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11月3日(日) 参議院選挙後の情勢と課題(その3) [論攷]

〔以下の論攷は、東京土建が発行する『建設労働のひろば』No.112、2019年10月号、に掲載されたものです。3回に分けて、アップさせていただきます。〕

3、改憲をめぐる情勢と今後の課題

 とりあえずのブレーキがかかった

 参院選の結果、自民・公明・維新などの改憲勢力は3分の2の議席を割りました。新たに当選したN国党を加えても、参院での改憲発議は不可能です。毎日新聞の調査では、当選者の41%が9条改憲に反対しています。安倍9条改憲の野望に、とりあえずブレーキがかかりました。
 これは9条改憲の阻止をめざしてきた人びとにとって3度目の勝利です。
 1度目の勝利は草の根での改憲世論を変え、9条改憲に反対する世論を多数派にしてきたことです。3000万人署名などで国民1人1人に働きかけてきた努力のたまものでした。
 2度目の勝利は、昨年の通常国会や臨時国会での改憲発議を阻止してきたことです。通常国会では森友・加計学園問題などで安倍政権が追い込まれ、改憲どころではなくなりました。臨時国会で態勢を立て直し憲法審査会での審議再開を狙ったものの、下村博文自民党改憲本部長の「職場放棄」発言に野党が反発し、憲法審査会はほとんど開かれずに終わりました。
 こうして、今回の参院選で改憲勢力が3分の2を割るという3度目の勝利が達成されたわけですが、それはある程度予想されていました。だからこそ、安倍首相は憲法について議論する政党を選んでもらいたいと選挙で訴え、改憲そのものではなく議論へと争点をすり替えてハードルを下げたのです。
 選挙が終わってからも、このような後退と譲歩は続きました。安倍首相は自民党が提案している改憲4項目にはこだわらないと言い出したからです。とにかく憲法審査会を再開して議論を始め、どこを変えたらよいのか野党からも提案して欲しいというわけです。
 不都合があるからそこを変えるというのではなく、どこでも良いから変えさせてほしいというのでは、改憲の自己目的化ではありませんか。初めて改憲に成功した総理として歴史に名を残したいという野心を満足させるためだけの改憲にほかなりません。
 また、改憲施行の期限も先延ばししています。参院選の投開票日に記者会見した安倍首相は、「私の任期中に」実行したいと発言しました。さりげなく、2020年から2021年へと1年間延長したことになります。
 今後は野党を分断しつつ、国民民主党などを改憲勢力に引き込もうとするにちがいありません。国民投票でのCM規制についての独自案を出している立憲民主党に対しても、それを丸呑みしてでも改憲議論に参加させようとするかもしれません。立憲野党が団結して、安倍首相の狙う改憲発議にどこまで抵抗できるかが試されています。
 改憲発議の期限は再来年の通常国会までとなっており、残された時間は多くありません。困難さを増した改憲野望の実現に向けて、安倍首相はハードルを下げつつ依然として執念をたぎらせています。その顕著な現れは改造内閣の顔ぶれでした。

