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11月12日(木) 日本学術会議人事介入事件の本質 [論攷]

〔以下の論攷は、『東京革新懇ニュース』第457号、2020年11月5日号、に掲載されたものです。〕

 日本学術会議人事への政治介入が大きな怒りを呼び起こしました。それは自民党や安倍政治の問題点が象徴的に示されているからです。いわば、〝悪政の結節点〟でこの問題が発生したことになります。
 6人の任命拒否は憲法23条が公的な学術機関の政治からの自立を保障する学問の自由と、法律によって定められている「学術会議の推薦に基づいて首相が任命する」という規定に反する違憲で違法なファッショ的暴挙にほかなりません。6人を誰が勝手に除外し、元のリストは「見ていない」という今回のやり方は、「任命は形式的」で「首相が任命する」といういずれの規定にも反しています。拒否の理由を説明し、直ちに撤回して6人を任命するべきです。

 教育と大学、学術への攻撃

 今回のような介入がなぜ日本学術会議に対してなされたのでしょうか。以前から自民党は学術会議を何とかしたいと考え、目の敵にしていたからです。戦争への反省や自律的な活動を行うというあり方を変質させ、政府の御用機関に変えたいという目論見は設立当初から一貫していました。自民党による学術会議についてのプロジェクトチームの設置は、この狙いをよく示しています。
 それがなぜ6人の排除という形になったのでしょうか。安保法(戦争法)や「共謀罪」などに批判的な方だったからです。憲法解釈の変更や安保法の制定などによって戦争できる国づくりが進む一方で、学者・研究者が反対運動において大きな役割を果たすようになってきました。これを快く思わない政権側が「一罰百戒」を意図して介入したと思われます。
 それがなぜ学術の分野に対してなされたのでしょうか。教育と大学の管理・統制強化の一環だからです。自民党による日教組敵視や教科書記述への介入、安倍前首相による教育改革や教育再生会議などによる道徳の教科化や愛国心教育の強化、国立大学の法人化や全大学人自治への攻撃などによって教育は変質し、大学の自治と学問の自由は掘り崩されてきました。今回の人事介入も、この流れを引き継いでいます。
 これらの目的達成のためになぜ人事介入という方法が取られたのでしょうか。安倍前政権の下で常套手段として多用されてきたからです。日銀総裁や最高裁長官、NHK会長と経営委員、内閣法制局長官、内閣人事局の設置、検察庁人事、メディア関与など、不都合な人を追い出して都合の良い人に変えるやり方は一般化してきました。今回は杉田和博官房副長官などが「忖度」して事前にチェックし、6人の名前を外した可能性が濃厚です。このようなやり方に慣れきってしまったために、それが持つ問題の重大性に気がつかなかったのではないでしょうか。

 民主主義と学術の危機

 今回の人事介入は戦争する国づくりと軍事研究への加担という点で平和を脅かし、異論の排除という点で民主主義に反し、学問の自由を阻害して学術研究の発展を脅かすことになります。恐るべき言論弾圧事件であり、菅首相は意に沿わないものを理由無く切る冷酷な地金を露わにしました。
 菅政権はやりすぎたのではないでしょうか。民主主義社会であってはならない暴挙によって「虎の尾」を踏んだことを思い知らさなければなりません。このような権力の関与を許せば、言論や表現、教育や大学への介入はさらに露骨となり、民主主義と学術研究は息の根を止められてしまうでしょうから。


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11月2日(月) 書評:上西充子著『呪いの言葉の解きかた』晶文社、2019年(その2) [論攷]

〔以下の論攷は、社会政策学会の学術誌『社会政策』第12巻第2号、2020年11月号、に掲載されたものです。2回に分けてアップさせていただきます。〕


 特徴と意義

 本書には、いくつかの特徴と意義がある。その一部についてはすでに内容の紹介でも触れているが、改めて指摘しておきたい。
 その第1は、内容の分かりやすさである。テレビドラマや映画、人気漫画やルポなどの豊富な実例を用いて、「呪いの言葉」とそれにどう対抗していくかが示されている。その多くは説得力のあるものだが、『カルテット』というテレビドラマを例に、「自分の置かれた状況を俯瞰し、その状況を捉えるための新たな言葉を探し、そうして少しずつ、少しずつ、不当な干渉に揺さぶられない自分へと変わっていく」(240頁)過程を取り上げた第6章はいささか分かりにくいように感じた。ただし、そう思ったのは、日ごろドラマなどはほとんど見ず、本書に登場する作品についての予備知識が全くない評者だけかもしれないが。
 第2に、著者の「言葉」へのこだわりである。「私たちは、言葉を通じてものを考え、状況を認識し、自分の気持ちを把握する。言葉によって、私たちの思考は、行動は、縛られもするし、支えられもする」(256頁)からだ。著者が問題にするのは「呪い」そのものではなく「呪いの言葉」であり、権力による支配そのものではなく、支配するための「言葉」であり、支配される側の受容と服従なのである。呪いや支配への対抗を生み出すためには、それを言葉によって可視化し俯瞰することが必要だとの問題意識があるように思われる。
 著者は、最近の新聞時評でも検察庁法改正案の今国会断念を伝える報道の見出しに使われている「反発」という言葉について、「読者の見解を『抗議』や『反対』ではなく『反発』と表現するとき、そこには『今後とも丁寧な説明に努めていきたい』と繰り返す政府と歩調をそろえる姿勢が、無意識のうちに潜んではいないだろうか」と批判し、「報道は政権寄りにならず、問題のありかをただしく伝えているか、一つひとつの言葉遣いにより敏感であってほしい」と注文を付けている(『東京新聞』2020年6月14日付)。
 第3に、ネットとのコラボである。本書の成り立ちそのものが、ツイッターでの書き込みと、「#呪いの言葉」とハッシュタグをつけての引用リツイートだった。だから、「『ご飯論法』と同じく、この『呪いの言葉の解きかた』も、ツイッター上の皆さんの反応によって生み出されたものだ」(259頁)という。
 このように、本書の成り立ちだけでなく、「ご飯論法」や国会PVもネットとの連携なしには不可能だった。この点で、著者はハッシュタグを使ったネットでの社会運動の先駆者だと言える。このようなインターネットやツイッターによる異議申し立ては、1000万を超えたと言われる「#検察庁法改正案に抗議します」という「ネット・デモ」に引き継がれ、検察庁法改正案の成立阻止という結果を生み出す大きな力となった。
 以上のほかにも、「呪い」やごまかしを見抜く目の確かさ、情報の発信へのこだわりなど、本書には多くの特徴が示されている。実際の効果を重視し行動するエネルギーにも感心させられた。本書の最後に「呪いの言葉の解き方文例集―『呪の言葉』と『切り返し方』」が掲載されているのも、このような実践上の効用を期待してのことだと思われる。
 「呪いの言葉」の背後には、「呪いの構造」や「呪いの関係」が存在している。「言葉」の呪縛を「解く」ことから始まって、「構造」や「関係」を組み替え作り直していくことができるのか。そのための新しい切り口や対抗手段がどのように開発されるのか。当分の間、著者の言動からは目が離せない。



