 

 チャンスを生かせなかった

 今回の参議院選挙は、統一候補を中心に野党が勝利して戦争への道を阻止するチャンス、国の行く末・進路を左右する「天下分け目」の決戦だった。しかし、結果的には今までの選挙と変わらない自公勝利で終わった。都知事選も、今回は自民党が分裂し、逆に野党側は共闘して統一候補の擁立に成功し、絶好のチャンスだったが結果的には惨敗した。
 私は、参院選・都知事選がホップ・ステップとなって解散・総選挙でジャンプし、新しい政権をつくって戦争法を廃止するのだと言ってきた。しかし、それは幻に終わってしまった。解散・総選挙はまだだが、少なくとも前段は失敗し、十分にチャンスを生かすことができなかった。
 逆に、与党は参院選で勝利して改憲勢力が3分の2を超え、都知事選では自民党公認候補が敗れたものの自民党籍をもった小池百合子候補が当選するなど、容易ならざる時代が始まった。これまで以上に、警戒と覚悟が必要な事態が生まれたことになる。しかし、このような中でも新たな希望の光が見えた。この点を強調しておきたい。
 9条立憲に向けての活路は野党共闘の維持・発展しかない。戦争法廃止と憲法改悪阻止に向けての野党共闘、しかも野党だけでなく市民も積極的に加わり、市民+野党という新しい戦線が実現し、一定の成果を上げた。これを維持・発展させ、大きな力にして、より効果的に成果を出せるようにするためにはどのようにすべきかを、これから考えなければならない。これがこれからの一番大きな課題になる。
 法政大学大学院での私の修士論文のテーマは「コミンテルン初期における統一戦線政策の形成」で、ドイツ共産党を例に労働者農民政府についての研究をした。研究者生活の出発点でのテーマが統一戦線だったわけだが、そのときは歴史的な事実についての研究だった。いずれ将来、政治を変えることを具体的課題として実践する時代が来れば、そのような歴史研究も意味を持つのではないかと思って始めた。当時は、美濃部革新都政をはじめとしてさまざまな革新自治体が生まれ、社共共闘が成立していたからだが、やがてそのような初歩的な統一戦線も姿を消してしまった。
 このまま見果てぬ夢で、あの世に行くのかなぁと思っていたわけだが、昨年からの安保法制反対運動が広がって、戦争法廃止を実現するためには野党が協力しなければならないという声が高まった。こうして、野党が共闘して新しい政府をつくろうという動きも始まることになった。統一戦線政策の復活だ。
 私は、去年の5月ぐらいから民進党と共産党が手を結ぶ「民共合作」が必要だと言ってきた。民主党と共産党を中心にした連携・協力を、中国の「国共合作」になぞらえて「民共合作」と呼び、その形成を主張してきた。ところが、自民党が統一候補を「民共合作」だと批判するようになった。中国での国共合作は抗日戦争での勝利をもたらしたが、自民党はそういう歴史を知らないから、「野合」の意味で「民共合作」だと難癖をつけたわけだ。
 私は別の言い方もしてきた。現代の「薩長同盟」だと。明治維新では争っていた薩摩と長州の両藩が手を結んで日本の歴史を変えたんだと。民主党と共産党も手を結べば自公政権を倒せる。それを仲介した坂本龍馬の役割を果たすのが、市民の役割なのだと。
 このようななかで昨年9月19日、安保法が成立した日の午後に、共産党が「国民連合政府」の樹立を提唱した。今年に入って2月19日に「5党合意」が実現し、参院選では32ある1人区全部で統一候補が擁立された。「民共合作」や現代の「薩長同盟」と言っていたものの、こういう具合に野党共闘が進むとは思っていなかったから、歴史というものはこのようにして動くんだなと感慨深いものがあった。こうして、市民と野党とが連合して新しい政府をつくる展望が、具体的な政治転換の可能性を生み出す画期的な事態がこの参院選挙で芽生えたことになる。

 与党は勝ったが自民には陰り

 参院選の結果をどう見るかということだが、与党が勝ったことは明らかだ。安倍首相は選挙前に与党による改選議席の過半数である61議席確保を掲げていた。結果は、自民党56議席、公明党14議席で与党合計70議席となり大幅にクリアした。自民単独過半数に2不足だったが、無所属候補の追加公認と平野元復興相の入党で過半数を実現した。
 安倍首相は秘かに改憲発議が可能となる3分の2議席確保を狙っていたと思う。この目標も自公の議席だけでは及ばなかったが、おおさか維新の会と日本のこころを大切にする党、それに4人の無所属議員を含めて突破した。非常に危険な状況に至ったことは明らかだ。
 もともと自民党は歴史的に見れば下り坂に入っていた。12年衆院選294議席と13年参院選65議席がピークで、14年衆院選では2議席減となり今回の16年参院では9議席も減らしている。陰りが生じていたことになる。それなのに今回、なぜ自民党は転げ落ちずに、踏みとどまることができたのか。
 一つは、客観的な情勢が自民を有利にした。国民が安全保障面や生活の不安から安定を求めたのではないか。途上国経済の不透明化やイギリスのEU離脱などもあって世界経済がどうなるのかという不安感が増大した。アベノミクスは破綻しているが、安倍首相は「道半ばだ」と言い張ってこれからよくなると宣伝した。国民も、民主党政権の時代よりはましだと感じている。
 また、日本にはヨーロッパのような政権を揺さぶる難民問題がなかったのも、政権党に有利に働いた。ヨーロッパでは経済不安や移民問題がポピュリズムを生んで既成政党批判・政権批判を増大させた。アメリカでも国民の経済・生活不安がサンダース・トランプ現象を生み出している。それに、北朝鮮が参院選に合わせたようにミサイルの発射実験を繰り返し、それがネガティブキャンペーンに利用された。
 自民党の主体的な選挙戦術が功を奏した面もある。参院選でのキャンペーンは、選挙隠し、争点隠しで、「隠す、盗む、嘘をつく」の三つ。参院選が始まっているのにマスコミ報道は舛添東京都知事問題ばかり。参院選隠しだ。もともとの参院選の第一の争点は来年4月から10%に引き上げ予定だった消費税再増税問題だったが、これは延期することで争点からはずされた。本来、参院選の最大の争点であったはずの憲法改正問題についても、安倍首相は街頭演説でまったく触れず隠し通した。TPP問題や米軍基地問題などについても避け、不利な争点を隠した。しかし、隠しきれなかった東北や甲信越、沖縄で自民党は敗北している。
 さらに、野党の政策を盗むというやり方だ。同一労働同一賃金、介護士・保育士の待遇改善、給付型奨学金など、これまで野党が求めて運動してきた政策を盗んだ。アベノミクスについても平然と嘘をつく。白を黒と言いくるめる詐欺師の手法だった。しかし、マスコミがそれをバックアップして流れをつくった。
 公明党が改選議席を3議席増やしたのは定数増の恩恵で、愛知・兵庫・福岡で当選したが、比例代表は7議席で前回同様。得票数で4900票増やしただけだった。おおさか維新の健闘は18歳選挙権の恩恵だと考えられる。選挙前の世論調査では、民進4.0%、公明2.3%、共産1.9%に対しておおさか維新の会は2.5%あり、公明党よりも支持率が高かった。