 「改憲シフト内閣」の登場

 第四次安倍再改造内閣は10月11日に実施されました。安倍首相は改造後の記者会見で、改憲について「困難な挑戦だが、必ずや成し遂げる決意だ」と語りました。「令和の時代にふさわしい憲法改正原案の策定に向け、衆参両院で第一党の自民党が憲法審査会で強いリーダーシップを発揮すべきだ」と強調し、「与野党の枠を超えて活発な議論をしてもらいたい」と、再び各党に改憲案の提起を促しています。
 国民投票法の改正案については「憲法審査会の場でしっかりと議論していただきたい」と改憲論議との並行審議を求めました。参院選結果に関して「憲法議論は行うべきだというのが国民の声だ」と重ねて訴えていますが、議論を呼びかけた選挙で議席を減らして3分の2を割り込んだわけですから、国民は改憲を望んでいるわけではありません。
 今後優先すべき課題についての調査では、朝日新聞では社会保障が38%で、憲法改正は3%にすぎません。安倍首相に近いとされる読売新聞の調査でも、社会保障は41%で、憲法改正は最低の3%となっています。年金問題や子育て支援、高齢化による介護や医療サービスの充実などを最優先に取り組んでほしいというのは当然の要求でしょう。
 それと真っ向から反しているのが、新閣僚の顔ぶれです。戦前回帰を目指す右派組織である「日本会議」を支援する国会議員懇談会の幹部がずらりと勢ぞろいしました。高市早苗副会長が総務相、橋本聖子副会長が五輪相、衛藤晟一幹事長が1億総活躍相、加藤勝信副幹事長が厚労相、江藤拓副幹事長が農林水産相、西村康稔副幹事長が経済再生相、萩生田光一政策審議副会長が文科相になっています。
 改造に当たって、安倍首相は「安定と挑戦」をキャッチフレーズにしました。その意味は、側近や盟友をかき集めて政権の「安定」を図り、改憲に向けて世論に「挑戦」するということのようです。「お友達内閣」との批判や反発をものともせず、これほどあからさまな人事を行ったのは改憲に向けて並々ならぬ決意を示すためだったと思われます。
 自民党の役員人事でも、政権の安定を重視して二階俊博幹事長、岸田文雄政調会長を続投させました。安倍首相はその条件として改憲への協力を求め、2人は今までになく改憲への意欲を示しています。
 同時に、自民党改憲本部長に安保法制を取りまとめた細田博之元自民党幹事長、衆院憲法審査会長に野党人脈が豊富な佐藤勉元国会対策委員長を起用しました。野党への懐柔を意識した布陣です。安倍首相は硬軟両様の挙党態勢で、改憲発議をめざすつもりのようです。
 しかし、改憲勢力とされている公明党は、一貫して慎重姿勢を崩していません。山口代表は安倍首相の改憲への前のめりの姿勢について「少し強引」だと牽制し、公明党の当選者の77%は9条改憲に反対だとの調査もあります。
 参院選後、一時的に改憲論議に加わるそぶりを示した国民民主党の玉木代表は、内外からの批判に直面して釈明し、その後、立憲民主党との統一会派結成へと舵を切りました。立憲民主党の枝野代表は安倍首相の下での改憲論議を拒否しています。
 安倍首相に時間はあまり残されていません。焦りを募らせて強引に憲法論議を進めようとすれば、かえって反発を強めてしまうリスクがあります。さし当りは融和路線で野党を引き込もうとするでしょうが、それには時間がかかります。最強布陣で「改憲シフト」を組んだ安倍首相ですが、このようなジレンマをどのように打開するつもりなのでしょうか。

 待ち構える難局と山積する難問

 安倍改造内閣の前途には難局が待ち構えています。アベノミクスによって幻想を与えている間に年金問題は深刻化し、貧困化と格差の固定化が進み、少子化による人口の減少と高齢化、原発事故による汚染水問題など多くの難問が積み重なりました。
 自民党の人事で幹事長と政調会長を留任させ、内閣でも麻生太郎副総理と菅義偉官房長官という政権の中軸を維持しつつ盟友や側近など身内で固めたのは、このような「荒海」での困難な航海が予想されたからです。
 まず、外交・安全保障政策ですが、かつてない八方ふさがりになりました。最大の問題は日韓関係です。元徴用工問題を契機に対立がエスカレートし、日本政府は報復として対韓経済制裁を打ち出し、対抗して韓国政府が軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄を決めるなど泥沼化しています。
 安倍政権は河野外相を防衛相に横滑りさせるなど、韓国への対決姿勢を維持しています。姿勢を変えないのであれば、別の姿勢を示す政権に取り換えるしかありません。日韓関係の打開のためにも、安倍政権の打倒は急務です。
 アメリカとの関係も不確実性が増しています。もともとトランプ米大統領は場当たり的で全体的な整合性に欠け、一貫した戦略を持っていません。親しいとされる安倍首相にとっても、いつ裏切られるか分からないリスクに満ちています。
 日米貿易交渉は日本が一方的に譲歩して協定に調印してしまいました。トランプ大統領は在日米軍の駐留経費負担について大幅増を日本に要求し、ホルムズ海峡などでの米国主導の「有志連合」への参加も求められ、日本はイランとの伝統的な友好関係維持と米国からの要請との板挟みになっています。
 日露関係では27回も会談を重ねてプーチン大統領との個人的関係を強めてきたにもかかわらず、平和条約交渉は停滞し北方領土問題は頓挫しました。安倍首相はプーチン大統領に手玉に取られ、経済開発による現状固定化を強めるために利用されただけではないでしょうか。
 日朝関係も進展の見通しは全くありません。拉致問題は打開の糸口すら見えていないのが現状です。多少、改善の兆しが見えるのは日中関係ですが、他方で中国を仮想敵にしたインド・太平洋構想を掲げて宮古島や石垣島などの南西諸島の要塞化を進めるというチグハグぶりです。
 米中貿易戦争は先が見えず、イギリスのEU離脱問題もどうなるか不明です。日本にも影響が及ぶことは必至で、安倍政権の前途に暗い影を落としています。
 経済や景気の面でも暗雲が漂っています。最大の問題は10月1日に消費増税が導入され、国内景気の腰折れが懸念されていることです。世界経済をめぐる波乱要因も多く、かじ取りは容易ではありません。
 日韓関係の悪化は経済面でも大打撃となっています。日本製品の不買運動で輸出は急減し、韓国への8月の食料品輸出額は前年同月より4割も減りました。8月の韓国からの旅行者数は前年同月比48・0%減と半減し、九州や北海道などの観光産業は深刻な影響を受けています。
 改造内閣は社会保障改革や働き方改革を重要課題に掲げており、臨時国会での大きなテーマになります。団塊の世代が75歳以上になり始める2022年度から社会保障費が急増すると見込まれ、「全世代型社会保障検討会議」を立ち上げて年末までに中間報告、来夏までに最終報告を出そうとしており、与野党対決の焦点の一つになるでしょう。
 政府は、年金と介護保険について来年の通常国会に改革法案を提出し、医療の改革案は来夏にまとめる予定です。これまで先送りしてきた負担増や給付削減など「痛み」を伴う改革に踏み込む可能性があり、臨時国会で年金財政検証の結果や老後不安をめぐる野党との論戦が始まります。