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11月1日(日)  書評:上西充子著『呪いの言葉の解きかた』晶文社、2019年(その1) [論攷]

〔以下の論攷は、社会政策学会の学術誌『社会政策』第12巻第2号、2020年11月号、に掲載されたものです。2回に分けてアップさせていただきます。〕

 はじめに

 本書の著者は、日本労働研究機構を経て法政大学キャリアデザイン学部教授となった日本の労働研究者である。しかし、それ以上に、「ご飯論法」や「国会パブリックビューイング(PV)」という新しい社会運動の手法の開発者としてよく知られている。その言論活動は、アカデミズムにおける研究の範囲には収まらない。本書も、そのような著者の斬新な発想や積極的な行動力、社会的なネットワークの幅広さを示すものとなっている。
 「ご飯論法」は2018年度新語・流行語大賞トップテンに選出され、一躍注目を集めた。この用語を用いたのは著者が最初というわけではなかったようだが、国会での不誠実な言い逃れの答弁を批判するために「#ご飯論法」というハッシュタグをつけて積極的に拡散したのは著者の功績である。
 「ご飯論法」とは、「朝ご飯は食べたか」という問いに、「ご飯」を故意に狭くとらえて「(パンは食べたけれど)ご飯(米)は食べていない」と答えるようなことを言う。追及をかわすために、嘘ではないが論点をずらしたりごまかそうとしたりする。「働き方改革」関連法案の議論において、加藤勝信厚生労働大臣の国会答弁での意図的な論点のすり替えや言い逃れを鋭く衝く的確で絶妙な言葉だったために多くの注目を集めた。
 もう一つの「国会PV」は国会での審議の動画を街頭で上映し、論点ずらしやはぐらかしのような不真面目で不誠実な答弁を「可視化」するものだ。新橋駅前SL広場での上映が初めてで、その後、有楽町・新宿・渋谷・恵比寿など都内各地の駅前などに、スクリーンとスピーカーを設置して国会審議の様子を映し出した。これが有志の協力を得て実現するに至った経緯については、本書の第4章「政治をめぐる呪いの言葉」の第4節「国会パブリックビューイング―可視化が持つ力」に詳しく紹介されている。
 このような、学者というより社会運動家としてよく知られるようになった著者が、常識だと思い込まされている言葉による「呪い」を解き、「あっ、そうか!」と納得して身を守り、反撃することのできる技を伝授するのが本書である。それは単に「言葉」の問題にとどまらず、その背後にある「ものの見方、考え方」や社会の構造にまで及んでいる。
 「私たちの思考と行動は、無意識のうちに『呪いの言葉』に縛られている。
そのことに気づき、意識的に『呪いの言葉』の呪縛の外に出よう。思考の枠組みを縛ろうとする、そのような呪縛の外に出よう。のびやかに呼吸ができる場所に、たどりつこう。
それが、本書で伝えたいことだ。」(14頁)

 構成と概要

 最初に、全体の目次を掲げておこう。

 第1章 呪いの言葉に縛られない
 第2章 労働をめぐる呪いの言葉
 第3章 ジェンダーをめぐる呪いの言葉
 第4章 政治をめぐる呪いの言葉
 第5章 灯火の言葉
 第6章 湧き水の言葉