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9月27日(火) 2016参院選とこれからの課題(その2) [論攷]

〔以下の論攷は『全国学研会ニュース』No.175、9月13日付に掲載されたものです。2回に分けてアップさせていただきます。〕

3、「壊憲」の危機をどう乗り越えるか

 前述の通り、衆参両院で改憲勢力が3分の2を超えました。しかし、ここで注意すべきなのは、改憲勢力には「改憲」と「壊憲」の2種類あるということです。この両者を分かつ分岐点は、現行憲法の平和主義・基本的人権の尊重・国民主権という「三大原理」を前提にしているか、自由で民主的な平和国家としてのこの国の形を壊さないかということです。
 現行憲法の原理や理念を守ったうえでの統治ルールの変更や時代にあわせた条文の書き換えは、通常の「改憲」ですから問題にするには及びません。断固として阻止しなければならないのは、このような原理や理念を破壊する「壊憲」です。この両者を明確に区別したうえで、後者の「壊憲」路線を取る日本会議や美しい日本の憲法をつくる国民の会、自民党の憲法草案に批判と打撃を集中しなければなりません。
 憲法には第96条の改憲条項がありますから、「指一本触れてはならない」わけではなく、憲法は「不磨の大典」でもありません。条文を書き換えることはできますが、その原理や理念を破壊することは許されません。憲法審査会の再開に当たっても、この点を明確にするべきです。自民党の改憲草案はこの条件を欠いていますから憲法審議のたたき台にはならず、その破棄ないしは撤回を要求するべきでしょう。
 安倍首相はしばしば外国支援の理由として「自由、民主主義、基本的人権の尊重、法の支配」という「共通の価値観」をあげています。安保法の制定などで憲法を踏みにじっていながら「法の支配」などと言うのは笑止千万ですが、それを主張するのであれば憲法審議の前提としても「共通の価値観」を確認するべきでしょう。
 このような憲法運動においても、学者・研究者が果たすべき役割には大きなものがあります。現行憲法と自民党改憲草案との比較、後者の問題点の解明、「壊憲」反対世論の拡大に向けて、論攷の執筆、学習会や講演会での講師・チューターなどとして活躍していただきたいものです。

4、本格的に政権交代を準備する

 参院選とその後の都知事選で、市民と野党の共闘による力の結集という新しい活路が見出されました。これを維持し、発展させていくのが、これからの課題です。
 そのためには、第1に、自力を強めることが必要です。共闘に加わるそれぞれの市民団体や政党の団結、基盤の強化・拡大とともに、これらの団体相互の信頼関係を維持・拡大しなければなりません。新たにできた繋がりやネットワークを生かした共闘の継続に努めていただきたいものです。
 第2に、政策的合意の幅を拡大し、その水準を高めることが必要です。民進党と共産党との間には天皇制、安保、自衛隊、消費税などでの違いがあります。しかし、共産党は天皇制の廃止、安保条約の破棄、自衛隊の解散、消費税の廃止などを直ちに要求しているわけではなく、天皇元首化反対、在日米軍基地の強化や日米地位協定の見直し、自衛隊の「国防軍」化や「外征軍」化阻止、累進課税と再分配の強化などの点では、十分に合意可能ではないでしょうか。
 第3に、労働・社会運動のレベルでも一点共闘を拡大することが必要です。安倍内閣は「働き方改革」を打ち出して労働政策の見直しに着手し、社会保障についても大々的な切り下げを目指しています。安倍政権の攻勢を跳ね返して、労働者の側から「働き方改革」を実現するチャンスが生まれています。労働と福祉の現場における共同の発展は、新たな政権基盤を「草の根」から準備することにもつながるでしょう。
 第4に、これからの選挙での共闘を進めることが必要です。10月に予定されている東京と福岡での衆院補欠選挙はもちろん、地方の首長選挙や議員選挙なでも可能なところでは野党間の共闘を実現するべきでしょう。それと並行して、来るべき解散・衆院選挙の準備を始めなければなりません。
        *       *      *
 「天下分け目の合戦」は、まだ始まったばかりです。緒戦で一定の成果を上げることに成功しましたが、いまだ初歩的なものにすぎません。これを教訓として生かしながら、解散・総選挙を展望しつつ政権交代に向けての本格的な準備を始めようではありませんか。
 もはや、「カヤの外」での「独自のたたかい」に取り組む時代は終わりました。学者・研究者後援会としても、各種の選挙で共産党を応援するだけでなく、新政権を展望した政策作りへの提言など研究者としての特性を生かした準備を始めなければなりません。政権交代後の新政権への支援や協力のあり方についても、今から準備しておく必要があるのではないでしょうか。
 「新しい酒は新しい革袋に」。その「酒」を仕込むだけでなく新しい「革袋」の作成にも、各分野の専門家として学者や研究者は大きな役割を果たせるはずですし、果たさなければならないのですから……。


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9月26日(月) 2016参院選とこれからの課題(その1) [論攷]