 むすび―解散・総選挙に向けて

 現在の衆院議員の任期は再来年の2021年10月までで、それ以前に解散・総選挙となることは確実です。臨時国会は10月4日から始まり、11月17日には天皇代替わりに伴う大嘗祭の式典があります。また、11月末には安倍首相の在任期間が史上最長となります。これらの事情からすれば、11月末までの解散はあまり考えられません。
 逆に言えば、これ以降であればいつ解散してもおかしくないということになります。最も早いケースは、臨時国会の最終盤である12月の解散・総選挙でしょう。そうするかどうかを占うカギの一つは景気で、もう一つは内閣支持率です。消費税導入後の景気悪化がすすみ、それに伴って内閣支持率が下がれば、解散は難しくなります。
 次のケースは五輪後の秋から冬にかけてということになるでしょう。これも、東京五輪・パラリンピックが成功するか、その時の経済状態がどうなっているかによって左右されます。いずれにしても、今年の暮れ以降、いつでも解散の可能性があると考えて備えなければなりません。
 そのための基本的な課題は市民と野党との共闘促進にあります。これが「勝利の方程式」であることはすでに実証されました。衆院選の各小選挙区での野党共闘を実現し、統一候補擁立の準備を進めることです。
 今回の参院選で新党のれいわ新選組が登場し、新たなシナリオの可能性が生まれました。参考になるのが1992年に結成された日本新党の例です。5月に細川護熙氏によって立ち上げられた日本新党は7月の参院選でブームを起こし、4議席を獲得しました。翌93年7月の総選挙では35人当選と大躍進して野党の8政党・党派が連立する非自民政権を樹立することに成功しています。
 今回も参院選直前に結党されたれいわがブームを起こし、次の衆院選では100人擁立しようとしています。これが「台風の目」となって安倍政権を打倒するというのが、最も望ましいシナリオです。しかも、今回は共産党との間で連立政権樹立と13項目の政策合意、野党間での候補者調整について合意されました。野党共闘の枠組みもできており、93年の政権交代の時より事前の準備は進んでいます。
 これが安倍政権を倒して日本を救うことのできる最も望ましい「希望のシナリオ」なのです。それを実現することが、これからの最大の課題となります。それを達成することこそ、市民と野党の共闘という「勝利の方程式」によって導き出される「正しい解」にほかなりません。

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11月2日(土) 参議院選挙後の情勢と課題(その2) [論攷]