 以上のうち、第1章は本書の内容や構成を略述しており、本来なら「序章」とされるような位置にある。ここでは「嫌なら辞めればいい」という言葉を例に、「呪いの言葉」の「ねらい」を明らかしたうえで、「呪いの言葉」そのものについて説明されている。それは「相手の思考の枠組みを縛り、相手を心理的な葛藤の中に押し込め、問題のある状況に閉じ込めておくために、悪意を持って発せられる言葉」や「相手を出口のないところに追い込んで発せられる……『答えのない問い』」のことである。
 「本書では、『呪いの言葉』とその呪縛の『解きかた』を、労働をめぐる呪いの言葉、ジェンダーをめぐる呪いの言葉、政治をめぐる呪いの言葉の三つに分けて」(26頁)記述されている。このそれぞれが、第2章から第4章に相当する。以下、もう少し詳しくその内容を見てみよう。
 第2章が扱う「労働をめぐる呪いの言葉」は、目的から見て二つに分けられる。「ひとつは声を上げることを抑圧するもの」であり、「もうひとつは、分断を目的としたもの」(30頁)である。その目的は「文句を言わずに、懸命に働け。団結して対抗するな」ということだという。その実例として示されるのが、「ダンダリン 労働基準監督官」というドラマであり、『サンドラの週末』という映画である。これらを通じて、呪いの言葉の「内面化」を拒み、正当な要求を発して職場環境を改善する必要性、当事者が自ら進んで取り組むことや正攻法で対抗することの大切さが示される。
 さらに、より巧妙に仕掛けられる「分断」の例として、「だらだら残業」という「呪いの言葉」を取り上げ、「働き方改革関連法」によって導入された「高度プロフェッショナル制度」の「嘘」を暴く。あたかも成果によって評価されるかのような印象操作によって自ら選び取るように仕向けられる危険性を指摘しつつ、著者は次のように述べて、この章を結んでいる。「呪ったり、誘ったり。それらの言葉に、うっかり釣られないようにしたい。」(78頁)
 第3章の「ジェンダーをめぐる呪いの言葉」は、家族と職場における役割をめぐって「女性と男性を縛っている呪い」や財務省のセクハラ問題とそれに対抗する動きを扱っている。コミック『しんきらり』を例に家事・育児の大半を女性が担っている状況の鬱屈が指摘され、『逃げるは恥だが役に立つ』(逃げ恥)を手掛かりに家事労働は無償かと問いかけられる。次いで、杉山春のルポから過剰な「生真面目さ」が虐待を生む「『母親』という『呪い』」(98頁)や「男性を縛る『呪い』」(106頁)が明らかにされ、「他人のケアに責任を持つことなど想定外の労働者」である「ケアレス・マン」(109頁)の問題性が示され、「溜め」と「支援を受ける権利」の重要性が指摘されている。
 「財務省のセクハラ問題」については、「はめられて訴えられているのではないか」「セクハラ罪っていう罪はない」などの「呪いの言葉」の数々が示される。と同時に、これに対する記者クラブ、労働組合、野党などの動きや集会などの「光が見える動き」(127頁)が紹介されている。その集会でのスピーチは、次のような言葉で締めくくられていた。この言葉は、セクハラについてだけのものではない。
 「あなたが自分の可能性に向き合うことを、それをあきらめなければ、あなたはきっと呪いに打ち勝つことができる」(134頁)。
 第4章の「政治をめぐる呪いの言葉」は、内容的にも分量的にも本書の中心をなしている。そもそも、著者は「一つひとつの論点」だけでなく「政権のありようそのものにも対峙しなければならない」と思うようになって、「『数』と同時に『言葉』が力を与えるのだと気づいた」(257頁)という。「政治」が中心になるのも当然だろう。
 ここでは反原発のデモや異議申し立ての記者会見、国会PVなど著者が参加した個人的な体験を中心に記述され、「呪いの言葉」よりも、その「解き方」に焦点が当てられている。デモは権利で「国民主権の象徴的な行動」(146頁)であること、それは「異議申し立てを可視化させる」(152頁)ことなどの指摘も重要だが、何といってもメデイアの注目を集めた裁量労働制のデータ偽装問題の顛末が本書の白眉だと言える。
 著者は安倍首相が国会答弁で言及した裁量労働制のデータがおかしいとWEB記事で指摘し、安倍首相はこの答弁を撤回するに至った。その後も、これが「政権の意図に合うように『捏造』されたものと考えられる」(165頁)との連載記事とそれに対する自民党厚生労働部会長である橋本岳衆院議員の妨害行為に対するやりとりが紹介されている。この部分を読んで、「良く『捏造』を見破ったものだなー」と感心した。また、「学問の自由」の侵害への異議申し立てを行った勇気にも、国会PVによって政府側の不誠実な態度を可視化する知恵と行動力にも学ばされた。
 以上の3つの章に続く第5章と第6章が扱うのは「呪いの言葉」とは対照的な二つの言葉である。第5章は「灯火の言葉」、第6章は「湧き水の言葉」となっている。
 「灯火の言葉」は「相手に力を与え、力を引き出し、主体的な言動を促す言葉」(194頁)である。それを「灯火の言葉」という「表現でイメージする」のは、「心のなかに静かに燃える火」であり「体をあたため、気力を起こさせ、しっかりと立とうとする自分を支える灯」(195頁)だからである。
 同様に、第6章も「呪いの言葉」とは対照的な「湧き水の言葉」を扱う。「灯火の言葉」とは異なって、これは他者から届くものではなく「自らの身体から湧き出てきて、みずからの生き方を肯定する言葉」(236頁)のことである。これらについても、豊富な実例を示して論述されているが、詳しくは本書をご覧いただきたい。

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10月25日(日) ポスト安倍時代における憲法闘争の課題(その3) [論攷]

〔以下の論攷は、2020年9月18日に開催された「「安倍政治」の継続許さない!―九条の会東京連絡会9・18大集会」での講演の記録です。『生きいき憲法』No.69、2020年10月14日付に掲載されました。3回に分けてアップさせていただきます。〕

3.「活憲」の政府樹立に向けて

 これからの課題は改憲を阻止する、9条を変えさせないというだけではありません。それをさらに発展させて、今の時代にふさわしい形で憲法の理念や原則を生かしていく、具体化していく。これが必要になってくると思います。
 菅内閣は改憲に向けての野望を安倍政権から引き継ぐと言っています。改憲発議を阻止し、憲法破壊の安保法などのさまざまな法制度を撤廃しなければならない。さらに、憲法理念を実現できる、その時代にふさわしい政府をつくっていく。どうしたらそれができるのかが次の課題です。

■ 実績を積み上げてきた市民と野党の共闘

 「活憲の政府」樹立に向けて、野党共闘が重要です。市民と野党の共闘で、2016年から過去4年間の実践と経験を積み上げ、成果をあげてきました。2回の参院選では、32の一人区全てで野党の統一候補を擁立し、7年前は11議席、1年前は10議席を獲得。首長選挙でも、新潟県知事選挙では野党共闘で2回戦い、1回目は勝ち、2回目は負けました。その後、高知県知事選なども戦い、岩手と埼玉では勝ちました。この4月の都知事選挙では、25の小選挙区全てで市民選対が樹立され、野党が共に手を携えて戦いました。私も「市民と野党の共闘で都政の転換を 呼びかけ人会議」の一人として、国民民主党やれいわ新選組など、各党要請に回りました。去年の12月から、これらの野党代表が集まって共闘に向けての話し合いが積み重ねられていました。
 このような実績をさらに発展させ、さらに大きな共闘の輪をつくっていくことが必要です。そして、そのための条件が、つい最近できました。

■ 立憲と国民の合流――新政府樹立への大きな一歩

 9月15日に立憲民主党、国民民主党が、ともに解党して、新たに立憲民主党が150人、国民民主党が15人という形で野党の側の再編がなされました。かつて民進党が「希望の党騒動」によって引っかき回され、野党がめちゃめちゃになって大変な状況が生まれました。分裂工作の先頭に立っていたのが前原さんで、連合の会長、神津里季生さんもこれに加わっていました。今回、神津さんは枝野さんとともに、新立憲民主党結成に大きな役割を果たしました。リベラル的で中道から左派的な、共産党とも連携する、野党共闘に積極的な新しい政党、野党第一党が実現した。かつての民主党や民進党は、右のほうにドアが開いていた。自民党とも連携する可能性があった。今度の新しい立憲民主党は右ではなく、左のほうにドアが開いている。この変化、質的な違いをしっかりと見ておく必要があります。