〔以下の論攷は『全国学研会ニュース』No.175、9月13日付に掲載されたものです。2回に分けてアップさせていただきます。〕

1、 嘘とペテンで塗り固められた「勝利」

 先ごろの参院選では、与党が勝利しました。それは残念なことですが、安倍首相が目標とした61議席を超え、自民党と公明党で70議席を獲得したのですから「勝利」に間違いありません。
 しかも、「改憲勢力」とみなされている政党や議員を合計して参院の3分の2の議席を超えました。すでに、衆院でも与党は改憲発議可能な3分の2を超えていますから、衆参両院で改憲へのハードルをクリアしたことになります。
 しかし、このような与党の「勝利」は、嘘とペテンで塗り固められたものでした。安倍首相は経済政策を前面に出して「アベノミクスは道半ば」だと言い張り、「この道を。力強く、前へ」と訴え、本来の争点であった憲法問題について街頭演説では一言も口にしませんでした。
 また、消費税の8%から10%への再増税についても選挙直前の記者会見で「新しい判断」を示し、再延期してしまいました。本来であればこれが参院選での最大の争点になるはずだったのに、それを消してしまったのです。
 さらに、同一労働同一賃金や保育士・介護士の処遇改善、給付型奨学金の導入などを打ち出しました。これまで野党が掲げていた政策を「盗んだ」わけです。批判や矛盾が拡大して無視できなくなったためで取り上げたのは悪いことではありませんが、これによって野党との政策的な違いが曖昧になったことは否定できません。
 このような選挙戦術が国民感情にうまくマッチしたのではないでしょうか。中国の海洋進出や北朝鮮の核開発・ミサイル発射実験などで不穏な状況にある日本周辺の安全保障環境、途上国の経済不振やイギリスのEU離脱などで不透明感を増す経済情勢などに直面して、国民は不安を感じていましたから。
 このような「隠す」戦術に対抗するためには、可視化し見えるようにすることが必要です。事実を知り理解すれば行動に立ち上がることは、反原発デモや安保法反対運動などで示された通りです。しかし、大手のマスコミは頼りになりませんから、口コミなどによる情報発信が重要になっています。
 この点で、学者・研究者の多くは、書いたり話したりすることで大きな役割を果たすことができます。その発言や執筆などは注目され、世論に影響を与えられるからです。安保法の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合や安保法に反対する学者の会などでの経験を生かして学者・研究者としての情報発信に努め、世論に働きかけていただきたいものです。

2、証明された市民と野党共闘の力

 今回の参院選では、これまでにない新しい動きがありました。それは市民と野党とが力を合わせて選挙活動に取り組んだことです。その結果、32の1人区で野党の統一候補が擁立され、11勝21敗という成績を収めました。3年前の参院選では2勝29敗でしたから、画期的な前進を遂げたことになります。このような新しい共闘の実現が、今回の参院選での最大の成果でした。
 この共闘は市民が主導して実現したものです。安保法反対運動の中で、「野党は共闘」という声が自然に高まり、それに応える形で共産党が国民連合政府の樹立を提案し、これを契機に野党共闘の動きが強まって2月の「5党合意」により1人区での野党統一候補擁立が具体化しました。
 この過程で決定的な意味をもったのは、共産党が候補者の取り下げを表明したことです。民進党には「共産党主導」という声もあるようですが、「主導」したのは市民でした。身を引く形で、これに応じたのが共産党です。候補者を立てなかったために比例代表での票を伸ばしきれず、1人区での共闘を優先したために複数区に手が回らず取りこぼすという犠牲を払いながらの選挙になりました。
 選挙に当たっての共闘の合意は市民団体や公党間の正式の約束ですから、これからも誠実に守られなければなりません。とりわけ、6月7日に結ばれた野党4党と市民連合との合意は、民主党が民進党になってからのものです。代表が変わったから破棄するなどということになったら、それこそ市民からの信頼を失うことになるでしょう。
 このような共闘の効果は明確で、誰も否定できないものです。議席が増えただけでなく、28の1人区では比例代表で得られた各党の得票を上回り、26の1人区では投票率も高くなっています。与野党の一騎打ちとなったために有権者の関心が高まり、1+1が2以上の効果を生み出しました。
 このような効果は次の衆院選でも十分に期待できるものです。『東京新聞』による民進党都道府県連幹部への聞き取り調査では、次期衆院選での野党共闘について22都道県が継続を求め、やめるべきだとした9府県を大きく上回りました。また、2014年の前回衆院選の結果をもとにした同紙の試算では、野党4党側の勝利は前回の43選挙区から2.1倍の91選挙区になるとされています(9月4日付朝刊)。
 「一強多弱」と言われるような力関係を打破してアベ暴走政治をストップさせるには、この野党共闘を前進させるしかありません。この面でも学者・研究者は共闘実現のための接着剤として、また場合によっては「無党派共同」の候補者として、積極的な役割を果たすことができます。それぞれの条件を生かして、市民と野党共闘の力を十分に発揮するための「触媒」になっていただきたいものです。


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9月24日(土) 新潟県知事選挙での米山隆一候補の当選を願う [選挙]

 告示が29日(10月16日投開票)に迫るなか、注目されていた新潟県知事選挙の構図がようやく整ったようです。民進党の米山隆一さんが離党して無所属での立候補を決意されました。

 現職の泉田知事が「県民の健康、生命、安全、原子力防災など、本来議論すべきことを議論できる環境になってほしい」という理由で立候補を断念したため、無投票になるかもしれないと心配していました。そうなれば、前長岡市長の無所属新人・森民夫さん(自民党・公明党推薦)が当選してしまいます。
 森さんは旧建設省出身で長岡市長を5期務めましたが、67歳と高齢で長岡市以外での知名度は低いとされています。それでも当選すれば、柏崎刈羽原発が再稼動されてしまうかもしれません。
 私の実家はこの原発から30キロほど離れたところにありますから、いったん事故になれば放射能の被害は免れません。新潟県内に沢山の友人や知人がいる私としても、県知事選で原発再稼働にストップをかける選択肢が提起されることになってホッとしています。

 こうなったら、ぜひ米山隆一さんに当選していただきたいと思います。先の参院選では新潟でも野党共闘が実現して無所属で森裕子さんを当選させることができました。
 米山さんを担ぎ出したのは「新潟に新しいリーダーを誕生させる会」で、共産、社民、生活、新社会、緑の5党に市民連合などで構成されています。このような形で、野党と市民が手を結んで闘えば、森さんと同じように米山さんの当選を勝ち取ることは十分に可能です。
 記者会見で、米山さんは「世界最大の柏崎刈羽原発を擁する新潟県として、泉田裕彦知事の『福島原発事故の検証なくして、再稼働の議論はしない』との路線を継承し、県民の安全、安心を確保する」との決意を述べました。再稼働に向けて簡単にはゴーサインを出さないということであり、これが知事選挙での最大の争点になります。