〔以下の論攷は、東京土建が発行する『建設労働のひろば』No.112、2019年10月号、に掲載されたものです。3回に分けて、アップさせていただきます。〕

2、野党共闘の威力と進化・発展

 参院選1人区での善戦

 今回の参院選での最大の注目点は、32ある1人区で野党共闘が大きな成果を収めたことです。その結果、改選2が10議席へと5倍になりました。3年前にも1人区での野党共闘が実現し、11人の当選という成果を上げています。
 今回は3年前よりも1議席少なくなりました。しかし、その内容を子細に見れば、質的には大きな前進だったことが分かります。
 32人の統一候補のうち前回は現職が11で新人が21でしたが、今回は現職が1、元職が1で、あとは全て新人でした。それも5月の連休明けからバタバタと決まった人がほとんどです。
 これに対して、対立候補は全て自民党の現職ですから、知名度において圧倒的な差がありました。徒競走であれば「ヨーイ、ドン」で一斉にスタートするところですが、野党共闘の候補はずっと後ろの方からスタートせざるを得なかったのです。
 『毎日新聞』7月6日付は選挙戦序盤の情勢を報じていました。それによれば、自民優勢が21選挙区で野党優勢は5選挙区にすぎず、接戦選挙区は6になっていました。結果は野党の勝利が10選挙区でしたから、接戦の6選挙区のうち5選挙区で野党が追い付き、追い越したことが分かります。
 そうなったのは野党共闘が「上積み効果」を生じ、比例代表で野党4党が得た票の合計より29選挙区で上回ったからです。その平均は26.6%増で、合計得票を下回ったのは、福井、宮崎、山口の3選挙区にすぎません。
 野党が共闘すれば、諦めていた有権者も投票所に足を運んで野党候補に投票するということが裏付けられました。山形では60.74%、岩手では56.55%、秋田では56.29%、新潟では55.31%、長野でも54.29%と軒並み投票率が平均を上回り、野党の統一候補が当選しているからです。
 市民と野党が共闘して候補者を一本化すれば、新たな「受け皿」となって有権者の投票行動を促すことが実証されたのです。共闘は野党各党の支持者の票を合計するだけでなく支持政党のない無党派層も引き寄せ、特定の政党を支持しているわけではないが野党共闘だから支持するという新しい革新無党派層を誕生させました。それが野党の統一候補を押し上げる大きな力を発揮したのです。

 政策合意の発展

 今回の選挙では、市民と野党の間の政策合意も大きな力となりました。選挙での共闘には「野合ではないか」という批判がつきものですが、政策合意なしに当選だけを目的にすればそう言われても仕方がありません。しかし、政策について合意しその実現のために当選を目指すというのであれば、「野合」ではなく立派な「共闘」になります。
 参院選での野党共闘は、このような意味で「野合」ではありません。5月29日に、立憲・国民・共産・社民・「社会保障を立て直す国民会議」(社保)の5野党・会派が「共通政策」に合意したからです。6月13日には幹事長・書記局長会談が開かれ、32の1人区すべてで一本化が完了したことが確認され、本格的なスタートが切られました。
 このような政策合意は、歴史的に発展してきたものです。その出発点は、2016年の参院選に向けて結ばれた「5党合意」でした。この時は4項目で、政策的には「安保法制の廃止」だけが掲げられていました。
 その翌年の2017年9月26日、総選挙を前にして市民連合は「野党の戦い方と政策に関する要望」を出しました。それは、①9条改憲反対、②特定秘密保護法、安保法制、共謀罪法などの白紙撤回、③原発再稼働を認めない、④森友・加計学園、南スーダン日報隠蔽の疑惑を徹底究明、⑤保育、教育、雇用に関する政策の拡充、⑥働くルール実現、生活を底上げする経済、社会保障政策の確立、⑦LGBT(性的マイノリティー)への差別解消、女性への雇用差別や賃金格差の撤廃という7項目で、量的にも質的にも大きく発展しています。
 今回の「共通政策」は2倍近い13項目となり、合意の幅はさらに広がりました。新たに加わったのは、①防衛予算、防衛装備の精査、②沖縄県新基地建設中止、③東アジアにおける平和の創出と非核化の推進、拉致問題解決などに向けた対話再開、④情報の操作、捏造の究明、⑤消費税率引き上げ中止、⑥国民の知る権利確保、報道の自由の徹底の6項目です。
 内容的にも、改憲発議阻止や日米地位協定の改定、原発ゼロの実現、税制の公平化、最低賃金「1500円」、公営住宅の拡充、選択的夫婦別姓や議員間男女同数化(パリティ)の実現、内閣人事局のあり方の再検討、新たな放送法制の構築など充実が図られています。
 作成過程も前回とは異なり、共産党の笠井亮政策委員長は「市民連合から政策の原案が提起され、5野党・会派で協議して練り上げ、市民連合に提起するという1カ月間にわたるキャッチボールがあり、そのうえで最終的な調印となりました」と語っています。市民連合の側から一方的に提示され、それを各党が丸呑みしたわけではありません。
 これに対して自民党は6月7日に選挙公約を発表しました。重点項目に「早期の憲法改正を目指します」「本年10月に消費税率を10%に引き上げます」と明記し、6つの柱の第一を「外交・防衛」として「防衛力の質と量を抜本的に拡充・強化」することを掲げ、沖縄の「普天間飛行場の辺野古移設」についても「着実に進める」ことを打ち出しました。原発についても再稼働を進めることを明らかにしています。
 自民党の参院選公約と5野党・会派の「共通政策」は、真っ向から対立するものでした。参院選に向けての対立軸は明確になり、野党の共通政策は安倍政権を倒した後の方向性も示していました。その意味では、新たな連立政権樹立に向けての政策的な基盤をつくり出す、希望に満ちたものだったと言えるでしょう。

