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9月5日(土) 選挙を歪める小選挙区制はただちに廃止するべきだ [選挙]

 1996年に小選挙区比例代表並立制という新しい選挙制度による選挙が実施されました。今回の総選挙は、それから5回目に当たります。
 その結果は、どうだったでしょうか。どのような問題を明らかにしたでしょうか。

 まず、小選挙区比例代表並立制という選挙制度に対する私の立場を明らかにしておきます。私は、政治改革の名目で選挙制度改革がめざされ、当時の中選挙区制から小選挙区比例代表並立制に変えられようとした最初から、この制度に反対してきました。
 当時、明確な反対を表明したマスコミ人としては朝日新聞の編集委員であった石川真澄さんが良く知られていますが、この私も石川さんの後に従って反対の論陣を張りました。もし、石川さんが存命であったなら、今回の総選挙の結果を感慨深くご覧になったにちがいありません。

 この問題が政治課題として浮上した1993年に、私は『一目でわかる小選挙区比例代表並立制』という本を労働旬報社から出しています。また、この制度が導入された最初の総選挙が実施された1996年総選挙を検証し、同じく労働旬報社から『検証 政治改革神話』という本を翌1997年に出しました。
 いずれも、小選挙区制のカラクリを明らかにし、この選挙制度を批判したものです。詳しくは、この二冊の拙著をご覧いただければ幸いです。

 これらの著書で、私は小選挙区制の問題点を何点にもわたって指摘しました。そのいくつかについて、今回の選挙の結果に基づいて検証してみることにします。
 私は、前掲の拙著『一目でわかる小選挙区比例代表並立制』の第1章で「小選挙区制とは何か」を明らかにし、その第3節を「小選挙区制の問題点を洗う」と題しました。ここで私が列挙した「問題点」は、①有権者の選択と議席に大きなズレが出る、②民意の逆転が起きる、③議席にむすびつかない票=「死票」がゴマンと出る、④小さな政党は排除される、⑤政党阻止条項とは、⑥政党と議員の固定化が進む、⑦投票率が低下する、という点です。
 このうち、①③④について、今回の結果を見てみましょう。

 第1に、有権者の選択と議席に大きなズレが出るという点ですが、これは今回の結果でも明らかです。このことは、小選挙区における政党の得票率と議席占有率の乖離として示されています。
 今回の選挙では、小選挙区300議席のうち、民主党は221議席を獲得し、自民党は64議席にとどまりました。議席占有率では、民主党が73.7%、自民党は21.3%になっています。
 ところが、得票率では、民主党47.4%、自民党38.7%でした。民主党は47%しか得票していないのに議席では74%を占め、逆に、自民党は39%も得票したのに議席では21%にしかなりません。得票率での1.2倍の差が、議席率では3.5倍に増幅されてしまったのです。

 第2に、議席に結びつかない票=「死票」がゴマンと出るという点です。候補者が落選して有権者の投票が議席獲得に結び付かなかったものを「死票」といいますが、今回の選挙ではどうだったでしょうか。
 今回の「死票」は、全部で3270万票も出ています。「ゴマン(5万)」どころではありません。
 全得票数に占める「死票率」は46.3%(前回)でしたから、半分近くの投票が無駄になったことになります。それでも、民主党候補の大量当選によって投票が無駄にならず、前回の48.6%よりは多少低下したそうですが、初めから当選できないことを知りながら投票しなければならないような制度は、選挙を冒涜するものだと言うべきでしょう。

 第3に、小さな政党は排除されるという点です。今回の選挙における小選挙区での公明党の全滅ほど、この問題点を明瞭に示すものはありません。
 公明党は前回、小選挙区での「死票」は6.9%しかなく、大変、効率的に議席を獲得しました。しかし、今回は全ての小選挙区で落選し、100%が「死票」になってしまいました。
 全国152選挙区で候補者を擁立した共産党も、全ての選挙区で落選しています。社民党は3議席、みんなの党は2議席、国民新党は3議席、新党日本は1議席を獲得していますが、民主・自民両党が候補者を立てなかったり、選挙協力をしたりしたものがほとんどで、独力での当選は極めて困難になっています。

 なお、②で指摘されている「民意の逆転が起きる」というようなことは、今回はなかったようです。しかし、小選挙区制には、この点で本質的な欠陥があるということについては、もう一度強調しておく必要があるでしょう。
 この点でついて、詳しくは、前掲の拙著『一目でわかる小選挙区比例代表並立制』をご覧いただければ幸いです。いずれにしましても、このような欠陥や問題点を持つ小選挙区制は、可及的速やかに廃止されなければなりません。

 最後に、ここでもう一つ付け加えておきたいことがあります。それは、小選挙区制による大きな歪みは二重に生じているということです。
 投票の結果として生ずる歪みについては、得票率と議席率の乖離という問題点として指摘しましたが、このほかに投票する時点での歪みについても指摘しておく必要があります。これについては、ほとんど誰も問題にしていませんが、小選挙区制が持つ根本的な欠陥であり、決して無視されてはならないものです。
 それは、小選挙区に候補者を擁立していない政党の支持者が、当選可能な次善の候補者を当選させるために行った投票行動です。自公政権を倒すために選択されたやむを得ざる投票行動だったとはいえ、自分が本当は支持してもいない、あるいは懸念を抱いている政党の候補者への投票を強いられたことになります。

 このような投票行動を選択せざるを得ないような制度は、初めから自由な投票行動を阻害していると言うべきでしょう。小選挙区制は、当選できる政党の候補者を第一党と第二党に集約させることで選挙での選択肢をむりやり狭め、このどちらかに投票することを強いることによって投票の自由を歪めるという最悪の制度なのです。
 その結果、政党支持の自由を侵害し、本来的な支持に基づかない、次善のやむを得ない選択による当選者の出現をもたらすことになります。今回当選した民主党議員の中には、このような形で当選できた人も沢山含まれていることでしょう。
 投票に際しての歪みと、投票された結果における歪みとの、二重の歪みの結果としての民主党の大勝利であったということを忘れてはなりません。このような選挙制度を続けていけば、政党政治もまた大きく歪むことにならざるを得ないのではないでしょうか。

 このほかにも、小選挙区制は多くの問題を抱えています。このような欠陥制度を支持するような人を、私は民主主義者とは認めません。
 民主主義の基軸をなす選挙を歪める小選挙区制は、ただちに廃止されるべきです。民主党は、比例代表区の定員削減ではなく、小選挙区制を廃止して比例代表的な選挙制度の導入を検討するべきでしょう。