■ 歴史観の見直し、価値観の転換は時代の要請

 アメリカの黒人差別問題(BLM)を発端にして、差別と加害の歴史を見直すという流れが世界で生まれてきています。日本も過去の侵略戦争と植民地支配の歴史を見直さなければならない。家族観やジェンダー問題でも、しっかりとした新しい立場に立つ政権をつくらなければなりません。今回の新内閣の閣僚には女性が2人しかいないと言われて、菅さんは「華やかさより実務をとった」と答えた。女性閣僚は見栄えを良くする飾りとしか考えられていない。これでは話になりません。女性活躍の社会になるはずがない。1人10万円の給付にしても、世帯主に送られる。国勢調査も世帯ごとの調査です。こういう古い家族観に縛られているような政党、政治家による政治。ここを抜け出さなければならない。これが時代の要請だろうと思います。

■ 憲法の理念を守り育てて、後の世代に手渡すことこそ、今を生きる私たちの責務

 日本国憲法、とりわけ9条は「1周早いラストランナー」だと、私は言ってきました。一番後ろを走っているように見えて、実は1周先を走っていた。憲法の中での人権規定は当時としても極めて先進的で、今見ても遜色がない。個別具体的なことは各法に任せて、中心的な理念を定めている。だから条文は短く修正する必要がない。時代遅れにならないのです。これを守り育てて、次の時代に、後の世代にそのまま手渡すのが、今を生きる私たちの責務だろうと思います。
 自民党は今回、新しい時代に適合する新しい政党に生まれ変わる能力がないことを示しました。ならば、私たちが市民と野党の共闘で、新しい時代の新しい政治を実現する政府を樹立しようじゃありませんか。
 憲法12条には、「この憲法が保障する自由と人権は国民の不断の努力によって保持されなければならない」と書いてあります。検察庁法改定問題でも、コロナ対策でも、大きな世論、国民の声の力によって、与党を追い込んで政策を変えさせることができました。諦めずに声を上げ続ければ政治は変わる。声を上げ続けて、次の世代に顔向けできる世の中、そういう社会にしていきたいと思います。

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10月24日(土) ポスト安倍時代における憲法闘争の課題(その2) [論攷]

〔以下の論攷は、2020年9月18日に開催された「「安倍政治」の継続許さない!―九条の会東京連絡会9・18大集会」での講演の記録です。『生きいき憲法』No.69、2020年10月14日付に掲載されました。3回に分けてアップさせていただきます。〕

2. 憲法闘争の新段階

 日本国憲法は9条を含めた全体が非常に先進的でした。時代を先取りする内容で、生命力が長い。いよいよこの憲法を現実の政治に活かすことのできる時代がやってくる。コロナ禍の下で、現代社会の脆弱性や新自由主義の問題点、限界が明らかになりました。これを克服してこれからのあるべき社会の方向性を示しているのが、この日本国憲法と言っていいのではないかと思います。

■ 安倍首相が抱えてきたジレンマと挫折の背景

 安倍さんは憲法を変えることを一つの大きな目標として、画策してきた。しかし、結局挫折しました。なぜかというと、安倍改憲路線には大きなジレンマがあったからです。変えようと無理強いしたり、急いでやろうとしたりすれば批判と反発が強まって時間がかかってしまう。丁寧にやろうとすると、やはりこれも時間がかかる。急ぐことも時間をかけることもできない。安倍さん自身に強い思い入れがあるだけでなく、支持者からも大きな期待があった。ですから、改憲の可能性が薄れてきた状況でも、憲法を変えると言い続けなければならなかった。これがかえって国民の反発、批判、警戒感を高めて、改憲を困難にした。
 しかも、集団的自衛権行使一部容認の閣議決定から、安保法が制定され、9条改憲の必要性が薄れてしまった。最近もアメリカがこの法律を評価する公電を送っていたことが明らかになりました。アメリカにとって、もうこれでいいと思われるような、一緒に戦争がやれるような、そういう法的枠組みができた。これが9条改憲に向けての勢いを弱めることになった一つの大きな背景だと言えます。
 もちろん、9条を巡る世論が転換したということもあります。安倍さんが強引にやろうとすると、世論が警戒感を高め、反発を強める。そういう中で、皆さんが大きく取り組んだ3000万人署名が、一人ひとりの国民の意識を変え、世論を転換するうえで、非常に大きな力を発揮しました。憲法を変えるのではなく、壊すのではないか、それが安倍改憲の本質ではないかということを、国民はしだいに気がついてきたということではないかと思います。

■ 憲法改正の三つの限界

 憲法は不磨の大典ではありませんから、変えることは禁じられていない。96条には明文を書き換えるための手続きが定められている。だから、変えてもいい。しかし、三つの限界がある。
 一つは、憲法三原則といわれている「国民主権」、「基本的人権の尊重」、「恒久平和主義」、この三つの原理は転換してはならない。これを変えると改正ではなく、新しい憲法の制定になってしまう。「議会制民主主義」や「地方自治」の原則に反するような書き換えも、壊す改憲です。「改憲の限界」と言っています。このような変更は許されません。
 二つ目は、首相が先頭に立って改憲の旗を振る。これも憲法によって禁じられていると理解するべきです。憲法99条には、「天皇または摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負う」と書いてある。国務大臣のトップ、国会議員の先頭に立つような人が憲法を尊重し擁護をしないで、一体誰がするのか。改憲の旗を振りたいなら、安倍さん、首相を辞めなさいと、私はかねがね言ってきました。
 三つ目は、憲法は国の基本法であり、あらゆる法律の基になるものです。従って、世論を分断するような形での成立はあってはならない。みんなが合意し、納得し、そして、与党を支持する人も野党を支持する人も、みんなの共同作業として憲法を書き換えるという形で改定がなされなければなりません。国民投票で一方が他方を僅差で上回るというような形では、基本法の改正としての正当性に大きな問題が残るということです。

■ 安全・平和はハードではなく、ソフトパワーで

 最近、9条を巡る状況が大きく変化してきました。もはや国の安全・平和が軍事力によって守られるような時代ではなくなってきたということです。ハードパワーではなくソフトパワーで、軍隊、基地、兵器によってではなく、話し合いと外交交渉によってしか、平和と安全は守られません。それでしか守ることのできない時代に入ってきたということをはっきりと認識しなければならない。ミサイル防衛などと言っていますが、ミサイルでミサイルを撃ち落とすなど、もう夢物語です。音速を超えるミサイルが開発されている今、撃ち落とすなんてことは技術的に不可能です。
 イージス・アショアが頓挫したことによって、敵基地攻撃論が浮上してきました。先制攻撃は国際法に違反し専守防衛の国是にも反します。膨大なお金がかかり、しかも技術的には不可能なことをやろうとしている。腰を据えて、軍事ではなく外交で、ソフトパワーこそが平和と安全を守る、そういう路線に本格的に転換しなければ、東アジアで日本は生きていくことができません。