 米山さんはコメどころとして知られている新潟県魚沼市(湯之谷)出身で、東大医学部卒の医師、弁護士です。衆院選の新潟5区に、2005、09年は自民党、12年は日本維新の会から出馬して落選し、13年の参院選新潟選挙区にも日本維新の会から立候補しましたが及ばず、ことし3月に民主党と維新の党が合流してできた民進党に加わって次期衆院選の候補となる5区総支部長を務めてきました。
 ところが、民進党は米山さんの立候補を認めず自主投票にしてしまいました。米山さんが維新系で、原発推進の電力総連を傘下に持つ連合新潟が反対したためだとみられています。
 そのために、米山さんは民進党を離党して無所属で立候補することになり、野党4党による共闘という枠組みにはなりませんでした。おまけに、民進党を支援する連合新潟は森さんの支持を決めたといいますから、呆れかえってしまいます。

 なんだか、私が立候補した八王子市長選挙と似たような構図になっていますが、それでは困ります。民進党が野党共闘に加わるよう、県連に対して党本部から強力な指導を行うべきでしょう。
 今回の知事選挙は新潟だけの問題ではなく、原発のある自治体すべてに関わる重要な争点が争われようとしています。その結果次第では原発再稼動が全国に一気に波及するかどうかの瀬戸際での選挙戦です。
 しかも、衆院の東京と福岡のダブル補選の投開票日は10月23日で、新潟県知事選の翌週に当たります。この補選での勝利のためにも、蓮舫新執行部は新潟県知事選挙で最初の勝利を目指すべきでしょう。

 10月16日の新潟県知事選での勝利、23日の衆院補選での勝利を積み重ね、来るべき解散・総選挙での勝利を目指す。このホップ・ステップ・ジャンプという三段跳び戦術こそ、新生民進党が再生できる大きなチャンスだということが分からないのでしょうか。
 今日の『朝日新聞』には「『年明け解散』想定 自民党大会、来年3月に先送り」という小さな囲み記事が出ていました。安倍首相は年末の日露首脳会談で北方領土問題についての道すじを付け、来年早々にでも解散するのではないかとの見方を裏付けるような記事です。
 決戦の時はそう遠くないかもしれず、グズグズしている暇はありません。新潟県知事選と衆院補選での野党共闘の実現とその勝利こそ民進党の新執行部が全力で取り組むべき最初の活路だということを、蓮舫さんには肝に銘じていただきたいものです。

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9月22日(木) 反転攻勢に向けての活路が見えた―参院選の結果と平和運動の課題(その4) [論攷]

〔以下の論攷は、日本平和委員会発行の『平和運動』9月号、に掲載されたものです。4回に分けてアップさせていただきます。〕

4.選挙後の展望と課題

 改憲阻止をはじめとした諸課題への取り組み

 参院選の結果、改憲勢力は3分の2を超えた。衆参両院での改憲発議可能な国会勢力の確保は初めてで、これに気を良くした安倍首相は悲願としている改憲に向けて新たな攻勢に出てくるに違いない。憲法をめぐる情勢は条文を変える「明文改憲」に向けて、「危険水域」に入ったと言える。
 安倍首相は早速、秋の臨時国会で憲法審査会を再開し、どのような項目のどこをどう変えるか、与野党で議論してもらいたいとの意向を明らかにした。当面、改憲派にたいする批判を強めて憲法学習を進め、改憲阻止のたたかいを強めることが重要になっている。
 その場合、改憲には賛成でも9条改憲には反対だという立場がある。9条改憲に賛成でもそれは自衛隊の国防軍化や外征軍化を阻止するための改憲だという意見もある。これらを十把一からげに改憲派だとするのは不正確だ。この区別を明確にして、安倍首相が目指している危険な改憲路線を孤立させることが大切である。
 3月に施行された安保法は、国連平和維持活動(PKO)の新たな任務として、離れた場所にいる国連職員らを自衛隊員が緊急警護する「駆け付け警護」の任務を追加した。紛争が激化している南スーダンへのPKO派遣を11月以降も続ける場合、政府は新任務の実施を認めるかどうか判断を迫られるが、このような安保法の発動を阻止しなければならない。
 安倍首相が最も重視しているのは、参院選の争点に掲げた経済政策「アベノミクス」の推進である。これについては具体的な成果が問われる。「これから大変だよ。アベノミクス」 と、小泉首相が言うとおりである。
 今後、事業規模28兆円超の経済対策が打ち出され、臨時国会で成立が目指される。その柱は少子高齢化に対応する保育・介護施設の拡充などで、「残業代ゼロ法案」や正社員と非正規との賃金格差是正を含む「労働改革」も盛り込まれる。社会保障サービスの低下を防ぎ、労働者の処遇改善に結びつくかが問われることになろう。
 沖縄関連では、高江のヘリパッド建設強行や名護市辺野古沖の新基地建設を巡る政府と県の法廷闘争の再開など参院選での島尻落選の「意趣返し」のような暴挙が続いている。基地問題に対する沖縄のたたかいに呼応した取り組みを強めなければならない。
 原発に関しては四国電力伊方原発3号機が8月中旬の再稼働を予定しており、鹿児島県知事選で初当選した三反園訓知事は再稼働している川内原発の一時停止を九州電力に求めている。再稼働を推進する政府の原発政策に対するたたかいは続く。
 また、通常国会で継続審議になったTPP関連法案についても臨時国会での成立が目指されている。成立阻止に向けての取り組みが重要である。