 新たな展望

 参院選からその後にかけて、市民と野党との共闘における新たな可能性と展望が切り拓かれました。これは野党共闘と連立政権樹立に向けた重要な前進です。
 第1に、市民と野党の共闘は特別なことではなく、当たり前になったことです。この共闘で市民連合が大きな役割を果たし、共産党が含まれるのも当たり前の光景になりました。
 その共産党の候補者が統一候補になったのも3年前は香川の1選挙区だけでしたが、今回は、福井、徳島・高知、鳥取・島根の3選挙区で、しかも、後の二つ選挙区では、衆院補選の大阪12区での「宮本方式」を踏襲して無所属で立候補しました。
 草の根での共闘も大きく前進しました。共同行動や連携は当たり前になり、衆院小選挙区レベルで市民連合が結成され、集会で相互のあいさつやエールの交換がなされたりする中で顔見知りになって仲良くなり、人間関係ができて信頼も強まるなど、草の根での共闘は大きく発展しています。
 第2に、れいわ新選組という新しい政党が誕生したことです。この政党は「消費税廃止」以外では、野党共闘が掲げる政策合意と似通った政策を掲げた左翼リベラル政党でした。しかも、若者を中心に既存の政党に飽き足らない革新無党派層を引き付ける新鮮な魅力を発揮して急成長した「左派ポピュリズム政党」でもあります。
 既存の左翼政党にとっては手ごわいライバルの登場ですが、同時に安倍政権打倒に向けての強力な援軍でもあります。野党共闘の推進という点では、共産党と並ぶもう一つの「機関車」になり得る可能性を秘めています。
 実際、9月12日に行われたれいわと共産党の党首会談で、「野党連合政権」構想の取りまとめを視野に、次の衆院選に向けて連携を進めていくことで一致しました。また、市民連合の協定を土台にすることが合意され、消費税については廃止を目標にしつつ10%増税の阻止に全力を挙げ、財源を明確にすることも明らかにされました。これは消費税廃止という目標以外では、立憲・国民・社保・社民も合意できる内容です。
 第3に、参院選後も、野党共闘の発展に向けての新たな動きと成果が生まれていることです。前述のれいわと共産党の合意以外にも重要な動きがありました。
 その一つは、新たな国会内統一会派の結成です。立憲と国民の両党は統一会派の結成で合意し、これに社保と社民も合流することになりました。「希望の党騒動」で分裂した旧民進党の復活への動きとして注目されますが、小沢グループや社民も加わり、さらに幅広いものになっています。
 もう一つは、地方の首長選挙での野党共闘候補の当選です。参院選後に実施された埼玉県知事選では野党共闘で立候補した大野元裕候補が当選し、その後に行われた岩手県知事選でも野党共闘の達増拓也候補が大差で当選しました。この間に行われた立川市長選では野党共闘候補が敗れたとはいえわずか257票という僅差です。
 今後、埼玉選挙区での参院補選や高知県知事選がありますが、これらの選挙でも野党共闘での候補者擁立が模索されています。市民と野党が共闘して与党の候補者と1対1で対決すれば勝てるということが示されれば、さらに野党共闘に弾みがつくにちがいありません。