■ 危機は国内にこそ――防衛省は防災省へ

 しかも、毎年、大洪水に見舞われ、地震、火山の噴火、台風と、いろんな災害が起き、犠牲者が出ている。これこそ日本という国が直面している「今そこにある危機」です、これこそが「自衛」しなければならない日本社会の脅威ではないか。
 今度の総裁選で立候補した石破さんは防災省をつくるべきだと言いましたが、新しくつくる必要はない。防衛省の「衛」の字を「災」に書き換えればいい。今の自衛隊の主たる任務は外敵の侵略に対する自衛で、副次的任務が災害対応です。主と副を入れ替えればいいんです。自衛隊の任務と訓練、役割、内容を変えれば、十分対応することができるし、実態はすでに防災への自衛部隊になっている。その実態をそのまま生かすような再編・改造を行うべきだと思います。


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10月23日(金) ポスト安倍時代における憲法闘争の課題(その1) [論攷]

〔以下の論攷は、2020年9月18日に開催された「「安倍政治」の継続許さない!―九条の会東京連絡会9・18大集会」での講演の記録です。『生きいき憲法』No.69、2020年10月14日付に掲載されました。3回に分けてアップさせていただきます。〕

1. 安倍政権の行き詰まりと「安倍なき安倍政権」

■ 持病再発を理由とした安倍辞任とその背景

 辞任の理由は持病の悪化でしたが、その背景には安倍政治の行き詰まりがありました。今日、安倍さんと関りのあるジャパンライフの山口元会長など14人が逮捕されました。政権に居座り続けていたら、このようなボロが出てくる。「桜を見る会」やモリカケ疑惑、河井夫妻の巨額買収事件。1億5000万円の一部が安倍陣営に還流したのではないかとも言われており、裁判の中で新しい事実が出てくる可能性もある。コロナ対策の迷走、支持率低下の中で、「あとは菅さん頼むよ」ということで、政権を投げ出したのが実情ではないかと思います。

■ 菅政権――派閥談合の「安倍なき安倍政権」

 後を継いだのが菅義偉さんです。国家観が明らかではない。ビジョンがない。出てくるのは、携帯電話の値下げをします。デジタル化を進めますという各論ばかりです。総理大臣には総論やビジョンを示してもらわなければならない。こういう人が首相になって、日本をどこに導いていくのか。はっきりしているのは安倍さんの路線を引き継ぐ、転換しないということ。それを約束して5つの派閥に担がれた。
 自民党はこれまで長期政権をどのように維持してきたかというと、ある種の「疑似政権交代」があったからです。目先を変える、右から左へ、左から右へ。金権政治の田中からクリーン三木へという形で、振り子を振らせることによって目先を変え、政権が変わったかのような印象を与えて支持を回復する。これで政権を維持する。こういう手法を使ってきた。今回は、完全に古い自民党、それも「談合政治」という形で「振り子」が振れずに菅政権へ受け継がれることになった。
 菅さん自身は無派閥だが、7つある主要な派閥の5つによって支持され、自己改革のチャンスを逸した。自浄能力のなさが露呈した。ここまで自民党は腐ってしまったのかと愕然とする。「安倍なき安倍政治」がこれから継続する。今まで安倍さんを支えてきた菅官房長官が首相に、そして二階幹事長、麻生副総理兼財務大臣もそのまま居座る。3本柱がそのままです。
 今回のシナリオを書いたのは二階さんだといわれています。菅さんはGOTOトラベルの前倒しを主張しましたが、あのときが始まりです。二階さんは全国旅行業協会の会長で、運輸・旅行関係のドン。この二階さんとの密約があったのでは、ということです。81歳の人が後ろで糸を引いて、71歳の人が暗躍する。これが今のこの国の政治の実態だ。構造の変化も新鮮さのかけらもない、行き詰まって辞めた安倍さんの後を継いだ人が、その行き詰まった路線を引き継ぐことになる。

■ 新内閣の顔ぶれと解散総選挙

 こういう中で、解散の時期についての憶測が飛んでいます。ひとつはコロナの感染状況がどうなっていくのか。もう一つは経済が復活するか、停滞したままか。そういう中で世論と支持率がどう変化するか。野党の選挙準備の態勢も影響します。
 ただ、新しい内閣を見ますと、すぐに解散するような顔ぶれではない。新入閣は5人しかいない。そのうちの一人が平沢勝栄さんで75歳。安倍さんの家庭教師だった。岸信夫防衛大臣は安倍さんの実弟。どちらも安倍さんが菅さんに頼んだのではないかと。もう一人、情実人事といわれているのが加藤勝信官房長官。安倍内閣の下で官房副長官でしたから、菅さんが使いやすいといわれていますが、母親の麻雀仲間だった安倍洋子さんに頼まれたのではないかと。
 もう一人、話題になっている人が平井デジタル担当相。国会の委員会審議の最中にワニの動画を見ていたとか、福島社民党党首の動画に「黙れ、くそばばあ」などと書き込んで問題になった人です。こんな過去のある人が今回入閣しています。

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10月20日(火) 安倍政権とは何だったのか―7年8ヵ月の総括(その2) [論攷]