 野党共闘の継続と発展に向けて

 参院選では歴史上初めて野党協闘が成立し、大きな成果を上げた。しかし、「5党合意」は参院選公示の5ヵ月前で、最後の統一候補が決まったのは3週間ほど前にすぎない。突貫工事で建てたプレハブのようなものだった。これを風雪に耐える本格的な建物にするのが、これからの課題である。
 そのためには、この間の共闘によって培われた市民や野党間の多様なつながり、信頼関係を大切にし、発展させなければならない。それによって主体的な力を強めることである。
 また、アベ政治後のビジョンを提示して明るく夢のある未来像を示さなければならない。それによって、政策的な魅力を高めることである。
 さらに、労働組合運動など大衆運動分野での一点共闘を拡大しなければならない。労働法制の規制緩和反対、統一メーデーへの取り組み、原水爆禁止運動の統一など、可能な領域での共同を発展させることによって草の根から連合政権の土台作りをはじめることである。
 近い将来における解散・総選挙をめざし、政策的一致、国会内での協力、選挙への取り組みなど野党4党間での共同を拡大し、今後の首長選挙や地方議員選挙、衆院補選(10月23日、東京・福岡)などでの野党共闘を実現する必要がある。
 東京都知事選挙では野党共闘で鳥越俊太郎候補を擁立し、同時に投票された都議補選でも大田区と台東区で民進党と共産党のバーターによる野党共闘が実現した。このような形で地方選挙でも共闘を継続し、それを衆院選での統一候補実現に結び付けなければならない。
 『日経新聞』の調査では、野党は衆院選でも統一候補を「立てるべきだ」は47%で、「立てるべきではない」の36%を上回った。民進党支持層でも「立てるべきだ」が73%、「立てるべきではない」は22%、共産党支持層も「立てるべきだ」が7割程度、「立てるべきではない」は約2割と同様の結果が示されている。
 選挙での共同だけでなく、政策的準備も重要である。通常国会での共同提出法案や参院選での確認事項を踏まえ、臨時国会で野党共同の法案提出などを進めながら、外交・安全保障、米軍基地、自衛隊、税制、TPP,エネルギーなどの基本政策での合意形成に努めなければならない。
 今回の参院選での得票を基に総選挙で共闘した場合の議席を試算した『北海道新聞』によれば、北海道内では野党側が10勝2敗になるという(7月19日付)。全国でも同様の可能性が生まれているにちがいない。
 ここにこそ展望がある。そして、活路はここにしかない。天下分け目の「関ケ原の合戦」は始まったばかりだ。本格的な対決は次に持ち越しとなった。解散・総選挙がさし当りの政治決戦となろう。参院選での成果を確信にして教訓を学び、より効果的で緊密な共闘のあり方や魅力的な候補者の擁立に向けての模索と研究を、今からでも始めなければならない。

 平和運動の課題

 参院選の結果は今後の平和運動のあり方についても、大きな課題を提起している。今回の結果に対して、戦争と平和の問題や日本周辺の安全保障環境のあり方が大きく影響していたからである。
 その第1は、「積極的平和」の理念を明確にし、この言葉を安倍首相から取り戻すことである。本来、「積極的平和」とは「消極的平和」と対置され、単に戦争がない状態としての「平和」ではなく、戦争の原因となる不和や対立、貧困や格差、無知や憎悪などを取り去ることによって実現される真の平和を意味していた。
 しかし、安倍首相は積極的な武力の行使による安全の確保という政策を「積極的平和主義」という用語によって説明した。武力に頼らずに戦争の原因の除去を図ることを意味する「積極的平和」とは真っ向から対立する考え方であるにもかかわらず、それが効果的な平和実現の方策であるかのような誤解が生じている。
 しかし、このような武力に依存する「力の政策」では、国際間の紛争も国際テロも根本的に解決できないことは、この間の経験からして明らかだ。安倍首相の唱える「積極的平和主義」は考え方としても現実的な方策としても大きな間違いであり、かえって問題を複雑にし、解決を困難にしてしまう。武力に頼らない地道な平和構築こそが現実的な解決策であり、「積極的平和」への道であることを示さなければならない。
 第2に、平和を実現するためには過去と未来にわたる長期的な視野を忘れてはならないということである。歴史から教訓を引き出し、現実を直視する力を持たなければ未来に対して盲目となる。その結果、過去の過ちを繰り返す危険性が生れてしまう。
 戦前の戦争の歴史を学び、経験者の証言を残し、教訓を引き出すことは重要である。同時に、戦禍による壊滅的な荒廃から立ち上がり、70年以上にわたって平和を維持して経済大国を実現した戦後日本の経験と教訓も、十分に明らかにされ学ばれなければならない。
 それを可能にした力こそ平和憲法の理念であり、9条の効果だったのではなないか。それを維持するだけでなく、その理念を実現できるような対外政策と将来ビジョンを持ち、周辺諸国や世界に向けて発信し普遍化することこそ、日本の平和運動が担っている国際的な役割にほかならない。
 第3に、平和を守るためには、民主主義の限界と危険性を十分に自覚することが必要である。民主主義とは多数決と同じものではなく、多数が賛成することによって誤った道を選択することもある。多数が過ちを犯し少数が正しかった戦前の歴史を思い起こすべきだ。
 間違った戦争の道が選ばれるとき、しばしばこのような誤りも繰り返される。民主主義社会においては、多数の支持なしに戦争を始めることも続けることもできない。総力戦であればなおさら「総力」の動員が必要となり、「民主主義」が活用される。
 歓呼と喝さいの中からファシズムが誕生した歴史の苦い教訓を思い起こすまでもないだろう。独裁と戦争への道は民主主義の「石」によって敷き詰められているのである。それを防ぐためには、少数であることを恐れず、多数であることの意味を問い、それへの同調を強いないことである。孤立を恐れず「反知性主義」を警戒し、多数の間違いを指摘できる知力を持たなければならない。
 参院選の結果、アベ政治の暴走は続き、スピードはアップするだろう。それを阻止する力を蓄えるために、平和運動も歴史に学び、歴史の試練に耐えることが求められている。

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9月21日(水) 反転攻勢に向けての活路が見えた―参院選の結果と平和運動の課題(その3) [論攷]