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11月1日(金) 参議院選挙後の情勢と課題(その1) [論攷]

〔以下の論攷は、東京土建が発行する『建設労働のひろば』No.112、2019年10月号、に掲載されたものです。3回に分けて、アップさせていただきます。〕

 はじめに

 「参院選でいただいた国民の力強い支援・支持に応え、約束した政策を一つ一つ実行していく」
 これは9月2日に開かれた政府与党連絡会議での安倍首相の言葉です。マスメディアによる一般的な評価も、自公の勝利というものでした。しかし、この参院選の結果は、安倍首相にとって満足のいくものだったのでしょうか。
 参院選前の通常国会で3カ月間も予算委員会を開かず、野党の追及を避け続けた安倍首相です。参院選後も臨時国会の召集を遅らせ、野党による閉会中審査開催の要求にも渋っていました。
 選挙活動期間も含めて、際立ったのは論戦から逃げ続けている安倍首相の姿です。なぜ、それほど論戦を避けたのでしょうか。その最大の理由は、内外共に難問が山積し、対応が難しくなっているからです。
 「改元フィーバー」や天皇の代替わり、トランプ米大統領への「おもてなし外交」など、表面的な奉祝ムードやお祭り騒ぎの背後には、日本の将来を左右する重大な選択が横たわっていました。安倍首相はできるだけ問題の表面化を避け、野党の追及を受けることなく参院選を無難に乗り切ろうとしたのです。
 さし当り、この作戦は成功したように見えます。しかし、選挙の争点になることを避け国民の目から隠し続けてきた数多くの難問は、解消しなかったばかりかさらに大きくなっています。また、改憲勢力の議席が3分の2を下回ったために、悲願の改憲戦略には新たな困難が生じました。
 参院選の実像を検証したうえで、安倍政権の前途を展望することが必要です。そのような作業を通じて、政治転換の必要性と可能性、市民と野党が取り組むべき課題を明らかにしなければなりません。2年後には衆院議員の任期が切れます。それ以前には必ず解散・総選挙があるに違いないのですから。

1、参院選の結果をどう見るか

 与党にとって有利な状況の下での選挙

 世界も日本も、危機の時代になってきています。そのような時代を生み出した元凶は、世界の超大国のトップリーダーであるトランプ米大統領であり、その「盟友」ともいえる安倍首相です。
 国家と社会の分断と対立、嘘と偽り(フェイク)の横行、他民族を蔑視し排除するヘイトと憎悪の噴出が時代の特徴となりました。表現の自由や政治的民主主義の破壊も国際社会と日本国内で目立つようになってきています。世の中の右傾化は否定しがたい形で進行してきました。
 参院選は、このような中で闘われました。安倍首相と政権与党にとっては有利な政治的風潮と社会的な雰囲気の下での選挙だったと言えるでしょう。しかも、選挙前からマスメディアの報道は少なく、公示日から7月15日まで「ニュース/報道」番組は約3割減で民放は約4割減だという調査があったくらいです。
 このような「選挙隠し」だけでなく「争点隠し」も顕著でした。前述のように、安倍首相は野党の要求する予算委員会の開催を拒否し、街頭演説も開催場所や開催時間を隠す「ステルス演説」となり、立憲民主党を「民主党」と呼んで揶揄したり論点をすり替えたりして野党攻撃に終始しました。選挙を振り返って、マスメディアは論戦が低調で選挙への関心が盛り上がらなかったと総括しましたが、それなら争点を明らかにして関心を高める報道に努めるべきだったでしょう。
 この結果、参院選の投票率は48.8%にとどまり、戦後2番目の低さになりました。投票所は最多時より6400ヵ所も減り、投票時間の繰り上げなどもあって投票しにくくなったことも投票率の低下に関係したかもしれません。
 それでも選挙結果が安倍首相の思い通りにならなかったのは、年金問題などが争点として急浮上し、10%への消費税引き上げの是非も争点になったからです。それだけでなく、1人区での野党共闘が自民党を追い詰め打ち勝つという大きな成果を上げたからでした。