〔以下の論攷は、『学習の友』2020年11月号に掲載されたものです。2回に分けてアップさせていただきます。〕

2、何が長期政権をもたらしたのか

 国政選挙6連勝と内閣支持率の安定

 このような問題だらけの安倍政権が歴代最長になれた最大の要因は、国政選挙での6連勝でした。これらの選挙で一度でも負けていれば、これほどの長期政権にはならなかったでしょう。「すべては国政選挙のたびに力強い信任を与えてくださった、背中を押していただいた国民の皆様のおかげであります」と、安倍首相が辞意表明の記者会見で述べたとおりです。
 過去6回の国政選挙結果は図3(省略)のとおりです。自民党は2012年12月の衆院選で多数を回復して政権を奪還し、以後、5回の衆参両院での選挙に勝ちつづけました。2013年7月の参院選で勝利して「ネジレ国会」を解消し、2014年11月には「消費増税延期」をかかげて総選挙で大勝しています。2016年7月の参院選でも与党が勝利し、衆参両院で「改憲勢力」が3分の2を超えました。2017年10月の衆院選では、北朝鮮のミサイル発射と少子化という「国難突破」を掲げて解散し、小池東京都知事が結成した「希望の党」への参加をめぐって民進党が分裂するという混乱もあり、与党が3分の2を維持しています。
 このような選挙での勝利を支えたのが、安倍内閣に対する支持率の安定でした。『毎日新聞』の調査による第2次安倍内閣に対する支持率と不支持率は、グラフ(省略)のように推移しています。発足直後に70%という高さを記録して以来、下降しても回復し、平均して40%台を維持しています。
 内閣支持率が急減したのは4回あります。1回目は2015年から16年にかけて安保法制に対する反対運動が大きく盛り上がったときで、はじめて支持と不支持が逆転しました。2回目は2017年春から夏にかけてで、森友・加計学園問題や「共謀罪」の新設を含む改正組織犯罪処罰法への反対運動などを受けて支持率26%と最低になっています。2018年春が3回目の急落で、これは森友学園をめぐって財務省が決裁文書の改ざんを行っていたことが明らかになったためです。そして、4回目の急落が今回で、新型コロナウイルスへの対策の迷走が批判を浴び、辞任に結びつきました。

 民主党政権への失望と野党の対応

 民主党政権の経験やその後の民進党など野党の対応も、客観的には長期政権化を助けました。2009年に発足した民主・国民新・社民3党の連立政権は政権運営の未熟さや準備不足、経験の乏しさなどから国民の期待を裏切ったからです。その最大の問題が、民主党と自民党、公明党との間で交わした消費税増税についての「3党合意」でした。
 このような民主党への失望から自民党は政権に復帰し、安倍首相は「悪夢のような」と罵倒してその悪印象を振りまきました、支持率調査で、常に「他の政権よりよさそう」という回答が最も多かったように、相対的に「まし」だと国民に思い込ませたのです。
 国政選挙での野党の対応も、安倍首相を助けるものでした。もともと小選挙区制という選挙制度は多数党に有利ですが、野党がバラバラで立候補して競い合ったために自民党はますます有利になりました。制度の欠陥を克服するために野党は候補を一本化することが必要ですが、それが可能になったのは2016年7月参院選の1人区からです。
 2017年総選挙は小選挙区で野党候補を一本化して与党を追い詰める絶好のチャンスでした。自民党は2月に森友学園疑惑、5月に加計学園問題が表面化して支持率が急落し、7月の東京都議選では小池百合子都知事が率いる「都民ファーストの会」が躍進して都議会自民党は惨敗します。この時、安倍首相は最大の危機に直面しました。
 しかし、民主党から変わった民進党は、小池都知事の立ち上げた「希望の党」への合流を契機に分裂します。排除された枝野幸男代表を中心に立憲民主党が結成され、共産党の協力もあって一定の地歩を確保しますが、与党の大勝を許すことになりました。こうして、安倍首相は政権復帰以来、最大の危機を乗り越えることに成功したのです。

 人気とり、官邸支配とマスコミ統制

 安倍首相は極右勢力を強固な支持基盤とする「靖国派」として知られています。それは改憲への拘泥やアメリカ言いなりの安保政策に現れていますが、同時に世論受けする人気目当ての施策と強権的な手法を併用していた点を無視してはなりません。
 7年8ヵ月にわたる政権の前半から後半にかけて、イデオロギー優先の理念政治から人気取りのための利益政治へと重点が移動したように見えます。アベノミクスは反「緊縮政策」的色彩が強く、障害者差別解消法、ヘイトスピーチ対策法、部落差別解消推進法、アイヌ文化振興法などのマイノリティー支援のための法律を制定し、高等教育や幼児教育の一部無償化なども実行しました。「地方創生」「女性活躍」「働き方改革」などは看板倒れに終わりましたが、地方や女性、労働者に目配りしているという「やってる感」をアピールし、各層に配慮する姿勢を印象付ける効果がありました。
 同時に、このような政策的柔軟さは官邸支配と言われる強権的な排除や統制によって支えられています。敵と味方を区別して反対する人びとを敵視し、国会での審議を避け、平気でうそをいい、政と官の関係を歪めて「忖度」を招き、気に入らない記者を無視し、コメンテイターを交代させました。
 その結果、国会は行政監視の機能を弱め、公務員は公平・公正さを失い、メディアは自主規制して自由で中立的な報道姿勢を忘れてしまいました。このような「負の遺産」が、「安倍政治の継承」をかかげる菅新首相によって引き継がれ、さらに強化されることが危惧されています。
 それを許さないためにも、市民と野党の共闘によって安倍なき安倍亜流政権を打倒する必要があります。1年以内には必ず実施される解散・総選挙にむけて、準備を急がなければなりません。

 むすび

 来るべき総選挙は政権交代をかけた「天下分け目の合戦」となります。これははじめての野党共闘総選挙で、この共闘にはじめから共産党がふくまれているという点がこれまでにない新しさです。菅新政権の樹立とともに発足した新・立憲民主党は市民との共闘や共産党との連携を志向する野党第1党だという点で、以前の民主党や民進党とは異なっています。
 このようななかで、「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」は、立憲民主党、日本共産党、社民党、国民民主党、れいわ新選組などに対して要望書を提出しました。これは4本柱15項目で、2019年の参院選前に市民連合と5野党・会派が合意した13項目の「共通政策」をさらに発展させたものです。
 コロナ危機を反映して「いのちと人間の尊厳を守る『選択肢』の提示を」との副題が付けられ、「その実現のために尽力するよう要望」しています。「利益追求・効率至上主義(新自由主義)の経済からの転換」「消費税負担の軽減」「原発のない社会と自然エネルギーによるグリーンリカバリー」「持続可能な農林水産業の支援」などもかかげられています。これにより「合戦の旗印」も明確になりました。
 次の総選挙を本格的な政権選択の選挙とし、安倍なき「安倍政治」に決着をつけなければなりません。市民連合の「要望書」にもあるように、それは「自民党政権の失政を追及する機会であると同時に、いのちと暮らしを軸に据えた新しい社会像についての国民的な合意、いわば新たな社会契約を結ぶ機会となる」のですから。そのチャンスは間もなくやってきます。


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10月19日(月)  安倍政権とは何だったのか―7年8ヵ月の総括(その1) [論攷]