〔以下の論攷は、日本平和委員会発行の『平和運動』9月号、に掲載されたものです。4回に分けてアップさせていただきます。〕

3、安倍首相の勝因はどこにあったのか

 不安に駆られた有権者は安定を求めた

 自民党の党勢が弱まりつつあり、昨年は「2015年安保闘争」ともいえる市民の運動が高揚した。それにもかかわらず、どうして自民党は勝ち、野党は安倍首相を追い詰めることができなかったのだろうか。
 世界的に見れば、既成政党や政治家への不信感が高まっている。アメリカの大統領選挙では「トランプ現象」や「サンダース現象」が起こり、ヨーロッパでは極右勢力が台頭し、イギリスでもポピュリズムが強まってEU離脱が決まった。欧米では変化を求める政治的な流れが勢いを増しているように見える。
 それなのに、日本の安倍政権は今回の参院選で勝利した。陰りが生じているとはいえ、国会内と自民党内での「ダブル一強」を維持することに成功している。それは何故だろうか。
 それには、移民問題の不在や日本周辺の安全保障環境が大きく影響していると考えられる。欧米の先進国に比べて外国からの難民の流入は少なく、大きな政治・社会問題になっているわけではない。他方で、日本をとりまく周辺諸国との関係は緊張をはらんでいる。北朝鮮の核開発やミサイル実験、中国の南シナ海での埋め立て、尖閣諸島周辺での不穏な動きなどがあり、安全保障面で不安をあおるような報道も相次いだ。
 世界経済の先行きが不透明になっているだけでなく、バングラデシュのテロ事件で日本人が狙われて犠牲になるという、これまでには考えられないような事件も起きた。このような客観的な情勢変化に直面して、国民の多くは不安感を抱き安定志向を強めたのではないだろうか。
 国民はバブル崩壊以来、長期のデフレ不況に痛めつけられてきた。そこからの活路として期待した民主党政権にも裏切られた。もうこりごりだと思っているところに、安倍首相から「あの暗い、停滞した時代に戻っても良いのですか」と言われ、国民はひるんでしまったのではないだろうか。アベノミクスによって得られたというささやかな「成果」にかすかな期待をつなぎ、その行く末を見極めようとしたのかもしれない。

 「隠す、盗む、嘘をつく」という選挙戦術

 これに加えて、安倍首相が意識的に採用した選挙戦術も功を奏したように見える。今回の選挙では、とりわけ「隠す、盗む、嘘をつく」というやり方が目立ったからだ。
 まず、「隠す」ということでは、「争点隠し」をあげることができる。その最たるものは消費税増税の再延期だ。安倍首相は10%への再増税は延期せずにやると言っていたにもかかわらず、「新しい判断」で先に伸ばした。本来ならこれが中心的な争点になるはずだったのに、事前に選挙の争点から消されてしまったのだ。
 改憲問題も同様である。野党は改憲勢力に3分の2を取らせないという争点を掲げたが、安倍首相は街頭演説で口をつぐみ一言も触れなかった。そのため、「首相が本気で改憲を目指すのであれば、自ら国民に問いかけるべきではないか」(『朝日新聞』7月11日付)と批判されるほどだった。
 個別政策でも、評判の悪いTPP、原発再稼働、沖縄辺野古での新基地建設などの争点に触れることを避けた。しかし、争点を隠しきれなかったところでは厳しい審判を受けている。前述のように、TPPへの不信が強い北海道や東北・甲信越、東日本大震災や原発被害への対応の遅れが批判を浴びた被災3県、米軍基地被害や辺野古新基地建設が怒りを引き起こした沖縄などでは野党が善戦した。福島と沖縄では現職閣僚が落選している。
 次に、「盗む」ということでは、野党の政策の横取りという問題がある。自民党は「これまで野党が重視してきた政策を取り入れた」(『毎日新聞』7月9日付)と指摘されるほど、このような傾向が目立った。
 たとえば、最低賃金時給1000円、同一労働同一賃金、給付型奨学金の創設、保育園の増設による待機児童解消、保育士や介護福祉士の処遇改善など、これまで野党が要求し、自民党が無視してきた政策課題が次々に公約とされた。これらの問題を無視できないほどに矛盾が深刻化してきたことの現れであり、それなりに対策を打ち出したこと自体は悪いことではない。
 しかし、その狙いは政策を盗んで野党との違いを見えにくくすることにあった。野党との政策的な違いを曖昧にすることによって、争点化を防ぐという作戦に出たのである。
 さらに、「嘘をつく」ということでは、「アベノミクスは道半ば」だと言い張った。消費税の再増税を行えるような経済的前提条件を作れなかったこと自体がアベノミクスの失敗を示しているにもかかわらず、まだ十分な成果が出ていないからだと強弁したのである。
 すでに破たんし、失敗が明らかなアベノミクスを取り繕い、有効求人倍率などの都合のよい数字を並べて嘘をついた。
 これに加えて、今回の参院選では共産党や野党共闘に対するネガティブキャンペーンを全開させた。共産党への反感をあおって民進党との共闘への批判を繰り返したのである。政策を積極的(ポジティブ)に訴えることができないからこそ、否定的(ネガティブ)な宣伝・扇動に頼らざるを得なかったわけだが、このような選挙戦術が一定の効果を上げたことは否めない。

 安倍戦術を手助けしたメディアの罪

 このような安倍首相による「争点隠し」という戦術の手助けをしたのが、マスメディアであった。その選挙報道は貧弱で、特にテレビは公示後、選挙報道が極端に少なくなった。参院選についての情報を十分に伝えなかったという点では、「争点隠し」に加えて「選挙隠し」を行ったという批判は免れない。
 今回の参院選は選挙権年齢が18歳以上に引き下げられて初めての国政選挙であり、注目度も高かった。それにもかかわらず、公示後に党首討論をやったのはTBSだけで、NHKはニュースでもろくに扱わず、ワイドショーなどでは都知事選の話題の方が取り上げられた。
 調査会社エム・データの集計ではNHKを含む在京地上波テレビの放送時間は2013年の前回参院選より3割近く減っている。情報・ワイドショー番組で民放は6割減だったという。メディアは安倍政権による懐柔と恫喝に屈して報道を控え、結果的に有権者の選挙への関心を低めて「選挙隠し」と「争点隠し」に手を貸したように見える。
 また、改憲問題について新聞各紙は積極的に報道したが、争点化させることはできなかった。改選議席の「3分の2」という数字の意味について、『高知新聞』は「高知で83%意味知らず」という記事を報じ(7月5日付)、『毎日新聞』でも「全国の有権者150人に街頭でアンケートを実施したところ、6割近くにあたる83人がこのキーワードを『知らない』と回答した」という(7月11日付)。
 本来ならマスコミは選挙の前からこのような調査を行って投票日までに伝えるべきだったが、「報道特集」や「報道ステーション」などを除いて改憲問題は取り上げられなかった。7月10日の投開票日に放送された選挙特番は「日本会議」についてのドキュメンタリーや自民党の改憲草案の解説なども行ったが、「選挙後」に放送しても「後の祭り」ではないか。
 参院選の投票率は選挙区で54.70%、比例代表で54.69%となり、前回の52.61%を選挙区で2.09ポイント、比例代表で2.08ポイント上回った。しかし、1947年の第1回以降で4番目に低い投票率である。選挙戦術としての「争点隠し」やメディアによる「選挙隠し」が、このような低投票率にも影響したように思われる。