 与党は「勝った」が自民党は負けた

 参院選の結果を見れば、自民・公明の与党は確かに「勝った」かもしれませんが、自民党は負けました。与党の敗北にならなかったのは、公明党に助けられたからです。
 自民・公明の両党は合計で71議席を獲得し、改選過半数を確保しただけでなく、非改選議席との合計でも参院の過半数議席を維持しました。その意味では「勝利した」ということができます。
 しかし、自民党は敗北しました。9議席減となって参院での単独過半数を割ったからです。これまでは単独で法案を成立させることができましたが、これからは公明党が「ウン」と言わなければ成立させることができなくなりました。これまでならできたことがこれからはできなくなったのですから、敗北と言う以外にありません。
 さらに、自民党は比例代表の得票を240万票も減らしています。有権者全体に占める得票割合(絶対得票率)も18.9%となって、初めて2割を切りました。これまで衆院選や参院選で有権者のほぼ4分の1(25%)の支持を得てきた自民党にとって深刻な後退です。
 これに対して、公明党は3議席増で過去最多の14議席を当選させました。非改選議席との合計でも過去最多の28議席となっています。このために与党が過半数を維持できたわけです。
 しかし、その公明党にしても比例代表での得票数は654万票で、104万票も減らしました。2年前の衆院選で公明党は初めて700万票を下回り大きなショックを受けましたが、今回はそれよりもさらに多くの票を失ったことになります。その背景には支持団体である創価学会員の高齢化があります。また、安倍軍拡路線への追随によって「平和の党」の看板が揺らいでいると見られたことも大きいでしょう。

 野党の状況をどう見るか

 参院選で野党は負けたと言われています。確かに、比例代表での議席は与党26対野党24で野党の方が2議席少なくなっています。しかし、得票率では与党が48.42%で野党は50.12%となり、野党の方が1.7ポイント多くなりました。負けたわけではないのです。
 このような結果になったのは、主に1人区での与野党対決となった東北地方で野党共闘が勝利したからです。3年前と同様の「地殻変動」が生じ、一定の「表層雪崩」が起きました。しかし、それは「表層」にとどまり、最終的な決着は衆院選へと先延ばしされています。
 参院選での野党各党の結果は、立憲民主党17、維新の会10、共産党7、国民民主党6、れいわ新選組(れいわ)2、社民党1、NHKから国民を守る党(N国党)1、無所属9となりました。れいわとN国党という新しい政党が議席を得たのが注目されます。
 立憲民主党は改選9から17へほぼ倍増して野党第一党を維持しましたが、17年衆院選より300万票も減らしました。国民民主党は改選8から6へ2議席減となっています。労働組合の連合は立憲から旧総評系の5人が立候補して全員当選しましたが、国民民主党から出た旧同盟系の5候補のうち東芝出身の電機連合とJAM(金属機械)出身の2候補は落選しました。
 共産党は改選8から1減となり、比例代表の得票数は154万票減となりました。しかし、17年総選挙より8万票ふやし、投票率も1.05ポイント増加しています。また、3年前の参院選よりも1増となっていますから、2~3年前よりは党勢が回復傾向にあると言えます。
 社民党は改選1を維持し、得票率も2%を超えて政党要件を確保することができました。前回議席を失った吉田忠知元党首も国会に復帰しています。
 れいわは特定枠で2議席を獲得しましたが、山本太郎代表は議席を得ることができませんでした。無党派層での得票率ではれいわが9.9%で、立憲が20.6%と2.6ポイントの減、共産が11.0%で3.7ポイントの減となりました。この3党は政策が似かより支持層が重なっているために競合し、立憲や共産かられいわへと無党派層の票が動いたことがうかがわれます。
 今回の選挙では、特に維新、れいわ、N国党が支持を拡大したことが注目されました。これは国民の間に政治の現状への不満が鬱積していること、既存政党がその受け皿になれず一定の不信感を抱かれていること、たとえ幻想であったとしても「改革」への期待や欲求があることなどが示されているように思われます。これらの点を反省し、既存の野党でも不満や期待の「受け皿」になることができれば、大きく支持を延ばせることが示されているのではないでしょうか。


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