〔以下の論攷は、『学習の友』2020年11月号に掲載されたものです。2回に分けてアップさせていただきます。〕

 「国民のみなさまの付託に自信をもってこたえられる状況でなくなった以上、総理大臣の地位にありつづけるべきでないと、判断しました。総理大臣の職を辞することといたします。」
 8月28日の記者会見で安倍首相はこのようにのべ、総理大臣を辞任する意向を明らかにしました。第1次安倍内閣の幕切れと同様の突然の辞意表明です。いずれも直接の原因は持病の悪化とされていますが、背景には政権の行き詰まりがありました。
 安倍首相の辞任後、後継として「安倍政治の継承」を公言する菅義偉官房長官が新首相に選出されています。安倍首相の連続在職日数は2822日で歴代最長となり、第1次政権を含む通算でも最長の3188日になりました。過去のどの首相よりも長い在職記録を打ち立てたわけです。しかし、その実態はこのような記録に値するものだったのでしょうか。

1、最長にして最悪・最低の政権

 アベノミクスの虚妄

 第2次安倍政権は経済政策である「アベノミクス」と「三本の矢」をかかげ、円安の解消、株価の回復や雇用関係の改善を追い風として「一強」体制を築きました。経済は外交と共に安倍首相の得意分野とされています。しかし、実際にはどうだったのでしょうか。
 たしかに、1万円前後だった株価は2倍以上の2万3000円前後に上がり、大企業の内部留保は45%も増えました。名目賃金も上昇し、雇用も改善されました。
 しかし、その内実は実体経済を反映しない金融バブルにすぎず、大企業と富裕層をもうけさせ、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の積立金運用による人為的な株高は将来的な暴落が懸念されています。アベノミクスがめざしたデフレ克服の2%の物価目標は達成されませんでした。
 少子高齢化は止まらず、労働人口は減り、実質賃金と可処分所得は低下し続けています。雇用は改善されましたが、それは非正規雇用が増大したからです。2001年4月には5%から8%へ、2019年10月にはさらに10%へと消費税を引き上げ、増税額は計13兆円となって国民の暮らしと経済を破壊し、貧困と格差を拡大しました。
 また、高齢化に伴う社会保障費を削り、生活保護費も連続的に引き下げてきました。年金、医療、介護なども削られ、コロナ禍のもとで医療体制の脆弱性と高齢者福祉の劣悪さが露わになっています。また、労働政策でも高度プロフェッショナル制度という美名のもと、過労死を促進する残業代ゼロ制度を含む「働き方改革一括法」を成立させました。

 外交・安保政策の漂流

 「日本外交の基軸」とされている日米関係では「血の同盟」を強化し、譲るばかりの「言いなり外交」に終始しました。特定秘密保護法や集団的自衛権の一部容認を定めた安保法=戦争法の制定、武器輸出三原則の撤廃にF35戦闘機など米国製兵器の爆買いを強行し、アメリカとともに海外で戦争する国づくりをすすめてきました。
 なかでも際立つのが、沖縄県民の民意を無視した名護市辺野古での米軍新基地建設です。県知事選挙や県民投票などで何度も示された「ノー」の声を無視し、2015年10月以降、歴代政権ではじめて土砂投入を強行したのが安倍政権でした。
 ロシアのプーチン大統領と個人的な関係を強めたにもかかわらず、領土問題を解決できなかっただけでなく「4島返還論」から事実上の「2島返還論」に後退し、北方領土の実効支配を強める経済協力を約束させられる始末です。
 中国にたいしては、覇権主義的な行動や国内での報道の自由の制限、香港やウイグルでの人権弾圧などの問題に毅然とした批判ができず、新型コロナウイルス対策でも中国からの入国制限が遅れました。高まる米中対立でも独自の役割をはたせずにいます。
 徴用工問題と貿易制限をめぐって韓国とは戦後最悪の状態となり、打開の見通しが立っていません。北朝鮮とも核開発とミサイル防衛を「国難」宣伝の口実に利用するばかりで、「政権の最重要課題」としてきた日本人拉致問題について新たな進展はありませんでした。

 立憲主義の破壊と政治の腐敗

 過去のどの首相よりも安倍首相が強く推し進めたのが、立憲主義と民主主義の破壊であり、国政の私物化と官邸支配による官僚とマスコミに対する統制でした。これによって議会制民主主義の土台が掘り崩され、国会は空洞化し、「ヒラメ官僚」と「忖度政治」がはびこり、ジャーナリズムが委縮して報道の自由が脅かされています。
 安倍首相は2014年7月の「閣議決定」で集団的自衛権の行使一部容認に道をひらきました。内閣法制局長官を交代させて180度転換する「解釈改憲」でした。これに基づいて15年9月に制定されたのが、安保法制=戦争法です。これは法の制定によって憲法を空洞化する「立法改憲」です。
 さらに、2017年5月3日には「2020年を新憲法施行の年にしたい」と表明し、9条に自衛隊を明記して海外での武力行使を可能とするねらいを明らかにしました。これは憲法の条文を書き換える「明文改憲」にほかなりません。広範な国民の運動でこの目論見は挫折しましたが、後継の菅新政権もこの路線を継承しようとしています。
 安倍政権のもとで進行した国政の私物化と政治腐敗もかつてないものでした。「森友・加計学園」疑惑、「桜を見る会」問題、ジャパンライフとの関係の疑惑はその代表的なものです。どれについても、安倍首相夫妻やその友人の関与が疑われ。国会での偽証、公文書の隠ぺいと捏造・書き換えなどが相次ぎ、それを悔やんで自死した財務省の職員さえでています。
 公職選挙法違反容疑で逮捕された河井克行前法相夫妻の買収事件と1憶5000万円資金疑惑、統合型リゾート(IR)誘致をめぐる秋元司議員の逮捕、選挙民買収疑惑の菅原一秀議員などのスキャンダルも相次ぎ、辞任した閣僚は10人を数えます。しかし、安倍首相は「責任はある」というだけで最後まで任命責任をとりませんでした。

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10月6日(火) 菅新政権をどう見るか―安倍なき「安倍政治」を受け継ぐ亜流政権(その2) [論攷]