 若者の意識と選択

 今回の参院選から18歳選挙権が導入され、新たに選挙権を得た18歳と19歳の若者はどのような選択を行うかが注目を集めた。その結果、18~20歳の若い有権者の多くは自民党に投票した。次いで多かったのが民進党、そしてその次が大阪維新の会であった。このような若者の投票傾向も、与党を勝利に導いた要因の一つだったと思われる。
 共同通信社の出口調査では、18・19歳の比例代表の投票先は自民党が40.0%でトップとなり、20代、30代とともに、高い比率を示した。『朝日新聞』の出口調査でも、この年代の自民党への投票は40.0%と20台に続いて2番目に多く、年代が上がるにつれて野党の割合が増えるという傾向があった。
 政党支持率では、自民党33.0%、民進党9.6%に次いで多いのが大阪維新5.9%で、4番目の公明党3.2%を上回っていた。大阪維新は改選2議席から5議席増の7議席獲得と健闘したが、その背景にはこのような若者の政党支持の特徴があった。18歳選挙権導入の恩恵を受けたのは自民党に次いで大阪維新の会だったと思われる。
 若者が投票に際して重視した政策は「景気・雇用」28%が最多で、「社会保障」15%、「憲法」14%などとなっていた。NHKの出口調査では、アベノミクスについて「大いに評価する」「ある程度評価する」と答えた人は合わせて64%で、「あまり評価しない」「まったく評価しない」と答えた人は合わせて36%にすぎない。
 つまり、高校3年生や大学生にとって最も切実なのは就職問題であり、それを左右するのがアベノミクスの前途だと考えられたのである。有効求人倍率の向上や消費税の先送りによる雇用改善に望みをつないだために若者の多くは与党を支持した。経済の先行きに危機感を感じた有権者は安定志向を強めたが、それが最も鮮明に現われたのが若い世代だったのかもしれない。

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9月20日(火) 反転攻勢に向けての活路が見えた―参院選の結果と平和運動の課題(その2) [論攷]

〔以下の論攷は、日本平和委員会発行の『平和運動』9月号、に掲載されたものです。4回に分けてアップさせていただきます。〕

2、野党と選挙協力

 新たな危機感を生み出したのは野党共闘

 このように与党は勝ったが圧勝したわけではなく、満足のいく結果ではなかった。とはいえ、それは「危機感」を生むほどのものではない。菅原議員が「私はむしろ危機感を持ちましたけどね」と言ったのはどうしてなのか。
 それは、「1人区で11も落とした。共産党と民進党の協力がうまく行くはずがないとタカをくくっていましたが、野党協力をナメてはいけなかった」というわけだ。つまり、「野党協力」の力を目の当たりにしたからである。このような協力が今後も続くとすれば、「勝った勝ったと緩んでいたらしっぺ返しを食」う危険性を察知したからにほかならない。
 事実、今回の参院選での野党協力の実績は、自民党に危機感を覚えさせるに十分なものだった。1人区での議席獲得では11勝21敗となり、前回の2勝に比べて5倍以上の成果を上げた。
 当選にはいたらずとも激戦・接戦となった選挙区もあり、1人区での得票数が比例代表での各党の合計を上回る選挙区も続出した。このほか、野党統一候補の擁立によって一騎打ちとなった結果、有権者の関心が増して投票率がアップするという効果も生まれた。
 このような野党共闘の出発点となったのは昨年9月の共産党による「国民連合政権」の提唱で、これは今年2月に「5党合意」に結実した。この合意を基礎に1人区での統一候補擁立の動きが進む。その背景には共産党による候補者の取り下げという決断があった。
 その後、統一候補擁立の動きが加速され、5月31日には最後まで残っていた佐賀県で野党統一候補が実現する。こうして、32ある1人区の全てで統一候補が出そろったが、それは実に参院選公示日である6月22日のほぼ3週間前のことであった。
 それでも前回の5倍を上回る当選実績を上げたのである。もっと早く足並みが揃って統一が進み、万全の態勢がとられていれば、より多くの1人区で当選者を出していたにちがいない。この結果から、菅原議員は「野党協力をナメてはいけなかった」という教訓を引き出し、「勝った勝ったと緩んでいたらしっぺ返しを食」うのではないかと、「むしろ危機感を持」つにいたったのである。

 「東北・甲信越の乱」と「オール沖縄」の威力

 このような「危機感」を裏付けるような事実がある。「東北・甲信越の乱」と「オール沖縄」の威力だ。これらの選挙区の結果を子細に検討すれば、自民党の勢いに陰りが出てきたことが分かる。
 安倍政権が誕生して以来、国政選挙で自民党は連戦連勝のように見えるが、そうではない。前回の2014年衆院選で自民党は2議席減らしている。今回の参院選でも、自民党の議席は前回2013年選挙から9議席減だった。つまり、衆院では2012年、参院では2013年が自民党獲得議席のピークで、それ以降は下り坂だったのである。
 今回は、秋田を除く東北各県と甲信越で自民党候補は全敗した。事前の調査で苦戦が伝えられていたため、安倍首相はこれらの選挙区を中心に応援に入った。しかし、11の重点選挙区の結果は1勝10敗で、2012年の総選挙での勝率87%、前回総選挙(2014年)での38勝38敗の勝率5割を大きく下回った。「“俺が入れば負けない”と思っていた総理は相当ショックだったようだ」と自民党選対幹部は語っているという。
 しかも、東北や甲信越地方は農業地帯で、保守地盤が強い地域だった。しかし、TPP(環太平洋連携協定)への不安や反発、農協改革への批判の高まり、東日本大震災の被災3県では復興の遅れへのいらだちなどもあって自民党の地盤が崩れ、今回の結果につながった。福島では現職の大臣が落選したが、これは原発政策や原発事故・放射能被害対策への不信感を示している。
 沖縄でも、現職大臣が落選した。事前の情勢調査で負けが濃厚とされていたにもかかわらず安倍首相が応援に入らなかったのは、もともと逆転は困難だと判断したからだろう。実際、結果は10万票もの大差での落選であった。これによって、衆院でも参院でも沖縄選出の自民党議員は姿を消した。辺野古での新基地建設に反対し、米軍基地負担の軽減を求める「オール沖縄」による明確な審判であった。

 共闘に加わった各党にも効果があった

 野党共闘の効果は統一候補が立った1人区だけで生じたのではない。アベ政治に対する批判の受け皿づくりに加わった各党も、自民党と対峙する構図を作ったことで野党としての信頼を得て有権者から一定の評価を受けたように思われる。
 とりわけ民進党にとっての恩恵は大きかった。3年前の1人区では公認候補を1人も当選させられなかったが、今回は7人の公認候補を当選させることができた。野党共闘による統一候補でなければ、このような成果を上げることは難しかったにちがいない。
 このような1人区での成果もあって、民進党の当選者は3年前の17議席から32議席とほぼ倍増した。7月8日付『朝日新聞』の推計よりも2議席多い結果で、最終盤で勢いを増したことが分かる。参院選直前での維新の党との合流や民主党から民進党への改名は冒険だったが、野党共闘の中心に座ることによって一定のイメージ・チェンジに成功し、3年前の「どん底」から脱することができたのではないか。
 しかも、前回は東京選挙区で民主党候補の2人を共倒れさせたが、定数増もあって今回は2人を当選させた。自民党の2人の当選者の得票合計は151万票だったのに、民進党の2人の合計は162万票と約10万票上回った。集票力の大きい蓮舫候補がいたとはいえ、首都・東京での票数の逆転は注目される。
 共産党は前回の8議席に及ばなかったとはいえ改選議席3から6に倍増し、比例代表での得票も3年前の前回より86万増の601万票となり、1998年の820万票に次ぐ2番目の高みに到達した。
 社民党は改選2議席を維持することができず1議席減となった。それでも比例代表では28万票増となって前回の1議席は維持している。
 なかでも生活の党は共闘の恩恵を大いに受けることになった。1人区では野党統一候補として岩手と新潟で党籍のある候補が当選している。また、比例代表でも事前の予想を覆して1議席を獲得した。小沢一郎と山本太郎の共同代表2人は安保法制反対運動や野党共闘の実現で大きな役割を演じたが、それが報われる形になったのではないか。


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9月19日(月) 反転攻勢に向けての活路が見えた―参院選の結果と平和運動の課題(その1) [論攷]

〔以下の論攷は、日本平和委員会発行の『平和運動』9月号、に掲載されたものです。4回に分けてアップさせていただきます。〕

 はじめに

 「参院選は本当に与党の圧勝だったんでしょうかね。私はむしろ危機感を持ちましたけどね」
 この言葉は、東京選出の自民党議員・菅原一秀前財務副大臣のものだ。インターネットで配信されている「現代ビジネス」の「賢者の知恵」で、政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏が紹介している。その特別リポート「安倍官邸は、これからの野党共闘にとてつもない焦りを感じている~『年内解散』を急ぐ本当の理由」には、菅原氏の次のような指摘もある。
 「マスコミは改憲勢力で3分の2を獲ったのだから圧勝だと報じていますが、一方で1人区で11も落とした。共産党と民進党の協力がうまく行くはずがないとタカをくくっていましたが、野党協力をナメてはいけなかった、ということです。落ちた現職大臣二人も、安倍政権の重要な政策の柱の『沖縄』と『原発』を担当する二人ですからね。勝った勝ったと緩んでいたらしっぺ返しを食います。」
 もう一人、「勝ったからって、浮かれていられる状況じゃないんだよ」と指摘する人物がいる。『毎日新聞』7月18日付の山田孝雄「風知草」というコラムで取り上げられている小泉純一郎元首相である。小泉氏は言う。
 「与党が大勝したからって、そんなに変わるもんじゃないよ。これから大変だよ。アベノミクス」 「これまで、目標はわかるけど、その通りにいってるか、実証しなくちゃいけない。『目標と実態が違うじゃないか』っていう人が出てくるよ。勝ったからって、浮かれていられる状況じゃないんだよ。もっと厳しくなるんだよ」
 参院選で安倍首相は当初の目標を達成した、かに見える。しかし、自民党の中に「むしろ危機感を持」つ議員がいる。元首相も、「もっと厳しくなる」という見通しを語っている。
 それは何故か。どうして、危機感や厳しい見通しが語られるのだろうか。

1、 与党と自民党

 与党は確かに勝ち、野党は負けていた

 今回の参院選の結果は自民56、民進32、公明14、共産6、維新7、社民1、生活1、無所属4となっている。これを見ても分かるように、政府・与党が勝ったことは明らかである。与党の合計で、安倍首相が目標としていた改選議席の過半数である61議席を突破したからだ。自民党は56議席、公明党は14議席で、与党の合計は70議席となって目標を9議席上回っている。
 前回3年前の参院選では、自民党だけで65議席を獲得していた。これに比べれば、公明党を加えた与党の合計で61議席という目標は低すぎる。初めから十分に達成可能なものだった。
 とはいえ、選挙にあたって掲げた勝敗の目安をクリアーすることができた。目標を達成したのだから勝利である。
 加えて、野党が阻止すると言っていた改憲発議可能な議席である3分の2議席も、改憲勢力全体で突破した。安倍首相は、ひそかにこれを狙っていたに違いない。この点で、野党は目標を達成できなかったのだから敗北である。

 自民党は圧勝しきれなかった

 しかし、冒頭に紹介したように、「本当に与党の圧勝だったんでしょうかね」という声が、当の自民党議員からあがっている。それは何故か。
 与党が勝ったとはいえ、自民党が圧勝しきれなかったからである。与党全体としても、3年前の前回と比べれば、76議席から70議席へと6議席減らしていた。
 自民党だけの議席ではもっと減少した。3年前の65議席から56議席へと9議席の減である。比例代表では1議席増やしたものの、選挙区では10議席も減らしている。この選挙区での10議席減が大きなショックを与え、「本当に与党の圧勝だったんでしょうかね」という発言を生み出した背景である。
 しかも、自民党が秘かな目標としていた参院での単独過半数の回復という目標も、この選挙では達成できなかった。自民党公認候補の当選では過半数に2足りず、これを補おうとして当選した無所属議員を開票速報中に追加公認した。
 しかし、それでも1議席足りない。ということで、無所属の非改選議員であった平野達男元復興相を口説いて自民党に入党させ、ようやく27年ぶりの単独過半数回復という悲願を達成できた。とはいえ、これは選挙での成果ではなく、姑息な政治工作の結果にすぎない。

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