〔以下の論攷は、東京土建一般労働組合の機関紙『かんせつ』第2331号、2020年10月2日付に掲載されたものです。2回に分けてアップさせていただきます。〕

 「負の遺産」を受け継ぐ
 改憲への憲法審査会に意欲

 菅新政権は「安倍政治」が残した「負の遺産」まで継承しようとしています。長期政権の驕りや強権政治、政治の私物化として大きな批判を浴びた「森友・加計」「桜を見る会」や河井夫妻の大量買収事件など、「安倍政治」の闇を支えてきたのが菅官房長官だったからです。
 総裁選に際しても、森友問題などへの再調査を拒否し、官僚の忖度を強めた内閣人事局を見直さないばかりか、政権の決めた政策の方向性に反対する幹部は「移動してもらう」と明言しました。改憲と立憲主義の破壊についても、安倍首相の改憲路線を受け継いで憲法審査会を動かすことに意欲を示しています。
 また、総裁選で首相の国会出席について問われた菅さんは「大事なところで限定して行われるべき」だと主張しています。官房長官時代、憲法53条に基づく臨時国会召集要求を拒んだ安倍首相を支え、記者の質問にまともに答えようとしなかった菅さんらしい対応だと言えるでしょう。
 森友や河井夫妻の事件については裁判が進行中で、今後、新たな事実が出てくる可能性があります。再調査を実施し、記録の保存と公文書管理の適正化を図り、政策形成過程の事後検証が可能なようにしなければなりません。国民の知る権利と報道の自由を阻害してきた官邸支配とマスコミ統制をやめ、内閣人事局の運用改善と恣意的人事の防止にも、ぜひ取り組んでもらいたいものです。

 総選挙で決着つけ政治をグレートリセット

 今回の自民党総裁選に立候補した石破元幹事長は、「納得と共感」をスローガンに「グレートリセット」を主張していました。しかし、総裁選で示されたのは、このような主張を受け入れる余地が今の自民党にはないということです。もはや自民党は、歴史的役割を終えたことになります。
 大きくリセットしたのは野党の方です。大きな塊として新たに立憲民主党が発足し、市民と野党の共闘における新たな可能性が生まれました。「安倍政治」の継承を許さないために、総選挙で決着をつけ、日本政治の「グレートリセット」を実現することが求められています。

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10月5日(月) 菅新政権をどう見るか―安倍なき「安倍政治」を受け継ぐ亜流政権(その1) [論攷]

〔以下の論攷は、東京土建一般労働組合の機関紙『けんせつ』第2331号、2020年10月2日付に掲載されたものです。2回に分けてアップさせていただきます。〕

 密室談合で幕開け前に終了
 変えないことを約束

 菅義偉新政権が発足しました。この政権の発足によって、何が変わるのでしょうか。基本的には何も変わりません。変えないことを約束しての政権樹立だったのですから。
 菅さんを担ぎ出したのは二階幹事長でした。それは、石破茂元幹事長の総裁選出を阻止するためです。地方票の比重が低くなる投票方法を採用したのも同じ狙いからでした。
 その後の経過は、二階さんのシナリオ通りの展開となりました。「勝ち馬」と見られた菅候補に主要5派閥の支持が集まり、アッという間に菅優位という構図が出来上がりました。密室での談合によって、幕が上がる前にドラマは終わっていたのです。 

 前政権3本柱が残留
 新入閣わずか5人に止まる

 「思い切った人事を宣言しながら、留任や横滑りが多く代わり映えしない顔ぶれだ。これで国民の支持が高まるのか」。自民党の中で、このような「先行きを、不安視する声」が上がっているそうです(『朝日新聞』9月16日付朝刊)。それもそうでしょう。安倍亜流政権の亜流人事にすぎないのですから。
 第1に、政権の骨格に変化はありませんでした。安倍政権を支えてきた「3本柱」がそのまま残ったからです。菅さんは首相になり、二階俊博幹事長と麻生太郎副総理兼財務相は留任しました。自民党役員では森山裕国対委員長、主要閣僚では、茂木敏充外相、萩生田光一文科相、梶山弘志経産相、赤羽一嘉国交相、西村康稔経済再生相、橋本聖子五輪相の5人が留任し、加藤勝信官房長官、河野太郎行革担当相、武田良太総務相はポストを変えての再任です。
 第2に、党の役員や閣僚として安倍政権を支えた議員の再入閣も目立ち、新入閣はたったの5人でした。上川陽子法相、田村憲久厚労相、小此木八郎国家公安委員長、平井卓也デジタル担当相の4人は安倍政権で閣僚になった経験があります。
 第3に、菅新首相自身は無派閥出身ですが、5つの主要派閥に支持されたことを反映して、各派閥への目配りもなされています。派閥均衡がはっきりと示されているのは自民党4役の人事で、二階幹事長(二階派)と森山国対委員長(石原派)をはじめ、佐藤勉総務会長(麻生派)、下村博文政調会長(細田派)、山口泰明選挙対策委員長(竹下派)が選任されました。閣僚ポストも各派閥にほぼ均等に配分されています。

 従米外交、コロナ対策、消費税
 難題は山積するまま

 新政権の前途には難題が山積しています。本来であれば、政権交代を機に新たな方針を打ち出して新政権への期待を高めることもできたはずです。しかし、今回は「振り子の論理」も働かず、独自の国家観やビジョンが不明な菅さんが後を引き継ぐことになりました。政策転換のチャンスを自ら放棄したことになります。
 安倍首相が得意とし、一般的には評価の高い外交ですが、実態は散々なものです。日米関係を重視するからといって、一方的に従う必要はありません。譲るばかりの従米外交から対等平等な関係に変え、外交・安全保障政策を刷新することが求められています。
 具体的には、日米地位協定の改定、沖縄・辺野古での土砂投入の中止、武器爆買いの見直しなどに着手すべきです。憲法違反の敵基地攻撃論ではなく専守防衛の厳守、北東アジアでの軍縮・緊張緩和の提案、韓国はじめ周辺諸国との関係改善を進めなければなりません。もちろん、全く前進しなかった拉致問題と領土問題の打開、核兵器禁止条約の批准などの課題にも取り組む必要があります。
 内政面では、コロナ対策の強化、医療・保健・介護などのケア優先の社会への転換を図らなければなりません。コロナ禍によって新自由主義的な自己責任論や効率優先の社会のあり方の脆弱性と問題点が明らかになりました。非正規労働者や女性、外国人労働者など社会基盤の維持に不可欠な労働者(エッセンシャルワーカー)への差別をやめ、処遇を抜本的に改善することが必要です。
 また、消費増税とコロナ禍で大打撃を受けた経済を立て直さなければなりません。大企業と株主優遇から中小企業・地方重視の経済政策への転換、賃上げや最低賃金の引き上げなどによる可処分所得の増大、コロナ倒産の防止と雇用の確保、非正規・女性・若年労働者の処遇改善、真の女性活躍とジェンダー平等政策の具体化、原発の再稼働中止などに取り組んでもらいたいものです。

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